StudyMed医師国家試験

無臭のアンチョビペースト―渡航歴のない肝膿瘍で、何を聞くべきか

第119回医師国家試験 D問題 第67問

国試問題にチャレンジ

第119回 D問題 第67問

53歳の男性。10日前からの発熱を主訴に来院した。海外渡航歴はない。意識は清明。体温38.4℃。脈拍96/分,整。血圧116/70mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で圧痛を認めないが,右季肋部に叩打痛を認める。血液所見:赤血球468万,Hb 13.9g/dL,白血球21,900,血小板28万。血液生化学所見:総ビリルビン1.2mg/dL,AST 125U/L,ALT 83U/L,LD 338U/L(基準124~222),γ-GT 163U/L(基準13~64)。CRP 29mg/dL。腹部造影CTを下に示す。超音波ガイド下に穿刺し,得られた液体は無臭でアンチョビペースト状であった。血液および穿刺液の培養で細菌は検出されなかった。  この患者の感染経路を確認する上で重要な質問はどれか。

第119回 D問題 第67問の問題画像
  1. a.「覚醒剤を使ったことはありますか」
  2. b.「キツネを触ったことはありますか」
  3. c.「ダニに咬まれたことはありますか」
  4. d.「同性間で性交渉をしたことはありますか」
  5. e.「シカやイノシシなどの獣肉を食べたことはありますか」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肝膿瘍の原因を見抜いて、そこから感染経路を問診で確かめる問題だ。ポイントは2つ。穿刺液の性状と培養結果から病原体を推定すること、そして「海外渡航歴がない」という情報をどう解釈するかだ。まず、発熱と右季肋部の叩打痛、肝胆道系酵素の上昇、CTで肝内の低吸収域がそろうと何を考えるかな。
医学生医学生
肝膿瘍です。消化器内科の講義では、細菌性なら胆道からの感染が一番多くて、Klebsiellaが代表的だと習いました。
ドクタードクター
その通り。ただ今回は穿刺液がカギになる。細菌性肝膿瘍の膿は悪臭を伴うことが多く、培養で菌が生えやすい。ところがこの症例は無臭のアンチョビペースト状で、血液も穿刺液も培養陰性だ。
医学生医学生
アンチョビペースト状というのは、赤痢アメーバの肝膿瘍の特徴ですよね。CBTの過去問で見た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。赤痢アメーバの栄養型が肝組織を溶かしてできた壊死物質が、赤褐色からチョコレート色のどろっとした液になる。細菌ではないから通常の培養では生えない。だからアメーバ性肝膿瘍と考えるのが自然だ。
医学生医学生
でもアメーバ赤痢って途上国の病気というイメージがあります。渡航歴がないのに、どこで感染したんでしょう。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。赤痢アメーバは嚢子を口から取り込む糞口感染で広がる。流行地では汚染された水や食べ物が主な経路だけれど、日本国内の感染例の多くは性的接触によるものなんだ。肛門や口を介した接触で、便中の嚢子が口に入る。
医学生医学生
なるほど。それで同性間の性交渉について聞くのが正解なんですね。
ドクタードクター
そう。男性同性間の性的接触は国内の代表的な感染経路で、最近は異性間、たとえば性風俗産業の利用を介した感染も増えている。渡航歴のない中年男性のアメーバ性肝膿瘍なら、性交渉歴の聴取が欠かせない。では、ほかの質問がどんな病気を想定しているか確認しよう。覚醒剤の使用歴はどうかな。
医学生医学生
注射器の使い回しで、B型・C型肝炎やHIVのような血液媒介感染を考える質問ですよね。
ドクタードクター
正解。ほかに黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎や菌血症のリスクにもなるけれど、糞口感染の赤痢アメーバとは関係がない。次にキツネとの接触は?
医学生医学生
北海道のエキノコックス症です。寄生虫学の実習で、多包条虫の生活環を図にまとめました。肝臓に病変を作るので、少し迷いました。
ドクタードクター
肝臓という点では確かに紛らわしいね。でもエキノコックス症は虫卵を摂取してから数年から十数年かけて、石灰化を伴う多房性の嚢胞性病変をつくる慢性の病気だ。10日間の発熱と強い炎症、アンチョビペースト状の膿という今回の病像とは合わない。
医学生医学生
ダニに咬まれたかどうかは、つつが虫病や日本紅斑熱、SFTSを考える質問ですね。皮膚科の実習で刺し口の痂皮を探すように言われました。
ドクタードクター
いいね。リケッチア症やSFTSは発熱や肝酵素上昇を起こすけれど、肝膿瘍はつくらない。最後のシカやイノシシの肉はE型肝炎の感染源として有名だ。こちらも急性肝炎であって膿瘍にはならない。
医学生医学生
選択肢がどれも感染経路と病気のセットになっているので、病原体を正しく特定できるかが勝負なんですね。
ドクタードクター
まさにそう。最後に臨床での注意点だ。アメーバ症が性感染症として成立したと考えられる場合は、HIV、梅毒、B型肝炎などの合併を必ず検索する。治療は組織移行性のよいメトロニダゾールが基本で、腸管内に残る嚢子にはパロモマイシンなどを追加して再発を防ぐ。大きくて破裂しそうな膿瘍や薬が効きにくい場合はドレナージも検討する。それからアメーバ症は5類感染症の全数把握で、7日以内の届出が必要だ。
医学生医学生
性交渉歴はデリケートな質問なので、OSCEの医療面接で習ったように、プライバシーに配慮して理由を説明してから聞くことも大切ですね。
ドクタードクター
その通り。必要性を伝えて、責めない姿勢で聞く。それが正確な病歴と適切な検査につながるんだ。

まとめ

発熱、右季肋部叩打痛、肝内の低吸収域から肝膿瘍を考え、穿刺液が無臭のアンチョビペースト状で細菌培養が陰性であれば、赤痢アメーバによるアメーバ性肝膿瘍が強く疑われます。赤痢アメーバは嚢子の経口摂取による糞口感染で広がり、海外渡航歴のない国内例では男性同性間を中心とする性的接触が主要な感染経路となるため、性交渉歴の聴取が重要です。キツネはエキノコックス症、ダニはリケッチア症やSFTS、シカ・イノシシ肉はE型肝炎、覚醒剤の静注は血液媒介感染症に対応し、いずれも本症の感染経路ではありません。性感染症としての成立が疑われる場合はHIVや梅毒などの合併も検索し、治療はメトロニダゾールに腸管内殺アメーバ薬を組み合わせます。病原体の特徴から感染経路を逆算し、配慮ある問診で確かめる姿勢は、感染症診療全般に通じる基本です。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・53歳の男性。10日前から発熱が続く亜急性の経過である。海外渡航歴はない。 ・意識は清明で、血圧も保たれており、ショックはない。 ・腹部は平坦・軟で圧痛はないが、右季肋部に叩打痛がある。肝臓や胆道の病変を示唆する所見である。 ・白血球21,900、CRP 29mg/dLと強い炎症反応がある。AST・ALT・LD・γ-GT(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)が上昇しているが、総ビリルビンは1.2mg/dLとほぼ正常範囲である。 ・腹部造影CTで肝内に膿瘍を示す低吸収域を認める。 ・超音波ガイド下に穿刺すると、無臭でアンチョビペースト状(赤褐色〜チョコレート色のどろりとした液)の内容物が得られた。血液と穿刺液の培養で細菌は検出されなかった。

診断への道筋

発熱、右季肋部の叩打痛、肝胆道系酵素の上昇、CTでの肝内低吸収域から肝膿瘍を考える。肝膿瘍は大きく細菌性とアメーバ性に分けられる。細菌性肝膿瘍は、胆道感染から広がるもの(最多)、門脈を経由するもの、動脈を経由するものがあり、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)などの腸内細菌が多い。膿は悪臭を伴うことが多く、培養で菌が検出されやすい。一方、本例の穿刺液は無臭のアンチョビペースト状で、細菌培養が陰性である。これは、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)による組織の融解壊死物質の特徴であり、アメーバ性肝膿瘍と診断できる。

設問の考え方

赤痢アメーバは、嚢子(シスト)を経口摂取することで感染する(糞口感染)。発展途上国では汚染された飲食物を介した感染が主であるが、本例には海外渡航歴がない。日本国内の感染者の多くは性的接触によるもので、肛門・口唇を介した接触(オーラル・アナルセックスなど)により糞便中の嚢子が口に入って感染する。特に男性同性間の性的接触(MSM:men who have sex with men)は代表的な感染経路であり、異性間の性的接触(性風俗産業の利用を含む)での感染も増えている。したがって、感染経路を確認するために重要な質問は性交渉歴、とくに同性間の性交渉の有無である。性感染症として感染した場合は、HIV・梅毒など他の性感染症の合併も評価する必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  「覚醒剤を使ったことはありますか」

    覚醒剤の注射(静注薬物の使用)や注射器の共用は、B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス・HIVなどの血液を介する感染症のリスクとなる。また、黄色ブドウ球菌などによる感染性心内膜炎や菌血症の原因にもなる。いずれもアメーバ性肝膿瘍の感染経路ではない。赤痢アメーバは嚢子の経口摂取で感染するため、本例の感染経路を確認する質問としては適切でない。

  2. ×b.  「キツネを触ったことはありますか」

    キツネ(キタキツネ)やイヌの糞便中に排出されたエキノコックス(多包条虫)の虫卵を経口摂取すると、肝エキノコックス症を発症する。日本では主に北海道でみられる。数年〜十数年の潜伏期を経て、肝内に石灰化を伴う多房性の嚢胞性病変を形成する。経過は慢性で、本例のように10日の発熱と強い炎症反応で発症し、無臭のアンチョビペースト状の膿が得られる病像とは異なる。

  3. ×c.  「ダニに咬まれたことはありますか」

    ダニに咬まれることで感染する疾患には、つつが虫病・日本紅斑熱(リケッチア症)、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、ライム病などがある。発熱・発疹・刺し口(痂皮)・肝酵素上昇などがみられるが、肝内に膿瘍を形成することはない。本例の病像とは合わない。

  4. ○d.  「同性間で性交渉をしたことはありますか」

    赤痢アメーバは嚢子の経口摂取によって感染する。海外渡航歴がない国内例では、性的接触による糞口感染が主な感染経路である。男性同性間の性的接触は代表的なリスクであり、異性間の性的接触による感染も報告されている。本例は渡航歴のない中年男性に生じたアメーバ性肝膿瘍であり、同性間を含む性交渉歴の聴取が感染経路の特定に重要である。性感染症として感染した可能性があれば、HIV感染症、梅毒、B型肝炎などの合併もあわせて検索する。

  5. ×e.  「シカやイノシシなどの獣肉を食べたことはありますか」

    シカやイノシシの肉を生または加熱不十分な状態で食べると、E型肝炎ウイルスの感染源となる。ブタの生レバーなども感染源になる。ほかに、トキソプラズマ症、旋毛虫症、腸管出血性大腸菌感染症などの原因にもなりうる。E型肝炎は急性肝炎を起こすが、肝膿瘍は形成しない。アメーバ性肝膿瘍の感染経路を確認する質問ではない。

赤痢アメーバ症(アメーバ症)の概要

・病原体:原虫である赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)。生活環には、感染性をもつ嚢子(シスト)と、組織に侵入する栄養型(トロフォゾイト)がある。 ・感染経路:嚢子を経口摂取して感染する(糞口感染)。流行地では汚染された水・食物による感染、日本国内では性的接触(男性同性間、異性間の性風俗産業利用など)による感染が中心である。 ・感染症法:5類感染症(全数把握)で、診断した医師は7日以内に届け出る。

病型

・腸管アメーバ症(アメーバ性大腸炎):イチゴゼリー状の粘血便、下痢、腹痛。大腸内視鏡で盲腸・上行結腸や直腸にたこいぼ状の潰瘍がみられる。無症状の嚢子保有者も多い。 ・腸管外アメーバ症:栄養型が門脈を経由して肝臓に達し、肝膿瘍を形成する。肝膿瘍は肝右葉に単発で大きな膿瘍をつくることが多い。腸炎の症状を伴わないことも多い。まれに横隔膜を越えて胸腔や心膜腔に穿破する。

アメーバ性肝膿瘍と細菌性肝膿瘍の比較

・アメーバ性:中年男性に多い。右葉に単発することが多い。膿は無臭のアンチョビペースト状で、細菌培養は陰性。膿の中心部は壊死物質であり、栄養型は膿瘍の辺縁(壁)に多いため、穿刺液の鏡検で虫体を確認できないことが多い。診断には血清抗赤痢アメーバ抗体、便検査・内視鏡、PCRなどが用いられる。 ・細菌性:高齢者や胆道疾患、糖尿病、悪性腫瘍のある患者に多い。多発することもある。膿は悪臭を伴うことがあり、腸内細菌(肺炎桿菌、大腸菌など)や嫌気性菌が培養で検出される。

治療

・メトロニダゾール(栄養型に有効な組織移行性のよい薬)を投与する。多くは薬物治療だけで改善する。 ・メトロニダゾールは腸管内の嚢子への効果が不十分なため、治療後に腸管内に残った嚢子を除去するために、パロモマイシンなどの腸管内殺アメーバ薬を追加し、再発を防ぐ。 ・膿瘍が大きく破裂の危険が高い場合や、薬物治療に反応しない場合は、経皮的ドレナージを検討する。

選択肢の感染経路と疾患の対応

・覚醒剤静注:B型・C型肝炎、HIV、感染性心内膜炎 ・キツネ:エキノコックス症(北海道) ・ダニ:つつが虫病、日本紅斑熱、SFTS、ライム病 ・同性間性交渉:アメーバ症、HIV、梅毒、A型肝炎、B型肝炎など ・シカ・イノシシ肉:E型肝炎

POINT

・発熱+右季肋部叩打痛+肝内の低吸収域 → 肝膿瘍。 ・無臭のアンチョビペースト状の膿、細菌培養陰性 → アメーバ性肝膿瘍。 ・赤痢アメーバは嚢子の経口摂取(糞口感染)で感染する。国内例は性的接触、とくに男性同性間の性的接触が重要な感染経路である。 ・アメーバ症を診断したら、HIV・梅毒などの性感染症の合併も検索する。 ・治療はメトロニダゾールを用い、腸管内の嚢子にはパロモマイシンを追加する。アメーバ症は5類感染症(全数把握)である。 ・エキノコックス症はキツネ、E型肝炎はシカ・イノシシ肉、リケッチア症とSFTSはダニが感染経路となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。