StudyMed医師国家試験

滲出性の海から漏出性を釣り上げる―胸水の鑑別は「少ないほう」を覚えよ

第116回医師国家試験 C問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第116回 C問題 第12問

滲出性胸水をきたす疾患に含まれないのはどれか。

  1. a.肺梗塞
  2. b.肝硬変
  3. c.急性膵炎
  4. d.結核性胸膜炎
  5. e.全身性エリテマトーデス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胸水の性状、つまり漏出性か滲出性かを問う問題だ。滲出性胸水の原因はとても多いから、「含まれないもの」を選ぶときは逆に数の少ない漏出性胸水の代表疾患を思い浮かべるのがコツ。まずは両者の違いを機序から確認しよう。
医学生医学生
漏出性は蛋白が少なくて、滲出性は蛋白が多い、というイメージです。
ドクタードクター
性状としてはその通り。大事なのはなぜそうなるかだ。漏出性胸水は、胸膜そのものには病変がなく、毛細血管の静水圧が上がったり、血漿膠質浸透圧が下がったりする「圧のバランスの乱れ」で、蛋白の乏しい液体が染み出したもの。一方、滲出性胸水は胸膜やその近くの炎症や腫瘍によって毛細血管の透過性が上がったり、リンパ流が障害されたりして、蛋白やLDHを多く含む液体がたまったものなんだ。
医学生医学生
生理学で習ったStarlingの式の話ですね。静水圧と膠質浸透圧のどちらが崩れても水が血管外に出ていく、と。
ドクタードクター
よく覚えているね。漏出性はまさにStarlingの力の不均衡だ。実際の臨床では、両者をLightの基準で区別する。胸水と血清の総蛋白比が0.5を超える、LDH比が0.6を超える、胸水LDHが血清LDH正常上限の3分の2を超える、のいずれか1つでも満たせば滲出性と判定するよ。
医学生医学生
1つでも満たせば滲出性なんですね。漏出性の代表は心不全、ネフローゼ症候群……あとは肝硬変でしょうか。
ドクタードクター
そう、漏出性の代表は心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、低栄養などによる低蛋白血症。選択肢の中でこれに当たるのが肝硬変で、これが正解だ。肝硬変ではアルブミン合成が落ちて膠質浸透圧が下がるうえ、門脈圧亢進で腹水がたまる。その腹水が横隔膜の小さな欠損孔を通って胸腔に移行するのが肝性胸水で、右側に多い。どちらの機序も胸膜の炎症を伴わないから、胸水は漏出性になる。
医学生医学生
消化器内科の実習で、腹水のある肝硬変の患者さんに右の胸水もあって不思議に思っていたんですが、そういう理由だったんですね。
ドクタードクター
いい経験だね。では残りの選択肢を確認しよう。結核性胸膜炎はどうかな。
医学生医学生
結核は胸膜に炎症を起こすので滲出性です。胸水のADAが高くなると習いました。
ドクタードクター
その通り。結核菌に対する胸膜の遅延型過敏反応による炎症で、リンパ球優位の滲出性胸水になる。胸水から結核菌が検出される率は低いから、ADA高値や胸膜生検が診断の手がかりとして重視されるんだ。次に急性膵炎。
医学生医学生
膵臓はお腹の臓器なのに胸水が出るのが少し意外です。腹水と同じように漏出性になったりしないんですか。
ドクタードクター
そこは迷いやすいところだね。急性膵炎では膵臓から漏れ出た膵酵素や炎症性メディエーターが横隔膜を介して胸膜に波及し、炎症によって滲出性胸水を生じる。膵臓の位置から左側に多く、胸水中のアミラーゼが高値になるのが特徴だ。肝硬変の胸水は「圧」の問題、膵炎の胸水は「炎症」の問題と対比すると覚えやすい。
医学生医学生
全身性エリテマトーデスは漿膜炎を起こすので滲出性ですね。膠原病内科のレクチャーで、診断基準にも漿膜炎が入っていると聞きました。
ドクタードクター
正解。SLEは胸膜炎や心膜炎を起こしやすく、両側性の滲出性胸水をきたすことが多い。ただし、ループス腎炎でネフローゼ症候群を合併すると、低アルブミン血症で漏出性胸水が生じることもある。同じ疾患でも機序によって性状が変わりうる、という点は頭の片隅に置いておこう。最後に肺梗塞。
医学生医学生
肺塞栓は血管が詰まる病気なので、うっ血っぽくて漏出性かと一瞬思いました。
ドクタードクター
そう考える人は多いよ。でも肺組織が梗塞に陥ると、胸膜直下で炎症が起こって透過性が亢進するから、大部分は滲出性胸水になる。しばしば血性になるのも特徴だ。まれに漏出性の例もあるけれど、典型的には滲出性と押さえておこう。
医学生医学生
漏出性は「圧」、滲出性は「胸膜の炎症や腫瘍」と機序で考えると、迷った選択肢も整理できますね。
ドクタードクター
その通り。発展として、胸水検査の手がかりもまとめておこう。リンパ球優位でADA高値なら結核性胸膜炎、アミラーゼ高値なら急性膵炎や食道破裂、低糖・低pHなら膿胸や関節リウマチ、ヒアルロン酸高値なら悪性胸膜中皮腫、血性なら悪性腫瘍や肺梗塞、外傷を考える。滲出性胸水では癌性胸膜炎も重要な原因だから、原因不明の滲出性胸水では細胞診なども含めて精査が必要だ。
医学生医学生
臨床では、まず胸腔穿刺をしてLightの基準で漏出性か滲出性かを分け、滲出性なら胸水の成分から原因を絞る、という流れですね。
ドクタードクター
そう。そして漏出性なら、胸膜ではなく心臓・肝臓・腎臓や栄養状態といった全身の問題に目を向ける。この切り分けが胸水診療の出発点になるよ。

まとめ

胸水は、静水圧の上昇や膠質浸透圧の低下といった圧のバランスの乱れで生じる蛋白の乏しい漏出性胸水と、胸膜の炎症や腫瘍による透過性亢進・リンパ流障害で生じる蛋白やLDHの多い滲出性胸水に分けられ、Lightの基準で区別します。漏出性胸水の代表は心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、低蛋白血症で、肝硬変では低アルブミン血症に加え、腹水が横隔膜の欠損孔から胸腔へ移行する肝性胸水が生じます。一方、結核性胸膜炎(リンパ球優位・ADA高値)、急性膵炎(左側・アミラーゼ高値)、SLE(漿膜炎)、肺梗塞(しばしば血性)はいずれも胸膜側の炎症を伴う滲出性胸水の原因です。原因の多い滲出性ではなく数の少ない漏出性の疾患を覚えておくと効率よく判断でき、胸腔穿刺後に性状を分けて原因を絞り込む実際の胸水診療の基本にもつながります。

解答・解説

正解はbです

胸水は、性状によって漏出性胸水と滲出性胸水に大別される。 漏出性胸水は、胸膜そのものには病変がなく、毛細血管の静水圧の上昇(心不全など)や血漿膠質浸透圧の低下(低アルブミン血症)といった「圧のバランスの乱れ」によって、蛋白の乏しい液体が胸腔に染み出したものである。一方、滲出性胸水は、胸膜やその近傍の炎症・腫瘍などにより毛細血管の透過性が亢進したり、リンパ流が障害されたりして、蛋白やLDH(乳酸脱水素酵素)を多く含む液体が貯留したものである。 両者の区別には Light の基準が用いられ、(1) 胸水総蛋白/血清総蛋白 > 0.5、(2) 胸水LDH/血清LDH > 0.6、(3) 胸水LDH > 血清LDH正常上限の2/3、のいずれか1つ以上を満たせば滲出性と判定する。 滲出性胸水の原因は感染症・悪性腫瘍・膠原病・腹部疾患など非常に多岐にわたるため、本問のように「含まれないもの」を選ぶ問題では、漏出性胸水の代表疾患(心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、低栄養などによる低蛋白血症)を覚えておき、それに該当する選択肢を探すのが効率的である。選択肢のうち肝硬変だけが漏出性胸水の代表疾患であり、その他はいずれも炎症などの胸膜側の変化を伴い、滲出性胸水をきたす。

選択肢考察

  1. ×a.  肺梗塞

    肺血栓塞栓症により肺組織が壊死(梗塞)に陥ると、胸膜直下の炎症によって毛細血管透過性が亢進し、滲出性胸水がみられる。胸水はしばしば血性となる。肺塞栓症に伴う胸水の大部分は滲出性であるが、まれに漏出性を示す例もある。

  2. ○b.  肝硬変

    肝硬変では、アルブミン合成能の低下による低アルブミン血症で血漿膠質浸透圧が下がり、さらに門脈圧亢進に伴って腹水が貯留する。腹水が横隔膜の小さな欠損孔を通って胸腔へ移行すること(肝性胸水、右側に多い)も胸水の重要な機序である。いずれも胸膜の炎症を伴わない機序であるため胸水は漏出性となり、滲出性胸水をきたす疾患には含まれない。

  3. ×c.  急性膵炎

    急性膵炎では、膵臓から漏れ出た膵酵素や炎症性メディエーターが横隔膜を介して胸膜に波及し、炎症によって滲出性胸水を生じる。膵臓の位置関係から左側に多く、胸水中アミラーゼが高値となるのが特徴である。

  4. ×d.  結核性胸膜炎

    結核菌に対する胸膜の遅延型過敏反応による炎症で滲出性胸水をきたす。胸水はリンパ球優位で、ADA(アデノシンデアミナーゼ)が高値となることが診断の手がかりとなる。胸水からの結核菌検出率は低いため、ADA高値や胸膜生検が重視される。

  5. ×e.  全身性エリテマトーデス

    全身性エリテマトーデス(SLE)は漿膜炎(胸膜炎・心膜炎)を起こしやすい自己免疫疾患で、胸膜の炎症により両側性の滲出性胸水をきたすことが多い。胸水中で抗核抗体が陽性となったり、補体が低値となったりすることがある。なお、SLEでもループス腎炎によるネフローゼ症候群を合併すれば漏出性胸水が生じうるが、SLE自体による胸膜炎は滲出性である。

漏出性胸水をきたす主な疾患

・うっ血性心不全(最も頻度が高い。静水圧上昇による。両側性または右側優位) ・肝硬変(低アルブミン血症、腹水の胸腔への移行) ・ネフローゼ症候群(低アルブミン血症) ・低栄養などによる低蛋白血症 ・その他:腎不全による体液過剰、腹膜透析、無気肺、上大静脈症候群など

滲出性胸水をきたす主な疾患

・感染症:細菌性肺炎に伴う胸水(肺炎随伴性胸水)、膿胸、結核性胸膜炎 ・悪性腫瘍:癌性胸膜炎(肺癌・乳癌の胸膜転移など)、悪性胸膜中皮腫、悪性リンパ腫 ・膠原病:全身性エリテマトーデス、関節リウマチ ・腹部疾患:急性膵炎、横隔膜下膿瘍 ・その他:肺血栓塞栓症(肺梗塞)、薬剤性、アスベスト関連良性胸水など

胸水検査での鑑別の手がかり

・リンパ球優位+ADA高値 → 結核性胸膜炎 ・アミラーゼ高値 → 急性膵炎、食道破裂 ・低糖・低pH → 膿胸、関節リウマチ ・ヒアルロン酸高値 → 悪性胸膜中皮腫 ・血性 → 悪性腫瘍、肺梗塞、外傷など

POINT

・漏出性胸水=静水圧上昇または膠質浸透圧低下による(心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、低蛋白血症) ・滲出性胸水=胸膜の炎症・腫瘍などによる透過性亢進(感染、悪性腫瘍、膠原病、膵炎、肺梗塞など) ・Lightの基準:胸水/血清総蛋白>0.5、胸水/血清LDH>0.6、胸水LDH>血清LDH正常上限の2/3のいずれかで滲出性 ・鑑別では数の少ない漏出性胸水の原因疾患を覚えておくと効率がよい

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。