StudyMed医師国家試験

鉄はあるのに使えない―ヘプシジンが閉じ込める慢性炎症に伴う貧血

第116回医師国家試験 C問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第116回 C問題 第18問

慢性炎症に伴う貧血で増加するのはどれか。

  1. a.血清鉄
  2. b.フェリチン
  3. c.網赤血球数
  4. d.ハプトグロビン
  5. e.平均赤血球容積〈MCV〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、慢性炎症に伴う貧血で検査値がどう動くかを問う問題だ。関節リウマチや慢性感染症、悪性腫瘍などでよくみられる貧血で、入院患者では鉄欠乏性貧血と並んで頻度が高い。カギは「体内の鉄が足りないのか、それとも閉じ込められているのか」という視点だよ。
医学生医学生
貧血で血清鉄が下がっているなら、鉄欠乏性貧血と同じように考えればいいのでしょうか。
ドクタードクター
そこが出発点として大事な疑問だね。血清鉄が下がるところまでは同じなんだけど、その理由が違う。主役は肝臓でつくられる鉄調節ホルモン、ヘプシジンだ。炎症でIL-6が増えると、肝臓でヘプシジンの産生が高まる。
医学生医学生
生化学の講義で名前だけは聞きました。たしかフェロポルチンに作用するんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。フェロポルチンは細胞から鉄を外に出す唯一の出口で、ヘプシジンはこれに結合して分解させる。すると、古い赤血球を壊して鉄を回収したマクロファージが鉄を放出できなくなり、十二指腸からの鉄吸収も抑えられる。網内系ブロックと呼ばれる状態だ。
医学生医学生
鉄は体の中にあるのに、倉庫に鍵をかけられて骨髄まで届かない、というイメージですか。
ドクタードクター
うまい例えだね。だから血中に出てくる鉄は減り、血清鉄は低下する。一方で、倉庫の中身、つまり貯蔵鉄はむしろたまっていく。貯蔵鉄を反映する検査は何だったかな。
医学生医学生
フェリチンです。ということは、フェリチンは増えるんですね。
ドクタードクター
正解。マクロファージ内に鉄がたまるとフェリチンの合成が増えるし、フェリチン自体も炎症で増える急性期タンパクの一つだ。だから慢性炎症に伴う貧血ではフェリチンが正常〜上昇する。鉄欠乏性貧血ではフェリチンが低下するので、両者を見分ける最も重要な指標になる。
医学生医学生
血清鉄はどちらでも低いので、それだけでは区別できないということですね。ほかに区別に使える検査はありますか。
ドクタードクター
総鉄結合能、TIBCだね。鉄を運ぶトランスフェリンの量を反映していて、鉄欠乏性貧血では体が鉄を欲しがって上昇するけれど、慢性炎症に伴う貧血では正常〜低下する。では残りの選択肢も見ておこう。網赤血球数はどうかな。
医学生医学生
臨床実習の血液内科で、溶血や出血のあとに網赤血球が増えると教わりました。慢性炎症では増えない気がします。
ドクタードクター
その理解でいい。網赤血球は骨髄の造血能を示す指標だ。慢性炎症に伴う貧血では、赤芽球に届く鉄が足りないうえに、TNF-αやインターフェロンγなどがエリスロポエチン産生を下げ、赤芽球の増殖も抑える。だから網赤血球は増えず、低下〜正常にとどまる。
医学生医学生
ハプトグロビンは溶血で下がる検査でしたよね。でも、炎症で上がるとも聞いたことがあって、少し迷いました。
ドクタードクター
いい迷いだね。ハプトグロビンは溶血で出てきた遊離ヘモグロビンと結合して処理される蛋白で、溶血性貧血では消費されて低下する。たしかに急性期タンパクなので炎症があると高めに出ることはあるけれど、それは炎症そのものの反映で、この貧血の病態を表す所見ではない。この問題は鉄代謝の変化を問うているので、答えはフェリチンになる。
医学生医学生
MCVは、鉄が足りないなら小さくなる方向ですよね。
ドクタードクター
そう。多くは正球性正色素性で、長引くと小球性低色素性に傾くこともある。いずれにせよMCVは正常〜低下で、増加はしない。ただ、鉄欠乏性貧血ほど著しい小球性になることは少ないよ。
医学生医学生
整理すると、血清鉄は低下、TIBCは正常〜低下、フェリチンは正常〜上昇、網赤血球は増えない、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床での注意点もまとめておこう。治療の基本は原因となる病気の治療で、鉄の吸収と利用が妨げられているから、鉄欠乏を合併していなければ鉄剤の効果は乏しい。それから、炎症があるとフェリチンが見かけ上正常になって、隠れた鉄欠乏を見逃すことがある。炎症がある場合はフェリチンが100 ng/mL未満程度でも鉄欠乏の合併を疑う、という考え方もあるんだ。
医学生医学生
関節リウマチの患者さんがNSAIDsで消化管出血を起こしていたら、両方が重なることもありそうですね。
ドクタードクター
まさにそういう場面で、トランスフェリン飽和度なども合わせて総合的に判断する必要がある。鉄芽球性貧血やサラセミアも含めて、小球性貧血の鑑別表を鉄代謝の仕組みから組み立てられるようにしておこう。

まとめ

慢性炎症に伴う貧血は、炎症で増えたIL-6が肝臓のヘプシジン産生を高め、ヘプシジンがフェロポルチンを分解することで、マクロファージからの鉄放出と腸からの鉄吸収が抑えられて起こります。鉄は体内にあるのに使えない状態のため、血清鉄は低下しますが、貯蔵鉄を反映するフェリチンは正常〜上昇し、TIBCは正常〜低下します。造血が抑えられるので網赤血球は増えず、MCVは正常〜低下で、ハプトグロビン低下は溶血性貧血の所見です。鉄欠乏性貧血との鑑別ではフェリチンとTIBCが要となり、鉄剤の効果は乏しく原疾患の治療が基本となります。炎症下ではフェリチンが高めに出て鉄欠乏の合併を見逃しうるため、ヘプシジンを軸とした鉄代謝の理解が小球性貧血の鑑別と適切な治療選択の土台になります。

解答・解説

正解はbです

慢性炎症に伴う貧血(ACD: anemia of chronic disease、または ACI: anemia of chronic inflammation)は、関節リウマチなどの膠原病、慢性感染症(結核、骨髄炎、感染性心内膜炎など)、悪性腫瘍、炎症性腸疾患のように炎症が長く続く病気でみられる。入院患者では鉄欠乏性貧血と並んでよくみられる貧血である。

発症の仕組み

中心となるのは、肝臓でつくられる鉄調節ホルモン、ヘプシジンである。 1. 炎症が起こると、炎症性サイトカインのインターロイキン6(IL-6)が増え、肝臓でのヘプシジン産生が高まる。 2. ヘプシジンは、細胞から鉄を外に出す唯一の出口であるフェロポルチンに結合し、これを分解する。その結果、マクロファージ(古い赤血球を壊して鉄を回収する細胞)は鉄を放出できなくなり(網内系ブロック)、十二指腸からの鉄吸収も抑えられる。 3. 鉄は体内に十分あるのに、マクロファージなどに閉じ込められて血中に出てこないため、骨髄の赤芽球がヘモグロビンをつくるのに使える鉄が足りなくなる(鉄の利用障害)。 このほかに、腫瘍壊死因子α(TNF-α)やインターフェロンγなどのサイトカインによるエリスロポエチン(EPO)産生の低下と赤芽球の増殖抑制、マクロファージの活性化による赤血球寿命の軽い短縮も加わる。

検査所見の考え方

体内の鉄が「不足している」のではなく「閉じ込められている」と考えるとわかりやすい。血清鉄は低いが、貯蔵鉄を反映するフェリチンは正常から高値になる。鉄欠乏性貧血では血清鉄もフェリチンも低い。この違いが両者を見分ける最も重要なポイントである。

選択肢考察

  1. ×a.  血清鉄

    ヘプシジンによってマクロファージからの鉄の放出と腸からの鉄吸収が抑えられるため、血中に出てくる鉄が減り、血清鉄は低下する。血清鉄が低い点は鉄欠乏性貧血と同じなので、血清鉄だけでは両者を区別できない。鉄を運ぶタンパクであるトランスフェリンの量を反映する総鉄結合能(TIBC)を見ると、鉄欠乏性貧血では上昇し、慢性炎症に伴う貧血では正常〜低下する。この違いが鑑別に役立つ。

  2. ○b.  フェリチン

    フェリチンは細胞の中で鉄を蓄えるタンパク質で、血清フェリチン値は体の貯蔵鉄の量を反映する。慢性炎症に伴う貧血では、ヘプシジンの作用でマクロファージ内に鉄がたまり、それに応じてフェリチンの合成が増える。さらに、フェリチン自体も炎症で増える急性期タンパクの一つである。このため血清フェリチンは正常〜上昇し、本問の選択肢の中で増加するのはフェリチンである。鉄欠乏性貧血ではフェリチンが低下する(目安として12 ng/mL未満)ので、フェリチンは両者を区別するうえで最も有用な指標である。ただし、炎症があるとフェリチンは高めに出るため、鉄欠乏が隠れていても正常値になることがある点に注意する。

  3. ×c.  網赤血球数

    網赤血球は骨髄から出てきたばかりの若い赤血球で、その数は骨髄が赤血球をどれだけつくっているかを示す。慢性炎症に伴う貧血では、赤芽球に届く鉄が足りないこと、エリスロポエチンの産生が少ないこと、サイトカインが赤芽球の増殖を抑えることによって赤血球の産生が低下する。そのため網赤血球数は増えず、低下〜正常にとどまる。網赤血球数が増えるのは、骨髄の働きが保たれた状態で赤血球が失われる溶血性貧血や急性出血のあと、あるいは鉄欠乏性貧血に鉄剤を投与したあとなどである。

  4. ×d.  ハプトグロビン

    ハプトグロビンは肝臓でつくられる血漿タンパク質で、溶血によって血中に出てきた遊離ヘモグロビンと結合し、肝臓で処理されるように運ぶ。溶血性貧血ではハプトグロビンが消費されて減るため、溶血の指標として使われる。慢性炎症に伴う貧血は主に赤血球をつくる働きが落ちる貧血で、溶血はほとんど関係しないため、ハプトグロビンが増えることはこの貧血の特徴ではない。なお、ハプトグロビン自体は急性期タンパクの一つなので、炎症があると高めになることはある。しかしこれは炎症そのものによる変化で、貧血の病態を反映したものではない。

  5. ×e.  平均赤血球容積〈MCV〉

    平均赤血球容積(MCV: mean corpuscular volume)は赤血球1個の平均の大きさである。慢性炎症に伴う貧血の多くは正球性正色素性貧血だが、炎症が長く続いて赤芽球への鉄の供給不足が進むと、ヘモグロビンの合成が落ちて小球性低色素性に傾く。いずれにしてもMCVは正常〜低下であり、増加はしない。ただし、鉄欠乏性貧血ほど著しい小球性になることは少ない。

小球性貧血の鑑別に使う鉄の検査

・鉄欠乏性貧血: 血清鉄 低下、TIBC 上昇、フェリチン 低下、トランスフェリン飽和度 低下(16%未満が目安) ・慢性炎症に伴う貧血: 血清鉄 低下、TIBC 正常〜低下、フェリチン 正常〜上昇、トランスフェリン飽和度 低下〜正常 ・鉄芽球性貧血: 血清鉄 上昇、TIBC 正常〜低下、フェリチン 上昇、骨髄で環状鉄芽球を認める ・サラセミア: 鉄の検査は概ね正常。赤血球数が比較的多いわりにMCVが著しく小さい

ヘプシジンの働き

ヘプシジンは肝臓でつくられるペプチドホルモンで、体全体の鉄の量を調節する。フェロポルチン(細胞から鉄を外に出す膜タンパク)を分解することで、十二指腸からの鉄吸収と、マクロファージ・肝細胞からの鉄放出を抑える。ヘプシジンは炎症(IL-6)や鉄の過剰で増え、鉄欠乏・貧血・低酸素・赤血球産生の亢進で減る。

慢性炎症に伴う貧血の治療

治療の基本は、原因となっている病気の治療である。貧血は軽度〜中等度(ヘモグロビン8〜10 g/dL程度)のことが多く、進行することは少ない。ヘプシジンによって鉄の吸収と利用が妨げられているため、鉄欠乏を合併していない限り、鉄剤の効果は乏しい。慢性腎臓病に伴う腎性貧血のように原因が別にある場合は、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)を使うこともある。

鉄欠乏の合併

炎症があると、鉄欠乏があってもフェリチンが見かけ上正常になることがある。炎症がある場合は、フェリチン100 ng/mL未満程度でも鉄欠乏の合併を疑うという考え方がある。トランスフェリン飽和度や、可溶性トランスフェリン受容体などの指標をあわせて判断する。

POINT

・慢性炎症に伴う貧血の主な仕組み: IL-6 → ヘプシジン増加 → フェロポルチン分解 → 鉄の放出・吸収が抑えられる(網内系ブロック) ・血清鉄は低下、フェリチンは正常〜上昇、TIBCは正常〜低下 ・鉄欠乏性貧血との最大の違いはフェリチン(鉄欠乏では低下、慢性炎症では正常〜上昇)と、TIBC(鉄欠乏では上昇) ・正球性〜軽い小球性の貧血で、網赤血球は増えない ・ハプトグロビンが低下するのは溶血性貧血

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。