カルシトニンが語る細胞の素性―甲状腺腫瘍は「どの細胞から生まれたか」で見分ける
第115回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
甲状腺腫で血中カルシトニン値が上昇するのはどれか。
- a.髄様癌
- b.乳頭癌
- c.濾胞癌
- d.亜急性甲状腺炎
- e.腺腫様甲状腺腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
甲状腺には甲状腺ホルモンをつくる濾胞上皮細胞と、カルシトニンを分泌する傍濾胞細胞(C細胞)があり、血中マーカーはどちらの細胞に由来する病変かで決まります。C細胞由来の髄様癌ではカルシトニンとCEAが上昇し、カルシトニン由来のアミロイド沈着が病理学的特徴です。乳頭癌・濾胞癌・腺腫様甲状腺腫・亜急性甲状腺炎はいずれも濾胞上皮由来の病変で、上昇し得るのはサイログロブリンであり、カルシトニンは上がりません。髄様癌の一部はRET遺伝子変異によるMEN2の一部分症として発症し、褐色細胞腫合併例では褐色細胞腫の手術を先行させる点、遺伝学的検査や血縁者への対応が必要になる点が臨床上重要です。「由来細胞からマーカーを導く」考え方は、甲状腺疾患に限らず腫瘍マーカー全般を理解する土台になります。
解答・解説
正解はaです
本問は、甲状腺腫(甲状腺の腫れ・腫瘤)を呈する疾患のうち、血中カルシトニンが上昇するものを選ぶ問題である。 甲状腺を構成するホルモン産生細胞には2種類ある。 ・濾胞上皮細胞:濾胞を形成し、サイログロブリンを材料に甲状腺ホルモン(T4・T3)を合成する。 ・傍濾胞細胞(C細胞):濾胞と濾胞の間に散在し、カルシトニン(破骨細胞の働きを抑えて血中カルシウムを下げる方向に働くペプチドホルモン)を分泌する。発生学的には神経堤由来と考えられてきた神経内分泌細胞である。 甲状腺の腫瘍や炎症で上昇する血中マーカーは、どちらの細胞に由来する病変かで決まる。濾胞上皮細胞由来の病変(乳頭癌、濾胞癌、腺腫様甲状腺腫、甲状腺炎など)では、濾胞の産物であるサイログロブリンが上昇し得る。一方、C細胞由来の悪性腫瘍である髄様癌では、カルシトニンと CEA(癌胎児性抗原)が上昇する。したがって、カルシトニンが上昇するのは髄様癌である。
選択肢考察
- ○a. 髄様癌
正しい。髄様癌は傍濾胞細胞(C細胞)から発生する悪性腫瘍で、甲状腺悪性腫瘍の1〜2%程度を占める。腫瘍細胞がカルシトニンを過剰に産生するため血中カルシトニンが上昇し、CEAも高値となることが多い。両者は診断だけでなく、術後の残存・再発の指標(腫瘍マーカー)としても用いられる。病理学的にはアミロイド(カルシトニン由来)の沈着が特徴である。約2〜3割は遺伝性で、RET遺伝子の生殖細胞系列変異により多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)や家族性髄様癌として発症する。なお、カルシトニンが高値でも血中カルシウムは通常正常に保たれる。
- ×b. 乳頭癌
誤り。乳頭癌は濾胞上皮細胞由来の悪性腫瘍で、甲状腺癌の約90%を占める最も多い組織型である。カルシトニンを産生するC細胞とは由来が異なるため、カルシトニンは上昇しない。血中サイログロブリンが上昇することはあるが、良性疾患でも上がるため診断特異性は低く、主に甲状腺全摘後の再発・転移の監視に用いられる。リンパ行性転移が多く、予後は良好である。
- ×c. 濾胞癌
誤り。濾胞癌も濾胞上皮細胞由来の悪性腫瘍で、甲状腺癌の約5%を占める。カルシトニンは上昇しない。血中サイログロブリンが高値となることがあり、全摘後の再発・転移の指標となる。血行性に肺や骨へ転移しやすいのが特徴で、良性の濾胞腺腫との区別は細胞診では難しく、被膜浸潤や脈管侵襲の有無を手術標本で確認して診断する。
- ×d. 亜急性甲状腺炎
誤り。亜急性甲状腺炎は、上気道感染に続いて起こることが多いウイルス感染関連の甲状腺の炎症で、有痛性の甲状腺腫と発熱を特徴とする。痛みの部位が移動すること(クリーピング)がある。濾胞が破壊されて貯蔵されていた甲状腺ホルモンが血中に漏れ出すため、一過性にFT3・FT4上昇、TSH低下の甲状腺中毒症を呈し、サイログロブリンや赤沈・CRPも上昇する。放射性ヨウ素摂取率は低下する。C細胞の腫瘍ではないので、カルシトニンは上昇しない。
- ×e. 腺腫様甲状腺腫
誤り。腺腫様甲状腺腫は、濾胞上皮細胞が過形成を起こして甲状腺内に多数の結節をつくる良性疾患(多結節性甲状腺腫)であり、腫瘍性病変ではない。カルシトニンは上昇しない。甲状腺機能(FT3・FT4・TSH)は原則として正常で、結節が大きいと血中サイログロブリンが上昇することがある。
甲状腺悪性腫瘍の比較
・乳頭癌:濾胞上皮由来。約90%で最多。リンパ行性転移。すりガラス状核、核内細胞質封入体、核溝、砂粒体が特徴。予後良好。 ・濾胞癌:濾胞上皮由来。約5%。血行性転移(肺・骨)。被膜浸潤・脈管侵襲で診断。 ・髄様癌:C細胞由来。1〜2%程度。カルシトニン・CEA上昇。アミロイド沈着。RET遺伝子変異(遺伝性ではMEN2)。 ・未分化癌:濾胞上皮由来(分化癌からの転化を含む)。高齢者に多く、急速に増大し予後は極めて不良。 ・悪性リンパ腫:橋本病を背景に発生することが多い(MALTリンパ腫やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫)。
多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)
RET遺伝子の生殖細胞系列変異による常染色体顕性(優性)遺伝の疾患である。 ・MEN2A:甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、原発性副甲状腺機能亢進症 ・MEN2B:甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、粘膜神経腫、Marfan症候群様体型(副甲状腺病変は通常伴わない) 髄様癌はほぼ全例に生じる。褐色細胞腫を合併している場合、先に甲状腺手術を行うと麻酔・手術侵襲によるカテコールアミン放出で高血圧クリーゼを起こす危険があるため、褐色細胞腫の手術を先に行う。髄様癌と診断したらRET遺伝子検査を行い、遺伝性であれば血縁者の検査や予防的甲状腺全摘も検討される。
甲状腺疾患と血中マーカー
・カルシトニン、CEA:髄様癌 ・サイログロブリン:濾胞上皮由来の病変全般(分化癌、腺腫様甲状腺腫、甲状腺炎、Basedow病など)。分化癌の全摘後の再発マーカーとして有用。
POINT
・カルシトニンを分泌するのは甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)であり、C細胞由来の髄様癌でカルシトニンが上昇する(CEAも上昇)。 ・乳頭癌・濾胞癌・腺腫様甲状腺腫・甲状腺炎は濾胞上皮細胞由来の病変で、上昇し得るのはサイログロブリンである。 ・髄様癌はRET遺伝子変異によるMEN2の構成疾患であり、褐色細胞腫合併例では褐色細胞腫の手術を先に行う。
