下半身だけが青い新生児―分離チアノーゼが告げる大動脈縮窄症
第115回医師国家試験 A問題 第48問
国試問題にチャレンジ
生後3時間の女児。在胎40週,体重3,125g,Apgarスコア7点(1分),8点(5分)で出生した。看護師がチアノーゼに気付き医師に報告した。体温37.0℃。心拍数120/分。呼吸数40/分。SpO2(room air)96%(上肢),88%(下肢)。心雑音は認めない。皮膚色は上半身より下半身で暗い色調である。 最も考えられる疾患はどれか。
- a.Fallot四徴症
- b.三尖弁閉鎖症
- c.大動脈縮窄症
- d.心室中隔欠損症
- e.完全大血管転位症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
上肢のSpO2が保たれ下肢だけが低い分離チアノーゼは、右室から肺動脈・動脈管を経て下行大動脈へ静脈血が流れ込む状態を示し、大動脈縮窄症(とくに複合型)や大動脈弓離断症、新生児遷延性肺高血圧症を考えます。Fallot四徴症・三尖弁閉鎖症・完全大血管転位症は全身性チアノーゼ、単独の心室中隔欠損症は左→右シャントでチアノーゼを来さず、完全大血管転位症に縮窄などを合併すると上下が逆の分離チアノーゼとなります。新生児早期は肺血管抵抗が高く、心雑音が目立たないことがある点にも注意が必要です。大動脈縮窄症では動脈管閉鎖によりショックに陥るため、疑った段階で心エコーを行い、プロスタグランジンE1で動脈管を開存させて外科治療につなげます。血液の流れを解剖学的にたどる考え方は、先天性心疾患のチアノーゼを理解する基本であり、新生児SpO2スクリーニングの意義にも直結します。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・生後3時間の女児。在胎40週の正期産、出生体重3,125gで正常範囲。Apgarスコアは1分7点、5分8点で、出生時の状態はおおむね良好である。 ・体温37.0℃、心拍数120/分、呼吸数40/分はいずれも新生児の正常範囲内にある。 ・看護師がチアノーゼに気付いた。 ・SpO2(室内気)は上肢96%、下肢88%で、上肢と下肢の間に8%の差がある。 ・皮膚色は上半身より下半身で暗い。 ・心雑音は聴取しない。
診断へのプロセス
本例の最大の特徴は、上半身は酸素化が保たれているのに下半身だけが低酸素となっている点である。このように上下肢でSpO2やチアノーゼの程度が異なる状態を分離チアノーゼ(differential cyanosis)と呼ぶ。 分離チアノーゼが生じるのは、下半身へ向かう血液の一部が、左心室からではなく、右心室→肺動脈→開存した動脈管(ductus arteriosus)→下行大動脈という経路で供給されている場合である。動脈管は左鎖骨下動脈分岐部より遠位の下行大動脈に合流するため、右室から送られた酸素の少ない血液は主に下半身へ流れる。一方、上半身(右上肢・頭頸部)は左室から駆出された酸素化血で灌流されるため、SpO2が保たれる。 この血行動態をとる代表的な先天性心疾患が、大動脈峡部が狭くなる大動脈縮窄症(とくに心室中隔欠損などを合併した大動脈縮窄複合)と大動脈弓離断症である。下行大動脈への血流を動脈管に頼る、いわゆる動脈管依存性の体循環をもつ疾患である。また、心疾患以外では新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)でも、動脈管を介する右→左シャントにより同様の所見がみられる。 選択肢の中で、上下肢のSpO2差を説明できるのは大動脈縮窄症のみである。Fallot四徴症、三尖弁閉鎖症、完全大血管転位症はいずれも全身性のチアノーゼを来し、心室中隔欠損症は通常チアノーゼを来さない。
心雑音がないことについて
大動脈縮窄複合では合併する心室中隔欠損などにより雑音を聴取することが多いが、生後早期は肺血管抵抗が高く心室間の圧較差が小さいため、シャント雑音がはっきりしないことがある。したがって「心雑音なし」は大動脈縮窄症を否定する根拠にはならず、本問では分離チアノーゼという特異的な所見を最重視すべきである。
臨床上の重要性
大動脈縮窄症で下半身の血流を動脈管に依存している場合、生後数日で動脈管が自然に閉じると下半身への血流が途絶え、ショック(動脈管性ショック)、乏尿・腎不全、代謝性アシドーシスに陥る。そのため、本症を疑った時点で心エコーで確認し、プロスタグランジンE1製剤の持続静注で動脈管を開存させたうえで外科治療につなげる必要がある。
選択肢考察
- ×a. Fallot四徴症
誤り。Fallot四徴症は心室中隔欠損、肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、大動脈騎乗、右室肥大の4つを特徴とする。右室流出路狭窄のため心室中隔欠損を介して右→左シャントが生じ、静脈血が大動脈へ流れ込むので、チアノーゼは上半身・下半身の区別なく全身性に現れる。また右室流出路狭窄による駆出性収縮期雑音を胸骨左縁上部で聴取するのが通常である。チアノーゼは出生直後には目立たないことが多く、生後数か月にかけて流出路狭窄の進行とともに明らかになることが多い。上下肢のSpO2差があり心雑音のない本例には合わない。
- ×b. 三尖弁閉鎖症
誤り。三尖弁閉鎖症では右房から右室への流入路がないため、全身から右房へ戻った静脈血はすべて心房間交通(卵円孔や心房中隔欠損)を通って左房へ入り、左房内で肺静脈からの酸素化血と混ざって左室から大動脈へ駆出される。肺への血流は心室中隔欠損や動脈管を介して供給される。混合した血液が大動脈全体に流れるため、チアノーゼは全身性であり、上下肢でSpO2の差は生じない。
- ○c. 大動脈縮窄症
正しい。大動脈縮窄症は、多くは大動脈峡部(左鎖骨下動脈分岐部と動脈管接合部付近)が狭くなる疾患である。縮窄が高度な新生児例では、縮窄部より遠位の下行大動脈への血流の多くを、右室→肺動脈→動脈管を経由する静脈血に頼ることになる。そのため上半身は左室からの酸素化血で灌流されてSpO2が保たれる一方、下半身には酸素の少ない血液が流れて分離チアノーゼ(上肢SpO2>下肢SpO2、下半身の皮膚色が暗い)が生じる。本例の上肢96%・下肢88%というSpO2差と下半身優位のチアノーゼはこの病態に合致する。動脈管が閉鎖すると下半身の血流が途絶えて動脈管性ショックとなるため、早期診断とプロスタグランジンE1投与が重要である。
- ×d. 心室中隔欠損症
誤り。単独の心室中隔欠損症では、体循環側の左室の圧が高いため左→右シャントとなり、酸素化血が肺側へ流れるだけなので、チアノーゼは生じない。典型的には胸骨左縁下部で全収縮期雑音を聴取する(生後早期は肺血管抵抗が高いため雑音が目立たないこともある)。長期間放置されて肺高血圧が進行し右→左シャントに逆転した場合(Eisenmenger症候群)にはチアノーゼが出現するが、それは年長以降の話であり、チアノーゼも全身性である。生後3時間の分離チアノーゼは説明できない。
- ×e. 完全大血管転位症
誤り。完全大血管転位症は、大動脈が右室から、肺動脈が左室から起始する疾患で、体循環と肺循環が並列になる。全身から戻った静脈血が再び大動脈へ駆出されるため、生後早期から強い全身性チアノーゼを呈し、卵円孔や動脈管などでの血液の混合がなければ生存できない。本例のように上肢SpO2が96%と保たれることは考えにくい。なお、完全大血管転位症に大動脈縮窄や肺高血圧を合併すると、肺動脈→動脈管経由で酸素化血が下半身へ流れ、下肢のSpO2が上肢より高い逆転型の分離チアノーゼ(reversed differential cyanosis)となることがあり、本例とは上下の関係が逆である。
分離チアノーゼ(differential cyanosis)
上半身と下半身でチアノーゼの程度やSpO2が異なる状態をいう。 ・下半身のみチアノーゼ(上肢SpO2>下肢SpO2):動脈管を介した右→左シャントで下行大動脈に静脈血が流れる場合。大動脈縮窄症(複合)、大動脈弓離断症、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)など。 ・上半身のみチアノーゼ(上肢SpO2<下肢SpO2、reversed differential cyanosis):完全大血管転位症に大動脈縮窄や肺高血圧を合併した場合など。 なお上肢SpO2は右手で測定するのが原則である。右鎖骨下動脈は確実に動脈管より近位から分岐するため、動脈管より前の血液(プレダクタル)の酸素化を反映する。
新生児のSpO2スクリーニング
重症先天性心疾患の早期発見のため、新生児の右手と足でSpO2を測定するスクリーニングが行われている。一般に、どちらかが90%未満、あるいは上下肢差が3%を超える状態が続く場合には精査(心エコー)の対象となる。本例はいずれにも該当する。
大動脈縮窄症の病型
・単純型:心内奇形を伴わない。乳児期以降に診断されることが多く、上肢高血圧、上下肢の血圧差(上肢>下肢)、大腿動脈拍動の減弱・遅延、肋間動脈などを介した側副血行路(年長児・成人では胸部X線で肋骨下縁の侵食像)がみられる。チアノーゼは通常ない。 ・複合型(大動脈縮窄複合):心室中隔欠損などの心内奇形を伴う。新生児期に心不全や動脈管閉鎖に伴うショックで発症することが多く、動脈管開存中は下半身の分離チアノーゼがみられる。
大動脈縮窄症の関連事項
・Turner症候群に合併しやすい(女児の大動脈縮窄症ではTurner症候群の可能性を考える)。 ・大動脈二尖弁の合併が多い。 ・治療:新生児重症例ではプロスタグランジンE1持続静注で動脈管開存を維持し、縮窄部の切除・端々吻合などの外科手術を行う。術後の再狭窄にはバルーン拡張術が行われることもある。
動脈管依存性先天性心疾患の整理
・体循環が動脈管に依存:大動脈縮窄複合、大動脈弓離断症、左心低形成症候群など→動脈管閉鎖でショック。 ・肺循環が動脈管に依存:肺動脈閉鎖、重症肺動脈狭窄、極型Fallot四徴症など→動脈管閉鎖で高度のチアノーゼ。 いずれもプロスタグランジンE1で動脈管を開存させる。
POINT
・上肢SpO2>下肢SpO2、下半身のみのチアノーゼ(分離チアノーゼ)をみたら、動脈管を介した右→左シャントを考え、大動脈縮窄症(複合)・大動脈弓離断症・PPHNを鑑別する。 ・大動脈縮窄複合は体循環が動脈管に依存し、動脈管閉鎖でショックになる→プロスタグランジンE1で動脈管を開存させる。 ・Fallot四徴症、三尖弁閉鎖症、完全大血管転位症は全身性チアノーゼ。完全大血管転位症では上下が逆の分離チアノーゼを呈しうる。 ・単独の心室中隔欠損症は左→右シャントでチアノーゼを来さない。 ・新生児早期は肺血管抵抗が高く、シャント性心疾患でも雑音が目立たないことがある。
