妊娠27週の張りと出血―診療所が最初に選ぶべきは「母体搬送」
第120回医師国家試験 B問題 第38問
国試問題にチャレンジ
34歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠27週0日,少量の性器出血と下腹部緊満感を主訴に産科診療所を受診した。1週間前に受診した妊婦健診では異常を指摘されなかった。体温37.2℃。腟鏡診では褐色,粘稠性の分泌物を少量認めた。子宮口は2cm開大,展退度70%,頭位。経腹超音波検査で胎児発育および羊水量は正常であった。胎児心拍数陣痛図では,子宮収縮は5分ごとで,胎児心拍数の異常は認めない。血液所見:白血球10,000。CRP 0.3mg/dL。 患者への説明で適切なのはどれか。
- a.「今日中に生まれます」
- b.「帝王切開を行います」
- c.「子宮頸管をしばりましょう」
- d.「赤ちゃんを管理できる病院にあなたを救急搬送します」
- e.「今生まれても,正期産児と同程度の発達が期待できます」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
妊娠22週0日〜36週6日に規則的な子宮収縮と子宮頸管の開大・展退を認めれば切迫早産であり、胎児心拍異常を伴う常位胎盤早期剥離、前期破水、絨毛膜羊膜炎を鑑別します。妊娠27週の児は出生体重がおよそ1,000g前後で出生直後からNICU管理を要するため、産科診療所では子宮収縮抑制薬を投与しつつ、周産期母子医療センターなどへ母体搬送するのが適切です。母体搬送は新生児搬送より児の予後が良く、搬送先で胎児肺成熟のためのステロイド投与なども行えます。頸管縫縮術は頸管無力症に対する予防的手術で、収縮を伴い開大が進んだ切迫早産には適応がなく、早産児の発達を正期産児と同等と保証することもできません。自施設の対応能力を見極めて適切な施設へつなぐ判断は、周産期医療体制を理解するうえで重要な視点です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・34歳の初妊婦、妊娠27週0日。1週間前の妊婦健診までは異常がなかった。 ・主訴は少量の性器出血と下腹部の張り(緊満感)。腟鏡診では褐色で粘稠な分泌物が少量あるのみで、羊水の流出(破水)を示す所見はない。 ・内診で子宮口2cm開大、展退度70%と、子宮頸管の熟化が進んでいる。 ・胎児心拍数陣痛図(CTG:胎児心拍と子宮収縮を同時に記録する検査)で子宮収縮が5分ごとに出現しているが、胎児心拍数パターンに異常はない。 ・経腹超音波で胎児発育・羊水量は正常。 ・体温37.2℃、白血球10,000/μL、CRP 0.3mg/dLで、明らかな感染・炎症所見はない。
診断へのプロセス
妊娠22週0日から36週6日までの分娩を早産といい、その時期に規則的な子宮収縮と子宮頸管の開大・展退がみられ、早産に至る危険が高い状態を切迫早産という。本症例は妊娠27週で5分ごとの子宮収縮と子宮口開大・展退を認めるため、切迫早産と診断できる。性器出血は頸管の開大に伴う少量の出血(いわゆる産徴に近いもの)と考えられる。 鑑別すべき病態は以下のとおりである。 ・常位胎盤早期剥離:性器出血と腹部症状をきたすが、通常は持続的な腹痛・子宮の板状硬、CTGでの胎児心拍異常(遅発一過性徐脈や基線細変動の減少など)を伴う。本症例は胎児心拍に異常がなく否定的である。 ・前期破水:腟鏡診で羊水流出を認めず、羊水量も正常であり否定的である。 ・臨床的絨毛膜羊膜炎:38℃以上の発熱がなく、白血球・CRPの上昇もないため否定的である。 ・前置胎盤:無痛性の出血が典型で、本症例の経過とは合わない(超音波で胎盤位置を確認する)。
設問の考え方
妊娠27週の早産児は出生体重がおよそ1,000g前後の超低出生体重児・極低出生体重児となり、出生直後から人工呼吸管理などの新生児集中治療(NICU)が必要になる。一般の産科診療所ではこのような児の管理はできない。したがって、子宮収縮抑制薬を投与しつつ、NICUを備えた周産期母子医療センターなどの高次医療機関へ「母体搬送」(胎児を子宮内に入れたまま母体ごと搬送すること)を行うのが適切な対応であり、患者にもそのように説明する。出生後に新生児を搬送するより、母体搬送のほうが児の予後が良いことが知られている。
選択肢考察
- ×a. 「今日中に生まれます」
子宮口は2cm開大にとどまり、破水も感染もなく、母児の状態は安定している。子宮収縮抑制薬の投与や安静などにより妊娠の延長を図る段階であり、本日中の分娩が確実とはいえない。根拠なく分娩を断定する説明は不適切である。
- ×b. 「帝王切開を行います」
帝王切開を急ぐ適応(胎児機能不全、常位胎盤早期剥離、骨盤位での分娩進行など)はなく、胎児は頭位でCTGも正常である。妊娠27週では1日でも妊娠を延長することが児の予後改善につながるため、現時点で娩出を目的とした手術を行うべきではない。また、診療所で早産児を娩出させても児の集中治療ができない点でも不適切である。
- ×c. 「子宮頸管をしばりましょう」
子宮頸管縫縮術(シロッカー手術、マクドナルド手術)は、主に子宮頸管無力症(陣痛を伴わずに頸管が開大する病態)に対し、既往に基づく予防的手術として妊娠12〜16週頃に、あるいは頸管短縮が判明した時点で行うものである。本症例のように規則的な子宮収縮を伴い、子宮口が2cm開大し展退も進んだ状態では、手術操作がかえって収縮を誘発し、破水や感染を招くおそれがあるため、適応とならない。
- ○d. 「赤ちゃんを管理できる病院にあなたを救急搬送します」
妊娠27週で早産が切迫しており、出生すれば新生児集中治療が必要な児となる。産科診療所では対応できないため、子宮収縮抑制薬を投与しながら、NICUを有する周産期母子医療センターなどへ母体搬送するのが適切である。母体搬送により、搬送先で胎児肺成熟を促すための副腎皮質ステロイド投与なども行え、出生後すぐに専門的治療を受けられるため、児の予後改善が期待できる。
- ×e. 「今生まれても,正期産児と同程度の発達が期待できます」
妊娠27週の児は出生体重がおよそ1,000g前後で、肺・脳・消化管などが未熟である。救命率は向上しているものの、新生児呼吸窮迫症候群、脳室内出血、脳室周囲白質軟化症、未熟児網膜症、慢性肺疾患などの合併症の危険が高く、長期的には脳性麻痺、発達遅滞、学習障害などがみられることもある。正期産児と同程度の発達を約束する説明は医学的に誤りであり、患者に誤った見通しを与える。
早産・切迫早産の定義
・流産:妊娠22週未満の妊娠の終結。 ・早産:妊娠22週0日〜36週6日の分娩。 ・正期産:妊娠37週0日〜41週6日の分娩。 ・切迫早産:早産期に、規則的な子宮収縮と子宮頸管の開大・展退(子宮頸管長の短縮)を認め、早産の危険が高い状態。
切迫早産の主な原因・リスク因子
・絨毛膜羊膜炎・細菌性腟症などの感染(最も重要)、子宮頸管無力症、多胎妊娠、羊水過多、子宮奇形・子宮筋腫、早産既往など。
切迫早産の管理
・子宮収縮抑制薬:β2刺激薬(リトドリン塩酸塩)、硫酸マグネシウムなど。 ・胎児肺成熟の促進:早産が見込まれる妊娠34週未満では、母体へ副腎皮質ステロイド(ベタメタゾン12mgを24時間ごとに計2回筋注)を投与する。新生児呼吸窮迫症候群や脳室内出血の減少、新生児死亡率の低下が示されている。 ・妊娠32週未満の早産が差し迫っている場合、児の脳性麻痺予防(神経保護)を目的とした硫酸マグネシウム投与も行われる。 ・感染が疑われれば抗菌薬を投与し、絨毛膜羊膜炎が明らかなら妊娠継続より娩出を優先することもある。
臨床的絨毛膜羊膜炎の診断基準(Lenckiの基準)
・母体に38.0℃以上の発熱があり、以下のうち1項目以上を満たす:①母体頻脈(100/分以上)、②子宮の圧痛、③腟分泌物・羊水の悪臭、④母体白血球数15,000/μL以上。 ・発熱がない場合は①〜④のすべてを満たす。 本症例は体温37.2℃、白血球10,000/μLであり、該当しない。
母体搬送
・NICUでの管理を要する児の出生が予想される場合、出生後に新生児を搬送するよりも、子宮内にいるうちに母体ごと高次施設へ搬送するほうが児の予後が良い。総合周産期母子医療センター・地域周産期母子医療センターがその受け皿となる。
出生体重による分類
・低出生体重児:2,500g未満、極低出生体重児:1,500g未満、超低出生体重児:1,000g未満。妊娠27週の児は平均しておよそ1,000g前後である。
POINT
・切迫早産=早産期(22週0日〜36週6日)に規則的子宮収縮+子宮頸管の開大・展退。 ・常位胎盤早期剥離(胎児心拍異常、子宮の板状硬)、前期破水、絨毛膜羊膜炎を除外する。 ・NICU管理が必要な早産が予想されれば、子宮収縮抑制薬を投与しつつ高次医療機関へ母体搬送する。 ・34週未満の早産予想では母体へのステロイド投与で胎児肺成熟を促す。 ・子宮頸管縫縮術は頸管無力症に対する予防的手術であり、規則的子宮収縮・子宮口開大を伴う切迫早産では行わない。 ・妊娠27週の早産児は正期産児と同等の発達を保証できない。
