90°で一気に筋層へ―ワクチン筋注の「やらないこと」を見極める
第116回医師国家試験 E問題 第18問
国試問題にチャレンジ
成人へのワクチンの筋肉注射について適切なのはどれか。
- a.注射針は18 Gを使用する。
- b.接種後は接種部位をよく揉む。
- c.血液逆流を確認後に薬液を注入する。
- d.注射針は皮膚に対し直角に刺入する。
- e.接種後は5分間観察して帰宅を許可する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
成人へのワクチン筋注では、三角筋中央部に25 G前後・長さ25 mm程度の細い針を、皮膚をつまみ上げずに直角に刺入し、最短距離で筋層へ薬液を届けます。推奨部位には太い血管がないため逆血確認(吸引)は不要で、接種後は揉まずに軽く圧迫するだけにします。18 Gは輸血や急速輸液に使う太い針であり、ワクチン接種には用いません。アナフィラキシーの多くは15分以内に起こるため、接種後は原則15分以上、重いアレルギーの既往がある人などは30分観察し、アドレナリンなどの救急対応を準備しておきます。皮下注射との違いや接種部位の位置を含めて理解しておくことは、予防接種に携わる医師にとって欠かせない基本手技の土台になります。
解答・解説
正解はdです
成人にワクチンを筋肉注射(筋注)する際の標準的な手技を問う問題である。 日本では長らく多くのワクチンが皮下注射で接種されてきたが、海外では筋注が標準であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの大規模接種を機に、国内でも筋注の正しい手技が改めて重視されるようになった。成人の筋注では、上腕の三角筋中央部を接種部位とし、細めの針(25 G前後)を皮膚に対して垂直に刺入して、短時間で薬液を筋層内に届けるのが基本である。 考え方の軸は次の3点である。 1. 針を筋層まで確実に到達させる:皮膚に直角に刺し、最短距離で三角筋に届かせる。皮膚をつまみ上げると皮下脂肪ごと持ち上がり、針先が筋肉に届かなくなるおそれがある。 2. 不要な侵襲・痛みを避ける:細い針を用い、推奨部位には太い血管がないため内筒を引いて血液逆流を確かめる操作(吸引)は不要とされる。接種後は揉まずに軽く押さえる。 3. 接種後の副反応、とくにアナフィラキシーに備える:接種後は一定時間(原則15分以上、アナフィラキシーの既往がある人などは30分)その場で経過を観察する。 この3点に照らすと、適切なのは「注射針は皮膚に対し直角に刺入する」である。
選択肢考察
- ×a. 注射針は18 Gを使用する。
誤り。ワクチンの筋注には通常25 G(太くても23 G程度)の細い針を用い、長さは成人で25 mm程度(やせ型では16 mm程度)が目安である。G(ゲージ)は数字が小さいほど針が太く、18 Gは輸血や薬液の吸い上げ、急速輸液のルート確保などに使う太い針である。0.5 mL前後の少量のワクチン接種に用いる必要はなく、痛みや組織損傷を増やすだけである。
- ×b. 接種後は接種部位をよく揉む。
誤り。ワクチン接種後は接種部位を揉まず、止血が得られるまでアルコール綿などで軽く押さえる程度でよい。揉むことで薬液が周囲組織へ漏れ出したり、局所の発赤・腫脹・疼痛が強くなったりするおそれがある。かつて一部の薬剤の筋注後に揉むよう指導された時代もあったが、ワクチンでは揉む必要はない。
- ×c. 血液逆流を確認後に薬液を注入する。
誤り。三角筋中央部など推奨される接種部位には、誤注入が問題となるような太い血管は走行していない。内筒を引いて陰圧をかける操作は針先が動いて筋組織を傷つけ、接種時間が延びて痛みが増すため、ワクチンの筋注では逆血確認(吸引)は必須ではなく、行わないことが推奨されている。
- ○d. 注射針は皮膚に対し直角に刺入する。
正しい。筋注では注射針を皮膚に対して90°で刺入し、皮膚・皮下組織を最短距離で貫いて筋層に到達させる。斜めに刺すと針先が皮下組織にとどまりやすく、皮下に注入されると局所反応が強くなったり免疫原性が下がったりすることがある。なお、皮下注射では皮膚をつまみ上げて約10〜30°の浅い角度で刺入するのが一般的であり、両者の違いを区別しておく。
- ×e. 接種後は5分間観察して帰宅を許可する。
誤り。ワクチン接種によるアナフィラキシーの多くは接種後15分以内に、残りの大部分も30分以内に発症する。このため、接種後は原則として少なくとも15分間、接種会場などで観察してから帰宅を許可する。過去に重いアレルギー反応(アナフィラキシーなど)を起こしたことがある人や、以前の接種で即時型反応がみられた人では30分間観察する。5分間では短すぎる。
成人のワクチン筋注の実際
・姿勢:背もたれのある椅子に座らせ、肩峰から上腕を十分に露出させる。腕は体の横に自然に下ろし、手のひらを体幹側に向ける。肩関節を内旋させると橈骨神経が接種部位に近づくため避ける。 ・接種部位:三角筋の中央部。目安として、前後の腋窩ひだの上端を結んだ線と、肩峰の中央から垂直に下ろした線とが交わる点が用いられる。肩峰に近すぎると肩峰下滑液包などへ注入されて肩の痛みや可動域制限(ワクチン接種関連肩障害)を起こしうる。低すぎると腋窩神経や橈骨神経を損傷する危険がある。 ・針:25 G、長さ25 mm程度(体格により16 mm程度も用いる)。 ・刺入:皮膚をつまみ上げず、皮膚に垂直に刺入する。刺入の深さは成人で約20 mm前後が目安である。 ・注入:逆血確認は不要で、薬液を注入したらすみやかに抜針する。 ・接種後:揉まずに軽く圧迫して止血する。15分(アナフィラキシーの既往などがあれば30分)観察する。
皮下注射との比較
・皮下注射:皮膚をつまみ上げ、10〜30°程度の浅い角度で刺入する。上腕伸側の下1/3などが用いられる。 ・筋肉注射:皮膚をつまみ上げず90°で刺入する。皮下注射に比べて局所の発赤・腫脹などの反応が少ないことが知られている。
アナフィラキシーへの備え
接種会場にはアドレナリン(成人では0.01 mg/kg、最大0.5 mgを大腿前外側に筋注)などの救急薬品と蘇生器具を準備しておく。アナフィラキシーを疑ったら、ただちにアドレナリンを筋注し、仰臥位にして下肢を挙上し、応援を呼ぶ。
POINT
・成人のワクチン筋注は三角筋中央部に、25 G・25 mm程度の針を皮膚に対して直角に刺入する。 ・皮膚はつまみ上げない。逆血確認(吸引)は不要である。 ・接種後は揉まず、軽く圧迫するだけにする。 ・接種後は原則15分以上(アナフィラキシーの既往などがあれば30分)観察する。 ・18 Gは輸血・急速輸液用の太い針であり、ワクチン接種には用いない。
