羊水が多い子と少ない子―共有する「ひとつの胎盤」が生む双胎間輸血症候群
第119回医師国家試験 A問題 第49問
国試問題にチャレンジ
30歳の経産婦(2妊1産)。妊娠20週,妊婦健康診査のために来院した。妊娠初期の経腟超音波像を下に示す。妊娠17週で2児の羊水量に差を認めたため,それ以降週1回の外来通院で経過観察されていた。胎児超音波検査で,第1児に羊水過多と胎児水腫を認め,第2児に羊水過少を認めた。 この疾患の原因はどれか。

- a.骨髄
- b.臍帯
- c.子宮
- d.胎盤
- e.羊膜
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
妊娠初期の超音波でひとつの胎嚢内に2児と薄い隔壁を認めれば一絨毛膜二羊膜双胎であり、2児が胎盤を共有しています。この共有胎盤上の両児間の血管吻合、特に一方向性の動静脈吻合によって血流の不均衡が生じると双胎間輸血症候群となり、受血児は多尿から羊水過多・心不全・胎児水腫へ、供血児は乏尿から羊水過少・発育不全へ進みます。原因部位は胎盤であり、臍帯・羊膜・骨髄・子宮の異常ではなく、二絨毛膜双胎では原則として起こりません。重症度はQuintero分類で評価し、妊娠16〜26週未満では胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術が第一選択です。妊娠初期の膜性診断がその後の管理方針とリスク評価を左右することを理解しておくことが、双胎妊娠を安全に管理する基本になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・30歳、2妊1産の経産婦、妊娠20週。 ・妊娠初期の経腟超音波像:一つの胎嚢(絨毛膜腔)の中に2児がおり、両児の間には薄い羊膜の隔壁のみがみられる。絨毛膜は一つ、羊膜は二つであり、一絨毛膜二羊膜(monochorionic diamniotic:MD)双胎と判断できる。 ・妊娠17週で2児の羊水量に差が出現し、20週の超音波検査で第1児に羊水過多と胎児水腫、第2児に羊水過少を認めた。
診断に至るプロセス
一絨毛膜双胎で、一方の児に羊水過多、他方に羊水過少がそろって出現していることから、双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)と診断できる。羊水が多い第1児が血液を受け取る受血児(recipient)、羊水が少ない第2児が血液を送り出す供血児(donor)である。受血児は循環血液量過剰から多尿となって羊水過多をきたし、さらに心負荷が進んで胎児水腫に至っている。供血児は循環血液量減少から乏尿となり羊水過少をきたす。胎児水腫を伴うことから、重症度分類(Quintero分類)ではstage IVに相当する進行例である。 鑑別として、一絨毛膜一羊膜(MM)双胎は2児が同じ羊膜腔内にあり隔壁がみられない点、二絨毛膜二羊膜(DD)双胎は厚い隔壁と隔壁基部のλ(ラムダ)サインがみられる点で区別される。DD双胎では胎盤が両児で独立しているため、原則としてTTTSは起こらない。
設問の考え方
TTTSは、一絨毛膜双胎で2児が共有する一つの胎盤の表面・内部に存在する両児間の血管吻合を介して、一方向性に血液が移動することで生じる。したがって原因となる部位は胎盤である。
選択肢考察
- ×a. 骨髄
骨髄は造血の場であり、TTTSの発症とは無関係である。TTTSでは受血児に多血、供血児に貧血がみられることがあるが、これは胎盤血管吻合を通じた血液の移動の結果であって、骨髄の造血異常によるものではない。
- ×b. 臍帯
臍帯はそれぞれの児と胎盤をつなぐ通り道にすぎず、2児間の血液移動の場ではない。臍帯が問題となる双胎特有の合併症としては、MM双胎で起こる臍帯相互巻絡があるが、これは両児の臍帯血流が同時に途絶し得る病態であり、受血児・供血児に分かれるTTTSとは機序が異なる。本症例は羊膜隔壁のあるMD双胎であり、臍帯相互巻絡は通常起こらない。なお臍帯の付着部異常(卵膜付着など)は胎盤の取り分の不均衡に関与し得るが、TTTSの直接の原因ではない。
- ×c. 子宮
子宮の形態異常や子宮筋腫などはTTTSの原因とはならない。TTTSの発生は膜性診断(絨毛膜の数)に規定され、母体側の子宮の異常とは関係しない。
- ○d. 胎盤
一絨毛膜双胎では2児が一つの胎盤を共有し、ほぼ全例で胎盤上に両児間の血管吻合が存在する。このうち胎盤実質内で一方の児の動脈から他方の児の静脈へ向かう動静脈吻合(深部吻合)は一方向性の血流となるため、これを相殺する吻合が乏しいと血液が一方の児へ偏って移動し、TTTSが発症する。双方向性に流れる胎盤表面の動脈-動脈吻合は血流を均衡させる方向に働き、むしろTTTSの発症を抑えると考えられている。治療の胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)も、胎盤上の吻合血管を凝固して遮断するものであり、原因が胎盤にあることを裏づける。
- ×e. 羊膜
TTTSはMD双胎に好発するため羊膜と結び付けて考えがちだが、羊膜自体に異常があるわけではない。羊水量の差は、各児の循環血液量の変化に伴う尿量の差(受血児の多尿、供血児の乏尿)の結果として生じる。羊膜が二つあることで羊水量の差が隔壁を挟んで明瞭に観察できるにすぎない。
双胎の膜性診断
・二絨毛膜二羊膜(DD)双胎:胎盤は2児で独立(癒合していても血管吻合はほぼない)。隔壁は厚く、基部にλ(ラムダ)サインを示す。二卵性双胎はすべてDD、一卵性双胎の一部もDD。 ・一絨毛膜二羊膜(MD)双胎:胎盤を共有。隔壁は薄く、基部はT字型(Tサイン)。TTTSの主な母集団である。 ・一絨毛膜一羊膜(MM)双胎:隔壁がない。臍帯相互巻絡のリスクが高い。 膜性診断は絨毛膜・羊膜の数を確認しやすい妊娠初期(おおむね妊娠14週ごろまで)に行うことが重要である。
TTTSの病態
・MD双胎の約10〜15%に発症するとされ、多くは妊娠中期(16〜26週ごろ)に顕在化する。 ・胎盤の吻合血管を介した血流の不均衡により、受血児は循環血液量過剰・多尿・羊水過多・心拡大・心不全・胎児水腫、供血児は循環血液量減少・乏尿・羊水過少・胎児発育不全をきたす。 ・診断の目安(日本で一般に用いられる基準):MD双胎で、受血児の羊水最大深度(MVP)8cm以上かつ供血児のMVP 2cm以下。
Quintero分類(重症度)
・stage I:羊水過多・過少のみ(供血児の膀胱は確認できる) ・stage II:供血児の膀胱が描出されない ・stage III:臍帯動脈・静脈管などの血流異常(ドプラ異常) ・stage IV:いずれかの児の胎児水腫 ・stage V:いずれかの児の胎児死亡
治療
・胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP):妊娠16週以上26週未満の症例で第一選択とされ、胎盤表面で吻合血管を凝固して両児の循環を分離する。 ・かつて行われていた羊水除去(amnioreduction)は対症療法にとどまる。 ・一児死亡時には、残存児が吻合血管を介して急激に失血し、脳障害や死亡をきたす危険がある。
POINT
・一つの胎嚢内に2児+薄い隔壁=一絨毛膜二羊膜(MD)双胎。 ・MD双胎で一方に羊水過多、他方に羊水過少→双胎間輸血症候群(TTTS)。羊水過多側が受血児、過少側が供血児。 ・原因は共有胎盤上の両児間血管吻合(特に一方向性の動静脈吻合)による血流不均衡=原因部位は胎盤。 ・重症度はQuintero分類(胎児水腫はstage IV)、治療は胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)。
