FSHが叫ぶ「卵巣が応えない」―ホルモンのパターンで無月経の障害部位を探る
第115回医師国家試験 D問題 第1問
国試問題にチャレンジ
FSHが高値となる無月経の障害部位はどれか。
- a.視床下部
- b.下垂体
- c.卵巣
- d.子宮
- e.腟
対話形式の解説
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ドクターまとめ
月経は視床下部のGnRH、下垂体のFSH・LH、卵巣のエストロゲンという階層で調節され、卵巣由来のエストロゲンとインヒビンが上位中枢に負のフィードバックをかけています。卵巣が障害されるとこのブレーキが外れ、正常な下垂体からFSH・LHが過剰分泌される高ゴナドトロピン・低エストロゲン状態となり、特にFSHの上昇が目立ちます。一方、視床下部性・下垂体性ではFSH・LHは低値〜正常(両者の区別はGnRH負荷試験)、子宮性・腟性では内分泌は正常で、腟閉鎖などでは周期的腹痛を伴う偽無月経となります。代表的な卵巣性の原因には早発卵巣不全やTurner症候群、医原性の卵巣機能低下があり、エストロゲン欠乏に伴う骨や心血管への影響にも配慮が必要です。フィードバックの原理から障害部位を推定する考え方は、無月経に限らず内分泌疾患全般の診断に応用できる基本となります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
無月経の障害部位を、ホルモン値のパターンから推定する問題である。
視床下部−下垂体−卵巣系とフィードバック
月経周期は、視床下部から出るGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)が下垂体前葉を刺激してFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)を分泌させ、これらが卵巣に働いて卵胞発育とエストロゲン(主にエストラジオール)・プロゲステロンの産生を起こすことで成り立っている。卵巣から出たエストロゲンや、卵胞の顆粒膜細胞が出すインヒビンは、視床下部・下垂体に負のフィードバックをかけてFSHの分泌を抑えている。
障害部位とホルモンの関係
・上位(視床下部・下垂体)の障害:ゴナドトロピン(FSH・LH)の分泌そのものが落ちるため、FSH・LHは低値〜正常で、その結果卵巣が刺激されずエストロゲンも低値となる(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。 ・卵巣の障害:卵巣がエストロゲンやインヒビンを作れないため負のフィードバックが外れ、下垂体は正常なのでFSH・LHが過剰に分泌されて高値となる(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。特にFSHはインヒビンの抑制も失うため上昇が目立つ。 ・子宮・腟の障害:視床下部−下垂体−卵巣系は正常に働いているので、ゴナドトロピン・エストロゲンとも正常である。 したがって、FSHが高値となるのは障害部位が卵巣にある場合である。
選択肢考察
- ×a. 視床下部
視床下部性無月経ではGnRHの分泌(特にその周期的・パルス状の分泌)が低下するため、下垂体からのFSH・LH分泌も減り、FSHは低値〜正常となる。卵巣は刺激されずエストラジオールも低値となる。原因として、体重減少・神経性やせ症、過度の運動、精神的ストレスなどによる機能性のものが多く、Kallmann症候群のような先天性のものもある。FSH高値とはならないので誤りである。
- ×b. 下垂体
下垂体性無月経では、下垂体前葉自体がゴナドトロピンを分泌できないため、FSH・LHは低値となり、エストラジオールも低値となる。原因にはSheehan症候群(分娩時大量出血による下垂体壊死)、下垂体腫瘍、リンパ球性下垂体炎などがある。なお、高プロラクチン血症もGnRH分泌を抑えてゴナドトロピン低値型の無月経を起こす。視床下部性との区別にはGnRH負荷試験を用い、GnRH投与でFSH・LHが上昇すれば視床下部性、上昇しなければ下垂体性と判断する。FSH高値とはならないので誤りである。
- ○c. 卵巣
卵巣性無月経では卵胞が枯渇・機能不全となり、エストラジオールとインヒビンが産生されない。そのため視床下部・下垂体への負のフィードバックが失われ、正常な下垂体からFSH・LHが過剰に分泌されて高値となる(高ゴナドトロピン・低エストロゲン)。代表的な原因は早発卵巣不全(40歳未満での卵巣機能停止)、Turner症候群などの性腺形成異常、化学療法・放射線治療・卵巣手術後などである。閉経後も同じ機序でFSHが上昇する。よってこれが正解である。
- ×d. 子宮
子宮性無月経では、卵巣は正常に排卵・ホルモン分泌を行っているが、子宮内膜がそれに反応して増殖・剥脱できないために月経が起こらない。代表例は子宮内腔の癒着を起こすAsherman症候群(子宮内容除去術などの後)や、子宮内膜の結核、Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群(子宮・腟の欠損)などである。視床下部−下垂体−卵巣系は正常なので、FSH・LH・エストロゲンはいずれも正常であり、誤りである。エストロゲン・プロゲステロンを投与しても消退出血が起こらないことが子宮性の特徴である。
- ×e. 腟
処女膜閉鎖や腟閉鎖・腟欠損では、子宮内膜は周期的に剥脱して出血しているが、経血が体外に出られないため外見上無月経となる(このため潜伏月経・偽無月経とも呼ばれる)。経血が腟や子宮内に貯留して周期的な下腹部痛を伴うのが特徴である。内分泌系は正常であり、FSHは高値とならないので誤りである。
内分泌検査による無月経の障害部位の推定
・視床下部性:FSH・LH 低値〜正常、エストロゲン低値、GnRH負荷試験でFSH・LH 反応あり(反復投与で回復することも多い) ・下垂体性:FSH・LH 低値、エストロゲン低値、GnRH負荷試験で反応なし ・卵巣性:FSH・LH 高値(特にFSH)、エストロゲン低値 ・子宮性:FSH・LH 正常、エストロゲン正常、ホルモン負荷しても消退出血なし ・腟性(偽無月経):内分泌は正常、経血の貯留による周期的腹痛
ゲスターゲン(プロゲスチン)試験とエストロゲン・ゲスターゲン試験
無月経の程度を評価する検査である。 ・ゲスターゲン投与で消退出血あり → 第1度無月経(ある程度のエストロゲン分泌が保たれている) ・ゲスターゲンでは出血せず、エストロゲンとゲスターゲンの併用で出血あり → 第2度無月経(エストロゲン分泌が乏しい) ・両者を投与しても出血なし → 子宮性無月経を疑う
早発卵巣不全(POI:premature ovarian insufficiency)
40歳未満で卵巣機能が低下し、無月経・FSH高値・エストロゲン低値を示す状態である。染色体異常(Turner症候群など)、自己免疫、医原性(化学療法・放射線・手術)などが原因となるが、原因不明も多い。エストロゲン欠乏による骨量減少や心血管リスク上昇があるため、ホルモン補充療法が行われる。
FSHが特に上がりやすい理由
FSHはエストロゲンに加え、顆粒膜細胞由来のインヒビンBによっても選択的に抑制されている。卵巣機能が低下するとインヒビンが早期に減少するため、LHよりもFSHの上昇が先行し、目立ちやすい。
POINT
・卵巣性無月経:負のフィードバック消失によりFSH・LH高値、エストロゲン低値(高ゴナドトロピン性) ・視床下部性・下垂体性:FSH・LH低値〜正常、エストロゲン低値(低ゴナドトロピン性)。両者の区別はGnRH負荷試験 ・子宮性・腟性:内分泌は正常 ・腟の閉鎖による無月経は経血の流出障害による偽無月経で、周期的腹痛を伴う
