StudyMed医師国家試験

歯ぐきの出血は何の不足?―ビタミン・ミネラル欠乏症を「働き」から読み解く

第115回医師国家試験 F問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第1問

栄養素とその欠乏によって起こる病態との組合せで正しいのはどれか。

  1. a.マグネシウム ―― 味覚障害
  2. b.ビタミンA ―― ペラグラ
  3. c.ビタミンC ―― 出血傾向
  4. d.カルシウム ―― 貧血
  5. e.亜鉛 ―― 夜盲

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、栄養素とその欠乏で起こる病態の組合せを問う基本問題だ。丸暗記で済ませがちな分野だけど、その栄養素が体の中で何の材料になり、どの酵素を助けているかを押さえると、欠乏症は理屈で導ける。まず、ビタミンCが不足すると何が起こるか思い出せるかな。
医学生医学生
壊血病ですよね。大航海時代の船乗りが歯ぐきから出血した話を、生化学の講義で聞きました。
ドクタードクター
その通り。ではなぜ出血するのか。ビタミンCはコラーゲンを作るときに、プロリンやリシンを水酸化する酵素の補因子として働いているんだ。
医学生医学生
水酸化がうまくいかないと、コラーゲンの三重らせんが安定しないんですね。
ドクタードクター
そう。その結果、血管壁や結合組織がもろくなって、歯肉の腫脹と出血、皮下出血や毛包周囲の点状出血、関節内出血、創傷治癒の遅れが起こる。だからビタミンCと出血傾向の組合せが正解だ。
医学生医学生
出血傾向というと血小板や凝固因子の異常を思い浮かべてしまいますが、壊血病は違うんですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。壊血病は血管壁の異常による出血だから、血小板数や凝固検査は通常正常だ。同じ出血傾向でも、ビタミンK欠乏は凝固因子II・VII・IX・Xの活性が落ちるのでPTが延長する。この区別はよく問われる。
医学生医学生
ビタミンKは新生児メレナで覚えました。小児科の実習で、新生児にK2シロップを飲ませているのを見ました。
ドクタードクター
まさにそれだ。では他の組合せを見ていこう。この問題は、亜鉛とビタミンAの欠乏症がわざと入れ替えられているのがポイントだ。夜盲の原因は本当は何だろう。
医学生医学生
夜盲はビタミンAです。網膜の杆体にあるロドプシンの材料になるんでしたよね。
ドクタードクター
正解。レチノールから作られるレチナールがロドプシンの構成成分なので、不足すると暗いところで見えにくくなる。眼球乾燥症や角膜軟化症、皮膚の角化、易感染性も起こる。では亜鉛欠乏の代表的な症状は?
医学生医学生
味覚障害です。でも亜鉛はビタミンAの代謝にも関わるので、夜盲とも全く無関係ではないような気がします。
ドクタードクター
鋭いね。高度の亜鉛欠乏が夜盲を助長することはあるけれど、典型的な組合せとしては亜鉛は味覚障害、夜盲はビタミンAと押さえておこう。亜鉛欠乏ではほかに、口の周りや手足の先の皮膚炎、脱毛、口内炎、創傷治癒遅延、成長障害、性腺機能低下も起こる。
医学生医学生
ということは、マグネシウムと味覚障害の組合せも違いますね。マグネシウム欠乏だと何が起こるんでしょう。
ドクタードクター
マグネシウムは多くの酵素反応やATPの利用に関わり、神経や筋の興奮性を調節している。欠乏するとテタニー、筋けいれん、QT延長やトルサード・ド・ポアンツなどの不整脈が出る。さらにPTHの分泌と作用が障害されて低カルシウム血症を、腎からのカリウム喪失で低カリウム血症を伴いやすい。アルコール多飲や下痢、プロトンポンプ阻害薬や利尿薬の長期使用が原因になる。
医学生医学生
低カリウム血症がなかなか補正できないときはマグネシウムも測る、と腎臓内科の先生に言われたことがあります。
ドクタードクター
臨床ではとても大事なポイントだね。次はペラグラ。これはビタミンAではなく何の欠乏だったかな。
医学生医学生
ナイアシンです。皮膚炎、下痢、認知症の3Dでした。
ドクタードクター
完璧。ナイアシンは必須アミノ酸のトリプトファンからも合成されるから、トウモロコシが主食の地域、アルコール依存症、トリプトファンがセロトニン合成に使われてしまうカルチノイド症候群、トリプトファンの吸収障害であるHartnup病などで起こる。最後に、カルシウムと貧血はどうだろう。
医学生医学生
カルシウムは骨のイメージなので、貧血とは結びつかないです。
ドクタードクター
その感覚で正しい。カルシウムの摂取不足が続くと骨量が減って骨粗鬆症の一因になり、小児ではビタミンD欠乏とともにくる病の原因にもなる。ただ血中カルシウムはPTHとビタミンDで厳密に調節されているので、摂取不足だけで低カルシウム血症になることは少ない。貧血の原因になる栄養素は、鉄、ビタミンB12、葉酸、銅などだ。
医学生医学生
鉄なら小球性、B12や葉酸なら巨赤芽球性ですね。CBTの勉強のときに表にまとめました。
ドクタードクター
いい習慣だね。臨床での注意点も付け加えておこう。長期の中心静脈栄養や経腸栄養、短腸症候群などの吸収不良、アルコール依存症、偏食、独居の高齢者では、ビタミンや微量元素の欠乏が起こりやすい。原因のはっきりしない皮膚炎、味覚障害、出血、神経症状を見たら、食事内容や栄養ルートを確認する習慣をつけておくと見逃しが減るよ。

まとめ

ビタミンCはコラーゲンのプロリン・リシン水酸化に必要な補因子であり、欠乏すると血管壁が脆弱になって歯肉出血や皮下出血をきたす壊血病となります。血小板数や凝固検査は通常正常で、PTが延長するビタミンK欠乏との区別が重要です。夜盲はビタミンA、味覚障害は亜鉛、ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症)はナイアシン、貧血は鉄・ビタミンB12・葉酸・銅の欠乏で起こり、マグネシウム欠乏はテタニーや不整脈、低カルシウム血症・低カリウム血症を伴います。栄養素の「働き」から欠乏症を理解しておくと紛らわしい組合せ問題にも強くなり、中心静脈栄養中の患者や高齢者、アルコール依存症の患者を診る際の見逃し防止にもつながります。

解答・解説

正解はcです

栄養素(ビタミン・ミネラル)とその欠乏症の対応を問う基本問題である。各栄養素が体内でどのような働きをしているか(どの酵素の補酵素か、どの構造物の材料か)を押さえておけば、欠乏したときに何が起こるかを理屈で導ける。 本問の組合せを正しく対応させると次のようになる。 ・味覚障害 → 亜鉛欠乏 ・ペラグラ → ナイアシン(ビタミンB3)欠乏 ・出血傾向(壊血病) → ビタミンC欠乏 ・貧血 → 鉄、ビタミンB12、葉酸、銅などの欠乏 ・夜盲 → ビタミンA欠乏 ビタミンCはコラーゲン合成に不可欠であり、欠乏すると血管壁や結合組織が弱くなって出血しやすくなる(壊血病)。したがって「ビタミンC ―― 出血傾向」が正しい組合せである。他の選択肢は、栄養素と病態が入れ替えられた組合せになっている(亜鉛とビタミンAの欠乏症が別の選択肢に配置されている点に注目するとよい)。

選択肢考察

  1. ×a.  マグネシウム ―― 味覚障害

    誤り。味覚障害の代表的な原因は亜鉛欠乏である。マグネシウムは多くの酵素反応やATPの利用に関わり、神経・筋の興奮性の調節に重要である。欠乏(低マグネシウム血症)では、テタニーや筋けいれん、振戦、脱力、QT延長やトルサード・ド・ポアンツなどの不整脈、せん妄などの精神神経症状、食欲不振・悪心がみられる。また副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌と作用が障害されるため低カルシウム血症を、腎からのカリウム喪失により低カリウム血症を伴いやすい。原因にはアルコール多飲、下痢、プロトンポンプ阻害薬や利尿薬の長期使用などがある。

  2. ×b.  ビタミンA ―― ペラグラ

    誤り。ペラグラはナイアシン(ビタミンB3、ニコチン酸)の欠乏症で、皮膚炎(日光露出部の色素沈着を伴う皮疹)、下痢、認知症(精神神経症状)の3徴(3D:dermatitis, diarrhea, dementia)を特徴とする。ナイアシンは必須アミノ酸のトリプトファンからも合成されるため、トウモロコシを主食とする地域、アルコール依存症、カルチノイド症候群(トリプトファンがセロトニン合成に消費される)、Hartnup病(トリプトファンの吸収障害)などでみられる。ビタミンA欠乏では夜盲、眼球乾燥症・角膜軟化症、皮膚の乾燥・角化、易感染性などが生じる。

  3. ○c.  ビタミンC ―― 出血傾向

    正しい。ビタミンC(アスコルビン酸)は、コラーゲンを構成するプロリン・リシンの水酸化を担う酵素(プロリン水酸化酵素・リシン水酸化酵素)の補因子として働く。欠乏するとコラーゲンの三重らせん構造が安定せず、血管壁や結合組織がもろくなる。その結果、歯肉の腫脹・出血、皮下出血・毛包周囲の点状出血、関節内出血、創傷治癒の遅延などをきたす。これが壊血病であり、血小板数や凝固因子の異常ではなく血管壁の脆弱性による出血傾向である点が特徴である。小児ではMoeller-Barlow病(骨膜下出血など)と呼ばれる。偏食や野菜・果物の摂取不足、アルコール依存症、高齢者の独居などで生じうる。

  4. ×d.  カルシウム ―― 貧血

    誤り。カルシウムは貧血の原因とはならない。貧血の原因となる栄養素の欠乏には、鉄(小球性貧血)、ビタミンB12・葉酸(巨赤芽球性貧血)、銅などがある。カルシウムの摂取不足が長期に続くと、骨量が減少し骨粗鬆症の一因となる。小児では、ビタミンD欠乏とともにカルシウム摂取不足もくる病の原因となる。また低カルシウム血症では神経・筋の興奮性が高まり、テタニー、手足のしびれ、Trousseau徴候・Chvostek徴候、QT延長などがみられる。ただし血中カルシウム濃度は副甲状腺ホルモンやビタミンDによって厳密に調節されているため、摂取不足だけで低カルシウム血症になることは少ない。

  5. ×e.  亜鉛 ―― 夜盲

    誤り。夜盲の典型的な原因はビタミンA欠乏である。ビタミンA(レチノール)から生じるレチナールは、網膜の杆体にある視物質ロドプシンの構成成分であり、欠乏すると暗所での視機能が低下する。亜鉛欠乏の代表的な症状は味覚障害で、ほかに皮膚炎(口囲・陰部・四肢末端の皮疹、腸性肢端皮膚炎)、脱毛、口内炎、創傷治癒の遅延、成長障害、性腺機能低下、免疫能低下、貧血などがみられる。なお亜鉛はビタミンAの代謝・輸送にも関わるため、高度の亜鉛欠乏が夜盲を助長することはあるが、両者を対応させる典型的な組合せではない。

主なビタミン欠乏症

脂溶性ビタミン ・ビタミンA:夜盲、眼球乾燥症・角膜軟化症(Bitot斑)、皮膚の角化、易感染性 ・ビタミンD:くる病(小児)、骨軟化症(成人)、低カルシウム血症 ・ビタミンE:溶血性貧血(未熟児)、脊髄小脳変性に似た神経障害 ・ビタミンK:出血傾向(凝固因子II・VII・IX・Xの活性低下)、新生児メレナ 水溶性ビタミン ・ビタミンB1(チアミン):脚気(末梢神経障害、高拍出性心不全)、Wernicke脳症、乳酸アシドーシス ・ビタミンB2(リボフラビン):口角炎、口唇炎、舌炎、脂漏性皮膚炎 ・ナイアシン(ビタミンB3):ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症) ・ビタミンB6:末梢神経障害、口角炎、けいれん、鉄芽球性貧血 ・ビタミンB12:巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症、Hunter舌炎 ・葉酸:巨赤芽球性貧血、妊娠初期の欠乏で胎児の神経管閉鎖障害 ・ビタミンC:壊血病(歯肉出血、皮下出血、創傷治癒遅延)

主なミネラル・微量元素の欠乏症

・鉄:鉄欠乏性貧血(小球性低色素性)、匙状爪、異食症 ・亜鉛:味覚障害、皮膚炎(腸性肢端皮膚炎)、脱毛、創傷治癒遅延、成長障害、性腺機能低下 ・銅:貧血、好中球減少、骨病変、神経障害(Menkes病は先天的な銅輸送障害) ・セレン:心筋症(克山病)、筋症状 ・ヨウ素:甲状腺腫、甲状腺機能低下症(先天性では発達障害) ・マグネシウム:テタニー、不整脈、低カルシウム血症・低カリウム血症の合併 ・カルシウム:骨粗鬆症、くる病の一因、低カルシウム血症によるテタニー

出血傾向をきたす栄養素欠乏の区別

ビタミンC欠乏は血管壁(コラーゲン)の異常による出血であり、血小板数や凝固検査は通常正常である。一方、ビタミンK欠乏は凝固因子の活性低下による出血で、PT(プロトロンビン時間)が延長する。

微量元素欠乏が問題となる状況

長期の中心静脈栄養や経腸栄養、短腸症候群などの吸収不良、アルコール依存症、偏食、高齢者では、ビタミン・微量元素欠乏が起こりやすい。

POINT

・ビタミンC欠乏 → 壊血病(コラーゲン合成障害による血管脆弱化 → 歯肉出血・皮下出血) ・ビタミンA欠乏 → 夜盲、眼球乾燥症 ・ナイアシン欠乏 → ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症の3D) ・亜鉛欠乏 → 味覚障害、皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延 ・マグネシウム欠乏 → テタニー、不整脈、低カルシウム血症・低カリウム血症 ・カルシウム不足 → 骨粗鬆症、くる病の一因(貧血の原因ではない) ・出血傾向:ビタミンC欠乏は血管壁の異常、ビタミンK欠乏は凝固因子の異常

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。