肺が「伸びやすく、縮みにくい」―COPDの呼吸機能を機序から読み解く
第116回医師国家試験 F問題 第4問
国試問題にチャレンジ
慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉の呼吸機能について正しいのはどれか。
- a.残気量減少
- b.1秒率>70%
- c.肺拡散能増加
- d.静肺コンプライアンス増加
- e.上に凸のフローボリューム曲線
対話形式の解説
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医学生まとめ
COPDでは肺胞壁の破壊により弾性収縮力が低下し、肺は「伸びやすく縮みにくい」状態となるため、静肺コンプライアンスは増加します。弾性収縮力の低下は呼気時の末梢気道虚脱を招き、エアートラッピングによって残気量・機能的残気量・残気率が増加し、肺は過膨張になります。気管支拡張薬吸入後の1秒率70%未満が診断の必須条件で、フローボリューム曲線は下降脚が下に凸となり、ガス交換面積の減少により肺拡散能は低下します。肺線維症では残気量減少・コンプライアンス低下と逆の動きを示し、拡散能低下は喘息との鑑別にも役立ちます。病態の機序から呼吸機能の変化を導く考え方は、閉塞性・拘束性障害の理解全体の土台となります。
解答・解説
正解はdです
テーマ
慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)は、主に長期の喫煙によって有害物質を吸入し続けることで生じる肺の炎症性疾患である。病変は大きく二つの要素からなる。 1. 末梢気道病変:細気管支の炎症・壁肥厚・粘液貯留による気道の狭窄。 2. 気腫性病変(肺気腫):肺胞壁が破壊されて終末細気管支より末梢の気腔が異常に拡大する。 これらによって、完全には元に戻らない気流閉塞(気流制限)が起こる。
呼吸機能の変化を機序から考える
・肺胞壁の破壊により肺の弾性線維が失われ、肺を縮ませようとする力(弾性収縮力)が低下する。その結果、肺は「伸びやすく、縮みにくい」状態になる。伸びやすさの指標である静肺コンプライアンスは増加する。 ・弾性収縮力は、呼気時に細い気道を外側から引っ張って開いておく役割ももつ。これが失われると、呼気時に末梢気道が潰れやすくなり(虚脱)、空気が肺内に取り残される(エアートラッピング)。このため残気量(RV)や機能的残気量(FRC)が増え、残気率(RV/TLC)も上昇し、肺は過膨張になる。 ・気流閉塞のため、1秒量(FEV1)と1秒率(FEV1/FVC)が低下する。フローボリューム曲線ではピークフローが低下し、呼気の下降脚が下に凸(へこんだ形)になる。 ・肺胞と毛細血管がともに壊されてガス交換面積が減るため、肺拡散能(DLCO)は低下する。
解き方
COPDの呼吸機能は「閉塞性障害+過膨張+拡散能低下+コンプライアンス増加」と整理できる。選択肢のうちこの理解に合うのは静肺コンプライアンス増加である。
選択肢考察
- ×a. 残気量減少
COPDでは、弾性収縮力の低下と呼気時の末梢気道の虚脱により、息を吐ききっても肺内に空気が残りやすい(エアートラッピング)。そのため残気量は減少ではなく増加し、機能的残気量や残気率も増えて肺の過膨張を来す。胸部X線写真で肺野の透過性亢進、横隔膜の平低化、滴状心などがみられるのはこの過膨張を反映している。残気量が減少するのは、肺線維症などの拘束性障害である。
- ×b. 1秒率>70%
1秒率(FEV1/FVC)は、努力して吐き出した全肺活量(努力肺活量、FVC)のうち最初の1秒間に吐き出せた量(1秒量、FEV1)の割合であり、70%以上が正常とされる。COPDの診断では、気管支拡張薬を吸入した後のスパイロメトリーで1秒率が70%未満であることが必須の条件であり、そのうえで他の気流閉塞を来す疾患を除外する。したがって1秒率>70%はCOPDの所見ではない。なお、COPDの病期分類は1秒率ではなく、予測値に対する1秒量の割合(%FEV1)で行う。
- ×c. 肺拡散能増加
肺拡散能は、肺胞内のガスが肺胞壁と毛細血管壁を通って赤血球まで移動する能力であり、一般に一酸化炭素を用いた肺拡散能(DLCO)で評価する。COPDのうち気腫性病変が主体の場合は、肺胞壁とそこに分布する毛細血管がともに破壊され、ガス交換に使える面積が減るため拡散能は低下する。拡散能の低下は、同じ閉塞性障害を示す気管支喘息(拡散能は正常か、むしろ増加することがある)との鑑別に役立つ。
- ○d. 静肺コンプライアンス増加
静肺コンプライアンスは、気流のない状態で測定した、一定の圧変化あたりの肺容量の変化(ΔV/ΔP)であり、肺の膨らみやすさを表す。COPDでは肺胞壁の破壊によって弾性線維が失われ、肺は小さな圧で大きく膨らむ一方、縮もうとする力が弱くなる。このため静肺コンプライアンスは増加する。反対に、肺線維症などの間質性肺疾患では肺が硬くなり、静肺コンプライアンスは低下する。なお、呼吸をしながら測定する動肺コンプライアンスは、COPDでは末梢気道の抵抗が不均一であるため呼吸数が増えると低下する(周波数依存性)点に注意する。
- ×e. 上に凸のフローボリューム曲線
フローボリューム曲線は、最大努力呼気時の気流速度(縦軸)を肺気量(横軸)に対して描いたものである。COPDではピークフローが低下し、その後の呼気流速も肺気量の減少とともに急速に落ちるため、下降脚は下に凸(上に凹、へこんだ形)となる。低肺気量での流速(V50、V25)の低下は末梢気道病変を反映する。正常ではピーク後の下降脚はほぼ直線的であり、上に凸の形はCOPDの特徴ではない。
閉塞性障害と拘束性障害の比較
・閉塞性障害(COPD、気管支喘息など):1秒率<70%。肺活量は保たれるか、進行例では低下。 ・拘束性障害(間質性肺炎・肺線維症、胸郭変形、神経筋疾患など):%肺活量<80%。1秒率は正常かむしろ高い。 ・両者が合併したものを混合性障害という。
COPDと肺線維症の呼吸機能の違い
・残気量:COPDで増加、肺線維症で減少 ・全肺気量:COPDで正常〜増加、肺線維症で減少 ・静肺コンプライアンス:COPDで増加、肺線維症で減少 ・肺拡散能:いずれも低下(COPDは気腫性病変による面積減少、肺線維症は肺胞壁肥厚と面積減少による)
COPDの診断と病期分類
・診断:長期の喫煙歴などの曝露因子があり、気管支拡張薬吸入後の1秒率が70%未満で、他の気流閉塞を来す疾患を除外できること。 ・病期分類(%FEV1に基づく):Ⅰ期(軽度)80%以上、Ⅱ期(中等度)50%以上80%未満、Ⅲ期(高度)30%以上50%未満、Ⅳ期(極めて高度)30%未満。
COPDとエアートラッピング
運動時など呼吸数が増えると、息を吐ききる前に次の吸気が始まり、過膨張がさらに進む(動的過膨張)。これが労作時呼吸困難の大きな原因となる。患者が口すぼめ呼吸をするのは、口元に抵抗をかけて気道内圧を保ち、末梢気道の虚脱を防ぐためである。
POINT
・COPDの呼吸機能:1秒率<70%(気管支拡張薬吸入後)、残気量・機能的残気量・残気率の増加(過膨張)、肺拡散能の低下、静肺コンプライアンスの増加。 ・フローボリューム曲線はピークフローが低下し、下降脚が下に凸となる。 ・肺線維症では逆に残気量減少・静肺コンプライアンス低下となり、拡散能は両者で低下する。 ・拡散能の低下はCOPD(肺気腫)と気管支喘息の鑑別に役立つ。
