アルコールが効かないウイルス―ノロウイルスを止めるのは「塩素」と「熱」
第116回医師国家試験 C問題 第13問
国試問題にチャレンジ
ノロウイルスの不活化に有効なのはどれか。
- a.逆性石鹸
- b.40℃の温水
- c.40%アルコール
- d.1分間の赤外線照射
- e.1,000 ppm(0.1%)次亜塩素酸ナトリウム
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ノロウイルスはエンベロープをもたない小型RNAウイルスであり、脂質膜を標的とするアルコールや逆性石鹸は効きにくく、40℃程度の温水や赤外線照射でも不活化できません。有効なのは次亜塩素酸ナトリウムと十分な加熱で、吐物・便の処理には0.1%(1,000 ppm)、環境表面には0.02%(200 ppm)を用い、加熱では食品の中心温度85〜90℃で90秒以上、リネン類は85℃で1分以上が目安です。次亜塩素酸ナトリウムは皮膚刺激や金属腐食があるため手指には使わず、手指衛生は石鹸と流水での手洗いが基本となります。消毒薬への抵抗性は「芽胞>抗酸菌>ノンエンベロープウイルス・真菌>一般細菌>エンベロープウイルス」と整理しておくと、病原体ごとの消毒法を論理的に選べます。ごく少量で感染し集団発生を起こしやすいノロウイルスへの正しい対応は、院内感染対策の基本として臨床現場で直接役立つ知識です。
解答・解説
正解はeです
ノロウイルスはカリシウイルス科に属する小型のRNAウイルスで、ウイルス粒子の外側に脂質の膜(エンベロープ)をもたない「ノンエンベロープウイルス」である。エンベロープをもつウイルス(インフルエンザウイルスなど)は、アルコールや界面活性剤によって脂質膜が壊れることで容易に不活化されるが、ノンエンベロープウイルスはこの作用を受けにくく、消毒薬に対する抵抗性が高い。さらにノロウイルスは乾燥や酸にも比較的強く、環境中で長期間感染性を保つ。加えて、10~100個程度のごく少量のウイルスで感染が成立するため、吐物や便の処理が不十分だと容易に集団感染を起こす。 そのため、ノロウイルスを確実に不活化できる方法は限られており、(1) 次亜塩素酸ナトリウムによる消毒、(2) 十分な加熱(食品は中心温度85~90℃で90秒以上、リネン類は85℃・1分以上の熱水処理)、の2つが基本となる。本問ではこの知識をもとに、選択肢の中から有効な消毒法を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 逆性石鹸
逆性石鹸(塩化ベンザルコニウムなどの第四級アンモニウム塩)は、陽イオン界面活性剤として主に細菌の細胞膜や、エンベロープをもつウイルスの脂質膜に作用する低水準消毒薬である。エンベロープをもたないノロウイルスにはほとんど効果がなく、不活化には有効でない。なお、手指衛生としては、石鹸と流水による十分な手洗いでウイルスを物理的に洗い流すことが重要である。
- ×b. 40℃の温水
ノロウイルスは熱にもある程度抵抗性があり、40℃程度ではまったく不活化されない。加熱で不活化するには、食品では中心温度85~90℃で90秒以上、汚染した衣類・リネンでは85℃で1分以上の熱水処理が必要とされる。
- ×c. 40%アルコール
アルコールは脂質膜を破壊したり蛋白を変性させたりして消毒作用を示すが、ノンエンベロープウイルスであるノロウイルスには効果が乏しい。そもそも消毒用エタノールの有効濃度はおよそ70~80%であり、40%という低濃度ではさらに効果が期待できない。
- ×d. 1分間の赤外線照射
赤外線は主に熱を伝える電磁波であり、短時間の照射でウイルスを不活化する作用はない。微生物の不活化に用いられるのは、核酸を損傷させる紫外線(UV-C)であり、赤外線と混同しないよう注意する。紫外線照射はノロウイルスに対しても不活化効果が示されているが、影になる部分には届かないなどの限界がある。
- ○e. 1,000 ppm(0.1%)次亜塩素酸ナトリウム
次亜塩素酸ナトリウムは強い酸化作用によりウイルスの蛋白質や核酸を変性させ、ノンエンベロープウイルスにも有効な消毒薬である。ノロウイルス対策の第一選択であり、吐物や便で汚染された床・物品などには1,000 ppm(0.1%)、汚染の目立たない環境表面(ドアノブ、手すり、トイレなど)の消毒には200 ppm(0.02%)程度の濃度が推奨されている。金属を腐食させ、皮膚を刺激するため、手指の消毒には用いない。
ノロウイルス感染症の概要
・感染経路:汚染された二枚貝(カキなど)の生食や、感染者が調理した食品による食中毒、および吐物・便を介した接触感染や、乾燥した吐物が舞い上がることによる経口感染。冬季に多く、施設や家庭内での集団発生を起こしやすい。 ・潜伏期:1~2日程度。 ・症状:嘔気・嘔吐、下痢、腹痛、軽度の発熱。通常1~3日で自然軽快するが、乳幼児や高齢者では脱水や吐物の誤嚥に注意する。 ・診断:多くは症状と食歴などから臨床的に行う。便中ノロウイルス抗原の迅速検査は、3歳未満、65歳以上、悪性腫瘍や臓器移植後・免疫抑制薬投与中の患者などに限って保険適用がある。 ・治療:特異的な抗ウイルス薬やワクチンはなく、補液などの対症療法が中心となる。止痢薬はウイルスの排出を遅らせるため通常用いない。 ・ウイルスの排出:症状消失後も1週間以上(ときに1か月程度)便中にウイルスが排出されることがある。
消毒薬に対する抵抗性の目安
・抵抗性が高い順に:細菌芽胞 > 抗酸菌 > ノンエンベロープウイルス(ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなど)・真菌 > 一般細菌 > エンベロープウイルス(インフルエンザウイルス、コロナウイルスなど) ・次亜塩素酸ナトリウムは中水準消毒薬に分類されるが、ノンエンベロープウイルスにも有効である。
吐物処理の要点
使い捨ての手袋・マスク・ガウンを着用し、ペーパータオルで外側から内側に向けて静かに拭き取り、0.1%次亜塩素酸ナトリウムで浸すように消毒する。処理後は換気と、石鹸・流水による手洗いを行う。
POINT
・ノロウイルスはエンベロープをもたないため、アルコールや逆性石鹸が効きにくい ・不活化に有効なのは次亜塩素酸ナトリウムと十分な加熱(85~90℃で90秒以上、リネンは85℃・1分以上) ・吐物・便の処理には0.1%(1,000 ppm)、環境表面には0.02%(200 ppm)の次亜塩素酸ナトリウム ・手指衛生は石鹸と流水による手洗いが基本 ・不活化に用いるのは紫外線であり、赤外線ではない
