守れるのは「まだ感作されていない母」だけ―抗Dヒト免疫グロブリンを打つべき分娩後の条件
第116回医師国家試験 D問題 第1問
国試問題にチャレンジ
RhD(-)血液型の妊婦で分娩後に抗Dヒト免疫グロブリン投与が必要な組合せはどれか。 夫の血液型 妊娠中の間接クームス試験結果 出産児の血液型 妊娠12週 妊娠26週 a RhD(-) - - RhD(-) b RhD(+) - - RhD(-) c RhD(+) - - RhD(+) d RhD(+) - + RhD(+) e RhD(+) + + RhD(+)
- a.RhD(-) - - RhD(-)
- b.RhD(+) - - RhD(-)
- c.RhD(+) - - RhD(+)
- d.RhD(+) - + RhD(+)
- e.RhD(+) + + RhD(+)
対話形式の解説
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ドクターまとめ
抗Dヒト免疫グロブリンは、RhD陰性の母体に流入したRhD陽性の胎児赤血球を除去させ、母体が抗D抗体を作る「感作」を予防する製剤であり、すでに感作が成立した母体には効果がありません。そのため分娩後の投与は、出産児がRhD陽性であり、かつ間接クームス試験で母体の抗D抗体が陰性(未感作)である場合に、分娩後72時間以内に行います。児がRhD陰性なら感作の危険はなく、妊娠中に間接クームス試験が陽性化していれば既感作として抗体価や胎児貧血の評価による管理に移ります。未感作妊婦には妊娠28週前後や、流産・侵襲的検査などのイベント後にも投与することをあわせて押さえておきましょう。分娩後に確実に感作を予防することが次回以降の胎児溶血性疾患を防ぐ鍵であり、周産期管理の基本として重要な知識です。
解答・解説
正解はcです
テーマ
RhD陰性の母体がRhD陽性の胎児を妊娠すると、胎盤を介して、あるいは分娩時に胎児赤血球が母体血中に流入し、母体がD抗原に対する抗体(抗D抗体)を作ることがある(感作)。抗D抗体はIgGで胎盤を通過するため、次回以降のRhD陽性児の妊娠で胎児赤血球を破壊し、胎児溶血性疾患(胎児貧血、胎児水腫、新生児重症黄疸など)を引き起こす。 抗Dヒト免疫グロブリンは、母体に流入した胎児のRhD陽性赤血球に結合して、母体の免疫系が抗D抗体を自ら作る前にそれを除去させる製剤である。つまり「まだ感作されていない母体の感作を予防する」ためのもので、すでに感作が成立した母体には効果がない。
判断に必要な2つの条件
分娩後に抗Dヒト免疫グロブリンを投与すべきなのは、次の両方を満たす場合である。 (1) 出産児がRhD陽性であること(D抗原にさらされる危険がある) (2) 母体がまだ感作されていないこと=間接クームス試験(母体血清中の赤血球に対する不規則抗体を検出する検査)で抗D抗体が陰性であること 選択肢の表は「夫の血液型」「妊娠12週・26週の間接クームス試験」「出産児の血液型」の順に並んでいる。出産児がRhD陽性で、かつ妊娠中の間接クームス試験が一貫して陰性である組合せを探せばよい。夫の血液型は児の血液型を推定する手がかりにすぎず、出産後は児の血液型そのもので判断する。
選択肢考察
- ×a. RhD(-) - - RhD(-)
夫も母もRhD陰性であれば、児がD抗原を受け継ぐことはなく、実際に出産児もRhD陰性である。母体がD抗原にさらされる機会がないため、感作の危険はなく、分娩後の抗Dヒト免疫グロブリン投与は不要である。
- ×b. RhD(+) - - RhD(-)
夫はRhD陽性だが、夫がD遺伝子をヘテロ接合で持つ場合、児は1/2の確率でRhD陰性となる。本例の出産児はRhD陰性であり、母体に流入する赤血球にD抗原がないため感作は起こらない。分娩後の投与は不要である。
- ○c. RhD(+) - - RhD(+)
出産児がRhD陽性であり、分娩時の胎盤剝離などに伴って胎児赤血球が母体へ流入し、感作が起こりうる。一方、妊娠12週・26週の間接クームス試験はいずれも陰性で、母体はまだ抗D抗体を作っていない(未感作)。感作予防が有効な状況であるため、分娩後72時間以内に抗Dヒト免疫グロブリンを母体に投与する必要がある。
- ×d. RhD(+) - + RhD(+)
妊娠12週では陰性だったが、妊娠26週で間接クームス試験が陽性に転じており、妊娠経過中に母体がすでに感作されたと考えられる。抗Dヒト免疫グロブリンは感作の成立を防ぐものであり、感作後に投与しても意味がないため、分娩後の投与は行わない。本例は次回妊娠で胎児溶血性疾患の危険が高い既感作妊婦として管理する。
- ×e. RhD(+) + + RhD(+)
妊娠12週の時点ですでに間接クームス試験が陽性であり、前回までの妊娠・流産・輸血などで感作が成立していると考えられる。既感作の母体に抗Dヒト免疫グロブリンを投与しても効果はなく、投与は不要である。むしろ今回の妊娠では抗体価の推移や胎児貧血の評価(中大脳動脈血流速度の測定など)による慎重な管理が必要となる。
RhD陰性妊婦の管理の流れ
(1) 妊娠初期:母体の血液型(ABO・RhD)と不規則抗体(間接クームス試験)を検査する。 (2) 妊娠28週前後:抗D抗体が陰性であることを再確認し、陰性なら抗Dヒト免疫グロブリンを母体に投与する(妊娠中の自然な胎児母体間出血による感作を予防する)。 (3) 分娩後:児の血液型がRhD陽性で、母体が未感作であることを確認し、分娩後72時間以内に抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。 (4) 妊娠中のイベント後:流産、人工妊娠中絶、異所性妊娠、羊水穿刺・絨毛採取などの侵襲的検査、腹部打撲、胎位外回転術など、胎児血が母体に混入しうる場合にも投与する。
なぜ初回妊娠では問題になりにくいか
初回の感作で産生されるのは主にIgMで胎盤を通過しにくく、しかも感作の多くは分娩時に起こるため、初回妊娠の児はふつう影響を受けない。次回妊娠時に再びD抗原にさらされると、IgG型の抗D抗体が速やかに大量に産生され、胎児赤血球を破壊する。
クームス試験
直接クームス試験:患者(児)の赤血球表面に結合した抗体を検出する。新生児溶血性疾患の診断に用いる。 間接クームス試験:患者(母体)血清中の遊離した赤血球抗体を検出する。母体の感作の有無の評価に用いる。
補足
妊娠28週前後に抗Dヒト免疫グロブリンを投与した後は、投与した抗体そのものにより間接クームス試験が一時的に弱陽性となることがあり、真の感作と区別が必要である。
POINT
・抗Dヒト免疫グロブリンは「未感作」のRhD陰性母体の感作予防のために投与する ・分娩後投与の条件:児がRhD陽性 かつ 母体の間接クームス試験(抗D抗体)陰性 ・投与時期:妊娠28週前後と分娩後72時間以内、流産・侵襲的検査などの後 ・すでに感作(抗D抗体陽性)された母体には投与しても無効 ・児がRhD陰性なら感作の危険はなく不要
