足りない208kcalを点滴で埋める―新生児術後の静脈栄養を一歩ずつ計算する
第116回医師国家試験 C問題 第75問
国試問題にチャレンジ
日齢10の男児。生後3日目に腸回転異常症の手術を行い,術後は中心静脈栄養を行っていた。排便を認めたため,術後5日目から人工乳の哺乳を始め,中心静脈栄養を漸減していた。現在の体重は3,200g。人工乳は1回量20mLを8回投与している。中心静脈栄養製剤の組成はブドウ糖15%,アミノ酸1%である。人工乳のエネルギーは0.7kcal/mLで腸管からの吸収率は100%とする。患児の必要エネルギー量は100kcal/kg/日である。 患児の必要エネルギーを満たすための静脈栄養投与量(mL)を計算せよ。 解答:①②③ mL
対話形式の解説
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ドクターまとめ
静脈栄養の投与量は、「体重×必要エネルギー(新生児〜乳児では約100〜120kcal/kg/日)」から経腸栄養で得ているエネルギーを差し引き、その不足分を輸液1mLあたりのエネルギーで割って求めます。本問では320kcalから人工乳の112kcalを引いた208kcalを、15%ブドウ糖と1%アミノ酸からなる製剤の0.64kcal/mLで割り、325mLとなります。輸液の%はw/v%(100mL中のg数)であり、糖質とアミノ酸は4kcal/g、脂質は9kcal/gで換算するのが基本です。臨床では非蛋白エネルギーを別に評価することもありますが、設問が何を問うているかを読み取ることが重要です。「腸が使えるなら腸を使う」という原則のもと、経腸栄養の増量に合わせて静脈栄養を漸減する考え方は、新生児外科の術後管理に限らず栄養療法全般の基本となります。
解答・解説
正解は325 mLです
症例の整理
日齢10の新生児で、生後3日目に腸回転異常症の手術を受けている。術後しばらくは経口摂取ができないため中心静脈栄養(TPN:total parenteral nutrition、中心静脈から高濃度の栄養輸液を入れる方法)で栄養を維持し、排便が確認されて腸管の通過が回復したと判断された術後5日目から人工乳を開始している。経腸栄養を少しずつ増やし、その分だけ静脈栄養を減らしていく移行期にあたる。本問は、経腸栄養で足りない分のエネルギーを静脈栄養で補うには何mL必要かを求める計算問題である。
解き方の方針
(1) 1日に必要な総エネルギーを体重から求める。 (2) 人工乳から得ているエネルギーを求める。 (3) 両者の差が静脈栄養で補うべきエネルギーとなる。 (4) 静脈栄養製剤1mL当たりのエネルギーを求め、(3)を割って投与量を出す。
計算過程
(1) 総必要エネルギー 体重3,200g=3.2kg、必要量100kcal/kg/日より 100kcal/kg/日 × 3.2kg = 320kcal/日 (2) 人工乳によるエネルギー 1日量は 20mL × 8回 = 160mL 吸収率100%、0.7kcal/mLなので 160mL × 0.7kcal/mL = 112kcal/日 (3) 静脈栄養で補うエネルギー 320 − 112 = 208kcal/日 (4) 静脈栄養製剤のエネルギー密度 %は w/v%(100mL中の溶質g数)として扱う。 ブドウ糖15% → 1mL中0.15g → 0.15g × 4kcal/g = 0.60kcal アミノ酸1% → 1mL中0.01g → 0.01g × 4kcal/g = 0.04kcal 合計 0.64kcal/mL (ブドウ糖とアミノ酸はいずれも4kcal/gなので、まとめて16% × 4kcal/g と計算してもよい) (5) 必要な静脈栄養投与量 208kcal ÷ 0.64kcal/mL = 325mL したがって答えは 325mL である。
注意点
アミノ酸は本来たんぱく合成の材料として使われることを期待して投与するもので、臨床栄養学ではエネルギー計算から除いた「非蛋白エネルギー」を別に評価することがある。しかし本問では問題文が単に「必要エネルギー量」を満たす量を問うており、アミノ酸のエネルギーも含めて計算すると整数の325が得られる。ブドウ糖分だけで計算すると208 ÷ 0.60 ≒ 347mLとなり、問題の意図とは合わない。
三大栄養素のエネルギー換算(Atwater係数)
糖質(ブドウ糖)4kcal/g、たんぱく質(アミノ酸)4kcal/g、脂質9kcal/g。静脈栄養の計算ではこの値を用いる。なお、静脈用のブドウ糖は含水結晶のため厳密には約3.4kcal/gとされることもあるが、国家試験の計算では4kcal/gを用いるのが一般的である。
輸液濃度の読み方
輸液製剤の「○%」は通常 w/v% であり、100mL中に何gの溶質が溶けているかを表す。例えば5%ブドウ糖液は100mL中5g=20kcal、すなわち0.2kcal/mLである。
小児の必要エネルギー量の目安
小児は体重当たりのエネルギー必要量が成人より大きい。体重当たりの維持量の目安として、新生児〜乳児で約100〜120kcal/kg/日、年齢とともに減少し、成人では25〜30kcal/kg/日程度となる。体重当たりの水分必要量もおおむね同様に乳児で多い。
静脈栄養と経腸栄養
栄養療法の原則は「腸が使えるなら腸を使う」である。経腸栄養は腸粘膜の萎縮を防ぎ、バクテリアルトランスロケーション(腸内細菌が腸管壁を越えて体内に侵入すること)やカテーテル関連血流感染のリスクを減らす。静脈栄養は、経腸栄養が不可能または不十分な場合に用い、経腸栄養の増量に合わせて漸減していく。本症例のような腸管手術後の新生児はその典型である。 小児の静脈栄養では、アミノ酸を有効にたんぱく合成に使わせるため、窒素1g当たりの非蛋白エネルギー(NPC/N比)を成人(150前後)より高めに設定することが望ましいとされる。
腸回転異常症
胎生期の中腸の回転・固定が不完全なために生じる先天異常で、新生児期に胆汁性嘔吐で発症することが多い。中腸軸捻転を合併すると広範な腸管壊死に至るため緊急手術(Ladd手術)の適応となる。
POINT
・必要エネルギー(kcal/kg/日 × 体重)− 経腸栄養分 = 静脈栄養で補う分 ・輸液の%は w/v%:15%ブドウ糖液は1mL中0.15g ・ブドウ糖・アミノ酸は4kcal/g、脂質は9kcal/g ・本問:320 − 112 = 208kcal、製剤は0.64kcal/mL、208 ÷ 0.64 = 325mL ・新生児・乳児の必要エネルギーは約100〜120kcal/kg/日
