分裂しない細胞は放射線に強い―ベルゴニー・トリボンドーの法則で読み解く組織の感受性
第116回医師国家試験 F問題 第3問
国試問題にチャレンジ
最も放射線感受性が低いのはどれか。
- a.甲状腺
- b.骨髄
- c.神経
- d.皮膚
- e.卵巣
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
組織の放射線感受性は、分裂頻度が高く、将来の分裂回数が多く、未分化な細胞ほど高いというベルゴニー・トリボンドーの法則でおおむね説明できます。骨髄・リンパ組織、生殖腺、小腸粘膜、皮膚は感受性が高く、甲状腺は組織障害の点では中等度、ほとんど分裂しない成熟した神経は最も感受性が低い組織です。ただしリンパ球と卵母細胞は分裂しないにもかかわらず感受性が高い例外であり、甲状腺は小児期被ばくによる発がんリスクが重要であるなど、確定的影響と確率的影響を区別して理解する必要があります。また神経でも耐容線量を超えれば放射線脊髄症などの晩期障害が起こるため、放射線治療では線量制限が欠かせません。法則の理屈を押さえておくことは、被ばく医療や放射線治療の安全管理を理解する基盤になります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
放射線感受性とは、細胞・組織が放射線によって障害を受けやすい程度のことである。組織ごとの感受性の違いは、古典的な「ベルゴニー・トリボンドーの法則」でおおむね説明できる。この法則では、次の性質をもつ細胞ほど放射線感受性が高いとされる。 1. 細胞分裂の頻度が高い(盛んに増殖している) 2. 将来行う分裂の回数が多い 3. 形態・機能が未分化である 放射線は主にDNAを傷つける。分裂を繰り返す細胞では、修復しきれなかったDNA損傷によって分裂時に細胞死(分裂死)が起こりやすいため、障害がすぐに現れる。逆に、成熟して分裂をほとんど行わない細胞は、DNA損傷を受けても細胞死に至りにくい。
感受性の高低の目安
高い:造血組織(骨髄、リンパ組織)、生殖腺(精巣、卵巣)、消化管粘膜(小腸の陰窩上皮) やや高い:皮膚(表皮基底層、毛包、汗腺)、眼の水晶体 中等度:肺、腎、肝、甲状腺など 低い:血管、結合組織、筋肉、骨 最も低い:神経
解き方
成人の神経細胞(ニューロン)は高度に分化しており、ほとんど分裂しない。したがって法則に照らして最も放射線感受性が低く、選択肢中では神経が該当する。骨髄・卵巣・皮膚は増殖の盛んな細胞を含むため感受性が高く、甲状腺は中等度に位置する。
選択肢考察
- ×a. 甲状腺
成人の甲状腺濾胞上皮は細胞の入れ替わりが遅く、組織障害(確定的影響)を起こす感受性は中等度から比較的低い部類に入る。ただし、神経よりは感受性が高い。なお、発がん(確率的影響)の観点では甲状腺は重要な臓器であり、特に小児期の被ばくで甲状腺がんのリスクが増すことが知られている(チェルノブイリ原発事故後の放射性ヨウ素による小児甲状腺がんの増加が代表例)。組織障害の感受性と発がんリスクは分けて考える必要がある。
- ×b. 骨髄
骨髄には盛んに分裂する未分化な造血幹細胞・前駆細胞が多く含まれ、人体で最も放射線感受性の高い組織の一つである。全身被ばくでは比較的低い線量(およそ1 Gy前後以上)から造血障害が現れ、急性放射線症候群の骨髄型としてリンパ球減少、続いて好中球・血小板減少が起こり、感染や出血の原因となる。末梢血のリンパ球は分裂しない成熟細胞でありながら例外的に感受性が非常に高く、被ばく後早期のリンパ球数減少は被ばく線量の推定に用いられる。
- ○c. 神経
成人の神経細胞は分化が完了しており、ほぼ分裂しないため、ベルゴニー・トリボンドーの法則からみて放射線感受性が最も低い組織に位置づけられる。全身被ばくで中枢神経症状が前面に出る中枢神経型の急性放射線症候群は、数十Gyという極めて高い線量でなければ起こらない。ただし、放射線治療では脊髄や脳の耐容線量を超えると、数か月〜数年後に放射線脊髄症や脳壊死などの晩期障害が起こりうるため、照射計画で線量制限を行う必要がある。また、胎児期の発達途中の脳は感受性が高く、妊娠8〜15週頃の被ばくは精神発達遅滞のリスクとなる点は区別して覚える。
- ×d. 皮膚
皮膚の表皮基底層の細胞や毛包の細胞は活発に分裂しているため、放射線感受性が高い。被ばく線量に応じて紅斑、脱毛、乾性・湿性落屑、潰瘍、壊死などの皮膚障害が生じる。放射線治療やIVR(画像下治療)の長時間の透視などで問題となる確定的影響の代表である。
- ×e. 卵巣
生殖腺は放射線感受性が非常に高い臓器である。卵巣では卵母細胞が障害されて卵胞が減少し、線量によって一時的または永久的な不妊や早期の卵巣機能不全を来す。卵子は出生後に新たにつくられないため、失われた卵胞は回復しない。年齢が高く残存卵胞の少ない女性ほど、より低い線量で永久不妊に至りやすい。精巣も同様に感受性が高く、精原細胞の障害により比較的低い線量で一時的不妊が起こる。
ベルゴニー・トリボンドーの法則の例外
リンパ球と卵母細胞は、分裂をしない(あるいはほとんど分裂しない)細胞であるにもかかわらず放射線感受性が高い。リンパ球はアポトーシス(間期死)を起こしやすいことがその理由とされる。
組織別の放射線感受性(高い順の目安)
1. 造血系:骨髄、リンパ組織(リンパ節、脾臓、胸腺) 2. 生殖腺:精巣、卵巣 3. 消化管:小腸粘膜(陰窩上皮) 4. 皮膚・付属器、眼:表皮基底層、毛包、汗腺、水晶体 5. 実質臓器:肺、腎、肝、甲状腺など 6. 支持組織:血管、結合組織、筋肉、骨 7. 神経
確定的影響と確率的影響
・確定的影響(組織反応):一定の線量(しきい線量)を超えると現れ、線量が増えるほど重症になる。造血障害、不妊、皮膚障害、白内障など。組織の放射線感受性の議論は主にこちらに関わる。 ・確率的影響:しきい線量がないと仮定され、線量に応じて発生確率が増す。発がん、遺伝的影響。
急性放射線症候群の病型(全身被ばく)
・骨髄型:数Gy程度から。汎血球減少による感染・出血。 ・消化管型:おおむね10 Gy前後以上。腸粘膜の脱落による下痢、脱水、敗血症。 ・中枢神経型(神経血管型):数十Gy以上。意識障害、痙攣、ショックを来し、救命は困難。 線量が増すにつれて、感受性の高い組織から順に障害が前面に出ることが、組織の感受性の差をよく表している。
POINT
・放射線感受性は、分裂頻度が高く、未分化な細胞ほど高い(ベルゴニー・トリボンドーの法則)。 ・感受性が高い組織:骨髄・リンパ組織、生殖腺、小腸粘膜、皮膚、水晶体。 ・感受性が最も低い組織:分裂しない成熟した神経。 ・例外として、リンパ球と卵母細胞は分裂しないが感受性が高い。 ・甲状腺は組織障害の感受性は中等度だが、小児期被ばくによる発がんリスクは重要である。
