針1本で何が起こる?―静脈採血の合併症を手技の流れで整理する
第116回医師国家試験 E問題 第19問
国試問題にチャレンジ
静脈採血の合併症として最も起こる可能性が低いのはどれか。
- a.消毒薬に対するアレルギー反応
- b.血管迷走神経反射
- c.横紋筋融解症
- d.神経損傷
- e.皮下血腫
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
静脈採血の合併症は、手技の流れに沿って整理すると理解しやすくなります。消毒の段階ではアルコールやクロルヘキシジンによるアレルギー反応、穿刺の段階では痛みや緊張による血管迷走神経反射や皮神経の損傷、抜針後には止血不十分による皮下血腫が起こりえます。神経損傷は約1万〜10万回に1回と正しい手技でも完全には防げず、強い痛みやしびれがあれば直ちに抜針し、血管迷走神経反射では採血を中止して仰臥位・下肢挙上とします。一方、横紋筋融解症は薬剤、外傷・挫滅、熱中症、過度の運動などによる骨格筋の広範な壊死であり、採血で起こることは考えにくい病態です。日常的な手技ほど起こりうるリスクと初期対応を具体的に把握しておくことが、安全な診療の基本になります。
解答・解説
正解はcです
静脈採血は日常的に行われる比較的安全な手技であるが、皮膚の消毒、針の穿刺、駆血、抜針後の止血という一連の操作の各段階に、特有の合併症が存在する。本問はそれらを理解しているかを問う問題である。 合併症を手技の流れに沿って整理すると次のようになる。 ・消毒:消毒薬(アルコール、クロルヘキシジンなど)による接触皮膚炎・アレルギー反応 ・穿刺:痛みや緊張による血管迷走神経反射、皮神経などの神経損傷、まれに動脈の誤穿刺 ・抜針後:止血不十分による皮下血腫(内出血) 一方、横紋筋融解症は骨格筋の広範な壊死によって起こる病態であり、薬剤、外傷・挫滅、過度の運動、熱中症などが原因となる。静脈から少量の血液を採るだけの操作で骨格筋が広く壊れることはなく、採血の合併症として起こる可能性は極めて低い。したがって「最も起こる可能性が低い」のは横紋筋融解症である。
選択肢考察
- ×a. 消毒薬に対するアレルギー反応
起こりうる合併症である。採血前の皮膚消毒に使うアルコールやクロルヘキシジンなどにより、発赤・腫脹・瘙痒感・発疹などの皮膚反応が生じることがあり、まれに蕁麻疹や呼吸困難を伴う全身性のアレルギー反応も起こりうる。アルコールで皮膚が赤くなる人は比較的多いため、採血前に消毒薬で皮膚が赤くなったり腫れたりした経験がないかを確認し、該当すればアルコールを避けて別の消毒薬に切り替える。クロルヘキシジンでもアナフィラキシーの報告があるため、その既往も確認する。
- ×b. 血管迷走神経反射
起こりうる合併症であり、頻度も比較的高い。穿刺の痛み・緊張・不安などを契機に迷走神経が過剰に興奮し、徐脈と末梢血管拡張による急激な血圧低下が起こる。症状は気分不快、冷汗、顔面蒼白、あくび、めまい、悪心で、進行すると失神に至る。採血中だけでなく採血直後にも起こるので、座位で採血する場合は転倒に注意し、過去に採血で気分不良になったことがある人は臥位で採血する。
- ○c. 横紋筋融解症
静脈採血の合併症として起こる可能性が最も低く、本問の正解である。横紋筋融解症は骨格筋細胞が融解・壊死し、ミオグロビン、クレアチンキナーゼ(CK)、カリウムなどが血中に流出する病態で、筋肉痛、脱力、赤褐色尿(ミオグロビン尿)がみられ、重症では急性腎障害を合併する。原因はHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)、フィブラート系薬、ニューキノロン系抗菌薬などの薬剤、外傷・挫滅症候群(クラッシュ症候群)、熱中症、過度の運動、痙攣発作、長時間の不動などである。採血の穿刺は皮下の静脈にとどまり、骨格筋を広範に傷害することはないため、採血によって起こることは考えにくい。
- ×d. 神経損傷
起こりうる合併症である。肘窩の静脈の近くには内側・外側前腕皮神経などの皮神経や、深部には正中神経が走行している。とくに皮神経は走行の個人差が大きいため、正しい手技で行っても神経損傷を完全には防げず、頻度は約1万〜10万回に1回とされる。穿刺時に電撃痛や、手指に放散する強い痛み・しびれを訴えた場合は神経損傷を疑い、ただちに針を抜く。損傷を避けるため、針を深く刺しすぎないこと、手関節の橈側(橈骨神経浅枝が近い)の静脈をなるべく避けることも重要である。
- ×e. 皮下血腫
起こりうる合併症であり、最も頻度が高いものの一つである。抜針後の圧迫止血が不十分な場合や、穿刺時に静脈の後壁まで針が貫通した場合に、血液が皮下に漏れて内出血(皮下血腫)となる。抜針前に駆血帯を外し、抜針後は穿刺部位を揉まずにしっかり圧迫する。多くは自然に吸収され、1週間程度で改善する。
静脈採血の主な合併症と対処
1. 止血困難・皮下血腫 ・抜針後、健常者では5分程度、抗凝固薬・抗血小板薬の内服者や出血傾向のある人では10分程度を目安に圧迫止血する。 ・揉むと出血が広がるため、揉まずに押さえるよう指導する。 2. 消毒薬によるアレルギー ・アルコールによる皮膚の発赤・瘙痒は若年女性などで比較的多くみられる。 ・事前に既往を聴取し、該当する消毒薬を避ける。 3. 神経損傷 ・約1万〜10万回に1回とされ、100%は予防できない。 ・穿刺時の強い痛みや放散するしびれの有無を確認し、あればすぐに抜針する。症状が続く場合は専門医への受診を勧める。 ・針を刺し直す際に皮下で針先を大きく探る操作は神経損傷の危険を高めるので避ける。 4. 血管迷走神経反射 ・痛みや緊張を契機に迷走神経が過剰に興奮し、徐脈・血圧低下から、めまい・気分不快・冷汗・失神などをきたす。 ・対処は、ただちに採血を中止して仰臥位にし、下肢を挙上して脳血流を保つことである。多くはこれで改善する。改善しなければ酸素投与、輸液を行い、徐脈には抗コリン薬のアトロピン、血圧低下には昇圧薬(エフェドリンなど)の投与を検討する。 5. その他 ・動脈の誤穿刺(肘窩では上腕動脈が近い)、感染(穿刺部の蜂窩織炎など、まれ)、駆血時間が長すぎることによる検査値の変化(血液濃縮によるタンパク質などの見かけ上の上昇)にも注意する。
横紋筋融解症の要点
・骨格筋の壊死により、CK・ミオグロビン・カリウムが血中に流出する。 ・ミオグロビン尿(赤褐色尿)では、尿潜血反応は陽性だが尿沈渣に赤血球をほとんど認めないのが特徴である。 ・ミオグロビンが尿細管を障害して急性腎障害を起こし、高カリウム血症による不整脈も致命的となりうる。治療の基本は大量輸液による尿量の確保と、電解質異常の補正である。
POINT
・静脈採血の合併症として、皮下血腫、血管迷走神経反射、神経損傷、消毒薬アレルギーを押さえる。 ・神経損傷は約1万〜10万回に1回とされ、穿刺時に強い痛みやしびれがあればすぐに抜針する。 ・血管迷走神経反射が起きたら、採血を中止して仰臥位にし、下肢を挙上する。 ・横紋筋融解症の原因は薬剤(スタチンなど)、外傷・挫滅、熱中症、過度の運動などであり、採血とは無関係である。
