その介入は「まだ起きていない病気」を防ぐか―重喫煙者で整理する予防の三段階
第115回医師国家試験 C問題 第35問
国試問題にチャレンジ
60歳の男性。50本/日の喫煙をしている。現在,糖尿病で自宅近くの診療所に通院し,内服薬による治療を受けている。また,脳梗塞の既往があり,抗血小板薬も内服している。年に1回の自治体のがん検診を受け,診療所では定期的な血液検査を受けている。 この患者における一次予防となるのはどれか。
- a.禁煙
- b.血糖降下薬の内服
- c.抗血小板薬の内服
- d.定期的なHbA1c測定
- e.肺がん検診での胸部エックス線撮影
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
予防の三段階は、疾病の自然史のどこに働きかけるかで分類され、一次予防は発生そのものの防止(禁煙などの生活習慣改善、予防接種、危険因子の除去)、二次予防は早期発見・早期治療(がん検診や健診)、三次予防は重症化・再発の防止とリハビリテーションです。すでに糖尿病や脳梗塞を発症している患者でも、重度の喫煙をやめることは肺癌やCOPDなどまだ起きていない疾患の発生を防ぐため一次予防にあたります。一方、血糖降下薬や抗血小板薬、診断後のHbA1c測定は既存疾患への介入、がん検診は早期発見であり、いずれも一次予防ではありません。臨床と公衆衛生で二次・三次予防の呼び方が異なることや、同じ検査でも対象者によって段階が変わることに注意が必要です。どの診療場面でも予防の段階を意識し、禁煙支援のような一次予防の機会を逃さない姿勢が臨床医には求められます。
解答・解説
正解はaです
患者の状況の整理
・60歳男性、1日50本の重度喫煙者(肺癌、慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉、虚血性心疾患、脳卒中など多くの疾患の危険因子をもつ)。 ・すでに糖尿病を発症しており、内服薬で治療中。 ・脳梗塞の既往があり、再発予防のため抗血小板薬を内服中。 ・年1回の自治体がん検診と、診療所での定期的な血液検査を受けている。
予防の三段階
公衆衛生学では、疾病の自然史(発症前→発症→進行・後遺症)のどの段階に働きかけるかで予防を三つに分ける(リーベルとクラークの分類が基になっている)。 ・一次予防:病気にかかる前の段階で、発生そのものを防ぐ。健康増進(生活習慣の改善、健康教育、栄養・運動)と特異的予防(予防接種、危険因子の除去、事故防止、職業病対策など)からなる。 ・二次予防:病気をできるだけ早い段階で見つけ、早期に治療して進行を食い止める。健診・検診、スクリーニングがその代表である。 ・三次予防:すでに発症した病気について、重症化・合併症・再発を防ぎ、機能障害を最小限にして社会復帰を図る。リハビリテーションが代表である。
本問の考え方
各選択肢について「すでに起きている病気に対する介入か」「まだ起きていない病気の発生を防ぐ介入か」を判断する。糖尿病と脳梗塞はすでに発症している疾患であり、その治療や経過観察は一次予防には当たらない。がん検診は、すでに存在するかもしれないがんを早く見つけるための手段である。一方、喫煙という危険因子を取り除くことは、まだ起きていない肺癌などの発生そのものを防ぐ介入であり、一次予防にあたる。
選択肢考察
- ○a. 禁煙
喫煙は肺癌をはじめ、喉頭癌・食道癌・膀胱癌などの悪性腫瘍、COPD、虚血性心疾患、脳卒中などの重要な危険因子である。禁煙はこの危険因子を取り除き、これらの疾患の発生そのものを防ぐ生活習慣の改善であり、一次予防の代表例である。なお、この患者ではすでに起こった脳梗塞の再発予防や糖尿病合併症(大血管障害)の抑制にも役立つが、まだ発症していない肺癌などに対する一次予防としての意義がまず挙げられる。
- ×b. 血糖降下薬の内服
血糖降下薬はすでに発症した糖尿病に対する治療である。血糖を管理して網膜症・腎症・神経障害などの合併症の出現や重症化を防ぐことが目的であり、発症後の介入であるため一次予防ではない。疾病の進行・重症化の防止として、二次予防(適切な治療による悪化の防止)あるいは三次予防(重症化予防)に位置づけられる。
- ×c. 抗血小板薬の内服
抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレルなど)は、脳梗塞(特にアテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞などの非心原性脳梗塞)を起こした患者の再発を防ぐ目的で用いられている。すでに発症した疾患に対する再発予防であり、一次予防ではない。臨床の場では脳梗塞の「二次予防」と呼ばれることが多いが、公衆衛生学の三段階では再発防止として三次予防に分類されることもある。
- ×d. 定期的なHbA1c測定
HbA1c(ヘモグロビンA1c)は過去1〜2か月の平均血糖を反映する指標である。この患者はすでに糖尿病と診断されて治療中であり、定期的な測定は血糖管理の状態を評価し、悪化を早期に把握して治療を調整するためのものである。発症後の疾患の経過観察であり、一次予防ではない。なお、未診断の人に対する健診でのHbA1c測定であれば、糖尿病の早期発見を目的とする二次予防となる。
- ×e. 肺がん検診での胸部エックス線撮影
がん検診は、自覚症状が出る前のがんを見つけて早期治療につなげ、がんによる死亡を減らすことを目的とする二次予防である。がんの発生そのものを防ぐものではないので一次予防ではない。なお、50歳以上で喫煙指数(1日本数×喫煙年数)が600以上の重喫煙者では、胸部X線に加えて喀痰細胞診も対象とされてきた。
予防の三段階と具体例
・一次予防(発生の防止) 健康増進:禁煙、節酒、適正な食事・運動、休養、健康教育。 特異的予防:予防接種(HPVワクチンによる子宮頸癌予防、B型肝炎ワクチンによる肝癌予防など)、ピロリ菌除菌による胃癌予防、職場の有害物質対策、交通安全対策、ヨード添加など。 ・二次予防(早期発見・早期治療) がん検診(胃・大腸・肺・乳・子宮頸)、特定健康診査、新生児マススクリーニング、乳幼児健診など。 ・三次予防(重症化防止・再発防止・機能回復) リハビリテーション、合併症予防のための治療継続、再発防止のための服薬、社会復帰支援、職場復帰支援など。
分類上の注意
・リーベルとクラークの原典では、二次予防に「早期発見・早期治療」と「適切な治療による悪化・障害の防止」を含め、三次予防をリハビリテーションとしている。一方、日本の公衆衛生の教科書や行政用語では、再発予防・重症化予防を三次予防に含めることが多い。また臨床医学では、一度発症した疾患の再発予防(例:心筋梗塞・脳梗塞後の抗血小板薬、スタチン)を「二次予防」と呼ぶ慣習がある。このように二次予防と三次予防の境界は文脈によって揺れがあるが、「まだ起きていない病気の発生を防ぐもの」が一次予防である点は一貫している。 ・同じ介入でも対象によって段階が変わる。HbA1c測定は、未診断者の健診では二次予防、糖尿病患者の管理では重症化予防の一環となる。
禁煙支援
喫煙はニコチン依存症という疾患としてとらえられ、一定の条件を満たせば禁煙治療(ニコチン置換療法、バレニクリンなど)が保険診療で行われる。短時間の禁煙助言でも禁煙率が上がることが知られており、あらゆる診療機会での禁煙の働きかけが推奨されている。
POINT
・一次予防:疾病の発生そのものを防ぐ(禁煙などの生活習慣改善、健康教育、予防接種、危険因子の除去)。 ・二次予防:早期発見・早期治療(がん検診、健康診断、スクリーニング)。 ・三次予防:重症化・再発の防止、リハビリテーション、社会復帰。 ・すでに発症している疾患に対する治療・服薬・経過観察は一次予防ではない。 ・同じ介入でも対象者が既に発症しているかで予防の段階が変わる。
