「みんなと比べて貧しい」をどう測る?―相対的貧困率と日本の現在地
第117回医師国家試験 C問題 第18問
国試問題にチャレンジ
相対的貧困について正しいのはどれか。
- a.世界銀行が定義している。
- b.生活保護を受給している世帯の状況を指す。
- c.単身世帯の相対的貧困率は母子世帯より高い。
- d.世帯の大きさによらず世帯所得の高さで決まる。
- e.我が国の相対的貧困率はOECD加盟国の平均より高い。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
貧困には、世界銀行の国際貧困ラインで測る絶対的貧困と、OECDの作成基準に基づく相対的貧困があります。相対的貧困率は、世帯の可処分所得を世帯人員数の平方根で割った等価可処分所得の中央値の半分(貧困線)に満たない人の割合で、生活保護の受給とは別の統計的な概念です。我が国の相対的貧困率は15%台とOECD加盟国平均を上回り、特にひとり親(母子)世帯では4割台半ばと突出しています。子どもの貧困率やジニ係数とあわせて理解しておくと、社会経済的状況が健康に及ぼす影響、つまり健康の社会的決定要因を考える土台になり、臨床で患者の生活背景に目を向ける力にもつながります。
解答・解説
正解はeです
貧困の2つの捉え方
貧困の指標には大きく「絶対的貧困」と「相対的貧困」がある。 ・絶対的貧困:衣食住など生きていくのに最低限必要な水準を満たせない状態。世界銀行が国際貧困ラインとして1人1日あたりの金額(購買力平価で換算したドル額)を定め、それ未満で暮らす人の割合を示す。主に開発途上国の貧困を測るのに用いられる。 ・相対的貧困:その国・社会の標準的な生活水準と比べて著しく所得が低い状態。経済協力開発機構(OECD)の作成基準に基づき、等価可処分所得の中央値の半分(貧困線)に満たない世帯員の割合を相対的貧困率とする。先進国の格差や貧困を把握するのに適している。
等価可処分所得とは
可処分所得は、収入から税金や社会保険料などを差し引いた、実際に自由に使える所得である。世帯の人数が多いほど同じ所得でも1人あたりの暮らし向きは苦しくなるが、生活費は人数に完全に比例するわけではない(光熱費や住居費などは共有できる)。そこで、世帯の可処分所得を世帯人員数の平方根で割って調整した値を「等価可処分所得」とし、これを個人単位の所得とみなして比較する。
我が国の状況
我が国の相対的貧困率は厚生労働省の国民生活基礎調査で算出され、近年は15%台で推移している(2021年調査で15.4%)。これはOECD加盟国の平均(おおむね11〜12%程度)を上回り、加盟国の中でも高い部類に入る。特にひとり親世帯(大半が母子世帯)の貧困率は4割台半ば(2021年調査で44.5%)に達し、全体の15.4%の約3倍と際立って高い。 設問では、相対的貧困の定義(誰が定義するか、何を基準に算出するか)と、我が国の実態を正しく理解しているかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 世界銀行が定義している。
誤り。世界銀行が定義しているのは絶対的貧困であり、国際貧困ライン(1人1日あたりの生活費。2015年に1.90ドル、2022年に2.15ドルへ改定され、その後も物価水準に合わせて見直されている)未満で暮らす人の割合を絶対的貧困率としている。相対的貧困率はOECDの作成基準に基づいて算出される。
- ×b. 生活保護を受給している世帯の状況を指す。
誤り。相対的貧困は、等価可処分所得が貧困線(中央値の半分)を下回っているかどうかという所得の統計的な基準で決まる概念であり、生活保護の受給の有無とは直接関係しない。実際には、所得が貧困線を下回っていても生活保護を受給していない世帯は多数存在する。
- ×c. 単身世帯の相対的貧困率は母子世帯より高い。
誤り。我が国で相対的貧困率が特に高いのはひとり親世帯、とりわけ母子世帯であり、その貧困率は2021年調査で44.5%と4割台半ばに達する。同じ年の全体の相対的貧困率15.4%、子どもがいて大人が2人以上いる世帯の8.6%と比べても突出している。背景には、女性の非正規雇用の多さや男女間の賃金格差、育児と就労の両立の難しさ、養育費の不払いなどがある。単身世帯も全体平均より貧困率は高めであり、なかでも高齢の単身女性は高い層として知られる。しかし単身世帯全体としてみれば、ひとり親(母子)世帯の4割台半ばという水準を上回るものではない。したがって「単身世帯の方が高い」という記述は実態と逆である。
- ×d. 世帯の大きさによらず世帯所得の高さで決まる。
誤り。同じ世帯所得でも、世帯人員が多いほど1人あたりの生活水準は低くなる。そのため相対的貧困の判定には、世帯の可処分所得を世帯人員数の平方根で割った等価可処分所得を用いて、世帯の大きさを調整している。
- ○e. 我が国の相対的貧困率はOECD加盟国の平均より高い。
正しい。我が国の相対的貧困率は15%台(2021年調査で15.4%)で、OECD加盟国平均(おおむね11〜12%程度)を上回り、加盟国の中でも上位に位置する。高齢化により年金のみで暮らす高齢者世帯が多いことや、ひとり親世帯の貧困率の高さ、非正規雇用の増加などが要因とされる。
相対的貧困率の算出手順
1. 世帯の可処分所得(収入-税・社会保険料など)を求める。 2. それを世帯人員数の平方根で割り、等価可処分所得を算出する(例:可処分所得400万円の4人世帯では400÷√4=200万円)。 3. 全世帯員の等価可処分所得を並べた中央値の半分を「貧困線」とする。 4. 貧困線に満たない世帯員の割合が相対的貧困率である。
関連指標
・子どもの貧困率:17歳以下の子どものうち、貧困線に満たない世帯で暮らす子どもの割合。我が国では2021年調査で11.5%であり、子どもの貧困対策の推進に関する法律(現在のこどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律)に基づき対策が進められている。 ・ひとり親世帯の貧困率:2021年調査で44.5%と、子どもがいて大人が2人以上いる世帯(同8.6%)に比べて著しく高い。2012年調査では54.6%と5割を超えていたが、その後は低下傾向にある。 ・ジニ係数:所得格差の大きさを0〜1で示す指標で、1に近いほど格差が大きい。
健康との関係
所得や学歴、職業などの社会経済的状況は健康に影響する「健康の社会的決定要因」の一つである。貧困は疾病罹患や死亡のリスク、医療へのアクセスの悪さと関連し、健康日本21(第三次)でも健康格差の縮小が目標に掲げられている。
POINT
・絶対的貧困=世界銀行(国際貧困ライン)、相対的貧困=OECD基準。 ・相対的貧困率:等価可処分所得(世帯可処分所得÷√世帯人員)の中央値の半分(貧困線)未満の人の割合。 ・生活保護受給とは別の概念である。 ・我が国の相対的貧困率は約15%でOECD平均より高い。 ・ひとり親(母子)世帯の貧困率は4割台半ば(2021年調査で44.5%)と特に高い。
