濁った関節液は炎症のサイン―高齢者の急性単関節炎で必ず考える2つの疾患
第115回医師国家試験 C問題 第57問
国試問題にチャレンジ
78歳の女性。左膝関節痛を主訴に来院した。2日前に誘因なく左膝関節痛が出現し,次第に増悪してきたため受診した。膝関節に腫脹を認め,発赤,熱感を伴っている。関節穿刺で,黄白色のやや混濁した関節液を認めた。 可能性が高い疾患はどれか。2つ選べ。
- a.偽痛風
- b.半月板断裂
- c.化膿性関節炎
- d.特発性膝骨壊死
- e.変形性膝関節症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢者に急性発症した単関節炎で、腫脹・発赤・熱感を伴い関節液が混濁している場合は、偽痛風と化膿性関節炎をまず考えます。偽痛風はピロリン酸カルシウム結晶による結晶誘発性関節炎で高齢者の膝に好発し、偏光顕微鏡で弱い正の複屈折を示す結晶やX線での軟骨石灰化が診断の手がかりとなります。化膿性関節炎は関節破壊や敗血症を招くため最も見逃してはならず、関節液のグラム染色・培養が必須で、結晶が見つかっても感染の合併を否定する根拠にはなりません。変形性膝関節症、半月板断裂、特発性膝骨壊死では関節液は非炎症性で透明であり、関節液の性状が鑑別の大きな手がかりになります。「急性単関節炎を見たら関節穿刺」という原則を身につけることが、救急や外来で関節を守り、命に関わる感染を見逃さないための基本です。
解答・解説
正解はa, cです
所見の整理
・78歳の高齢女性。 ・2日前に外傷などのきっかけなく左膝関節痛が出現し、日を追って増悪している(急性発症・進行性)。 ・膝関節に腫脹があり、発赤と熱感を伴う(炎症の徴候がそろっている)。 ・関節穿刺で黄白色のやや混濁した関節液が得られた。
診断へのプロセス
関節痛の鑑別では、①急性か慢性か、②単関節か多関節か、③炎症所見(発赤・熱感・腫脹)の有無、④関節液の性状、の4点が手がかりになる。本例は急性発症の単関節炎で、局所に強い炎症徴候を認める。 関節液は、正常や非炎症性の病態(変形性関節症、半月板損傷など)では淡黄色・透明で粘稠度が高いのに対し、炎症性の病態では白血球が増えて混濁し、粘稠度が低下する。外傷による関節内骨折や靱帯損傷では血性となる。本例の「黄白色でやや混濁」は炎症性関節液を示しており、高齢者の急性単関節炎で混濁した関節液を呈する代表的疾患として、結晶誘発性関節炎の一つである偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶沈着症)と、細菌感染による化膿性関節炎が挙がる。 両者は臨床像が非常に似ており、症状だけでは区別できない。化膿性関節炎は放置すれば数日で関節軟骨が破壊され、敗血症にも至りうるため、関節液のグラム染色・細菌培養、偏光顕微鏡による結晶検索、白血球数の測定を行い、確実に鑑別する必要がある。
選択肢考察
- ○a. 偽痛風
偽痛風はピロリン酸カルシウム二水和物(CPPD)の結晶が関節内に沈着・遊離し、急性の結晶誘発性関節炎を起こす病態である。高齢者に多く、膝関節が最も好発部位で、誘因なく急激に発症し、関節の腫脹・発赤・熱感を伴う。関節液は白血球の増加により混濁する。偏光顕微鏡で弱い正の複屈折を示す菱形~短桿状の結晶を証明すれば診断が確定し、単純X線で半月板や関節軟骨の石灰化(軟骨石灰化症)を認めることも参考になる。本例の経過・所見によく合致する。
- ×b. 半月板断裂
半月板断裂は外傷(膝のひねり)や加齢による変性を背景に生じ、疼痛、引っかかり感、嵌頓症状(ロッキング)などを呈する。関節水腫を伴うことはあるが、関節液は非炎症性で淡黄色透明(辺縁部断裂では血性のこともある)であり、強い発赤・熱感や混濁した関節液は説明できない。
- ○c. 化膿性関節炎
化膿性関節炎は細菌(成人では黄色ブドウ球菌が最多)が血行性・直接的に関節内へ侵入して起こる。急速に進行する関節痛と、腫脹・発赤・熱感を呈し、関節液は白血球(主に好中球)が著増して混濁し、膿性となることもある。高齢、糖尿病、ステロイド使用、関節リウマチ、人工関節などが危険因子である。本例の所見とよく合致し、軟骨破壊や敗血症を防ぐため早期に関節液のグラム染色・培養を行い、抗菌薬投与と関節洗浄・ドレナージを検討すべき疾患である。
- ×d. 特発性膝骨壊死
特発性膝骨壊死は中高年女性に多く、大腿骨内側顆に好発する。誘因なく突然の強い膝痛(夜間痛を伴うことが多い)で発症する点は本例と似るが、局所に明らかな発赤や熱感を伴うことは少なく、関節液も非炎症性で透明である。混濁した関節液は本症では説明しにくい。診断にはMRIが有用である。
- ×e. 変形性膝関節症
変形性膝関節症は高齢女性に最も多い膝疾患であるが、関節軟骨の変性・摩耗を基盤とした慢性・緩徐進行性の疾患で、動作開始時痛や歩行時痛を特徴とする。関節水腫を伴っても関節液は淡黄色透明で粘稠であり、混濁はみられない。明らかな発赤・熱感を伴う急性炎症像も典型的でない。
関節液の性状による分類(目安)
・正常:淡黄色、透明、粘稠度高い、白血球200/μL未満。 ・非炎症性(変形性関節症、半月板損傷、骨壊死など):淡黄色、透明、粘稠度高い、白血球2,000/μL未満。 ・炎症性(関節リウマチ、痛風、偽痛風など):黄色~黄白色、混濁、粘稠度低下、白血球2,000~数万/μL。 ・化膿性(化膿性関節炎):黄白色~膿性、強い混濁、粘稠度低下、白血球5万/μL以上となることが多く、好中球優位。 ・血性:関節内骨折、前十字靱帯損傷、色素性絨毛結節性滑膜炎、血友病など。骨折では脂肪滴が浮くことがある。 白血球数は重なり合うため、数値だけで偽痛風と化膿性関節炎を区別することはできない。また結晶性関節炎と感染が合併することもあり、結晶が見つかってもグラム染色・培養の結果を確認することが重要である。
偽痛風と痛風の比較
・痛風:尿酸ナトリウム結晶。針状で強い負の複屈折。中年男性に多く、第1中足趾節関節に好発。高尿酸血症が背景。 ・偽痛風:ピロリン酸カルシウム結晶。菱形~短桿状で弱い正の複屈折。高齢者に多く、膝関節に好発し、手関節・肩・股関節にも起こる。X線で軟骨石灰化を認める。副甲状腺機能亢進症、ヘモクロマトーシス、低マグネシウム血症などに合併することがある。手術や重症疾患などの全身的ストレスが誘因になることもある。 治療は、偽痛風では安静・冷却、関節液の排液、NSAIDsやステロイドの関節内注射など。化膿性関節炎では原因菌を想定した抗菌薬の点滴静注と、関節穿刺・洗浄・ドレナージ(関節鏡視下または切開)を行う。
高齢者の急性単関節炎の考え方
まず化膿性関節炎を見逃さないことが最優先であり、「急性単関節炎=関節穿刺」が原則である。
POINT
・急性発症の単関節炎で腫脹・発赤・熱感があり、関節液が混濁 → 偽痛風と化膿性関節炎を考える。 ・偽痛風:高齢者の膝に好発、ピロリン酸カルシウム結晶(弱い正の複屈折)、X線で軟骨石灰化。 ・化膿性関節炎:関節破壊・敗血症を招くため最も見逃してはならない。グラム染色・培養が必須。 ・変形性膝関節症、半月板断裂、特発性膝骨壊死の関節液は非炎症性で透明。 ・血性関節液は関節内骨折や靱帯損傷(前十字靱帯など)を示唆する。
