その1本が治療を決める―血液培養「正しい採り方」の理由をひもとく
第115回医師国家試験 E問題 第11問
国試問題にチャレンジ
成人患者に対する血液培養検体の採取方法について正しいのはどれか。
- a.抗菌薬投与後に検体を採取する。
- b.2セットとも1か所から採血する。
- c.採血部位の皮膚消毒後,消毒薬が乾く前に採血を行う。
- d.採取後の血液は好気ボトル,嫌気ボトルの順に入れる。
- e.ボトルに検体を注入後,ボトル内の培地と血液を転倒混和する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血液培養の採取では、原因菌の検出感度を上げることと、皮膚常在菌のコンタミネーションを防ぎ判別できるようにすることが目標です。抗菌薬投与前に、好気・嫌気ボトル1組を1セットとして2セット以上を別々の部位から採取し、皮膚消毒後は消毒薬が乾くのを待って穿刺します。注射器採血では空気の混入を避けるため嫌気ボトルから先に注入し、注入後は転倒混和して血液と培地・抗凝固薬をよく混ぜ、提出までは冷蔵せず室温で保管します。結果の解釈では、皮膚常在菌が1セットのみから検出された場合は混入を疑い、黄色ブドウ球菌などは1セットでも原因菌として扱います。手技の根拠を理解しておくことは、正確な診断と適切な抗菌薬治療を支える臨床の基本です。
解答・解説
正解はeです
血液培養は、菌血症・敗血症や感染性心内膜炎などの診断と、原因菌に合わせた抗菌薬選択に欠かせない検査である。しかし血液中の菌量はわずかであることが多く、また皮膚の常在菌が混入(コンタミネーション)すると「偽陽性」となって誤った治療につながる。したがって採取手技の目標は、(1) 原因菌の検出感度をできるだけ上げること、(2) 皮膚常在菌の混入を防ぎ、混入した場合にはそれと判別できるようにすること、の2点に集約される。
検出感度を上げる工夫
・抗菌薬投与前に採取する ・2セット以上採取する(1セット=好気ボトル1本+嫌気ボトル1本) ・十分な血液量を採る(成人では1セットあたり約20 mL、各ボトルに8~10 mL程度) ・ボトル内の培地と血液をよく混ぜ、血液の凝固を防いで菌の発育を促す
コンタミネーション対策
・皮膚をしっかり消毒し、消毒薬が乾いて殺菌効果が発揮されてから穿刺する ・ボトルのゴム栓もアルコールで消毒する ・2セットを別々の部位から採取し、片方のみから表皮ブドウ球菌などの常在菌が検出された場合には混入を疑えるようにする 各選択肢はこれらの原則に照らして判断すればよい。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬投与後に検体を採取する。
誤り。抗菌薬が投与されると血液中の菌が減少・死滅したり、ボトル内で発育が抑えられたりして、原因菌の検出率が大きく低下する。血液培養は抗菌薬を開始する前に採取するのが原則である。敗血症が疑われ抗菌薬投与を急ぐ場合でも、投与開始を不必要に遅らせない範囲で、可能な限り投与前に2セットを採取する。すでに抗菌薬投与中の患者では、次回投与の直前(血中濃度が最も低い時期)に採取するなどの工夫を行う。
- ×b. 2セットとも1か所から採血する。
誤り。2セットは異なる部位(例えば左右の上肢の静脈)から採取する。別々の部位から採取することで、2セットとも同じ菌が検出されれば真の菌血症、片方だけから皮膚常在菌が検出されればコンタミネーションの可能性が高い、と判断できる。同じ部位から採取すると両方に同じ混入菌が入る可能性があり、この判別ができなくなる。また複数セット採取することで採血量が増え、検出感度も向上する。なお、血管内カテーテル留置中の患者でカテーテル関連血流感染を疑う場合は、カテーテルからの採血と末梢静脈からの採血を組み合わせることがある。
- ×c. 採血部位の皮膚消毒後,消毒薬が乾く前に採血を行う。
誤り。消毒薬は皮膚に塗布してから一定時間が経過し、乾燥することで十分な殺菌効果を発揮する。特にポビドンヨードは乾燥まで(おおむね2分程度)待つ必要がある。乾く前に穿刺すると皮膚常在菌が十分に除去されず、コンタミネーションの原因となる。また乾燥後は穿刺部位に再度触れないようにする。消毒にはアルコールでの清拭に続いてポビドンヨードを用いる方法や、アルコール含有クロルヘキシジンを用いる方法がある。
- ×d. 採取後の血液は好気ボトル,嫌気ボトルの順に入れる。
誤り。注射器で採血した場合、注射器内には空気が混入していることがあるため、先に好気ボトルへ注入すると、その後に注入する嫌気ボトルに空気が入りやすくなる。嫌気性菌の発育を妨げないよう、まず嫌気ボトル、次に好気ボトルの順に注入するのが原則である。なお、翼状針と採血ホルダーを用いて直接ボトルに分注する方式では、チューブ内の空気が先に入る1本目を好気ボトルとすることが推奨されており、器具により順序が異なる点は知っておくとよい。
- ○e. ボトルに検体を注入後,ボトル内の培地と血液を転倒混和する。
正しい。血液培養ボトルには培地と抗凝固薬(SPSなど)が入っている。注入後に静かに数回転倒混和することで、血液と培地・抗凝固薬が均一に混ざり、血液の凝固を防ぐとともに、菌が培地中で発育しやすい状態になる。混和が不十分だと凝固塊の中に菌が閉じ込められたり、自動検出装置での判定に影響したりするおそれがある。
成人の血液培養採取の手順(注射器を用いる場合の例)
1. 適応の判断:発熱・悪寒戦慄、原因不明の意識障害や低血圧、感染性心内膜炎の疑いなど 2. 手指衛生と手袋の着用 3. ボトルのキャップを外し、ゴム栓をアルコール綿で消毒する 4. 穿刺部位の皮膚を消毒し、乾燥するまで待つ(乾燥後は触れない) 5. 静脈から1セットあたり約20 mL採血する 6. 嫌気ボトル→好気ボトルの順に、各8~10 mL程度注入する(過量注入は偽陽性の原因になり得るため、ボトルの推奨量を守る) 7. 転倒混和する 8. 別の部位から同様にもう1セット採取する 9. 速やかに検査室へ提出する。すぐに提出できない場合は室温で保管し、冷蔵庫には入れない(低温で死滅しやすい菌があるため)
採取部位について
原則として末梢静脈から採取する。動脈血を用いても検出率に明らかな利点はない。大腿静脈は皮膚の汚染が多く、コンタミネーションを起こしやすいため、できれば避ける。
コンタミネーションを疑う菌
表皮ブドウ球菌などのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、コリネバクテリウム属、バシラス属(炭疽菌を除く)、キューティバクテリウム(アクネ菌)など皮膚常在菌が、複数セットのうち1セットだけから検出された場合は混入を疑う。一方、黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎球菌、カンジダなどは1セットからの検出でも原因菌として扱う。
感染性心内膜炎を疑う場合
持続的な菌血症を確認するため、時間をあけて3セット以上採取することが推奨される。
POINT
・血液培養は抗菌薬投与前に、2セット以上を別々の部位から採取する。 ・1セット=好気ボトル+嫌気ボトル、成人で1セットあたり約20 mL。 ・皮膚消毒後は消毒薬が乾くのを待ってから穿刺し、ボトルのゴム栓も消毒する。 ・注射器で採血した場合は嫌気ボトル→好気ボトルの順に注入する。 ・注入後は転倒混和し、提出まで冷蔵しない。
