StudyMed医師国家試験

背中を叩けば腎が答える―腎盂腎炎とCVA叩打痛、腹部徴候の地図を整理する

第116回医師国家試験 E問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第116回 E問題 第13問

腎盂腎炎の診断に最も有用なのはどれか。

  1. a.Grey-Turner徴候
  2. b.Rovsing徴候
  3. c.Rosenstein徴候
  4. d.反跳痛
  5. e.肋骨脊柱角の叩打痛

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腎盂腎炎を疑ったときに最も役立つ身体所見を選ぶ問題だ。選択肢には腹部診察で習う有名な徴候が並んでいるけれど、カギは「腎臓が体のどこにある臓器か」という解剖の視点。そこから考えると答えは自然に絞れるよ。
医学生医学生
腎盂腎炎なら発熱と腰の痛みですよね。でも、徴候の名前がたくさん並ぶと、どれがどの病気だったか混乱してしまいます。
ドクタードクター
人名のついた徴候は丸暗記だと混ざりやすいよね。まず腎盂腎炎そのものを確認しよう。膀胱から細菌、多くは大腸菌が上行して腎盂と腎実質に感染する上部尿路感染症で、悪寒戦慄を伴う発熱、患側の腰背部痛、悪心・嘔吐が典型的。膀胱炎症状が先行することもある。
医学生医学生
解剖実習で腎臓を取り出したとき、腹膜を剝がしたさらに奥、背中側にあったのを覚えています。後腹膜臓器ですね。
ドクタードクター
その通り。腎臓は第12肋骨と脊柱がつくる角、つまり肋骨脊柱角(CVA)の深部にある。腎実質に炎症が起こると腎が腫れて腎被膜が引き伸ばされるから、この部位を軽く叩くと響くような痛みが出る。これがCVA叩打痛で、腎盂腎炎を疑う身体所見として最も代表的なものなんだ。
医学生医学生
OSCEの練習で、片手を背中に当ててその上から拳で叩く手技をやりました。直接強く叩くわけではないんですよね。
ドクタードクター
そう、手掌を置いてその上から拳で軽く叩くのが基本。左右差を比べるのも大事だよ。では、ほかの選択肢がなぜ違うかを確認しよう。Grey-Turner徴候はどうかな。
医学生医学生
側腹部の皮下出血斑で、急性膵炎でしたっけ。場所が腰のあたりなので、腎と関係ありそうにも見えてしまいます。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。Grey-Turner徴候は重症の急性膵炎、特に出血壊死性膵炎で、後腹膜に広がった血性滲出液が側腹部の皮下に及んで暗紫色の出血斑として現れるもの。臍周囲に出るCullen徴候とセットで覚えよう。頻度は低く、異所性妊娠破裂や腹部大動脈瘤破裂など出血を来す病態でもみられる。腎盂腎炎で出る所見ではないよ。
医学生医学生
Rovsing徴候とRosenstein徴候は、消化器外科の実習で虫垂炎の診察として教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。Rovsing徴候は左下腹部を圧迫すると右下腹部に痛みが出る現象で、結腸内のガスが回盲部へ押しやられて炎症のある虫垂周囲が刺激されるためと説明される。Rosenstein徴候はMcBurney点の圧痛が仰臥位より左側臥位で強くなるもの。どちらも急性虫垂炎の所見だ。
医学生医学生
反跳痛は腹膜刺激症状ですよね。腎盂腎炎でも炎症がひどければ出ることはないんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。反跳痛、いわゆるBlumberg徴候は、壁側腹膜に炎症が及んでいることを示すもので、進行した虫垂炎や消化管穿孔による腹膜炎で出る。腎は後腹膜臓器だから、腎盂腎炎の痛みは主に腰背部に現れ、通常は腹膜刺激症状を伴わない。ここでも「臓器の位置」が効いてくるんだ。
医学生医学生
なるほど。前の腹壁側の病変を見る徴候と、背中側の腎を見る所見、という分け方をすれば迷わないですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。ただし臨床では注意点もある。CVA叩打痛は尿管結石による水腎症や腎梗塞でも陽性になるから、腎盂腎炎に特異的な所見ではない。逆に所見が弱くても腎盂腎炎を否定しきれないとされている。
医学生医学生
じゃあ、身体所見だけでは診断できないということですか。
ドクタードクター
そう。尿検査で膿尿・細菌尿、腎実質の炎症を示す白血球円柱を確認し、尿培養、血液検査、必要に応じて血液培養を組み合わせる。さらに大切なのが、結石や腫瘍、前立腺肥大などによる尿路閉塞を伴う複雑性腎盂腎炎を見逃さないこと。敗血症に進みやすいので、超音波やCTで水腎症の有無を確認するんだ。
医学生医学生
閉塞があればドレナージが必要になるから、画像で確かめるわけですね。救急外来で発熱の患者さんを診るときに意識します。
ドクタードクター
その意識が大事だね。発熱の原因がはっきりしない高齢者でも、背中を叩いてみるだけで手がかりが得られることがある。簡単な手技だけど侮れないよ。

まとめ

腎盂腎炎は膀胱から上行した細菌が腎盂・腎実質に感染する上部尿路感染症で、発熱と患側の腰背部痛が典型です。腎は後腹膜臓器であり、腎被膜の伸展を反映する肋骨脊柱角(CVA)の叩打痛が最も有用な身体所見となります。Grey-Turner徴候は重症急性膵炎、Rovsing徴候・Rosenstein徴候は急性虫垂炎、反跳痛は腹膜炎を示す所見で、いずれも腹腔側の病変を反映します。CVA叩打痛は尿管結石や腎梗塞でも陽性となるため、尿検査・尿培養・血液検査と組み合わせて診断し、尿路閉塞を伴う複雑性腎盂腎炎では画像で水腎症を確認することが重要です。徴候を「臓器の位置」と結びつけて整理すると、腹痛・腰背部痛の鑑別が格段に立てやすくなります。

解答・解説

正解はeです

腹痛・腰背部痛の診察で用いられる身体所見(徴候)と、それぞれが示唆する疾患を対応させる問題である。 腎盂腎炎は、膀胱から上行した細菌(多くは大腸菌)が腎盂と腎実質に感染して起こる上部尿路感染症である。典型例では発熱(しばしば悪寒戦慄を伴う)、患側の腰背部痛、悪心・嘔吐がみられ、膀胱炎症状(頻尿・排尿時痛・残尿感)が先行または併存することがある。 腎臓は後腹膜臓器であり、背側の第12肋骨と脊柱が作る角(肋骨脊柱角:costovertebral angle、CVA)の深部に位置する。腎実質に炎症が起こると腎被膜が伸展されるため、この部位を拳で軽く叩くと響くような痛みが生じる。これが肋骨脊柱角叩打痛(CVA叩打痛)であり、腎盂腎炎を疑う身体所見として最も代表的である。 一方、他の選択肢は急性膵炎(Grey-Turner徴候)、急性虫垂炎(Rovsing徴候、Rosenstein徴候)、腹膜炎(反跳痛)を示唆する所見であり、腹腔内(前腹壁側)の病変を反映するものである。後腹膜臓器である腎の炎症をとらえる所見としてはCVA叩打痛を選ぶことになる。

選択肢考察

  1. ×a.  Grey-Turner徴候

    Grey-Turner徴候は側腹部(腰部)の皮膚にみられる暗紫色の皮下出血斑で、重症の急性膵炎(特に出血壊死性膵炎)で、後腹膜に広がった血性滲出液が皮下に及ぶことにより生じる。臍周囲の皮下出血斑であるCullen徴候と並んで急性膵炎の徴候として知られるが、出現頻度は数%程度と低く、異所性妊娠破裂や腹部大動脈瘤破裂など後腹膜・腹腔内出血を来す疾患でもみられる。腎盂腎炎で出現する所見ではない。

  2. ×b.  Rovsing徴候

    Rovsing徴候は、仰臥位で左下腹部(下行結腸付近)を圧迫すると、離れた右下腹部に痛みが生じる・増強する現象である。結腸内のガスが口側(回盲部方向)へ押しやられて盲腸・虫垂周囲の内圧が高まり、炎症のある虫垂やその周囲の腹膜が刺激されるためと説明される。急性虫垂炎を示唆する所見であり、腎盂腎炎の診断には用いない。

  3. ×c.  Rosenstein徴候

    Rosenstein徴候は、McBurney点(臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3の点)の圧痛が、仰臥位よりも左側臥位で強くなる現象である。左側臥位では腸管や虫垂が重力で左方へ移動して虫垂間膜が引き伸ばされ、また腹壁越しに虫垂を圧迫しやすくなるために痛みが増すと考えられている。急性虫垂炎の所見であり、腎盂腎炎とは関係しない。

  4. ×d.  反跳痛

    反跳痛(Blumberg徴候)は、腹壁をゆっくり圧迫した手を急に離したときに強い痛みが生じる現象で、壁側腹膜に炎症が及んでいることを示す腹膜刺激症状の一つである(筋性防御なども同類)。急性虫垂炎の進行例や消化管穿孔などによる腹膜炎で認められる。腎は後腹膜臓器であるため、腎盂腎炎の痛みは主に腰背部に現れ、通常は腹膜刺激症状を伴わない。

  5. ○e.  肋骨脊柱角の叩打痛

    肋骨脊柱角(CVA)は第12肋骨と脊柱がなす背部の三角形の領域で、その深部に腎臓がある。腎盂腎炎では腎実質の炎症・腫大により腎被膜が伸展されているため、この部位を手掌に置いた拳などで軽く叩くと痛みが響く。選択肢の中で腎の炎症を直接反映する唯一の所見であり、腎盂腎炎の診断に最も有用である。ただし尿管結石による水腎症(尿路閉塞)や腎梗塞などでも陽性となるため、特異的な所見ではない。

腎盂腎炎の診断

身体所見だけで確定するものではなく、症状(発熱・腰背部痛)、CVA叩打痛に加え、尿検査(膿尿・細菌尿、白血球円柱は腎実質の炎症を示唆)、尿培養、血液検査(白血球増多・CRP上昇)、必要に応じて血液培養を組み合わせて診断する。CVA叩打痛の陽性尤度比はそれほど高くないとする報告もあり、所見が乏しくても腎盂腎炎を否定しきれない。尿路閉塞(結石、腫瘍、前立腺肥大など)を伴う複雑性腎盂腎炎は重症化・敗血症化しやすいため、超音波やCTで水腎症の有無を確認する。

主な腹部の身体所見と対応する疾患

・Grey-Turner徴候(側腹部の皮下出血斑)、Cullen徴候(臍周囲の皮下出血斑):重症急性膵炎、異所性妊娠破裂、腹部大動脈瘤破裂など ・McBurney点圧痛、Lanz点圧痛:急性虫垂炎 ・Rovsing徴候(左下腹部圧迫で右下腹部痛):急性虫垂炎 ・Rosenstein徴候(左側臥位でMcBurney点の圧痛増強):急性虫垂炎 ・腸腰筋徴候(psoas sign)、閉鎖筋徴候(obturator sign):虫垂炎(後腹膜側・骨盤内の炎症) ・反跳痛(Blumberg徴候)、筋性防御、板状硬:腹膜炎 ・Murphy徴候(右季肋部圧迫中の深吸気で痛みのため吸気が止まる):急性胆嚢炎 ・CVA叩打痛:腎盂腎炎、尿管結石・水腎症、腎梗塞

POINT

・腎盂腎炎を示唆する身体所見は肋骨脊柱角(CVA)叩打痛である。 ・腎は後腹膜臓器のため、痛みは腰背部に出やすく腹膜刺激症状は乏しい。 ・Grey-Turner徴候・Cullen徴候は急性膵炎、Rovsing徴候・Rosenstein徴候は急性虫垂炎、反跳痛は腹膜炎の所見である。 ・CVA叩打痛は尿管結石や腎梗塞でも陽性となり特異的ではないため、尿検査・尿培養・血液検査と組み合わせて診断する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。