蚊が運ぶ小さなRNAウイルス―ジカウイルス感染症に「効く薬」はあるのか
第115回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
Which is the incorrect description about Zika virus infection?
- a.Mosquitoes transmit Zika virus.
- b.Incubation period is usually up to 14 days.
- c.Symptoms usually persist for up to 7 days.
- d.The infection during pregnancy can cause microcephaly of the new born.
- e.Acyclovir is used for treatment.
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
ジカウイルスはフラビウイルス属の一本鎖RNAウイルスで、主にネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカ属の蚊が媒介し、性行為・経胎盤・輸血でも感染します。約8割は不顕性感染で、潜伏期は通常14日以内、発症しても軽度の発熱・発疹・結膜充血・関節痛が2〜7日ほどで自然軽快します。問題となるのは妊娠中の感染による小頭症などの先天性ジカウイルス感染症と、成人のGuillain-Barré症候群です。特異的な抗ウイルス薬やワクチンはなく治療は対症療法であり、ヘルペスウイルスのDNA合成を阻害するアシクロビルはジカウイルスには無効です。デング熱との鑑別がつかない段階ではNSAIDsを避けること、4類感染症として直ちに届け出ることなど、渡航関連感染症の診療に直結する知識として押さえておきましょう。
解答・解説
正解はeです
設問文は「ジカウイルス感染症について誤っている記述はどれか」という意味の英語問題である。誤りを選ぶ形式なので、正しい記述4つと誤った記述1つを見分ける必要がある。 ジカウイルス(Zika virus)は、デングウイルスや黄熱ウイルス、日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルス科フラビウイルス属に属する一本鎖RNAウイルスである。1947年にウガンダのジカ森林のアカゲザルから初めて分離された。主にヤブカ属(Aedes)の蚊、すなわちネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介する。 臨床像の要点は次の通りである。 ・感染者の多く(約8割)は無症状(不顕性感染)である。 ・潜伏期はおおむね3〜12日程度で、長くても14日以内に収まることが多い。 ・発症すると、軽度の発熱、斑状丘疹状の発疹、眼球結膜充血(非化膿性結膜炎)、関節痛・筋肉痛、頭痛などがみられ、デング熱に比べて症状は軽い。通常は2〜7日程度で自然に軽快する。 ・重要なのは合併症で、妊娠中の感染による胎児の小頭症などの先天異常(先天性ジカウイルス感染症)と、成人のGuillain-Barré症候群との関連が、2013年以降の仏領ポリネシアやブラジルでの流行を契機に明らかになった。 治療については、ジカウイルスに有効な抗ウイルス薬は確立しておらず、安静・水分補給・解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)などの対症療法が中心である。ワクチンも実用化されていない。したがって、アシクロビルを治療に用いるという記述が誤りである。
選択肢考察
- ×a. Mosquitoes transmit Zika virus.
正しい記述(訳:蚊がジカウイルスを媒介する)。主な感染経路は、ウイルスを保有するヤブカ属の蚊(ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ)による吸血である。ヒトスジシマカは日本国内にも広く生息しており、デング熱と同様に国内で感染が起こる可能性がある。蚊以外にも、性行為による感染、母子(経胎盤)感染、輸血による感染が報告されている。
- ×b. Incubation period is usually up to 14 days.
正しい記述(訳:潜伏期は通常14日までである)。ジカウイルス感染症の潜伏期は2〜12日程度(多くは3〜12日)とされ、通常は最長でも14日以内である。このため、流行地から帰国後おおむね2週間以内に発熱や発疹が出現した場合に本症を鑑別に挙げることになる。
- ×c. Symptoms usually persist for up to 7 days.
正しい記述(訳:症状は通常7日まで持続する)。発症した場合でも症状は軽く、発熱(多くは38.5℃未満の軽度)、発疹、結膜充血、関節痛などが2〜7日ほど続いたのち自然に回復するのが一般的である。重症化や死亡はまれである。
- ×d. The infection during pregnancy can cause microcephaly of the new born.
正しい記述(訳:妊娠中の感染により新生児に小頭症が起こり得る)。ジカウイルスは胎盤を通過して胎児の神経前駆細胞に感染し、脳の発達を障害する。小頭症のほか、脳内石灰化、脳室拡大、網膜・視神経の異常、関節拘縮、難聴などを伴う先天性ジカウイルス感染症(先天性ジカ症候群)を引き起こす。妊娠中の感染は無症状でも胎児に影響し得るため、妊婦や妊娠を予定している人は流行地への渡航を避けることが勧められる。
- ○e. Acyclovir is used for treatment.
誤った記述(訳:アシクロビルが治療に用いられる)であり、これが正解となる。アシクロビルはヘルペスウイルス科のウイルス(単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス)に対する薬である。ウイルスのチミジンキナーゼによってリン酸化されて活性型となり、ウイルスのDNAポリメラーゼを阻害する仕組みのため、この酵素系をもたないRNAウイルスであるジカウイルスには効果がない。ジカウイルス感染症に対する特異的な抗ウイルス薬は存在せず、治療は対症療法である。なお、デング熱との鑑別がつかない段階では、出血傾向を助長するおそれのあるアスピリンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は避け、アセトアミノフェンを用いる。
ジカウイルス感染症の概要
・病原体:フラビウイルス科フラビウイルス属のジカウイルス(一本鎖RNAウイルス) ・媒介:ネッタイシマカ、ヒトスジシマカなどのヤブカ属の蚊(日中に吸血する) ・その他の感染経路:性行為、母子感染(経胎盤)、輸血 ・流行地:中南米、カリブ海地域、アフリカ、東南アジア、太平洋諸島など ・日本では感染症法の4類感染症に指定され、診断した医師は直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事へ届け出る義務がある。
臨床像
・約8割は不顕性感染。 ・潜伏期:2〜12日程度(通常14日以内)。 ・症状:軽度の発熱、斑状丘疹状発疹、結膜充血、関節痛・筋肉痛、頭痛。2〜7日で自然軽快。 ・合併症:先天性ジカウイルス感染症(小頭症、脳内石灰化など)、Guillain-Barré症候群。
診断
急性期の血液・尿のRT-PCRによるウイルス遺伝子検出、または抗体検査を行う。抗体検査ではデングウイルスなど他のフラビウイルスとの交差反応に注意が必要である。
予防
ワクチンは実用化されていないため、蚊に刺されないこと(長袖・長ズボン、虫除け剤、蚊の発生源の除去)が基本である。妊婦は流行地への渡航を控えることが勧められる。性行為による感染を防ぐため、流行地からの帰国者には一定期間のコンドーム使用または性行為の自粛が推奨されている(推奨期間はWHO・CDCにより改訂されてきており、男性は女性より長い期間が設定されている)。
類似の蚊媒介感染症との比較
・デング熱:ヤブカ属が媒介。高熱、頭痛、眼窩痛、筋肉痛、発疹。血小板減少が目立ち、一部は重症型(デング出血熱・ショック症候群)へ進行する。 ・チクングニア熱:ヤブカ属が媒介(アルファウイルス属)。強い関節痛が特徴で、長期化することがある。 ・ジカウイルス感染症:症状は最も軽いが、先天異常とGuillain-Barré症候群が問題となる。
アシクロビルの適応
単純ヘルペスウイルス感染症(口唇・性器ヘルペス、ヘルペス脳炎など)、水痘・帯状疱疹。サイトメガロウイルスにはガンシクロビルなどが用いられる。
POINT
・ジカウイルスはフラビウイルス属のRNAウイルスで、ヤブカ属(ネッタイシマカ・ヒトスジシマカ)が媒介する。性行為・母子・輸血でも感染する。 ・約8割は不顕性感染。潜伏期は通常14日以内、症状(発熱・発疹・結膜充血・関節痛)は軽く2〜7日で軽快する。 ・妊娠中の感染で胎児の小頭症などの先天異常、成人ではGuillain-Barré症候群と関連する。 ・特異的な抗ウイルス薬もワクチンもなく、治療は対症療法である。アシクロビルはヘルペスウイルス用の薬で無効。 ・日本では4類感染症。
