StudyMed医師国家試験

分裂しない細胞は放射線に強い―ベルゴニー・トリボンドーの法則で読み解く組織の感受性

第116回医師国家試験 F問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第3問

最も放射線感受性が低いのはどれか。

  1. a.甲状腺
  2. b.骨髄
  3. c.神経
  4. d.皮膚
  5. e.卵巣

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、組織ごとの放射線感受性の違いを問う問題だ。丸暗記に頼らなくても、「その細胞がどれくらい分裂しているか」を考えれば答えにたどり着ける。まずは基本となる法則から確認しよう。放射線感受性を説明する古典的な法則、覚えているかな。
医学生医学生
ベルゴニー・トリボンドーの法則ですね。放射線医学の講義で、分裂が盛んな細胞ほど感受性が高いと習いました。
ドクタードクター
その通り。正確には、分裂頻度が高い、将来の分裂回数が多い、形態・機能が未分化である、という3つの性質をもつ細胞ほど感受性が高い。放射線は主にDNAを傷つけるから、分裂を繰り返す細胞では修復しきれなかった損傷によって分裂時に細胞死が起こりやすいんだ。
医学生医学生
逆に、分裂しない細胞は傷ついても死ににくいということですか。
ドクタードクター
そういうこと。では選択肢を順に見ていこう。まず骨髄はどうかな。
医学生医学生
造血幹細胞がどんどん分裂しているので、感受性はかなり高いはずです。
ドクタードクター
正解。骨髄は人体で最も感受性の高い組織の一つだ。全身被ばくでは1 Gy前後から造血障害が現れ、急性放射線症候群の骨髄型としてリンパ球減少、続いて好中球や血小板の減少が起こって、感染や出血の原因になる。
医学生医学生
リンパ球の減少が早いのは、リンパ球も盛んに分裂しているからでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。実は末梢血のリンパ球は分裂しない成熟細胞なのに、例外的に感受性が非常に高い。アポトーシスを起こしやすいためと考えられている。被ばく後早期のリンパ球数は被ばく線量の推定に使われるほどだよ。もう一つの例外が卵母細胞で、これは卵巣の話につながる。
医学生医学生
卵巣は生殖腺なので感受性が高い部類ですね。卵子は生まれた後に新しく作られないと発生学で習いました。
ドクタードクター
その通り。卵母細胞が障害されて卵胞が減ると、一時的あるいは永久的な不妊や早期の卵巣機能不全を来す。失われた卵胞は回復しないし、年齢が高く残存卵胞が少ない人ほど低い線量で永久不妊に至りやすい。精巣も精原細胞の障害で比較的低い線量から一時的不妊が起こる。
医学生医学生
皮膚はどうでしょう。表皮は入れ替わりが速いので、高いほうだと思います。
ドクタードクター
そうだね。表皮基底層や毛包の細胞は活発に分裂しているから感受性は高い。線量に応じて紅斑、脱毛、落屑、潰瘍が生じる。放射線治療や、IVRでの長時間の透視で問題になる確定的影響の代表だ。
医学生医学生
甲状腺はチェルノブイリの事故で甲状腺がんが増えた話があるので、感受性が高いのかと迷いました。
ドクタードクター
そこは混同しやすいポイントだ。成人の甲状腺濾胞上皮は入れ替わりが遅く、組織障害を起こす感受性は中等度に位置づけられる。一方で、発がんという確率的影響の観点では甲状腺は重要な臓器で、特に小児期の被ばくでリスクが増す。組織障害の感受性と発がんリスクは分けて考える必要があるんだ。
医学生医学生
そうすると、残る神経が正解ですね。成人の神経細胞はほとんど分裂しないので。
ドクタードクター
正解。高度に分化してほぼ分裂しない神経は、法則に照らして最も感受性が低い。全身被ばくで中枢神経症状が前面に出る中枢神経型の急性放射線症候群は、数十Gyという極めて高い線量でなければ起こらない。骨髄型は数Gy、消化管型は10 Gy前後と、線量が上がるほど感受性の高い組織から順に障害が表に出てくるんだ。
医学生医学生
放射線治療科の実習で、照射計画のときに脊髄の線量をすごく気にしていたのを見ました。神経は強いのに、なぜでしょうか。
ドクタードクター
鋭い観察だね。感受性が低いといっても、耐容線量を超えれば数か月から数年後に放射線脊髄症や脳壊死といった重い晩期障害が起こりうる。しかも回復しにくいから、照射計画で厳密に線量制限をするんだ。また、胎児期の発達途中の脳は感受性が高く、妊娠8〜15週頃の被ばくは精神発達遅滞のリスクになる点も区別して覚えておこう。
医学生医学生
「分裂するかどうか」で考えて、リンパ球と卵母細胞は例外、甲状腺は発がんリスクと分けて考える、と整理します。
ドクタードクター
完璧だ。感受性の目安は、造血組織、生殖腺、小腸粘膜が高く、皮膚や水晶体がそれに続き、肺・腎・肝・甲状腺が中等度、血管・結合組織・筋・骨が低く、神経が最も低い。この順序は法則から自然に導けるから、理屈ごと覚えておくと応用が利くよ。

まとめ

組織の放射線感受性は、分裂頻度が高く、将来の分裂回数が多く、未分化な細胞ほど高いというベルゴニー・トリボンドーの法則でおおむね説明できます。骨髄・リンパ組織、生殖腺、小腸粘膜、皮膚は感受性が高く、甲状腺は組織障害の点では中等度、ほとんど分裂しない成熟した神経は最も感受性が低い組織です。ただしリンパ球と卵母細胞は分裂しないにもかかわらず感受性が高い例外であり、甲状腺は小児期被ばくによる発がんリスクが重要であるなど、確定的影響と確率的影響を区別して理解する必要があります。また神経でも耐容線量を超えれば放射線脊髄症などの晩期障害が起こるため、放射線治療では線量制限が欠かせません。法則の理屈を押さえておくことは、被ばく医療や放射線治療の安全管理を理解する基盤になります。

解答・解説

正解はcです

テーマ

放射線感受性とは、細胞・組織が放射線によって障害を受けやすい程度のことである。組織ごとの感受性の違いは、古典的な「ベルゴニー・トリボンドーの法則」でおおむね説明できる。この法則では、次の性質をもつ細胞ほど放射線感受性が高いとされる。 1. 細胞分裂の頻度が高い(盛んに増殖している) 2. 将来行う分裂の回数が多い 3. 形態・機能が未分化である 放射線は主にDNAを傷つける。分裂を繰り返す細胞では、修復しきれなかったDNA損傷によって分裂時に細胞死(分裂死)が起こりやすいため、障害がすぐに現れる。逆に、成熟して分裂をほとんど行わない細胞は、DNA損傷を受けても細胞死に至りにくい。

感受性の高低の目安

高い:造血組織(骨髄、リンパ組織)、生殖腺(精巣、卵巣)、消化管粘膜(小腸の陰窩上皮) やや高い:皮膚(表皮基底層、毛包、汗腺)、眼の水晶体 中等度:肺、腎、肝、甲状腺など 低い:血管、結合組織、筋肉、骨 最も低い:神経

解き方

成人の神経細胞(ニューロン)は高度に分化しており、ほとんど分裂しない。したがって法則に照らして最も放射線感受性が低く、選択肢中では神経が該当する。骨髄・卵巣・皮膚は増殖の盛んな細胞を含むため感受性が高く、甲状腺は中等度に位置する。

選択肢考察

  1. ×a.  甲状腺

    成人の甲状腺濾胞上皮は細胞の入れ替わりが遅く、組織障害(確定的影響)を起こす感受性は中等度から比較的低い部類に入る。ただし、神経よりは感受性が高い。なお、発がん(確率的影響)の観点では甲状腺は重要な臓器であり、特に小児期の被ばくで甲状腺がんのリスクが増すことが知られている(チェルノブイリ原発事故後の放射性ヨウ素による小児甲状腺がんの増加が代表例)。組織障害の感受性と発がんリスクは分けて考える必要がある。

  2. ×b.  骨髄

    骨髄には盛んに分裂する未分化な造血幹細胞・前駆細胞が多く含まれ、人体で最も放射線感受性の高い組織の一つである。全身被ばくでは比較的低い線量(およそ1 Gy前後以上)から造血障害が現れ、急性放射線症候群の骨髄型としてリンパ球減少、続いて好中球・血小板減少が起こり、感染や出血の原因となる。末梢血のリンパ球は分裂しない成熟細胞でありながら例外的に感受性が非常に高く、被ばく後早期のリンパ球数減少は被ばく線量の推定に用いられる。

  3. ○c.  神経

    成人の神経細胞は分化が完了しており、ほぼ分裂しないため、ベルゴニー・トリボンドーの法則からみて放射線感受性が最も低い組織に位置づけられる。全身被ばくで中枢神経症状が前面に出る中枢神経型の急性放射線症候群は、数十Gyという極めて高い線量でなければ起こらない。ただし、放射線治療では脊髄や脳の耐容線量を超えると、数か月〜数年後に放射線脊髄症や脳壊死などの晩期障害が起こりうるため、照射計画で線量制限を行う必要がある。また、胎児期の発達途中の脳は感受性が高く、妊娠8〜15週頃の被ばくは精神発達遅滞のリスクとなる点は区別して覚える。

  4. ×d.  皮膚

    皮膚の表皮基底層の細胞や毛包の細胞は活発に分裂しているため、放射線感受性が高い。被ばく線量に応じて紅斑、脱毛、乾性・湿性落屑、潰瘍、壊死などの皮膚障害が生じる。放射線治療やIVR(画像下治療)の長時間の透視などで問題となる確定的影響の代表である。

  5. ×e.  卵巣

    生殖腺は放射線感受性が非常に高い臓器である。卵巣では卵母細胞が障害されて卵胞が減少し、線量によって一時的または永久的な不妊や早期の卵巣機能不全を来す。卵子は出生後に新たにつくられないため、失われた卵胞は回復しない。年齢が高く残存卵胞の少ない女性ほど、より低い線量で永久不妊に至りやすい。精巣も同様に感受性が高く、精原細胞の障害により比較的低い線量で一時的不妊が起こる。

ベルゴニー・トリボンドーの法則の例外

リンパ球と卵母細胞は、分裂をしない(あるいはほとんど分裂しない)細胞であるにもかかわらず放射線感受性が高い。リンパ球はアポトーシス(間期死)を起こしやすいことがその理由とされる。

組織別の放射線感受性(高い順の目安)

1. 造血系:骨髄、リンパ組織(リンパ節、脾臓、胸腺) 2. 生殖腺:精巣、卵巣 3. 消化管:小腸粘膜(陰窩上皮) 4. 皮膚・付属器、眼:表皮基底層、毛包、汗腺、水晶体 5. 実質臓器:肺、腎、肝、甲状腺など 6. 支持組織:血管、結合組織、筋肉、骨 7. 神経

確定的影響と確率的影響

・確定的影響(組織反応):一定の線量(しきい線量)を超えると現れ、線量が増えるほど重症になる。造血障害、不妊、皮膚障害、白内障など。組織の放射線感受性の議論は主にこちらに関わる。 ・確率的影響:しきい線量がないと仮定され、線量に応じて発生確率が増す。発がん、遺伝的影響。

急性放射線症候群の病型(全身被ばく)

・骨髄型:数Gy程度から。汎血球減少による感染・出血。 ・消化管型:おおむね10 Gy前後以上。腸粘膜の脱落による下痢、脱水、敗血症。 ・中枢神経型(神経血管型):数十Gy以上。意識障害、痙攣、ショックを来し、救命は困難。 線量が増すにつれて、感受性の高い組織から順に障害が前面に出ることが、組織の感受性の差をよく表している。

POINT

・放射線感受性は、分裂頻度が高く、未分化な細胞ほど高い(ベルゴニー・トリボンドーの法則)。 ・感受性が高い組織:骨髄・リンパ組織、生殖腺、小腸粘膜、皮膚、水晶体。 ・感受性が最も低い組織:分裂しない成熟した神経。 ・例外として、リンパ球と卵母細胞は分裂しないが感受性が高い。 ・甲状腺は組織障害の感受性は中等度だが、小児期被ばくによる発がんリスクは重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。