StudyMed医師国家試験

首に巻く「鉛のカラー」は何を守る?―感染対策のPPEと放射線防護具を見分ける

第115回医師国家試験 F問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第2問

 医療者が身につけるもの(①~⑤)を下に示す。  個人防護具[Personal protective equipment〈PPE〉]でないのはどれか。

第115回 F問題 第2問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医療者が身につける5つの用具の中から、個人防護具、いわゆるPPEにあたらないものを選ぶ問題だ。ポイントは「その用具が何から身を守るためのものか」という目的で見分けること。まずはPPEの定義から確認しよう。PPEと聞いて、どんなものを思い浮かべるかな。
医学生医学生
臨床実習で感染症病棟に入る前に、手袋とマスクとガウンの着け方を教わりました。あれがPPEですよね。
ドクタードクター
その通り。感染対策でいうPPEとは、患者さんの血液や汗を除く体液、分泌物、排泄物、粘膜、傷のある皮膚に含まれる病原体が、医療者の皮膚や粘膜、衣服に付いたり入り込んだりするのを物理的に遮る用具のことだ。代表は手袋、マスク、ガウンやエプロン、ゴーグルやフェイスシールド、キャップなどだね。
医学生医学生
図に並んでいるのは、ゴーグル、マスク、手袋、首に巻くカラーのようなもの、それとガウンですね。首のものだけ見慣れない気がします。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。ひとつずつ確認していこう。まずゴーグルは何を守るためのものかな。
医学生医学生
吸引や挿管のときに飛んでくるしぶきから目を守るためだと思います。普通の眼鏡でも代わりになりますか。
ドクタードクター
よくある誤解だね。眼の結膜は粘膜だから、血液や体液の飛沫が入ると感染の入り口になる。普通の眼鏡は横から入る飛沫を防げないので、ゴーグルの代わりにはならない。ゴーグルはフェイスシールドと同じく、眼を守る典型的なPPEだ。
医学生医学生
マスクは口と鼻の粘膜を守るPPEですね。CBTで、結核のときはサージカルマスクではなくN95マスクと覚えました。
ドクタードクター
その通り。サージカルマスクは咳やくしゃみの飛沫、処置中の体液の飛散から口や鼻を守るもので、飛沫予防策の基本だ。結核、麻疹、水痘のような空気感染する疾患では、より細かい粒子を捕集できるN95マスクが必要になる。次は手袋だ。
医学生医学生
手袋は一番よく使いますよね。手袋をしていれば、外したあとの手洗いは省いてもいいんでしょうか。
ドクタードクター
そこは要注意だね。手袋には目に見えない小さな穴があることがあるし、外すときに手が汚染されることもある。だから手袋を外したあとも、必ず手指衛生を行う。患者さんごと、同じ患者さんでも汚染部位から清潔部位へ移るときには交換する。ガウンについてはどうかな。
医学生医学生
血液や体液が飛び散りそうな処置や、MRSAの患者さんの接触予防策で着るものなので、これもPPEですね。
ドクタードクター
正解。腕まで汚れる心配がない場面ではエプロンで代用することもある。残るのが首に巻くカラーだ。これは甲状腺防護カラー、ネックガードと呼ばれるもので、鉛などの素材でできている。
医学生医学生
鉛ということは、放射線を防ぐものですか。
ドクタードクター
そう。心臓カテーテル検査やERCPのようなX線透視下の手技で、放射線への感受性が高い甲状腺を散乱線による被ばくから守るための用具だ。目的は放射線防護であって、病原体や体液への曝露を防ぐものではない。だから感染対策でいうPPEにはあたらず、これが正解になる。
医学生医学生
広い意味では防護具でも、感染対策の文脈では目的が違うので外れる、ということですね。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。発展知識として、PPEの着脱の順序も押さえておこう。着るときは一般に、ガウン、マスク、ゴーグル、手袋の順。脱ぐときは一番汚れている手袋から外し、ゴーグル、ガウン、最後にマスクの順で、前後に手指衛生を行う。ガウンと手袋を一緒に外す方法もある。
医学生医学生
OSCEの練習で、マスクを先に外してしまって注意されたことがあります。汚れたものから外す、と考えると覚えやすいですね。
ドクタードクター
その発想が大事だね。それから放射線防護では、被ばく時間を短くする「時間」、線源から離れる「距離」、防護具や遮蔽板を使う「遮蔽」の3原則がある。防護エプロンや甲状腺防護カラー、水晶体を守る防護眼鏡は「遮蔽」の手段だ。透視室では放射線防護具の上から感染対策のPPEも着ることがあるから、両者の目的を区別して理解しておこう。

まとめ

感染対策でいう個人防護具(PPE)は、患者の血液・体液・分泌物・排泄物(汗を除く)、粘膜、傷のある皮膚に含まれる病原体への曝露を物理的に遮る用具で、手袋、マスク、ガウン・エプロン、ゴーグル・フェイスシールド、キャップなどが該当します。首に巻く甲状腺防護カラーは、X線透視下の手技で甲状腺を散乱線から守る放射線防護具であり、目的が異なるためPPEにはあたりません。手袋を外した後も手指衛生が必要なこと、空気感染する結核・麻疹・水痘ではN95マスクを使うこと、脱ぐときは最も汚染された手袋から外すことも重要です。放射線防護は時間・距離・遮蔽の3原則で考えます。用具を「何から身を守るのか」という目的で整理しておくと、標準予防策や感染経路別予防策を実践するうえでの確かな土台になります。

解答・解説

正解はdです

本問は、感染対策で用いる個人防護具(PPE:personal protective equipment)を見分ける問題である。

PPEとは

感染対策の領域でいうPPEとは、患者の血液・体液・分泌物・排泄物(汗を除く)、粘膜、傷のある皮膚などに含まれる病原体が、医療者の皮膚・粘膜・衣服に付着したり侵入したりするのを物理的に遮るための用具を指す。代表的なものは手袋、マスク、ガウン(エプロン)、ゴーグル・フェイスシールドなどの眼の防護具、キャップなどである。

考え方

図の①~⑤を「病原体や湿性生体物質への曝露を遮断する目的のものか」という視点で見分ける。①ゴーグル、②マスク、③手袋、⑤ガウンはいずれも標準予防策・感染経路別予防策で使われる典型的なPPEである。一方、④は首に巻く甲状腺防護カラー(ネックガード)で、X線透視などの際に散乱放射線から甲状腺を守るための放射線防護用具であり、病原体からの防護を目的としたものではない。したがって④がPPEにあたらない。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    ①はゴーグルである。吸引、気管挿管、手術、創洗浄など血液や体液のしぶきが飛ぶおそれのある処置で、眼の結膜という粘膜を飛沫から守るために着ける。フェイスシールドと同じく眼を守るPPEであり、PPEに該当する。なお、通常の眼鏡は側方からの飛沫を防げないため、ゴーグルの代わりにはならない。

  2. ×b.  ②

    ②はサージカルマスクである。咳やくしゃみの飛沫、処置中の体液の飛散から医療者の口・鼻の粘膜を守る。飛沫予防策の基本であり、PPEに該当する。結核・麻疹・水痘などの空気感染する疾患では、より微細な粒子を捕集できるN95マスクが必要になる点も押さえておく。

  3. ×c.  ③

    ③は手袋である。血液・体液、粘膜、傷のある皮膚、汚染物に触れる可能性があるときに着用し、手指を汚染から守る。PPEに該当し、最も使用頻度が高い。手袋には目に見えない小さな穴(ピンホール)があったり外すときに手が汚染されたりすることがあるため、外した後は必ず手指衛生を行う。また、患者ごと・同じ患者でも汚染部位から清潔部位へ移るときには交換する。

  4. ○d.  ④

    ④は甲状腺防護カラー(ネックガード)である。鉛またはそれに相当する素材でできており、X線透視下の手技(心臓カテーテル検査、内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉など)の際に、放射線感受性の高い甲状腺を散乱線による被ばくから守る。目的は放射線防護であって、病原体や湿性生体物質への曝露を防ぐものではない。したがって感染対策でいうPPEにはあたらず、これが正解である。

  5. ×e.  ⑤

    ⑤はガウンである。血液や体液が飛び散って衣服や皮膚に付着するおそれがある処置、あるいは接触予防策が必要な患者(MRSA〈メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〉保菌者、Clostridioides difficile感染症など)のケアの際に着用し、体幹・腕を守る。PPEに該当する。腕まで汚染が及ばない場面ではエプロンで代用することもある。

標準予防策(スタンダードプリコーション)

すべての患者の血液、汗を除く体液・分泌物・排泄物、粘膜、傷のある皮膚を感染の可能性があるものとして扱う考え方である。感染症の診断の有無にかかわらず、すべての患者に適用する。中心は手指衛生とPPEの適切な使用であり、ほかに呼吸器衛生・咳エチケット、針刺し防止(リキャップをしない等)、器材・環境の管理などが含まれる。

感染経路別予防策

標準予防策に加えて、感染経路に応じて行う。 ・接触予防策:手袋・ガウン(MRSA、多剤耐性菌、C. difficile、ノロウイルスなど) ・飛沫予防策:サージカルマスク(インフルエンザ、百日咳、風疹、ムンプスなど) ・空気予防策:N95マスク、陰圧個室(結核、麻疹、水痘)

PPEの着脱の順序

着用は一般に、ガウン → マスク → ゴーグル(フェイスシールド) → 手袋の順に行う。脱ぐときは最も汚染されている手袋から外し、続いてゴーグル、ガウン、最後にマスクの順とし、着脱の前後で手指衛生を行う。(ガウンと手袋を一緒に外す方法もある。)

放射線防護用具

防護エプロン、甲状腺防護カラー、防護眼鏡(水晶体の防護)などがある。放射線防護の3原則は「時間(被ばく時間を短く)・距離(線源から離れる)・遮蔽(防護具や遮蔽板を使う)」である。これらは被ばく低減のための用具であり、感染対策のPPEとは目的が異なる。

POINT

・感染対策のPPEは、病原体を含む血液・体液などへの曝露を遮る用具:手袋、マスク、ガウン・エプロン、ゴーグル・フェイスシールド、キャップ。 ・甲状腺防護カラーや鉛エプロンは放射線防護用具であり、感染対策のPPEではない。 ・手袋を外した後も必ず手指衛生を行う。 ・空気感染(結核・麻疹・水痘)ではサージカルマスクではなくN95マスクを使う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。