生理的か、病的か―日齢2の新生児診察で見逃してはいけない「胸のへこみ」
第120回医師国家試験 F問題 第36問
国試問題にチャレンジ
日齢2の女児。新生児室で定期診察中である。妊娠経過は異常なく,在胎39週1日,身長50cm,体重2,900g。Apgarスコア8点(1分),9点(5分),自然分娩で出生した。心拍数140/分,整。血圧80/52mmHg。呼吸数62/分。SpO2 96%(room air)。①左頭頂側頭部に軟らかく,骨縫合をこえない腫瘤を認める。②大泉門は3cm×3cmで開大し,平坦である。③眼球結膜に軽度の黄染を認める。心音に異常を認めない。呼吸は④陥没呼吸を認める。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。⑤性器出血を認める。外表に形態異常は認めない。 下線部のうち,異常な所見はどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
新生児には頭血腫、正常範囲の大泉門、日齢2〜3に出る生理的黄疸、母体エストロゲンの消退による新生児月経など、一見異常にみえても生理的または経過観察でよい所見が多くあります。これに対し陥没呼吸は、肺コンプライアンスの低下や気道狭窄に対する努力呼吸を示す所見で、正常児にはみられず、60/分をこえる多呼吸を伴えば呼吸障害を強く示唆します。正期産児では新生児一過性多呼吸、肺炎・敗血症、気胸、先天性心疾患、上気道病変などを念頭に、胸部エックス線写真や血液検査で評価します。頭部腫瘤では骨縫合をこえるかどうかで産瘤・帽状腱膜下血腫と区別し、黄疸では出現時期や持続期間、直接ビリルビン優位かどうかで病的黄疸を見分けることも重要です。所見が生じる仕組みから「生理的」か「病的」かを判断する力は、新生児診療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・背景: 在胎39週1日の正期産で、体重2,900g・身長50cmは在胎週数相当である。Apgarスコアは1分8点・5分9点で新生児仮死はなく、自然分娩で出生した日齢2の女児の定期診察である。 ・バイタルサイン: 心拍数140/分(新生児の基準はおおむね120〜160/分)、血圧80/52mmHg、SpO2 96%(室内気)はいずれも正常範囲である。呼吸数62/分は新生児の基準(40〜60/分)をわずかに上回り、多呼吸(60/分超)に該当する。 ・診察所見: 骨縫合をこえない軟らかい頭部腫瘤、3cm×3cmで平坦な大泉門、軽度の眼球結膜黄染、陥没呼吸、性器出血。
考え方
本問は、新生児期にみられる所見のうち、生理的なもの(あるいは経過観察でよいもの)と、介入や精査を要する病的なものを区別できるかを問うている。 頭血腫、大泉門の大きさ、日齢2の軽い黄疸、女児の性器出血(新生児月経)は、いずれも正常新生児で珍しくない所見であり、多くは自然に消失する。 これに対し陥没呼吸は、呼吸のために通常以上の努力を要していること(努力呼吸)を示す所見で、正常な新生児には認められない。本例では呼吸数も60/分を超えており、多呼吸と陥没呼吸がそろうことは呼吸障害の存在を示唆する。正期産児の日齢2でこれらがみられた場合、新生児一過性多呼吸、肺炎・敗血症などの感染症、気胸、先天性心疾患、上気道の異常などを念頭に、胸部エックス線写真や血液検査などで評価する必要がある。 したがって、下線部のうち異常な所見は④陥没呼吸である。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り(経過観察でよい所見)。骨縫合をこえない軟らかい腫瘤は頭血腫と考えられる。頭血腫は分娩時の圧迫や牽引により頭蓋骨の骨膜下に出血したもので、骨膜が骨縫合部で骨に固く付着しているため、出血の広がりが一つの骨の範囲にとどまり、縫合をこえない。頭頂骨に多く、出生後数時間〜数日かけて明らかになる。通常は治療不要で、数週間から数か月で自然に吸収される(一部は石灰化して長く残る)。吸収の過程で黄疸が強まることがあるため、ビリルビン値には注意する。 これに対し、皮下の浮腫である産瘤や、帽状腱膜と骨膜の間に出血する帽状腱膜下血腫は縫合をこえて広がる。特に帽状腱膜下血腫は大量出血となって貧血や出血性ショック、高ビリルビン血症をきたしうるため、頭血腫との区別が重要である。
- ×b. ②
誤り(正常範囲の所見)。大泉門は前頭骨と左右の頭頂骨の間にある菱形の開いた部分で、大きさは菱形の向かい合う辺の中点どうしの距離で測る。新生児ではおおむね1〜3cm(2cm前後)であり、3cm×3cmは正常範囲に入る。また、膨隆も陥凹もなく平坦であることから、頭蓋内圧亢進(膨隆)や脱水(陥凹)を疑う所見もない。大泉門は通常1歳半ごろまでに閉鎖する。明らかに大きい場合や閉鎖が遅れる場合には、水頭症、甲状腺機能低下症、くる病、骨形成不全症などを考える。
- ×c. ③
誤り(生理的範囲と考えられる所見)。日齢2の軽度の眼球結膜黄染は新生児生理的黄疸と考えられる。新生児は赤血球の量が多く寿命も短いためビリルビンの産生が多い一方、肝臓でビリルビンを処理する酵素(UDP-グルクロン酸転移酵素)の働きが未熟であり、多くの児で黄疸が生じる。正期産児では日齢2〜3ごろに出現し、日齢4〜5ごろにピークとなり、2週間ほどで消失するのが一般的である。生後24時間以内に出現する黄疸(早発黄疸)、ビリルビン値の急速な上昇や光線療法の基準値をこえる上昇、2週間以上続く遷延性黄疸、直接ビリルビン優位の上昇(灰白色便などを伴う場合は胆道閉鎖症を疑う)は病的黄疸として精査が必要である。
- ○d. ④
正しい(異常所見)。陥没呼吸は、吸気時に肋間、胸骨下部(剣状突起下)、鎖骨上窩などが内側へ引き込まれる所見である。肺が硬く広がりにくい(肺コンプライアンスが低い)場合や気道が狭い場合に、呼吸筋が強い力で胸腔内の陰圧をつくって息を吸おうとするために生じる。新生児は胸郭が軟らかいため、この陥没が起こりやすい。多呼吸、呻吟(呼気時のうめき声)、鼻翼呼吸、チアノーゼと並ぶ新生児の呼吸障害の徴候であり、正常児にはみられない(Silverman retractionスコアでも評価項目に含まれる)。本例では呼吸数62/分の多呼吸も伴っており、新生児一過性多呼吸、肺炎・敗血症、気胸、先天性心疾患、喉頭軟化症などの気道病変の鑑別のため評価が必要である。
- ×e. ⑤
誤り(生理的な所見)。女児で生後数日以内にみられる少量の性器出血は新生児月経(仮性月経)とよばれる。妊娠中に胎盤を通じて移行した母体由来のエストロゲンの影響で子宮内膜が増殖し、出生後にエストロゲンが急に低下することで起こる消退出血である。生後3〜7日ごろに多くみられ、数日で自然に止まるため治療は不要である。同じく母体ホルモンの影響として、乳房の腫大や乳汁様の分泌(いわゆる魔乳)、白色の帯下がみられることもあり、いずれも生理的である。
新生児のバイタルサインの目安
・心拍数: 120〜160/分 ・呼吸数: 40〜60/分(60/分をこえると多呼吸) ・SpO2: 生後しばらくして安定すると95%以上が目安
新生児の呼吸障害の徴候
多呼吸、陥没呼吸、呻吟、鼻翼呼吸、チアノーゼ。陥没呼吸や呻吟の程度はSilverman retractionスコアで評価される。原因として、新生児一過性多呼吸(肺水の吸収遅延、帝王切開児に多い)、呼吸窮迫症候群(肺サーファクタント欠乏、早産児に多い)、胎便吸引症候群、肺炎・敗血症、気胸、先天性心疾患、横隔膜ヘルニア、上気道の異常(喉頭軟化症など)がある。
新生児の頭部腫瘤の鑑別
・産瘤: 皮下の浮腫。出生直後から目立ち、骨縫合をこえる。圧すると凹む。数日で消失。 ・頭血腫: 骨膜下の出血。骨縫合をこえない。出生後しばらくして明らかになり、波動を触れる。数週〜数か月で吸収。黄疸増強の原因となりうる。 ・帽状腱膜下血腫: 帽状腱膜と骨膜の間の出血。骨縫合をこえて広く広がる。吸引分娩との関連があり、大量出血による貧血・ショック・高ビリルビン血症をきたしうるため注意が必要。
母体由来ホルモンによる新生児の生理的所見
新生児月経(女児の少量の性器出血)、乳房腫大・乳汁様分泌(魔乳)、白色帯下。いずれも自然に消退する。
POINT
・陥没呼吸は新生児の呼吸障害を示す異常所見であり、多呼吸(60/分超)、呻吟、鼻翼呼吸、チアノーゼとあわせて覚える。 ・骨縫合をこえない腫瘤は頭血腫で、経過観察でよい。縫合をこえる場合は産瘤や帽状腱膜下血腫を考える。 ・大泉門は新生児で1〜3cm程度が正常で、平坦であれば問題ない。 ・生理的黄疸は日齢2〜3に出現し、日齢4〜5にピークとなる。24時間以内の出現は病的。 ・女児の生後数日の少量の性器出血は、母体エストロゲンの消退による新生児月経で生理的である。
