StudyMed医師国家試験

測りながら使う抗菌薬―バンコマイシンとTDMの考え方

第115回医師国家試験 D問題 第2問

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第115回 D問題 第2問

点滴投与を行う際,血中濃度のモニタリングが必要な薬剤はどれか。

  1. a.クリンダマイシン
  2. b.セファゾリン
  3. c.バンコマイシン
  4. d.ペニシリンG
  5. e.レボフロキサシン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、点滴で使う抗菌薬のうち「血中濃度を測りながら使う薬」はどれか、という問題だ。カギになるのは、治療薬物モニタリング、いわゆるTDMがどんな薬で必要になるのか、その条件を理解しているかどうか。まずはTDMという言葉から確認しよう。
医学生医学生
薬の血中濃度を実際に測って、投与量を調節することですよね。薬理学の講義で、ジゴキシンやテオフィリンが例に出ていました。
ドクタードクター
その通り。では、なぜ全部の薬で測らないのかな。どんな性質の薬なら測る必要があると思う?
医学生医学生
副作用が出やすい薬、でしょうか。
ドクタードクター
方向性はいいね。もう少し正確に言うと、条件は3つある。1つ目は、効く濃度と中毒になる濃度が近い、つまり治療域が狭いこと。2つ目は、腎機能や体格、年齢などで体内動態の個人差が大きく、同じ量を入れても血中濃度がばらつくこと。3つ目は、血中濃度と効果・副作用の関係がはっきりしていること。この3つがそろうと、測る意味が大きくなるんだ。
医学生医学生
その条件で選択肢を見ると、バンコマイシンが当てはまりそうです。臨床実習で感染症内科を回ったとき、薬剤部から「トラフ値が出ました」と連絡が来ていました。
ドクタードクター
正解はバンコマイシンだ。MRSAなど耐性グラム陽性菌に使うグリコペプチド系で、腎臓から排泄されるため、腎機能によって血中濃度が大きく変わる。高い濃度が続けば腎障害を起こし、逆に低すぎればMRSAに効かず耐性化も招く。だから点滴で使うときは早い段階から濃度を測って投与設計をするのが標準なんだ。
医学生医学生
トラフ値、つまり次の投与直前の最低濃度を見ればいい、と覚えていました。
ドクタードクター
従来はそうだった。ただ最近は、トラフ値だけで管理すると腎障害が増えやすいことがわかり、有効性と腎障害リスクの両方によく相関するAUC、つまり血中濃度−時間曲線下面積を指標にする方法が推奨されている。知識をアップデートしておこう。
医学生医学生
ほかの選択肢はどうでしょう。セファゾリンやペニシリンGのβ-ラクタム系は、測らなくて大丈夫なんですか。
ドクタードクター
β-ラクタム系は安全域が広いから、通常は濃度測定はしない。効果は、血中濃度がMICを上回っている時間の割合、time above MICと相関する時間依存性の薬なので、1日量を分割したり持続点滴したりして時間を稼ぐのがコツだ。ちなみにペニシリンGの静注用製剤はカリウム塩だから、大量投与や腎機能低下例では高カリウム血症に注意したい。
医学生医学生
レボフロキサシンは腎機能で量を調節すると習いましたが、それでも測らないんですね。
ドクタードクター
いい点に気づいたね。腎機能に応じた用量調節は必要だけど、治療域が広いから濃度測定までは通常しない。ニューキノロン系は濃度依存性で、半減期も長いので1日1回まとめて投与する。副作用ではQT延長、アキレス腱断裂などの腱障害、NSAIDs併用での痙攣を押さえておこう。
医学生医学生
クリンダマイシンは偽膜性腸炎のイメージが強いです。
ドクタードクター
そうだね。Clostridioides difficile感染症を起こしやすい代表的な薬だ。もう一つ、急速静注で心停止の報告があるので、点滴でゆっくり入れることも大事。嫌気性菌に強く、毒素産生を抑える目的で壊死性軟部組織感染症に併用されることもある。ただ、ルーチンの濃度測定は不要だ。
医学生医学生
整理すると、治療域が狭くて個人差が大きい薬を測る、抗菌薬ならバンコマイシン、ということですね。
ドクタードクター
その理解でいい。発展として、抗菌薬でTDMの対象になるのはバンコマイシン、テイコプラニンのグリコペプチド系と、ゲンタマイシンやアミカシンなどのアミノグリコシド系。抗真菌薬ではボリコナゾールも対象だ。アミノグリコシド系は、点滴後のピーク値が効果、トラフ値が腎毒性や聴器毒性の指標になるので、1日1回投与でピークを高く、トラフを低くするのが基本になる。
医学生医学生
抗菌薬以外だと、抗てんかん薬やリチウム、免疫抑制薬のタクロリムスもTDMの対象でしたね。CBTの過去問でよく見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。臨床での注意点も一つ。バンコマイシンは急速に入れると、ヒスタミン遊離で顔や首が赤くなり血圧が下がる注入反応、かつてレッドマン症候群と呼ばれたものが起こる。だから60分以上かけて点滴する。濃度を測ることと、ゆっくり入れること、この2つをセットで覚えておこう。

まとめ

血中濃度のモニタリング(TDM)は、治療域が狭く、腎機能などによる体内動態の個人差が大きく、血中濃度と効果・副作用の相関が明確な薬で必要になります。選択肢の中ではバンコマイシンがこれに当てはまり、腎排泄型で高濃度では腎障害、低濃度では治療失敗や耐性化を招くため、点滴時は濃度を測って投与設計します。指標は従来のトラフ値から、現在はAUCを用いる方法が推奨されています。β-ラクタム系、クリンダマイシン、レボフロキサシンは治療域が広く、通常は濃度測定を要しませんが、アミノグリコシド系、テイコプラニン、ボリコナゾールなどはTDMの対象です。どの薬をなぜ測るのかを理解することは、抗菌薬を安全かつ効果的に使う力の土台になります。

解答・解説

正解はcです

テーマ

治療薬物モニタリング(TDM:therapeutic drug monitoring)の対象となる抗菌薬を問う問題である。

TDMが必要になる薬の条件

TDMとは、薬の血中濃度を実際に測定し、その値を見ながら投与量や投与間隔を個々の患者に合わせて調節することである。次のような性質をもつ薬で必要となる。 ・有効な血中濃度域(治療域)が狭く、効果の出る濃度と副作用(中毒)の出る濃度が近い ・腎機能・体格・年齢などで体内動態の個人差が大きく、同じ量を投与しても血中濃度が大きくばらつく ・血中濃度と効果・副作用との相関がはっきりしている

本問の考え方

選択肢の中では、バンコマイシンが上記の条件をすべて満たす。腎排泄型で腎機能により血中濃度が大きく変動し、高濃度が続くと腎障害を起こす一方、濃度が不足するとMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などに対する治療効果が得られず耐性化も招く。そのため初回投与後早期から血中濃度を測定して投与設計を行うことが標準となっている。 一方、β-ラクタム系(セファゾリン、ペニシリンG)、リンコマイシン系(クリンダマイシン)、ニューキノロン系(レボフロキサシン)は治療域が広く、通常の診療では血中濃度測定を必要としない。

選択肢考察

  1. ×a.  クリンダマイシン

    リンコマイシン系の抗菌薬で、細菌リボソームの50Sサブユニットに結合してタンパク合成を阻害する。嫌気性菌やグラム陽性球菌に有効で、毒素産生抑制作用を期待して壊死性軟部組織感染症やトキシックショック症候群でも併用される。治療域が広く、ルーチンの血中濃度測定は不要である。注意点は、急速静注により心停止を起こした報告があるため点滴でゆっくり投与すること、また Clostridioides difficile 感染症(偽膜性腸炎)を起こしやすいことである。

  2. ×b.  セファゾリン

    第1世代セファロスポリン系(β-ラクタム系)の抗菌薬で、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)やレンサ球菌に有効であり、術後感染予防にも広く用いられる。β-ラクタム系は時間依存性の殺菌作用をもち、血中濃度がMIC(最小発育阻止濃度)を上回っている時間の割合(time above MIC)が効果と相関するため、1日量を分割して投与する。安全域が広く、通常は血中濃度測定を必要としない。

  3. ○c.  バンコマイシン

    グリコペプチド系の抗菌薬で、MRSAなどの耐性グラム陽性菌感染症に用いられる(経口投与はほとんど吸収されず、C. difficile 感染症に対して腸管内で作用させる目的で使われる)。点滴静注では腎排泄により消失するため腎機能で血中濃度が大きく変わり、高濃度の持続は腎障害の原因となる。一方で濃度が低すぎると効果不十分となる。このため点滴投与時はTDMが必須であり、従来は投与直前のトラフ値を指標としていたが、現在は有効性と腎障害リスクの両方とよく相関するAUC(血中濃度−時間曲線下面積)を指標にした投与設計が推奨されている。急速投与ではヒスタミン遊離による顔面・頸部の紅潮や血圧低下(バンコマイシン注入反応、かつてのレッドマン症候群)が起こるため、60分以上かけて点滴する。

  4. ×d.  ペニシリンG

    天然のペニシリンで、レンサ球菌、肺炎球菌(感受性株)、梅毒トレポネーマなどに有効である。β-ラクタム系であり時間依存性の薬剤なので、頻回投与や持続点滴でtime above MICを確保する。治療域が広く、血中濃度測定は不要である。静注用製剤はカリウム塩であるため、大量投与時や腎機能障害のある患者では高カリウム血症に注意する。

  5. ×e.  レボフロキサシン

    ニューキノロン系の抗菌薬で、DNAジャイレース・トポイソメラーゼIVを阻害する。濃度依存性の殺菌作用をもち、ピーク濃度やAUCとMICの比が効果と相関するうえ、半減期が長いため1日1回の大量投与が行われる。腎機能に応じた用量調節は必要だが、血中濃度測定は通常行わない。副作用としてQT延長、腱障害(アキレス腱断裂)、痙攣(NSAIDsとの併用で誘発されやすい)、血糖異常などがあり、わが国の添付文書では妊婦または妊娠の可能性のある女性および小児(一部の例外を除く)には禁忌とされている。

TDMの対象となる主な薬剤

・抗菌薬:グリコペプチド系(バンコマイシン、テイコプラニン)、アミノグリコシド系(ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、アルベカシン) ・抗真菌薬:ボリコナゾール ・強心薬:ジゴキシン ・気管支拡張薬:テオフィリン ・抗てんかん薬:フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸、フェノバルビタールなど ・気分安定薬:リチウム ・免疫抑制薬:シクロスポリン、タクロリムス ・抗不整脈薬の一部、メトトレキサート大量療法 など

抗菌薬のPK/PD(薬物動態/薬力学)による分類

・時間依存性:time above MIC が効果と相関。β-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)など。分割投与・持続投与が有利。 ・濃度依存性:最高血中濃度(Cmax)/MIC や AUC/MIC が効果と相関。アミノグリコシド系、ニューキノロン系など。1日1回まとめて投与する方が有利。 ・AUC/MIC 依存性(時間依存性で持続効果あり):バンコマイシンなど。1日量全体の曝露量(AUC)が重要。

アミノグリコシド系とバンコマイシンのTDMの指標

・アミノグリコシド系:点滴終了後のピーク値(Cmax)が有効性の指標、次回投与直前のトラフ値が腎毒性・聴器毒性など安全性の指標となる。1日1回投与でピークを高く、トラフを十分低くする。 ・バンコマイシン:AUCを有効性・安全性の共通指標とする(トラフ値のみでの管理は腎障害を増やしやすいとされ、AUCガイドへ移行した)。

採血のタイミング

トラフ値は次回投与の直前に採血する。血中濃度がほぼ定常状態に達してから評価するのが原則だが、重症例では初回投与量(負荷投与)を用いて早期に目標濃度へ到達させる。

POINT

・TDMは治療域が狭く、個人差が大きく、濃度と効果・副作用の相関が明確な薬で行う ・抗菌薬のTDM対象:バンコマイシン、テイコプラニン、アミノグリコシド系、(抗真菌薬)ボリコナゾール ・バンコマイシンは腎障害・バンコマイシン注入反応に注意し、AUCを指標に投与設計(従来はトラフ値) ・β-ラクタム系は時間依存性、アミノグリコシド系・ニューキノロン系は濃度依存性 ・クリンダマイシンは急速静注で心停止の報告あり、偽膜性腸炎に注意

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。