「操られている」は誰の声か―患者の一言から統合失調症を見抜く自我障害の読み方
第116回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
統合失調症を強く示唆する患者の発言はどれか。
- a.「自分は電波で操られている」
- b.「(壁のしみを指して)虫が這っている」
- c.「電車の中で発作が起こるのが心配です」
- d.「人前では緊張して思うように話すことができません」
- e.「鍵をかけたのか何度も確認しないと気が済みません」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
統合失調症に特徴的な症状として、Schneiderの一級症状があり、その中核は自己と外界の境界が崩れる自我障害です。「電波で操られている」という訴えは作為体験(させられ体験)の典型で、意識清明下で語られれば統合失調症を強く示唆します。一方、壁のしみが虫に見えるといった錯視・小動物幻視はアルコール離脱せん妄などの意識障害やLewy小体型認知症で、予期不安・広場恐怖はパニック症で、人前での過度の緊張は社交不安症で、確認行為の反復は強迫症でみられます。不安症や強迫症では症状を自分の内側の問題として自覚していることが多く、「外から何かをされている」と体験する自我障害との対比が鑑別の鍵です。患者の言葉を症状名へと正確に翻訳する力は、精神科診療だけでなくあらゆる診療科の医療面接の基礎となります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
患者の訴え(発言)から、どの精神症状に当たるかを読み取り、統合失調症に特徴的なものを選ぶ問題である。
考え方
統合失調症の診断で重視される症状として、Kurt Schneiderが挙げた「一級症状」がある。その中核は、自分の思考・感情・行動が自分のものであるという感覚(自我意識の能動性・境界)が障害される「自我障害」である。代表が作為体験(させられ体験)で、「誰かに操られている」「考えを抜き取られる」「考えを吹き込まれる」など、自己と外界の境界が崩れ、外部の力に支配されていると体験する。 一方、不安症や強迫症の患者は、症状を自分の内側の問題として自覚し、「おかしいと分かっているがやめられない」「心配だ」という形で訴える(病識が保たれていることが多い)。せん妄などの意識障害では、幻視や錯視が目立つ。 したがって、各発言を「自我障害(外部から操られる体験)か」「不安・強迫か」「意識障害に伴う知覚異常か」と分類すると、統合失調症を強く示唆するものが判別できる。
選択肢考察
- ○a. 「自分は電波で操られている」
自分の行動や思考が電波という外部の力によって動かされていると体験しており、作為体験(させられ体験)にあたる。自我障害の典型であり、Schneiderの一級症状に含まれる。意識清明下でこのような体験が語られる場合、統合失調症を強く示唆する。
- ×b. 「(壁のしみを指して)虫が這っている」
実在する壁のしみを虫と誤って知覚しており、錯視(実在する対象を別のものとして知覚する錯覚)や小動物幻視として扱われる訴えである。虫や小動物が見えるという訴えは、アルコール離脱せん妄(振戦せん妄)をはじめとするせん妄など意識障害で特徴的にみられる。Lewy小体型認知症でも幻視が目立つ。統合失調症の幻覚は幻聴が中心であり、このような幻視は統合失調症を示唆する所見ではない。
- ×c. 「電車の中で発作が起こるのが心配です」
また発作(パニック発作)が起こるのではないかと心配する予期不安であり、すぐに逃げられない・助けを得にくい電車内などの場所への恐怖は広場恐怖にあたる。パニック症(パニック障害)や広場恐怖症でみられる訴えである。
- ×d. 「人前では緊張して思うように話すことができません」
人前で注目される状況で強い不安や緊張が生じ、うまく話せないという訴えで、社交不安症(社交不安障害)を示唆する。他人からの否定的評価を恐れて対人場面を避ける回避性パーソナリティ障害でもみられうる。
- ×e. 「鍵をかけたのか何度も確認しないと気が済みません」
鍵をかけ忘れたのではという考え(強迫観念)が繰り返し浮かび、それを打ち消すために確認を繰り返す(強迫行為:確認強迫)状態で、強迫症(強迫性障害)を示唆する。本人は過剰だと分かっていてもやめられないのが特徴である。
Schneiderの一級症状
統合失調症に特徴的とされる症状群で、器質的疾患がなければ統合失調症の診断を強く支持する。 ・思考化声:自分の考えが声になって聞こえる ・対話性幻聴:複数の声が患者について会話する、言い争う ・自分の行為を批評・注釈する幻聴 ・身体への被影響体験:外部から身体に作用を受ける ・思考奪取:考えが抜き取られる ・思考吹入:他人の考えが吹き込まれる ・思考伝播:自分の考えが周囲に伝わってしまう ・作為体験(させられ体験):感情・意志・行動が他者に操られる ・妄想知覚:実際の知覚に対して、了解不能な特別の意味づけがなされる なお、Schneiderは一級症状が統合失調症に特異的と考えたが、現在の診断基準(DSM-5)では一級症状の特別扱いはされていない。ただし国家試験では統合失調症に特徴的な症状として頻出する。
幻覚の種類と疾患
・幻聴(特に対話性・注釈性):統合失調症 ・幻視(小動物など):せん妄(アルコール離脱せん妄など)、Lewy小体型認知症、薬物中毒 ・体感幻覚:統合失調症、セネストパチー ・錯覚:実在する対象を誤って知覚するもので、意識障害時に起こりやすい
不安症・強迫症の主な訴え
・パニック症:突然の動悸・呼吸困難などの発作、予期不安、広場恐怖 ・社交不安症:人前での発表や会話への強い不安と回避 ・強迫症:強迫観念と強迫行為(確認、洗浄など)。不合理と自覚していることが多い
POINT
・作為体験(させられ体験)は自我障害の代表で、Schneiderの一級症状→統合失調症を強く示唆 ・小動物幻視・錯視→せん妄(アルコール離脱せん妄など)、Lewy小体型認知症 ・予期不安・広場恐怖→パニック症 ・人前での過度の緊張→社交不安症 ・確認行為の反復→強迫症
