免疫のブレーキを外せ―進行メラノーマを変えた抗PD-1抗体
第115回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
切除不能の悪性黒色腫に使用される抗体薬の標的抗原はどれか。
- a.IL-17
- b.EGF受容体
- c.IL-6受容体
- d.PD〈programmed cell death〉-1
- e.VEGF〈vascular endothelial growth factor〉
対話形式の解説
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医学生まとめ
切除不能の悪性黒色腫には、T細胞の抑制性受容体PD-1を標的とする抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)が用いられ、腫瘍のPD-L1との結合を遮断してT細胞の抗腫瘍免疫を回復させます。メラノーマは変異が多くネオアンチゲンが豊富なため免疫チェックポイント阻害薬がよく効き、抗CTLA-4抗体との併用や、BRAF変異例ではBRAF阻害薬+MEK阻害薬も選択肢となります。他の標的は、IL-17が乾癬、EGFR抗体が大腸癌・頭頸部癌、IL-6受容体が関節リウマチ、VEGFが大腸癌や加齢黄斑変性と対応づけて整理しておくと確実です。免疫のブレーキを外す治療である以上、間質性肺炎や内分泌障害などの免疫関連有害事象への注意が欠かせません。抗体薬を「標的・作用機序・適応・副作用」の4点セットで理解することは、急速に広がるがん免疫療法を臨床で扱う基礎となります。
解答・解説
正解はdです
本問は、切除不能(進行・転移性)の悪性黒色腫に用いられる抗体薬を、標的分子から選ばせる問題である。 悪性黒色腫(メラノーマ)は、メラニンを産生する色素細胞(メラノサイト)由来の悪性腫瘍で、早期から転移しやすく、従来の殺細胞性抗癌薬(ダカルバジンなど)では予後の改善がほとんど得られなかった。この状況を大きく変えたのが、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の登場である。 免疫チェックポイントとは、T細胞の過剰な活性化を抑えて自己への攻撃を防ぐ「ブレーキ」の仕組みである。代表的なものが T細胞表面の PD-1(programmed cell death-1)と、その結合相手である PD-L1(腫瘍細胞や抗原提示細胞などに発現)である。腫瘍細胞は PD-L1 を発現して PD-1 に結合させることで T細胞の攻撃を逃れている。抗PD-1抗体はこの結合を遮断し、T細胞の抗腫瘍活性を回復させる。メラノーマは遺伝子変異の数が多く、免疫が認識できる腫瘍抗原(ネオアンチゲン)が豊富なため、免疫チェックポイント阻害薬がとくによく効く腫瘍の一つである。日本で開発されたニボルマブは、2014年に世界で初めて根治切除不能な悪性黒色腫に対して承認された抗PD-1抗体である。 したがって、各選択肢の標的分子とそれに対する代表薬・適応疾患を対応づけられれば、PD-1 が正解と判断できる。
選択肢考察
- ×a. IL-17
誤り。IL-17(インターロイキン17)は Th17 細胞などが産生する炎症性サイトカインで、乾癬の皮疹形成に中心的な役割を果たす。抗IL-17A抗体のセクキヌマブ、イキセキズマブ、IL-17受容体Aに対する抗体のブロダルマブなどがあり、尋常性乾癬、関節症性乾癬(乾癬性関節炎)、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、強直性脊椎炎などに用いられる。悪性黒色腫の治療薬ではない。
- ×b. EGF受容体
誤り。EGF受容体(上皮成長因子受容体、EGFR)に対する抗体薬にはセツキシマブ、パニツムマブがあり、RAS遺伝子野生型の切除不能進行・再発大腸癌や頭頸部癌(セツキシマブ)に用いられる。なお、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブなどはEGFRを標的とするが抗体薬ではなく、細胞内のチロシンキナーゼを阻害する低分子薬であり、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌に使われる。いずれも悪性黒色腫に用いる薬ではない。
- ×c. IL-6受容体
誤り。IL-6(インターロイキン6)は炎症反応や急性期蛋白(CRPなど)の産生を促すサイトカインである。抗IL-6受容体抗体にはトシリズマブ、サリルマブがあり、関節リウマチのほか、トシリズマブは若年性特発性関節炎、Castleman病、高安動脈炎・巨細胞性動脈炎、CAR-T療法に伴うサイトカイン放出症候群などにも用いられる。悪性黒色腫の治療薬ではない。
- ○d. PD〈programmed cell death〉-1
正しい。PD-1はT細胞表面に発現する抑制性受容体で、腫瘍細胞上のPD-L1と結合するとT細胞の働きが抑えられる。抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)はこの結合を阻害してT細胞の抗腫瘍免疫を再活性化させる免疫チェックポイント阻害薬であり、根治切除不能な悪性黒色腫の標準治療薬である(術後補助療法にも用いられる)。悪性黒色腫以外にも、非小細胞肺癌、腎細胞癌、古典的Hodgkinリンパ腫、頭頸部癌、胃癌、食道癌など多くの癌に適応が広がっている。メラノーマでは抗CTLA-4抗体イピリムマブとの併用療法も行われる。
- ×e. VEGF〈vascular endothelial growth factor〉
誤り。VEGF(血管内皮増殖因子)は新しい血管の形成(血管新生)を促す因子である。抗VEGF抗体のベバシズマブは腫瘍の血管新生を抑える目的で、切除不能大腸癌、非小細胞肺癌(非扁平上皮癌)、卵巣癌、子宮頸癌、肝細胞癌(アテゾリズマブとの併用)などに用いられる。また眼科領域では、ラニビズマブ(抗体断片)やアフリベルセプト(VEGF受容体の構造を利用した融合蛋白)が、加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫に対して硝子体内に投与される。悪性黒色腫の標準治療薬ではない。
切除不能悪性黒色腫の薬物療法
・免疫チェックポイント阻害薬 抗PD-1抗体:ニボルマブ、ペムブロリズマブ 抗CTLA-4抗体:イピリムマブ(CTLA-4はT細胞活性化の初期段階でブレーキとなる分子。ニボルマブとの併用で用いられる) ・分子標的薬(BRAF V600遺伝子変異陽性例) BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用(ダブラフェニブ+トラメチニブ、エンコラフェニブ+ビニメチニブなど)。日本人に多い末端黒子型ではBRAF変異の頻度は比較的低い。
免疫チェックポイント阻害薬の主な分類
・抗PD-1抗体:ニボルマブ、ペムブロリズマブ ・抗PD-L1抗体:アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ(Merkel細胞癌など) ・抗CTLA-4抗体:イピリムマブ、トレメリムマブ
免疫関連有害事象(irAE)
ブレーキを外して免疫を活性化させるため、自己免疫疾患に似た副作用が起こり得る。間質性肺炎、大腸炎(下痢)、肝炎、甲状腺機能異常、下垂体炎、副腎不全、1型糖尿病(劇症型を含む)、皮膚障害、重症筋無力症、心筋炎などがあり、治療中は内分泌検査を含めた定期的な監視が必要である。重症例では副腎皮質ステロイドで治療する。
モノクローナル抗体の名称ルール
語尾の -mab が抗体薬を示し、-ximab はキメラ抗体、-zumab はヒト化抗体、-umab は完全ヒト抗体を表す(例:セツキシマブ、トシリズマブ、ニボルマブ)。一方、-nib(ゲフィチニブなど)は低分子のキナーゼ阻害薬、-cept(アフリベルセプトなど)は受容体と抗体Fc部分などの融合蛋白である。
POINT
・切除不能悪性黒色腫:抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)、BRAF変異例ではBRAF阻害薬+MEK阻害薬。 ・標的分子と代表的適応の対応 IL-17 → 乾癬 EGFR(抗体) → 大腸癌、頭頸部癌 IL-6受容体 → 関節リウマチ PD-1 → 悪性黒色腫、肺癌など多数 VEGF → 大腸癌など(ベバシズマブ)、加齢黄斑変性(硝子体内投与) ・免疫チェックポイント阻害薬では免疫関連有害事象(irAE)に注意する。
