StudyMed医師国家試験

のどの奥で膨らむ危険―「飲み込めない」「息が速い」が告げる小児の咽後膿瘍

第116回医師国家試験 D問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第116回 D問題 第11問

咽頭痛を認める小児で咽後膿瘍を疑う症状はどれか。2つ選べ。

  1. a.難聴
  2. b.鼻出血
  3. c.頻呼吸
  4. d.顔面麻痺
  5. e.嚥下困難

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、咽頭痛のある小児でどんな症状があれば咽後膿瘍を疑うかという問題だ。解剖学的に、膿瘍がどこにできて、その前に何があるかをイメージできれば答えは自然に出てくる。まず咽後膿瘍がどこにできるか、説明できるかな。
医学生医学生
咽頭の後ろですよね。でも解剖実習で頸部の筋膜を見たときは、正直どの間隙がどれなのか混乱していました。
ドクタードクター
多くの人がそうだよ。咽後膿瘍は、咽頭の後壁と椎前筋膜の間にある「咽頭後間隙」に膿がたまる深頸部感染症だ。この間隙は頭蓋底から縦隔まで縦に続いているから、下へ広がると縦隔炎につながるという点も覚えておこう。
医学生医学生
扁桃周囲膿瘍は成人にも多いイメージですが、咽後膿瘍は小児に多いと習いました。なぜでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。乳幼児、特に5歳ごろまでは咽頭後間隙に咽頭後リンパ節、いわゆるRouvièreリンパ節がよく発達している。ここには鼻腔・上咽頭・副鼻腔・中耳・扁桃からリンパが集まるので、上気道炎や扁桃炎のあとにこのリンパ節が化膿し、壊れて膿瘍になるんだ。学童期以降はリンパ節が小さくなるので、成人では魚骨などの異物や外傷が主な原因になる。
医学生医学生
なるほど、リンパ節の発達が年齢で違うんですね。原因菌はどうですか。
ドクタードクター
A群β溶血性連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、口腔内の嫌気性菌が中心だ。では本題の症状に行こう。膿瘍は咽頭後壁を前へ押し出す。その前には何が通っているかな。
医学生医学生
食べ物の通り道と、空気の通り道です。つまり、飲み込みにくさと呼吸の苦しさが出るということですか。
ドクタードクター
その通り。食物の通り道が狭くなり強い嚥下痛も加わるので、嚥下困難が起こる。乳幼児は言葉で訴えられないから、哺乳量や食事量の低下、唾液を飲み込めないことによる流涎として現れることが多い。そして気道が狭くなれば、頻呼吸、吸気性喘鳴、陥没呼吸といった呼吸困難の徴候が出る。小児はもともと気道が細いので、わずかな狭窄でも呼吸の負担が大きく増えるんだ。
医学生医学生
小児科の実習で、気道は半径の4乗に抵抗が反比例すると教わったのを思い出しました。だから頻呼吸は要注意なんですね。
ドクタードクター
まさにその考え方だ。進行すると窒息に至ることもあるし、膿瘍が破れて膿を誤嚥すれば窒息や誤嚥性肺炎を起こす。咽頭痛のある子どもに頻呼吸があれば、気道緊急として扱う意識が必要だ。では、ほかの選択肢を見てみよう。難聴はどうかな。
医学生医学生
中耳からもリンパが集まるなら、関係ありそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこはひっかかりやすいね。リンパの流れとしては中耳とつながるけれど、小児の難聴で多いのは滲出性中耳炎や急性中耳炎による伝音難聴で、アデノイド増殖や上咽頭炎による耳管の閉塞が背景にある。咽後膿瘍の主な影響は嚥下と呼吸の障害で、難聴は疑うきっかけになる症状ではない。
医学生医学生
鼻出血は、小児ならKiesselbach部位からが多いですよね。
ドクタードクター
そう。鼻いじりや鼻炎による鼻中隔前方の粘膜のただれが原因だ。咽後膿瘍は粘膜の奥の間隙にできるので、鼻出血とは結びつかない。顔面麻痺も同様で、顔面神経は側頭骨内の顔面神経管から茎乳突孔を出て耳下腺内を走るから、咽頭後間隙とは通り道が離れている。小児の顔面神経麻痺なら、Bell麻痺、Ramsay Hunt症候群、中耳炎に伴うものなどを考えるよ。
医学生医学生
結局、膿瘍が前に押す相手を考えれば、嚥下困難と頻呼吸が残るわけですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。臨床での注意点もまとめよう。ほかに高熱、こもった声、首を後ろに反らせたがらない、斜頸なども手がかりになる。診察では、無理に口を開けさせたり舌圧子で強く押したりすると、泣いて気道が悪化したり膿瘍が破れたりする危険がある。画像では頸部側面X線写真で椎前軟部組織の肥厚、目安として第2頸椎の高さで7 mmを超えるかを見て、造影CTで辺縁が造影される低吸収域があれば膿瘍と判断する。
医学生医学生
側面X線では喉頭蓋炎のthumb signとの見分けも大事ですね。CBTの問題でよく出ていました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。急性喉頭蓋炎はHibが主な原因で、三脚姿勢と流涎が特徴。扁桃周囲膿瘍は年長児から成人に多く、口蓋垂の偏位や開口障害が目立つ。咽後膿瘍は乳幼児に多く、椎前軟部組織の肥厚が目印だ。治療は、まず気道確保、そして連鎖球菌・ブドウ球菌・嫌気性菌をカバーする抗菌薬の点滴、膿瘍が大きいか改善しなければ切開排膿。合併症として縦隔炎やLemierre症候群、環軸椎亜脱臼のGrisel症候群にも注意しよう。

まとめ

咽後膿瘍は咽頭後壁と椎前筋膜の間の咽頭後間隙に膿がたまる深頸部感染症で、乳幼児ではRouvièreリンパ節が発達しているため、上気道炎や扁桃炎に続く化膿性リンパ節炎から生じることが多い疾患です。膿瘍が咽頭後壁を前方へ押し出すため、食物の通り道の狭窄による嚥下困難・流涎と、気道狭窄による頻呼吸・吸気性喘鳴などの呼吸困難が現れ、難聴・鼻出血・顔面麻痺は本症を示唆する症状ではありません。診断は頸部側面X線写真での椎前軟部組織肥厚と造影CTで行い、治療は気道確保を最優先に抗菌薬点滴と必要に応じた切開排膿を行います。咽頭痛を訴える小児で「飲み込めない」「息が速い」というサインを見逃さず、急性喉頭蓋炎や扁桃周囲膿瘍と並ぶ気道緊急として対応する姿勢が重要です。

解答・解説

正解はc, eです

咽後膿瘍とは

咽頭のすぐ後ろ、椎前筋膜との間にある「咽頭後間隙」に膿がたまる深頸部感染症である。咽頭後間隙は頭蓋底から縦隔(上部胸椎の高さ)まで縦に続いている。

小児に多い理由

乳幼児、特に5歳ごろまでの小児では、咽頭後間隙に咽頭後リンパ節(Rouvièreリンパ節)がよく発達している。このリンパ節には、鼻腔・上咽頭・副鼻腔・中耳・扁桃などからリンパが集まる。そのため、上気道炎や扁桃炎のあとにこのリンパ節が化膿し(化膿性リンパ節炎)、壊れて膿瘍になる。これが小児の咽後膿瘍の主な成り立ちである。このリンパ節は学童期以降に小さくなるため、成人では咽頭外傷や異物(魚骨など)による発症が中心になる。主な原因菌は、A群β溶血性連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、口腔内の嫌気性菌である。

症状の考え方

膿瘍は咽頭後壁を前方へ押し出す。その前には食物の通り道(咽頭・食道入口部)と空気の通り道(喉頭・気管)があるので、症状は主に次の二つになる。 ・食物の通り道が狭くなる → 嚥下困難・嚥下痛、よだれ(流涎)、経口摂取の不良 ・空気の通り道が狭くなる → 頻呼吸・吸気性喘鳴・陥没呼吸などの呼吸困難 ほかに、高熱、こもった声、頸部痛、首を動かしたがらない(特に後ろへ反らせない)、斜頸などがみられる。

設問への考え方

咽頭痛のある小児にこれらの症状があれば、単なる咽頭炎・扁桃炎ではなく咽後膿瘍を疑う。そのうえで、気道の確保と画像検査(頸部側面X線写真、造影CT)を急ぐ。本問では、頻呼吸と嚥下困難が該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  難聴

    小児の難聴として多いのは、滲出性中耳炎や急性中耳炎などに伴う伝音難聴である。滲出性中耳炎は、アデノイドが大きくなったり上咽頭に炎症が起きたりして耳管がふさがることで起こる。咽後膿瘍の主な影響は、咽頭後壁が前に押し出されることによる嚥下と呼吸の障害であり、難聴は咽後膿瘍を疑うきっかけとなる症状ではない。

  2. ×b.  鼻出血

    小児の鼻出血の多くは、鼻中隔の前方にあるKiesselbach部位(キーゼルバッハ部位)から起こる。鼻いじりや鼻炎による粘膜のただれが原因である。咽後膿瘍は咽頭後壁の粘膜の奥(咽頭後間隙)にできるので、粘膜が直接傷つくことはなく、鼻出血を起こすこともない。咽後膿瘍を示す症状とはいえない。

  3. ○c.  頻呼吸

    膿瘍が大きくなると咽頭後壁が前に押し出され、中咽頭〜下咽頭・喉頭の入口が狭くなり、上気道閉塞が起こる。小児はもともと気道が細いため、わずかに狭くなるだけで呼吸の負担が大きく増える。その結果、頻呼吸・吸気性喘鳴・陥没呼吸がみられる。進行すると窒息に至ることもある。さらに、膿瘍が破れて膿を誤嚥すると、窒息や誤嚥性肺炎を起こす。咽頭痛のある小児に頻呼吸などの呼吸困難の徴候があれば、気道緊急として扱う。具体的には、無理に口を開けさせる診察や仰向けを強いることは避け、気道確保(気管挿管など)の準備をしたうえで評価する。

  4. ×d.  顔面麻痺

    顔面神経は、脳幹から内耳道・側頭骨内の顔面神経管を通り、茎乳突孔から出て耳下腺の中を走る。咽頭後間隙とは通り道が離れているため、咽後膿瘍で顔面神経麻痺が起こることは通常ない。小児の顔面神経麻痺として多いのは、Bell麻痺(単純ヘルペスウイルスの再活性化が関与すると考えられている)、Ramsay Hunt症候群(水痘・帯状疱疹ウイルス)、急性中耳炎・真珠腫性中耳炎に伴うもの、外傷などである。

  5. ○e.  嚥下困難

    咽頭後壁が膿瘍で前に盛り上がり、食物の通り道である中咽頭〜下咽頭・食道入口部が狭くなる。さらに強い嚥下痛が加わるため、飲み込めなくなる(嚥下困難)。乳幼児では自分で症状を言葉にできないことが多く、哺乳量や食事量が減る、よだれが増える(唾液を飲み込めないため)、といった形で現れる。咽頭痛に加えて嚥下困難や流涎が目立つときは、扁桃周囲膿瘍・咽後膿瘍・急性喉頭蓋炎といった、気道を脅かす感染症を考える必要がある。

診断

・口腔内の診察: 咽頭後壁が片側寄りに腫れて盛り上がっているのが見えることがある。ただし、無理に口を開けさせたり舌圧子で強く押したりすると、泣いて気道の状態が悪くなったり、膿瘍が破れたりする危険がある。 ・頸部側面単純X線写真: 頸椎の前にある軟部組織(椎前軟部組織)が厚くなっている。目安は、第2頸椎の高さで7 mmを超える場合である。息を吸うときに首を伸ばした状態で撮影しないと、偽陽性になりやすい。 ・頸部造影CT: 周りが造影されて縁取られた低吸収域がみられれば膿瘍である。膿瘍の範囲や縦隔への広がり、膿瘍になる前の蜂窩織炎の段階か膿瘍形成後かの区別に有用である。

治療

・まず気道の安全を確保する。必要なら気管挿管を行う。 ・抗菌薬の点滴を行う。主な原因菌である連鎖球菌・黄色ブドウ球菌・嫌気性菌をカバーするもの(例: アンピシリン・スルバクタム、クリンダマイシンなど)を用いる。 ・膿瘍が大きい場合や抗菌薬で改善しない場合は、口の中から、または頸部の外から切開して膿を出す(切開排膿)。

合併症

・上気道閉塞・窒息 ・膿瘍が破れて膿を誤嚥することによる誤嚥性肺炎 ・縦隔炎: 咽頭後間隙や、その後ろの危険間隙を通って下方に広がる。 ・頸動脈・内頸静脈に及ぶ合併症: 内頸静脈血栓性静脈炎(Lemierre症候群)など。 ・環軸椎の亜脱臼(Grisel症候群)

咽頭痛・嚥下困難をきたす重症感染症の鑑別

・扁桃周囲膿瘍: 年長児〜成人に多い。片側の軟口蓋が腫れて口蓋垂が反対側に寄る。口が開けにくくなる(開口障害)。 ・急性喉頭蓋炎: 主な原因菌はインフルエンザ菌b型(Hib)。頸部側面X線写真で、腫れた喉頭蓋が親指のように写る(thumb sign)。前かがみの座った姿勢(三脚姿勢)をとり、よだれを流す。 ・咽後膿瘍: 乳幼児に多い。頸部側面X線写真で椎前軟部組織が厚くなる。首を後ろに反らせたがらない、斜頸。

POINT

・咽後膿瘍は、咽頭後リンパ節(Rouvièreリンパ節)の化膿から起こり、5歳ごろまでの乳幼児に多い。上気道炎・扁桃炎に続いて発症する。 ・咽頭後壁が前に押し出され、食物の通り道と気道が狭くなる。そのため、嚥下困難・流涎と、頻呼吸・吸気性喘鳴などの呼吸困難を生じる。 ・ほかに高熱、首を後ろに反らせたがらない、斜頸、こもった声がみられる。 ・診断には頸部側面X線写真(椎前軟部組織が厚くなる)と造影CTを用いる。 ・治療は気道確保、抗菌薬の点滴、切開排膿である。合併症として窒息・縦隔炎に注意する。 ・難聴・鼻出血・顔面麻痺は、咽後膿瘍を疑う症状ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。