歯ぐきの出血は何の不足?―ビタミン・ミネラル欠乏症を「働き」から読み解く
第115回医師国家試験 F問題 第1問
国試問題にチャレンジ
栄養素とその欠乏によって起こる病態との組合せで正しいのはどれか。
- a.マグネシウム ―― 味覚障害
- b.ビタミンA ―― ペラグラ
- c.ビタミンC ―― 出血傾向
- d.カルシウム ―― 貧血
- e.亜鉛 ―― 夜盲
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ビタミンCはコラーゲンのプロリン・リシン水酸化に必要な補因子であり、欠乏すると血管壁が脆弱になって歯肉出血や皮下出血をきたす壊血病となります。血小板数や凝固検査は通常正常で、PTが延長するビタミンK欠乏との区別が重要です。夜盲はビタミンA、味覚障害は亜鉛、ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症)はナイアシン、貧血は鉄・ビタミンB12・葉酸・銅の欠乏で起こり、マグネシウム欠乏はテタニーや不整脈、低カルシウム血症・低カリウム血症を伴います。栄養素の「働き」から欠乏症を理解しておくと紛らわしい組合せ問題にも強くなり、中心静脈栄養中の患者や高齢者、アルコール依存症の患者を診る際の見逃し防止にもつながります。
解答・解説
正解はcです
栄養素(ビタミン・ミネラル)とその欠乏症の対応を問う基本問題である。各栄養素が体内でどのような働きをしているか(どの酵素の補酵素か、どの構造物の材料か)を押さえておけば、欠乏したときに何が起こるかを理屈で導ける。 本問の組合せを正しく対応させると次のようになる。 ・味覚障害 → 亜鉛欠乏 ・ペラグラ → ナイアシン(ビタミンB3)欠乏 ・出血傾向(壊血病) → ビタミンC欠乏 ・貧血 → 鉄、ビタミンB12、葉酸、銅などの欠乏 ・夜盲 → ビタミンA欠乏 ビタミンCはコラーゲン合成に不可欠であり、欠乏すると血管壁や結合組織が弱くなって出血しやすくなる(壊血病)。したがって「ビタミンC ―― 出血傾向」が正しい組合せである。他の選択肢は、栄養素と病態が入れ替えられた組合せになっている(亜鉛とビタミンAの欠乏症が別の選択肢に配置されている点に注目するとよい)。
選択肢考察
- ×a. マグネシウム ―― 味覚障害
誤り。味覚障害の代表的な原因は亜鉛欠乏である。マグネシウムは多くの酵素反応やATPの利用に関わり、神経・筋の興奮性の調節に重要である。欠乏(低マグネシウム血症)では、テタニーや筋けいれん、振戦、脱力、QT延長やトルサード・ド・ポアンツなどの不整脈、せん妄などの精神神経症状、食欲不振・悪心がみられる。また副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌と作用が障害されるため低カルシウム血症を、腎からのカリウム喪失により低カリウム血症を伴いやすい。原因にはアルコール多飲、下痢、プロトンポンプ阻害薬や利尿薬の長期使用などがある。
- ×b. ビタミンA ―― ペラグラ
誤り。ペラグラはナイアシン(ビタミンB3、ニコチン酸)の欠乏症で、皮膚炎(日光露出部の色素沈着を伴う皮疹)、下痢、認知症(精神神経症状)の3徴(3D:dermatitis, diarrhea, dementia)を特徴とする。ナイアシンは必須アミノ酸のトリプトファンからも合成されるため、トウモロコシを主食とする地域、アルコール依存症、カルチノイド症候群(トリプトファンがセロトニン合成に消費される)、Hartnup病(トリプトファンの吸収障害)などでみられる。ビタミンA欠乏では夜盲、眼球乾燥症・角膜軟化症、皮膚の乾燥・角化、易感染性などが生じる。
- ○c. ビタミンC ―― 出血傾向
正しい。ビタミンC(アスコルビン酸)は、コラーゲンを構成するプロリン・リシンの水酸化を担う酵素(プロリン水酸化酵素・リシン水酸化酵素)の補因子として働く。欠乏するとコラーゲンの三重らせん構造が安定せず、血管壁や結合組織がもろくなる。その結果、歯肉の腫脹・出血、皮下出血・毛包周囲の点状出血、関節内出血、創傷治癒の遅延などをきたす。これが壊血病であり、血小板数や凝固因子の異常ではなく血管壁の脆弱性による出血傾向である点が特徴である。小児ではMoeller-Barlow病(骨膜下出血など)と呼ばれる。偏食や野菜・果物の摂取不足、アルコール依存症、高齢者の独居などで生じうる。
- ×d. カルシウム ―― 貧血
誤り。カルシウムは貧血の原因とはならない。貧血の原因となる栄養素の欠乏には、鉄(小球性貧血)、ビタミンB12・葉酸(巨赤芽球性貧血)、銅などがある。カルシウムの摂取不足が長期に続くと、骨量が減少し骨粗鬆症の一因となる。小児では、ビタミンD欠乏とともにカルシウム摂取不足もくる病の原因となる。また低カルシウム血症では神経・筋の興奮性が高まり、テタニー、手足のしびれ、Trousseau徴候・Chvostek徴候、QT延長などがみられる。ただし血中カルシウム濃度は副甲状腺ホルモンやビタミンDによって厳密に調節されているため、摂取不足だけで低カルシウム血症になることは少ない。
- ×e. 亜鉛 ―― 夜盲
誤り。夜盲の典型的な原因はビタミンA欠乏である。ビタミンA(レチノール)から生じるレチナールは、網膜の杆体にある視物質ロドプシンの構成成分であり、欠乏すると暗所での視機能が低下する。亜鉛欠乏の代表的な症状は味覚障害で、ほかに皮膚炎(口囲・陰部・四肢末端の皮疹、腸性肢端皮膚炎)、脱毛、口内炎、創傷治癒の遅延、成長障害、性腺機能低下、免疫能低下、貧血などがみられる。なお亜鉛はビタミンAの代謝・輸送にも関わるため、高度の亜鉛欠乏が夜盲を助長することはあるが、両者を対応させる典型的な組合せではない。
主なビタミン欠乏症
脂溶性ビタミン ・ビタミンA:夜盲、眼球乾燥症・角膜軟化症(Bitot斑)、皮膚の角化、易感染性 ・ビタミンD:くる病(小児)、骨軟化症(成人)、低カルシウム血症 ・ビタミンE:溶血性貧血(未熟児)、脊髄小脳変性に似た神経障害 ・ビタミンK:出血傾向(凝固因子II・VII・IX・Xの活性低下)、新生児メレナ 水溶性ビタミン ・ビタミンB1(チアミン):脚気(末梢神経障害、高拍出性心不全)、Wernicke脳症、乳酸アシドーシス ・ビタミンB2(リボフラビン):口角炎、口唇炎、舌炎、脂漏性皮膚炎 ・ナイアシン(ビタミンB3):ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症) ・ビタミンB6:末梢神経障害、口角炎、けいれん、鉄芽球性貧血 ・ビタミンB12:巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症、Hunter舌炎 ・葉酸:巨赤芽球性貧血、妊娠初期の欠乏で胎児の神経管閉鎖障害 ・ビタミンC:壊血病(歯肉出血、皮下出血、創傷治癒遅延)
主なミネラル・微量元素の欠乏症
・鉄:鉄欠乏性貧血(小球性低色素性)、匙状爪、異食症 ・亜鉛:味覚障害、皮膚炎(腸性肢端皮膚炎)、脱毛、創傷治癒遅延、成長障害、性腺機能低下 ・銅:貧血、好中球減少、骨病変、神経障害(Menkes病は先天的な銅輸送障害) ・セレン:心筋症(克山病)、筋症状 ・ヨウ素:甲状腺腫、甲状腺機能低下症(先天性では発達障害) ・マグネシウム:テタニー、不整脈、低カルシウム血症・低カリウム血症の合併 ・カルシウム:骨粗鬆症、くる病の一因、低カルシウム血症によるテタニー
出血傾向をきたす栄養素欠乏の区別
ビタミンC欠乏は血管壁(コラーゲン)の異常による出血であり、血小板数や凝固検査は通常正常である。一方、ビタミンK欠乏は凝固因子の活性低下による出血で、PT(プロトロンビン時間)が延長する。
微量元素欠乏が問題となる状況
長期の中心静脈栄養や経腸栄養、短腸症候群などの吸収不良、アルコール依存症、偏食、高齢者では、ビタミン・微量元素欠乏が起こりやすい。
POINT
・ビタミンC欠乏 → 壊血病(コラーゲン合成障害による血管脆弱化 → 歯肉出血・皮下出血) ・ビタミンA欠乏 → 夜盲、眼球乾燥症 ・ナイアシン欠乏 → ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症の3D) ・亜鉛欠乏 → 味覚障害、皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延 ・マグネシウム欠乏 → テタニー、不整脈、低カルシウム血症・低カリウム血症 ・カルシウム不足 → 骨粗鬆症、くる病の一因(貧血の原因ではない) ・出血傾向:ビタミンC欠乏は血管壁の異常、ビタミンK欠乏は凝固因子の異常
