羊水が多いとき、まず測るのは「頸管の長さ」―原因探しの前に見逃せない早産リスク
第120回医師国家試験 F問題 第44問
国試問題にチャレンジ
37歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠30週,羊水過多の精査目的で紹介受診した。既往歴に特記すべきことはない。妊娠初期・中期の血液検査は異常を認めず,妊娠24週に行われた50g経口ブドウ糖負荷試験は125mg/dL(基準140未満)であった。胎児心拍数陣痛図を下に示す。腹部超音波検査では,胎児発育は正常で,羊水指数〈AFI〉28cm(基準5~24)。胎児に明らかな形態異常はない。 まず行う対応はどれか。

- a.羊水除去
- b.子宮頸管長測定
- c.ベタメタゾン筋肉注射
- d.塩酸リトドリン点滴静注
- e.75g経口ブドウ糖負荷試験
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
羊水過多は、胎児の嚥下・吸収障害(消化管閉鎖や中枢神経異常など)や胎児尿の増加(母体糖尿病、双胎間輸血症候群など)で生じますが、軽度例では原因不明の特発性も少なくありません。羊水過多は子宮を過度に伸展させて子宮収縮と頸管短縮を招き、切迫早産・早産・前期破水の原因となるため、胎児心拍数陣痛図で子宮収縮がなくても、まず経腟超音波で子宮頸管長を測定して早産リスクを客観的に評価します。羊水除去は母体症状の強い高度例に限られ、リトドリンは切迫早産と診断されてから、ベタメタゾンは34週未満で1週間以内の分娩が予想される場合に用いるため、いずれも頸管評価の後に検討する治療です。また50g負荷試験が陰性で胎児発育も正常なら、75g負荷試験を最優先する根拠は乏しいと考えられます。羊水過多では臍帯脱出、常位胎盤早期剝離、弛緩出血など分娩前後の合併症にも備える必要があり、「原因検索」と「リスク評価」を分けて考える姿勢が周産期管理の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・37歳の初妊婦で、妊娠30週。羊水過多の精査のために紹介されてきた。既往歴に特記すべきことはない。 ・妊娠初期・中期の血液検査は異常なし。妊娠24週の50g経口ブドウ糖負荷試験(グルコースチャレンジテスト:GCT)は125mg/dLで、基準値(140mg/dL未満)を下回っており、妊娠糖尿病のスクリーニングは陰性である。 ・胎児心拍数陣痛図(CTG)では、心拍数の基線は正常範囲で、基線細変動(心拍数の細かな揺れ)も正常である。一過性頻脈があり、一過性徐脈はない。胎児の状態は良好(reassuring)と判断できる。また、規則的な子宮収縮はみられない。 ・超音波検査では、胎児の発育は正常で、羊水指数(amniotic fluid index:AFI。子宮を4区画に分け、それぞれの羊水の最も深いところの深さを足した値)は28cmと増えている。胎児に明らかな形態異常はない。
病態の評価
羊水過多症は、羊水量が異常に多い状態である。AFI 24〜25cm以上、または最大羊水深度(MVP)8cm以上を目安とする。原因としては次のものが挙げられる。 ・胎児が羊水を飲み込めない、または飲み込んだ羊水を吸収できない:食道閉鎖、十二指腸閉鎖などの上部消化管閉鎖、無脳症などの中枢神経異常、神経筋疾患など ・胎児の尿が増える:母体の糖尿病(胎児の高血糖による浸透圧利尿)、双胎間輸血症候群の受血児など ・その他:胎児の貧血、胎盤の腫瘍、染色体異常など ただし、軽度の羊水過多では、原因がはっきりしない特発性のものが多い。 本例は、胎児の発育と形態に異常がなく、GCTも陰性である。現時点で原因ははっきりしない軽度の羊水過多と考えられる。
まず行う対応の考え方
羊水過多で子宮が過度に引き伸ばされると、子宮収縮が誘発され、子宮頸管が短くなりやすくなる。その結果、切迫早産、早産、前期破水が起こりやすくなる。破水すると、臍帯脱出や常位胎盤早期剝離を合併する危険もある。CTGで子宮収縮がはっきりしなくても、頸管の短縮は自覚症状なく進むことがある。そのため、最初に経腟超音波で子宮頸管長を測定し、早産の危険を客観的に評価する。その結果に応じて、外来での経過観察とするか、入院管理・子宮収縮抑制薬・胎児の肺成熟を促すステロイドなどの治療を行うかを判断する。
選択肢考察
- ×a. 羊水除去
羊水除去(経腹的に子宮に針を刺して羊水を抜く処置)は、高度の羊水過多で、母体が呼吸苦や強い腹部の張り・痛みを訴える場合や、子宮が引き伸ばされて早産の危険が高い場合などに行う。羊水はまた増えるため、何度も行う必要があることも多い。処置そのものが、早産、破水、常位胎盤早期剝離、感染などを誘発し得る侵襲的な処置である。本例はAFI 28cmと軽度で、子宮収縮も母体症状もない。最初に行う対応ではない。
- ○b. 子宮頸管長測定
羊水過多は子宮を過度に引き伸ばし、子宮収縮や頸管の短縮を通じて切迫早産・早産の原因になる。頸管の短縮は症状がなく進むことがあり、CTGで子宮収縮がないだけでは早産の危険は否定できない。経腟超音波で子宮頸管長を測定すれば、体への負担なく、客観的に早産の危険を評価できる。妊娠中期以降は、頸管長が短いほど早産の危険が高くなる(25mm未満が一つの目安とされる)。測定結果によって、入院管理、子宮収縮抑制薬、ステロイド投与などの必要性を判断するため、まず行う対応として適切である。
- ×c. ベタメタゾン筋肉注射
ベタメタゾンは、胎児の肺サーファクタント(肺胞を広げやすくする物質)の産生を促して肺を成熟させる副腎皮質ステロイドである。早産となった新生児の呼吸窮迫症候群(RDS)、脳室内出血、死亡の危険を減らす。妊娠34週未満で1週間以内に分娩となる可能性が高い場合に、12mgを24時間あけて2回、筋肉注射する。本例は現時点で切迫早産の所見がなく、分娩が差し迫っているとはいえない。早産の危険を評価する前に投与するものではない。
- ×d. 塩酸リトドリン点滴静注
リトドリン塩酸塩は、β2刺激作用で子宮の平滑筋をゆるめる子宮収縮抑制薬であり、切迫早産の治療に使われる。副作用として、動悸・頻脈、手のふるえ、高血糖、低カリウム血症、肺水腫、無顆粒球症、横紋筋融解症などがある。本例はCTGで規則的な子宮収縮を認めず、切迫早産と診断されていないため、投与の対象にならない。症状がない段階で予防的に使うものでもない。
- ×e. 75g経口ブドウ糖負荷試験
母体の高血糖は羊水過多の原因の一つであり、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)は妊娠糖尿病を確定診断する検査である(空腹時92mg/dL以上、1時間値180mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上のいずれか1つ以上を満たせば妊娠糖尿病)。しかし、本例は妊娠24週の50gGCTが125mg/dLで陰性であり、胎児発育も正常(巨大児の傾向がない)である。現時点で妊娠糖尿病を強く疑う根拠は乏しい。インスリン抵抗性は妊娠後期にかけて高まるため、尿糖が陽性になる、胎児が過剰に大きくなるなどの所見が出れば改めて行うことはある。しかし、早産の危険の評価より先に行う対応ではない。
羊水量の評価
・羊水指数(AFI):子宮を臍の高さと正中線で4区画に分け、各区画の羊水の最も深いところの深さを足した値。5cm以下で羊水過少、24〜25cm以上で羊水過多の目安とされる。 ・最大羊水深度(maximum vertical pocket:MVP):羊水の最も深いところの深さ。2cm未満で羊水過少、8cm以上で羊水過多の目安とされる。
羊水の産生と吸収
・妊娠後半の羊水は、主に胎児の尿としてつくられる。胎児の肺から出る液も一部を占める。 ・羊水は主に胎児が飲み込み、消化管で吸収されることで減る。 ・このため、飲み込みや吸収がうまくいかない場合(消化管閉鎖、中枢神経・神経筋の異常)や、尿が増える場合(母体糖尿病、双胎間輸血症候群の受血児)に羊水過多になる。逆に、腎臓の無形成や尿路の閉塞、前期破水、胎盤機能不全では羊水過少になる。
羊水過多症で起こり得る合併症
・母体:呼吸困難、腹部の張り、切迫早産・早産、前期破水、分娩後の子宮の収縮不良(弛緩出血)。 ・胎児:胎位異常(胎児が動きやすいため)、破水時の臍帯脱出、急に子宮内圧が下がることによる常位胎盤早期剝離。
羊水過多症の管理の流れ
1.原因の検索:胎児の形態を詳しく超音波で調べる、母体の耐糖能を評価する、感染症(TORCH)を調べる、胎児貧血を評価する(中大脳動脈の血流速度)、必要に応じて染色体検査を行う。 2.早産の危険の評価:子宮頸管長、子宮収縮の有無を確認する。 3.胎児の状態の評価:CTGなどで評価する。 4.治療:母体の症状が強い場合や高度の羊水過多では羊水除去を考える。切迫早産があれば、子宮収縮抑制薬や、34週未満であればステロイド投与を行う。
妊娠糖尿病のスクリーニング(日本)
・妊娠初期に随時血糖を測り、妊娠中期(24〜28週)に50gGCT(140mg/dL以上で陽性)または随時血糖で2段階目のスクリーニングを行う。陽性であれば75gOGTTで診断する。 ・胎盤から出るホルモン(ヒト胎盤性ラクトーゲンなど)の影響でインスリン抵抗性は妊娠週数とともに強くなるため、スクリーニング陰性後に発症することもある。
POINT
・羊水過多症は子宮を過度に引き伸ばし、切迫早産・早産、前期破水、臍帯脱出、常位胎盤早期剝離の危険を高める。 ・羊水過多を見つけたら、原因検索(胎児の形態異常、母体の耐糖能など)とともに、経腟超音波で子宮頸管長を測って早産の危険を評価する。 ・羊水除去は、母体の症状が強い場合や高度の羊水過多に限る。 ・子宮収縮抑制薬は切迫早産と診断された場合に使う。ステロイドは34週未満で1週間以内の分娩が予想される場合に使う。 ・50gGCTは140mg/dL以上で陽性で、陽性なら75gOGTTで妊娠糖尿病を診断する。
