鼻の奥の「見えない扁桃」―アデノイド増殖症は位置関係で症状が決まる
第115回医師国家試験 C問題 第34問
国試問題にチャレンジ
アデノイド増殖症による症状として出現する可能性があるのはどれか。3つ選べ。
- a.嗄声
- b.難聴
- c.鼻閉
- d.いびき
- e.嚥下障害
対話形式の解説
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ドクターまとめ
アデノイド(咽頭扁桃)は上咽頭後上壁にあるリンパ組織で、幼児期に生理的に肥大し思春期にかけて縮小します。アデノイド増殖症の症状は周囲構造の圧迫で説明でき、後鼻孔閉塞による鼻閉・口呼吸・閉鼻声、耳管咽頭口の障害による滲出性中耳炎と伝音難聴、上気道狭窄によるいびきや閉塞性睡眠時無呼吸が代表的です。一方、喉頭の声帯に由来する嗄声や、口腔・中咽頭以下が関わる嚥下障害は通常きたしません。長期の口呼吸はアデノイド顔貌や睡眠障害に伴う成長・学習面の問題につながり、高度例ではアデノイド切除術が行われます。成人で片側の滲出性中耳炎をみたら上咽頭癌を鑑別するという臨床上の鉄則とあわせ、上咽頭の解剖から症状を組み立てる考え方を身につけておきましょう。
解答・解説
正解はb, c, dです
アデノイドの位置と特徴
アデノイド(咽頭扁桃)は上咽頭(鼻咽腔)の後上壁にあるリンパ組織で、口蓋扁桃・舌扁桃・耳管扁桃などとともにワルダイエル咽頭輪を構成する。生理的に幼児期に大きくなり、4〜6歳ころに最大となった後、思春期にかけて縮小していく。この生理的肥大の範囲を超えて大きくなり、症状を起こす状態をアデノイド増殖症という。
症状を考える手がかり
アデノイド増殖症の症状は、上咽頭の周囲にある構造が圧迫・閉塞されることで説明できる。 ・前方:後鼻孔(鼻腔と上咽頭の境界)→ 鼻呼吸の障害(鼻閉、口呼吸)、鼻汁の貯留(副鼻腔炎の合併)、閉鼻声 ・側方:耳管咽頭口(耳管の咽頭側の開口部)→ 耳管機能障害による滲出性中耳炎・伝音難聴 ・上気道全体の狭窄 → いびき、閉塞性睡眠時無呼吸 一方、声帯は喉頭にあり、嚥下に主に関わる口腔・中咽頭・下咽頭も上咽頭より下方にあるため、アデノイドが大きくなっても直接の影響は受けにくい。設問では、上咽頭の解剖学的な位置関係から、耳・鼻・上気道の症状を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 嗄声
嗄声(声がれ)は、声帯の形態異常(ポリープ、結節、腫瘍など)や運動障害(反回神経麻痺など)によって声帯の振動が不規則になることで生じる。声帯は喉頭にあり、上咽頭のアデノイドとは離れているため、アデノイド増殖症で嗄声は生じない。なお、アデノイド増殖症では鼻腔への共鳴が減って鼻がつまったような声(閉鼻声)になることがあるが、これは嗄声とは異なる。
- ○b. 難聴
肥大したアデノイドが上咽頭側壁の耳管咽頭口を圧迫・閉塞したり、アデノイドが細菌の貯留源となって耳管に炎症を波及させたりすることで、耳管の換気機能が障害される。すると中耳腔が陰圧となって滲出液がたまり、滲出性中耳炎となって伝音難聴をきたす。小児の滲出性中耳炎の重要な原因であり、難治例ではアデノイド切除術が考慮される。
- ○c. 鼻閉
アデノイドは後鼻孔のすぐ後方にあるため、肥大すると後鼻孔を狭窄・閉塞し、鼻から上咽頭への空気の流れが妨げられて鼻閉を生じる。その結果、口呼吸が習慣化する。鼻汁の排出も妨げられるため、慢性鼻炎・副鼻腔炎を合併しやすい。
- ○d. いびき
いびきは、睡眠中に狭くなった上気道を空気が通る際に、周囲の軟部組織が振動して生じる音である。アデノイド増殖症では上咽頭が狭窄し、さらに鼻閉による口呼吸で舌根が後方に落ち込みやすくなるため、いびきが起こる。口蓋扁桃肥大を合併すると狭窄が強まり、小児の閉塞性睡眠時無呼吸の主要な原因となる。
- ×e. 嚥下障害
嚥下は口腔期・咽頭期・食道期の順に進み、食塊の通過に直接関わるのは口腔、中咽頭、下咽頭、食道である。上咽頭は嚥下時に軟口蓋が挙上して閉鎖される部位で、食塊の通り道ではない。嚥下の際に鼻咽腔閉鎖が不十分だと鼻への逆流が起こりうるが、アデノイドが大きい場合はむしろ鼻咽腔の閉鎖を助ける方向に働く。したがってアデノイド増殖症そのものによって嚥下障害が起こるとは考えにくい。なお、同時に口蓋扁桃肥大が高度な場合には、中咽頭が狭くなって飲み込みにくさを訴えることがある。
アデノイド増殖症の臨床像
・好発年齢:幼児期〜学童期前半。成長とともに自然に縮小することが多い。 ・主な症状:鼻閉、口呼吸、いびき、閉塞性睡眠時無呼吸、閉鼻声、滲出性中耳炎による難聴、反復性中耳炎、副鼻腔炎。 ・睡眠障害に伴う症状:日中の眠気、集中力の低下、夜尿、成長障害など。 ・アデノイド顔貌:長期間の口呼吸により、口が常に半開きで、上唇が短く鼻唇溝が浅い、表情が乏しくぼんやりした顔つきになる。歯列不正や高口蓋を伴うこともある。
診断
・鼻咽腔ファイバースコープでの直接観察。 ・頭部側面X線撮影で上咽頭後壁の軟部陰影の肥厚と気道の狭小化を確認する。 ・睡眠時無呼吸が疑われる場合は終夜睡眠ポリグラフ検査などで重症度を評価する。 ・難聴があれば鼓膜所見、ティンパノメトリー(B型を示すことが多い)、聴力検査で滲出性中耳炎を評価する。
治療
・症状が軽ければ経過観察(自然縮小を待つ)。 ・鼻閉・いびき・睡眠時無呼吸が高度な場合や難治性の滲出性中耳炎では、アデノイド切除術(口蓋扁桃肥大を伴えば口蓋扁桃摘出術も併施)を行う。滲出性中耳炎には鼓膜換気チューブ留置を併用することがある。 ・粘膜下口蓋裂など鼻咽腔閉鎖機能の弱い小児では、アデノイド切除後に開鼻声(鼻咽腔閉鎖不全)が顕在化することがあり注意を要する。
成人の上咽頭病変との違い
成人で上咽頭に腫瘤があり、片側の滲出性中耳炎・難聴・鼻閉などがみられる場合は、上咽頭癌を必ず鑑別する。
POINT
・アデノイド(咽頭扁桃)は上咽頭後上壁にあり、幼児期に生理的に肥大し、その後縮小する。 ・症状は周囲構造の圧迫で考える:後鼻孔閉塞→鼻閉・口呼吸・閉鼻声、耳管咽頭口閉塞→滲出性中耳炎・伝音難聴、上気道狭窄→いびき・閉塞性睡眠時無呼吸。 ・嗄声(声帯=喉頭の病変)や嚥下障害(口腔・中咽頭以下の病変)は通常きたさない。 ・長期の口呼吸でアデノイド顔貌を呈する。高度例はアデノイド切除術。
