2回の帝王切開が残した「傷あと」に胎盤が根を張る―前置癒着胎盤をMRIで見抜く
第119回医師国家試験 D問題 第74問
国試問題にチャレンジ
38歳の経産婦(4妊2産)。妊娠28週で周産期管理を目的に自宅近くの医療機関から周産期母子医療センターを紹介され受診した。30歳および33歳時に,それぞれ骨盤位および既往帝王切開の適応で選択的帝王切開術が施行され,36歳時に稽留流産に対し子宮内容除去術が施行されている。今回は,続発性不妊症に対し生殖補助医療が実施され,妊娠した。妊娠32週に行われた骨盤MRIのT2強調矢状断像を下に示す。 考えられるのはどれか。2つ選べ。

- a.前置血管
- b.前置胎盤
- c.癒着胎盤
- d.絨毛膜下血腫
- e.常位胎盤早期剝離
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
帝王切開既往、子宮内容除去術の既往、高年妊娠、経産婦、生殖補助医療による妊娠はいずれも前置胎盤と癒着胎盤の危険因子であり、特に「帝王切開既往+前置胎盤」は癒着胎盤の最大の危険因子で、帝王切開回数が増えるほどリスクが高まります。MRIで妊娠32週になっても胎盤が内子宮口を完全に覆っていれば全前置胎盤と考え、胎盤内のT2低信号帯、信号の不均一性、付着部筋層の菲薄化と境界不明瞭化があれば癒着胎盤を示唆します。前置血管は内子宮口上を走る胎児血管、常位胎盤早期剝離は正常位置の胎盤が剝がれる病態であり、絨毛膜下血腫とともに本例の画像・臨床像とは合致しません。前置癒着胎盤は分娩時に致死的な大量出血をきたしうるため、内診を避け、高次施設で多診療科と連携して子宮摘出も視野に入れた分娩計画を立てることが重要です。既往歴からリスクを予測し画像で裏づけるという流れは、周産期の重篤な出血を未然に防ぐための基本的な思考法といえます。
解答・解説
正解はb, cです
所見の整理
・38歳、4妊2産。35歳以上の高年妊娠である。 ・帝王切開の既往が2回ある(30歳時は骨盤位、33歳時は既往帝王切開を適応とした選択的帝王切開)。子宮下部に2回の切開瘢痕があることになる。 ・36歳時に稽留流産に対する子宮内容除去術を受けている。子宮内膜への機械的操作の既往である。 ・今回は生殖補助医療(ART:体外受精・胚移植など)による妊娠である。 ・妊娠28週で、周産期管理を目的に周産期母子医療センターへ紹介されている。これは、分娩時に大量出血が予想されるなど、ハイリスク妊娠として高次施設での管理が必要と判断されたことを示唆する。 これらはいずれも前置胎盤と癒着胎盤(胎盤が子宮筋層に異常に侵入する病態)の危険因子である。特に「帝王切開既往+前置胎盤」の組み合わせは癒着胎盤の最大の危険因子であり、帝王切開の回数が増えるほど癒着胎盤の頻度は大きく上昇する。
MRI(T2強調矢状断像)の読み
・胎児は頭位で、胎児頭部の下方、子宮下部の後壁から前方にかけて胎盤が広がり、内子宮口を完全に覆っている。妊娠32週の時点で胎盤が内子宮口を覆っていれば、以後に胎盤の位置が上方へ移動(いわゆるplacental migration)することは期待しにくく、前置胎盤(全前置胎盤)と診断できる。 ・胎盤の信号は不均一で、胎盤内にT2強調像で低信号を示す帯状構造(T2 dark band)がみられる。また胎盤付着部の子宮筋層は菲薄化し、胎盤と筋層の境界が不明瞭である。これらは癒着胎盤を示唆するMRI所見である。 ・胎盤と子宮壁の間に血腫を示す異常な信号域はなく、絨毛膜下血腫や常位胎盤早期剝離を示唆する所見はない。
診断
危険因子と画像所見を合わせ、前置胎盤に癒着胎盤を合併した状態(前置癒着胎盤)を考える。癒着胎盤の確定は最終的には分娩時の所見や病理診断によるが、出生前には超音波(カラードプラを含む)とMRIで評価し、大量出血に備えた分娩計画(自己血貯血、輸血準備、総腸骨・内腸骨動脈バルーン閉塞の検討、帝王切開時子宮摘出の可能性の説明など)を立てる。
選択肢考察
- ×a. 前置血管
前置血管とは、臍帯が卵膜に付着する卵膜付着や分葉胎盤などにより、ワルトン膠質(臍帯血管を保護するゼリー状組織)に包まれていない胎児血管が卵膜上を走行し、内子宮口付近を横切る状態である。破水時に血管が断裂すると胎児失血による急速な胎児機能不全・胎児死亡につながる。診断は経腟超音波のカラードプラで内子宮口上を走る血管を確認して行う。本例のMRIで内子宮口を覆っているのは胎盤実質そのものであり、前置血管を示唆する所見はない。
- ○b. 前置胎盤
前置胎盤は、胎盤が子宮下部に付着し、内子宮口を覆う、またはその辺縁が内子宮口に及ぶ状態である。MRIでは胎盤が子宮下部に位置し内子宮口を完全に覆っており、全前置胎盤と考えられる。妊娠32週という時期は、子宮下部の伸展による胎盤の見かけの移動がほぼ終わっており、この時点の所見で診断が確定的となる。本例は帝王切開既往2回、子宮内容除去術の既往、35歳以上、経産婦、ARTによる妊娠と、前置胎盤の危険因子を多数もつ。前置胎盤は妊娠後期に腹痛を伴わない(無痛性の)警告出血をきたしやすく、内診は大出血を誘発するため禁忌であり、分娩は帝王切開となる。
- ○c. 癒着胎盤
癒着胎盤は、脱落膜(基底脱落膜)の形成不全のために絨毛が子宮筋層に直接付着・侵入する病態で、筋層表面に付着する楔入胎盤(placenta accreta)、筋層内に侵入する嵌入胎盤(placenta increta)、筋層を貫通して漿膜や膀胱など周囲臓器に及ぶ穿通胎盤(placenta percreta)に分けられる。帝王切開瘢痕など内膜が傷んだ部位に胎盤が付着すると起こりやすい。本例は前置胎盤が既往帝王切開創のある子宮下部に付着しているうえ、子宮内容除去術の既往やARTも重なっており、癒着胎盤の危険性が極めて高い。MRIでは胎盤内のT2低信号帯、胎盤信号の不均一性、付着部筋層の菲薄化・境界不明瞭化といった癒着胎盤を示唆する所見を認める。胎盤が剝がれないため分娩時に大量出血をきたし、子宮摘出が必要になることが多い。
- ×d. 絨毛膜下血腫
絨毛膜下血腫は、絨毛膜と子宮壁(脱落膜)の間に血液がたまった状態で、主に妊娠初期〜中期に性器出血の原因となり、流産・早産や絨毛膜羊膜炎のリスクとなる。超音波では胎嚢・胎盤辺縁に接する三日月状の低エコー域としてみられる。本例では出血の症状がなく、MRIでも胎盤・卵膜と子宮壁の間に血腫を示す異常信号域を認めないため考えにくい。
- ×e. 常位胎盤早期剝離
常位胎盤早期剝離は、正常な位置(子宮体部)に付着した胎盤が胎児娩出前に子宮壁から剝がれる病態で、持続する下腹部痛、子宮の板状硬、少量で暗赤色の性器出血、胎児機能不全、播種性血管内凝固(DIC)を特徴とする。本例の胎盤は子宮下部に付着した前置胎盤であり、定義上「常位」ではない。また腹痛・出血などの症状もなく、胎盤後血腫を示す所見もみられない。診断は臨床症状と胎児心拍モニタリング、超音波で行うのが一般的である。
前置胎盤の分類
・全前置胎盤:内子宮口を胎盤が完全に覆う。 ・部分前置胎盤:内子宮口の一部を覆う。 ・辺縁前置胎盤:胎盤の辺縁が内子宮口に達する。 ・低置胎盤:胎盤の下縁が内子宮口に達しないが、その近く(概ね2cm以内)にある。 ※診断は経腟超音波で行い、子宮下部が伸展する妊娠中期以降に胎盤が上方へ移動して見えることがあるため、妊娠初期〜中期の所見だけで確定せず、妊娠31週末頃までに診断することが勧められる。
前置胎盤の危険因子
帝王切開既往、子宮内操作(子宮内容除去術など)の既往、高年妊娠、多産、喫煙、多胎、ARTによる妊娠、前回の前置胎盤など。
癒着胎盤の危険因子
最大の危険因子は前置胎盤と帝王切開既往の合併で、前置胎盤症例での癒着胎盤の頻度は帝王切開既往の回数が増えるにつれて著しく上昇する。そのほか子宮内容除去術、子宮筋腫核出術、子宮内膜炎の既往、高年妊娠、ARTによる妊娠なども危険因子である。
癒着胎盤の画像所見
超音波:胎盤後方の低エコー帯(clear zone)の消失、胎盤内の多数の不整な血液腔(placental lacunae)、子宮筋層の菲薄化、膀胱壁と子宮漿膜の境界の途絶、カラードプラでの異常血流。 MRI:胎盤内のT2低信号帯(dark band)、胎盤の不均一な信号、筋層の菲薄化・途絶、子宮下部の膨隆、膀胱への浸潤所見。
管理
前置胎盤は妊娠37週未満の予定帝王切開が一般的で、癒着胎盤が疑われる場合は輸血の準備が整った高次施設で、多診療科(麻酔科・泌尿器科・放射線科など)と連携して分娩計画を立てる。癒着が広範な場合、胎盤を剝がさずに子宮を摘出する帝王切開時子宮全摘術が選択されることが多い。
前置胎盤と常位胎盤早期剝離の鑑別
前置胎盤:無痛性、鮮紅色の外出血が主体、子宮は軟らかい。 常位胎盤早期剝離:持続性腹痛、子宮の板状硬、外出血は少量で暗赤色のことが多い、DICを合併しやすい。
POINT
・帝王切開既往+前置胎盤=癒着胎盤を強く疑う(帝王切開回数が多いほどリスク増大)。 ・子宮内容除去術の既往、高年妊娠、ARTによる妊娠も前置胎盤・癒着胎盤の危険因子。 ・MRIで胎盤内のT2低信号帯、胎盤の不均一性、付着部筋層の菲薄化は癒着胎盤を示唆する。 ・前置胎盤では内診禁忌、分娩は帝王切開。癒着胎盤合併例は大量出血に備え高次施設で管理する。
