「生理的」か「病的」か―生後3日の赤ちゃんに潜む、たった一つの異常サイン
第116回医師国家試験 C問題 第44問
国試問題にチャレンジ
日齢3の男児。軽度の腹部膨満を認めると看護師から指摘があった。在胎40週,3,100gで出生。①胎便排泄は生後48時間に認められた。②体重2,950g。体温37.0℃。心拍数136/分,整。血圧74/46mmHg。呼吸数40/分。③大泉門は2×2cmであった。④皮膚は黄疸を認める。腹部は⑤肝臓を右季肋下に1cm触知した。 下線部のうち異常所見はどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
正期産の健常新生児は大多数が生後24時間以内に初回胎便を排泄し、これを超えると胎便排泄遅延とみなします。胎便排泄遅延に腹部膨満が加われば、Hirschsprung病をはじめ、胎便関連性腸閉塞、先天性甲状腺機能低下症、鎖肛など下部消化管の通過障害を考えて精査を進めます。一方、日齢3の黄疸(生理的黄疸)、出生体重の10%以内の体重減少(生理的体重減少)、肋骨弓下1〜2cmの肝触知、2〜3cm前後の大泉門は、いずれもこの時期の生理的範囲です。生後24時間以内の早発黄疸や2週を超える遷延性黄疸、10%を超える体重減少は病的として扱う点も合わせて押さえておきましょう。新生児の「当たり前」を数値で把握しておくことが、元気そうに見える児の中から本当の異常を見つけ出す力につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
在胎40週、出生体重3,100gで生まれた正期産・適正体重の男児で、日齢3に軽度の腹部膨満を指摘された。体温37.0℃、心拍数136/分、血圧74/46mmHg、呼吸数40/分はいずれも新生児の基準範囲内であり、全身状態は安定している。 下線部を一つずつ「日齢3の正期産児として生理的範囲か」という視点で判定していく。 ・①初回胎便が生後48時間:正期産児の大多数(約90%以上)は生後24時間以内に、ほぼ全例が48時間以内に初回胎便を排泄する。24時間を超えても排泄がなければ胎便排泄遅延として扱う。 ・②体重2,950g:出生時から150g、約4.8%の減少で、生理的体重減少の範囲内である。 ・③大泉門2×2cm:新生児の大泉門の大きさとして正常範囲である。 ・④黄疸:日齢3は生理的黄疸が目立ってくる時期であり、黄疸があること自体は異常ではない。 ・⑤肝臓を右季肋下に1cm触知:乳幼児では肝臓を肋骨弓下1〜2cm程度に触れるのが普通である。
診断への考え方
異常と判断できるのは①の胎便排泄遅延のみである。これに腹部膨満が加わっていることから、下部消化管の通過障害を考える。代表的な鑑別疾患はHirschsprung病(腸管壁内神経節細胞の先天的欠如により、その部分の腸管が弛緩できず機能的な閉塞をきたす疾患)であり、ほかに胎便関連性腸閉塞(胎便栓症候群など)、甲状腺機能低下症、鎖肛などの下部腸管の器質的閉塞も鑑別に挙がる。全身状態が良好でも、胎便排泄遅延と腹部膨満の組み合わせは精査の契機として見逃してはならない。 本問は、新生児の生理的変化(体重減少・黄疸・肝触知・大泉門)と病的所見を区別できるかを問うている。
選択肢考察
- ○a. ①
異常所見である。正期産の健常新生児はほとんどが生後24時間以内に初回胎便を排泄するため、初回排泄が生後48時間までずれ込んだ本児は胎便排泄遅延と判断される。軽度の腹部膨満を伴っていることからも、Hirschsprung病や胎便関連性腸閉塞など下部腸管の通過障害を疑い、腹部X線、注腸造影、直腸肛門内圧検査、直腸粘膜生検などで評価を進める必要がある。
- ×b. ②
異常所見ではない。出生体重3,100gから2,950gへの減少は150g、減少率は約4.8%である。新生児は出生後、細胞外液(主に間質の水分)の排出や不感蒸泄、哺乳量がまだ少ないことなどにより体重が減少し、生後3〜5日ごろに最低となる。これを生理的体重減少といい、出生体重の10%以内であれば正常範囲とされ、通常は生後1〜2週で出生体重に戻る。
- ×c. ③
異常所見ではない。大泉門は前頭骨と左右の頭頂骨の間にある菱形の骨のすき間で、新生児期の大きさはおおむね2〜3cm前後(個人差があり1〜3cm程度は正常範囲)である。2×2cmは正常範囲にあたる。なお大泉門は1歳半ごろまでに閉鎖する。大泉門の膨隆は頭蓋内圧亢進を、陥凹は脱水を示唆する所見として観察する。
- ×d. ④
異常所見ではない。新生児では、赤血球が多く寿命が短いためビリルビン産生が多いこと、肝臓でのビリルビン抱合能(UDP-グルクロン酸転移酵素活性)が未熟であること、腸肝循環が亢進していることから、生後2〜3日ごろに黄疸が肉眼的に目立ち始め、4〜5日ごろにピークとなる。これが生理的黄疸であり、日齢3での黄疸の出現は典型的な経過である。一方、生後24時間以内に出現する早発黄疸や、血清ビリルビン値が光線療法の基準を超える場合、生後2週以降まで続く遷延性黄疸は病的として精査する。
- ×e. ⑤
異常所見ではない。新生児・乳幼児は体格に比べて肝臓が相対的に大きく、肋骨弓下に1〜2cm程度触れるのが普通である(幼児期まで触知することが多い)。右季肋下1cmの触知は生理的範囲であり、肝腫大とはいえない。
新生児の生理的所見と病的所見の目安
・初回胎便:正常では生後24時間以内(大多数)。24時間を超えれば胎便排泄遅延とし、48時間を超えても排泄がない場合はさらに強く器質的疾患を疑う。 ・生理的体重減少:生後3〜5日に最低となり、出生体重の10%以内が正常。生後1〜2週で出生体重に回復する。 ・生理的黄疸:生後2〜3日に出現し、4〜5日にピーク、生後1〜2週で消退。生後24時間以内の黄疸(早発黄疸)は溶血性疾患などを考える病的所見。母乳栄養児では母乳性黄疸として遷延することがあるが、2週を超える黄疸は胆道閉鎖症などを除外するため精査する。 ・大泉門:新生児で2〜3cm前後、1歳半ごろまでに閉鎖。 ・肝臓:乳幼児では肋骨弓下1〜2cmに触知してよい。 ・バイタルサイン(新生児):心拍数おおむね120〜160/分、呼吸数40〜60/分、体温(腋窩)36.5〜37.5℃程度。
胎便排泄遅延・腹部膨満をきたす主な疾患
・Hirschsprung病:腸管壁内(Auerbach神経叢・Meissner神経叢)の神経節細胞が肛門側から連続して欠如する。無神経節腸管は蠕動・弛緩ができず機能的閉塞となる。男児に多く、Down症候群に合併しやすい。直腸肛門反射の消失、注腸造影での口径差(caliber change)、直腸粘膜生検でのアセチルコリンエステラーゼ陽性神経線維の増生などで診断する。 ・胎便関連性腸閉塞(胎便栓症候群など):粘稠な胎便により下部腸管が閉塞する。低出生体重児に多い。 ・胎便性イレウス:嚢胞性線維症に伴う粘稠な胎便による回腸末端の閉塞。日本ではまれ。 ・先天性甲状腺機能低下症:便秘、哺乳不良、遷延性黄疸、腹部膨満などをきたす。 ・鎖肛などの直腸肛門奇形。
POINT
・正常新生児の大多数は生後24時間以内に初回胎便を排泄する。24時間を超えれば胎便排泄遅延である。 ・胎便排泄遅延+腹部膨満ではHirschsprung病などの下部腸管通過障害を考える。 ・生理的体重減少は出生体重の10%以内、生後3〜5日に最低。 ・生理的黄疸は生後2〜3日に出現。生後24時間以内の黄疸は病的。 ・乳幼児の肝臓は肋骨弓下1〜2cm触知が正常。大泉門は新生児で2〜3cm前後。
