StudyMed医師国家試験

小さな胎児と少ない羊水―まず確かめるべきは「今、元気か」

第119回医師国家試験 C問題 第48問

国試問題にチャレンジ

第119回 C問題 第48問

31歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠34週4日,里帰り分娩目的で地元の産科診療所を紹介され受診した。既往歴と家族歴に特記すべきことはない。腹部超音波検査で胎児は頭位,推定体重1,500g,羊水指数〈AFI〉は3cmであった。  次に行うべき検査はどれか。

  1. a.羊水検査
  2. b.胎児MRI
  3. c.胎児心拍数モニタリング
  4. d.75g経口ブドウ糖負荷試験
  5. e.成人T細胞白血病ウイルス検査

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産科の問題だ。里帰り分娩で初めて受診した妊婦さんの超音波所見から、胎児に何が起きているかを読み取り、次に何をすべきかを判断する。注目したいのは推定体重と羊水量、この2つの数字の意味だよ。
医学生医学生
妊娠34週で1,500gは小さい気がします。胎児発育不全でしょうか。
ドクタードクター
いい読みだね。34週の推定体重は平均でおよそ2,200g前後だから、1,500gは明らかに小さい。日本では推定胎児体重が在胎週数の基準値の−1.5SD以下でFGR、つまり胎児発育不全を疑う。本例はFGRと考えられる。では羊水指数のほうはどうかな。
医学生医学生
AFIは子宮を4区画に分けて、それぞれの羊水ポケットの最大深度を足した値でしたよね。5cm以下が羊水過少なので、3cmは羊水過少です。
ドクタードクター
正確だね。では、FGRに羊水過少が加わると何を意味するか考えてみよう。妊娠後半の羊水は主に何からできている?
医学生医学生
胎児の尿です。産婦人科の講義で、羊水は胎児が飲んでおしっことして出していると習いました。
ドクタードクター
その通り。胎盤機能が落ちて胎児が慢性的な低酸素になると、胎児は血流を脳や心臓、副腎といった重要臓器に優先的に回す。これを血流再分配、brain-sparingというんだ。その分腎血流が減って尿量が落ち、羊水が減る。だからFGRと羊水過少の組み合わせは、胎盤機能不全で胎児の状態が悪くなりつつあるサインなんだ。
医学生医学生
なるほど。そうなると原因を詳しく調べたくなります。染色体異常も考えて羊水検査でしょうか。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。原因検索も大切だけど、この胎児が今すぐ娩出を考えるべき状態かどうか、つまり胎児の健常性の評価が最優先なんだ。その答えになるのが胎児心拍数モニタリング、ノンストレステストだよ。
医学生医学生
臨床実習で産科を回ったとき、妊婦健診でお腹にベルトを巻いて記録していたあれですね。
ドクタードクター
そう。子宮収縮のない状態で20〜40分程度胎児心拍数を記録し、基線、基線細変動、一過性頻脈、一過性徐脈を評価する。胎児の自律神経機能を反映するから、低酸素に陥っていないかを非侵襲的に、外来ですぐ判定できる。一過性頻脈が20分間に2回以上あればreactive、つまり健常と判断できるんだ。
医学生医学生
逆に細変動が減っていたり、遅発一過性徐脈があったりしたら危ないということですね。
ドクタードクター
その通り。異常があれば、Biophysical Profile Scoreや臍帯動脈・中大脳動脈のドプラ血流評価を加えて、高次医療機関での管理や分娩時期の判断につなげる。では、羊水検査がなぜ今ではないのかも整理しておこう。
医学生医学生
侵襲的なうえに、羊水が少ないと穿刺そのものが難しそうです。
ドクタードクター
まさにそう。合併症のリスクも高いし、34週という時期を考えれば、まず胎児の状態確認が先だ。胎児MRIも、超音波で中枢神経の異常や横隔膜ヘルニアなどの形態異常が疑われたときに詳しく見る検査で、胎児の今の元気さを判断するものではない。
医学生医学生
75gOGTTは妊娠糖尿病の検査ですよね。でも母体が高血糖なら巨大児や羊水過多になるはずなので、方向が逆だと思います。
ドクタードクター
よく理解しているね。母体高血糖では胎児の高インスリン血症で過剰発育し、浸透圧利尿で羊水が増える。本例はその反対だ。HTLV-1抗体検査は母乳を介した母子感染予防のためのスクリーニングで、里帰り分娩では前医での実施状況を確認する必要はあるけれど、FGRや羊水過少の原因にはならない。
医学生医学生
「次に行う検査」は原因探しではなく、まず胎児が安全かを確かめる検査なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展として、羊水過少の原因にはほかに前期破水と胎児の腎・尿路の異常があることも忘れないでほしい。両側腎無形成ではPotter症候群につながるし、妊娠中期からの高度な羊水過少は肺低形成を起こしうる。羊水が少ないと臍帯が圧迫されて変動一過性徐脈が出やすい点も、モニタリングを読むうえで大事だよ。
医学生医学生
FGRにも型がありましたよね。全身が均等に小さい均衡型と、お腹周りが主に小さい不均衡型でした。
ドクタードクター
よく覚えているね。均衡型は染色体異常や胎内感染など胎児因子が多く、不均衡型は妊娠後半の胎盤機能不全によるものが多い。母体側では妊娠高血圧症候群や喫煙もFGRのリスクだ。原因を考えるのは、胎児の安全を確認してからにしよう。

まとめ

妊娠34週で推定胎児体重1,500gは胎児発育不全(FGR)、AFI 3cmは羊水過少に当たり、この組み合わせは胎盤機能不全により胎児が低酸素となり、血流再分配で腎血流と尿量が低下している可能性を示します。この段階で最優先すべきは胎児の健常性評価であり、非侵襲的で外来ですぐ行える胎児心拍数モニタリング(NST)が次に行う検査となります。NSTで異常があればBiophysical Profile Scoreやドプラ血流計測を加え、分娩時期や高次施設での管理を判断します。羊水検査や胎児MRIは原因精査・形態評価の検査、75gOGTTは巨大児・羊水過多の方向、HTLV-1検査は母子感染予防のスクリーニングで、いずれも今の胎児の状態評価には当たりません。羊水過少では前期破水や胎児腎尿路異常の鑑別も忘れず、「まず胎児が今元気かを確かめる」という優先順位を身につけることが、産科診療の基本となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・31歳の初妊婦で、妊娠34週4日に里帰り分娩のため初めて受診した。既往歴・家族歴に問題はない。 ・超音波検査:胎児は頭位、推定胎児体重(EFW)1,500g、羊水指数(AFI:amniotic fluid index)3cm。

何が起きているか

妊娠34週の胎児の推定体重は平均でおよそ2,200g前後であり、1,500gは明らかに小さい。日本では推定胎児体重が在胎週数の基準値の−1.5SD以下の場合に胎児発育不全(FGR:fetal growth restriction)を疑うので、本例はFGRと考えられる。 また、AFIは子宮を4区画に分けて各区画の羊水ポケットの最大深度を合計した値で、5cm以下が羊水過少の目安である。AFI 3cmは羊水過少に当たる。

FGRに羊水過少が加わる意味

妊娠後半の羊水の主な供給源は胎児尿である。胎盤機能が低下して胎児が慢性的な低酸素状態になると、胎児は血流を脳・心臓・副腎などの重要臓器へ優先的に配分し(血流再分配:brain-sparing)、腎血流が減って尿量が低下する。その結果、羊水が減る。したがって「FGR+羊水過少」は、胎盤機能不全による胎児機能不全(いわゆる胎児の元気がなくなりつつある状態)が進行している可能性を示すサインである。 羊水過少の原因としてはほかに、前期破水(PROM)による羊水の流出、胎児の腎・尿路の異常(腎無形成、多嚢胞性異形成腎、下部尿路閉塞など)があるため、これらの確認も必要になる。

設問の考え方

「次に行うべき検査」は、この胎児が今すぐ娩出を考えるべき状態かどうか、すなわち胎児の健常性(well-being)をまず評価する検査である。最も迅速・非侵襲的で、外来ですぐに行えるのが胎児心拍数モニタリング(ノンストレステスト:NST)である。NSTで異常(一過性頻脈の欠如、基線細変動の減少、遅発一過性徐脈など)がみられれば、Biophysical Profile Score(BPS)や臍帯動脈・中大脳動脈の血流ドプラ評価を加え、高次医療機関での管理や分娩時期の決定につなげる。原因精査(染色体検査や画像精査)は、胎児の状態を確認した後に必要に応じて行う。

選択肢考察

  1. ×a.  羊水検査

    羊水穿刺による羊水検査は、胎児の染色体異常・遺伝子疾患の診断や子宮内感染の評価に用いられる。FGRに染色体異常が関与することはあるが、侵襲的な検査であり、しかも本例は羊水過少のため穿刺自体が技術的に難しく合併症のリスクも高い。妊娠34週という時期を考えても、まず胎児の健常性を確認することが優先され、次に行う検査としては不適切である。

  2. ×b.  胎児MRI

    胎児MRIは、超音波で形態異常(中枢神経系の異常、横隔膜ヘルニア、腫瘤性病変など)が疑われたときに詳細な評価を行う検査である。胎児の現在の元気さ(低酸素の有無)を判断する検査ではなく、準備に時間もかかる。FGRと羊水過少を認めた段階で真っ先に行う検査ではない。

  3. ○c.  胎児心拍数モニタリング

    胎児心拍数モニタリング(NST)は、子宮収縮のない状態で胎児心拍数を20〜40分程度記録し、心拍数基線・基線細変動・一過性頻脈・一過性徐脈を評価する検査である。胎児の自律神経機能を反映し、低酸素状態に陥っていないかを非侵襲的かつ直ちに判定できる。FGRに羊水過少を伴い胎盤機能不全が疑われる本例では、胎児の健常性をまず確認する必要があり、最初に行うべき検査である。結果に応じてBPS(NSTに胎児呼吸様運動・胎動・筋緊張・羊水量の超音波評価を組み合わせた点数評価)やドプラ血流計測を追加する。

  4. ×d.  75g経口ブドウ糖負荷試験

    75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)は妊娠糖尿病の診断に用いる。随時血糖高値などのスクリーニング陽性例や、巨大児・羊水過多など高血糖を疑わせる所見があるときに行う。母体高血糖では胎児の高インスリン血症と浸透圧利尿により、巨大児や羊水過多をきたしやすい。本例の所見(FGR・羊水過少)はこれと逆の方向であり、優先される検査ではない。

  5. ×e.  成人T細胞白血病ウイルス検査

    ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の抗体検査は、主に母乳を介した母子感染を予防する目的で、妊娠中(遅くとも妊娠30週頃まで)にスクリーニングとして行われる。里帰り分娩例では前医での実施状況の確認は必要だが、HTLV-1感染はFGRや羊水過少の原因にはならず、本例の胎児の状態を評価する目的で「次に行う」検査ではない。

胎児発育不全(FGR)

・定義:何らかの原因で子宮内の胎児発育が遅延・停止し、在胎週数相当の発育がみられない状態。日本では推定胎児体重が基準値の−1.5SD以下を目安とする。 ・原因:母体因子(妊娠高血圧症候群、喫煙、低栄養、膠原病・腎疾患など)、胎児因子(染色体異常、先天異常、TORCHなどの胎内感染)、胎盤・臍帯因子(胎盤機能不全、臍帯付着部異常、多胎の一部)に分けられる。 ・型:早期から全身が均等に小さい均衡型(胎児因子が多い)と、妊娠後半に体幹(腹囲)の発育が主に遅れる不均衡型(胎盤機能不全が多い)がある。

羊水過少

・目安:AFI 5cm以下、または最大羊水ポケット(MVP)2cm未満。 ・原因:前期破水、胎児腎尿路異常(Potter症候群の原因となる両側腎無形成など)、胎盤機能不全(FGRに伴う)、過期妊娠など。 ・影響:臍帯圧迫による変動一過性徐脈、肺低形成(妊娠中期からの高度な羊水過少)、四肢の拘縮など。

胎児健常性の評価法

・NST:一過性頻脈(15bpm以上・15秒以上)が20分間に2回以上あればreactive(健常と判断)。 ・BPS:NST、胎児呼吸様運動、胎動、筋緊張、羊水量の5項目を各2点で評価(満点10点)。 ・ドプラ血流計測:臍帯動脈の拡張期血流途絶・逆流は高度の胎盤機能不全を示す。 ・CST(コントラクションストレステスト):子宮収縮を負荷して遅発一過性徐脈の有無をみる。

POINT

・妊娠34週で推定体重1,500g → FGR。AFI 5cm以下 → 羊水過少。 ・FGR+羊水過少は胎盤機能不全による胎児低酸素(腎血流低下→尿量低下)を示唆する。 ・まず行うのは胎児の健常性評価:胎児心拍数モニタリング(NST)→必要に応じBPS、ドプラ血流計測。 ・羊水過少の鑑別には前期破水と胎児腎尿路異常を忘れない。 ・妊娠糖尿病は巨大児・羊水過多の方向。HTLV-1検査はFGRと無関係のスクリーニング。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。