手で戻せない「年月の変形」―外反母趾の治療を段階で考える
第115回医師国家試験 A問題 第49問
国試問題にチャレンジ
31歳の女性。左母趾痛と同部の変形を主訴に来院した。3年前に誘因なく左母趾痛が出現したがそのままにしていた。最近になり,痛みが増悪し変形も目立ってきたので受診した。左足部エックス線写真を下に示す。 治療として適切でないのはどれか。

- a.靴指導
- b.筋力訓練
- c.骨切り術
- d.装具療法
- e.徒手整復
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
慢性に進行する母趾MTP関節の外反変形と痛みは外反母趾の典型で、荷重位エックス線の外反母趾角(20°以上で外反母趾、30°以上で中等度、40°以上で重度)で重症度を評価します。治療は靴指導、筋力訓練、装具療法といった保存療法が基本で、無効例や高度変形例には第1中足骨の骨切り術を中心とした手術を行います。外反母趾は骨配列と軟部組織のバランスが長期間崩れてできた慢性の変形であり、外傷性の脱臼や骨折のように手で戻しても維持できないため、徒手整復は適応になりません。痛風や強剛母趾、関節リウマチとの鑑別も含め、「変形の成り立ちから治療を選ぶ」という考え方は、運動器疾患全般の治療選択に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・31歳の女性。左母趾の痛みと変形が主訴。 ・3年前に外傷などのきっかけなく母趾痛が出現し、放置していたところ、最近になって痛みが強まり変形も目立ってきた。すなわち、外傷ではなく、日常生活の中で徐々に進行してきた慢性の変形である。 ・左足部エックス線写真(荷重位の正面像を想定)では、第1中足骨が内側へ開き(内反)、母趾の基節骨が中足趾節関節(MTP関節)で外側(第2趾側)へ大きく傾いている。第1中足骨頭は内側に突出し、母趾種子骨も外側へ偏位している。
診断
若年〜中年女性の慢性進行性の母趾痛と、エックス線で母趾MTP関節の外反変形を認めることから、外反母趾と診断できる。外反母趾の程度は、第1中足骨の骨軸と母趾基節骨の骨軸がなす角度である外反母趾角(hallux valgus angle:HV角)で評価する。本例は外反が明らかで、中等度以上の変形と考えられる。
設問の考え方
外反母趾の治療は、原因となる靴環境の是正を基本とし、運動療法(筋力訓練)や装具療法などの保存療法をまず行い、保存療法で痛みが改善しない場合や変形が高度な場合に手術(主に第1中足骨の骨切り術)を考慮する、という段階的な流れで行う。 外反母趾は、長い年月をかけて骨の配列や関節周囲の軟部組織(関節包、靱帯、腱)のバランスが崩れて生じた変形であり、外傷による脱臼のように手で元の位置に戻して治るものではない。したがって、問われている「適切でない」治療は徒手整復である。
選択肢考察
- ×a. 靴指導
適切な治療である(本問の正解ではない)。つま先の細い靴やヒールの高い靴は、前足部を靴の先端へ押し込み、母趾を外側へ押し曲げる力をかけ続けるため、外反母趾の発症・進行の大きな要因となる。つま先部分にゆとりがあり、足の幅や甲に合った、ヒールの低い靴を選ぶよう指導することは、保存療法の基本であり、手術の有無にかかわらず必要である。
- ×b. 筋力訓練
適切な治療である(本問の正解ではない)。母趾外転筋など足部の内在筋を鍛える運動療法は、外反母趾の保存療法として用いられる。代表的なものに、母趾を内側へ開く母趾外転運動(Hohmann体操など)、床に敷いたタオルを足趾でたぐり寄せるタオルギャザー、足趾でグー・チョキ・パーを作る足趾じゃんけんなどがある。足のアーチを支える筋力を高め、症状の軽減や進行の抑制が期待される。
- ×c. 骨切り術
適切な治療である(本問の正解ではない)。保存療法を行っても痛みが続く場合や、変形が中等度以上で日常生活に支障がある場合には手術が適応となる。主な術式は第1中足骨の骨切り術で、内反した第1中足骨を骨切りして矯正し、外反母趾角と第1・第2中足骨間角を改善させる。骨切りの部位により遠位骨切り術、骨幹部骨切り術、近位骨切り術などがあり、変形の程度に応じて選択される。本例は変形が目立ち痛みも増悪しているため、保存療法が無効であれば手術の対象となりうる。
- ×d. 装具療法
適切な治療である(本問の正解ではない)。母趾と第2趾の間に挟んで母趾を内側へ引き戻す外反母趾用装具(趾間装具・夜間装具など)や、足のアーチ(縦アーチ・横アーチ)を支える足底挿板(インソール)が用いられる。成人の外反母趾では装具で変形そのものを根本的に矯正する効果は限られるが、痛みの軽減や変形の進行予防に有効である。
- ○e. 徒手整復
適切でない(本問の正解)。徒手整復は、外傷による脱臼や骨折の転位を手で元の位置に戻す治療法である。外反母趾は、第1中足骨の内反、母趾の外反と回内、内側関節包の弛緩、外側の関節包や母趾内転筋の拘縮など、長期間にわたって骨配列と軟部組織のバランスが崩れて生じた慢性の変形である。仮に手で母趾をまっすぐにしても、変形を生み出している力の不均衡は変わらないため、すぐに元の外反位に戻ってしまい治療効果はない。したがって外反母趾に徒手整復は行わない。
外反母趾とは
母趾が中足趾節関節(MTP関節)で外側(小趾側)へ曲がり、第1中足骨頭が内側へ突出する足部の変形である。女性に圧倒的に多い。突出した中足骨頭部が靴に当たって炎症(滑液包炎、いわゆるバニオン)を起こし、痛みや発赤を生じる。進行すると母趾が第2趾の下にもぐり込み、第2趾のMTP関節が背側に脱臼したり、第2・第3中足骨頭の足底側に胼胝(たこ)ができて痛む(中足骨頭部痛)こともある。
原因
・外的要因:つま先の細い靴、ヒールの高い靴 ・内的要因:遺伝的素因(家族歴)、女性、扁平足や開張足(足の横アーチが低下して前足部が横に広がる状態)、関節弛緩性、第1中足骨の形態など
エックス線による評価
荷重位の足部正面像で評価する。 ・外反母趾角(HV角):第1中足骨軸と母趾基節骨軸のなす角。正常は約15°以下、20°以上で外反母趾とし、日本整形外科学会のガイドラインでは20〜30°未満を軽度、30〜40°未満を中等度、40°以上を重度とする。 ・第1・第2中足骨間角(M1-M2角):第1中足骨の内反の程度を表し、約10°を超えると開大とされる。 ・母趾種子骨の外側偏位も変形の進行度の指標となる。
治療
1)保存療法(まず行う) ・靴指導:つま先にゆとりのある、ヒールの低い靴 ・運動療法:母趾外転運動(Hohmann体操)、タオルギャザー、足趾じゃんけんなど ・装具療法:趾間装具、夜間装具、足底挿板 ・薬物療法:疼痛時の消炎鎮痛薬 2)手術療法 保存療法で痛みが改善しない例、変形が高度な例で検討する。第1中足骨の骨切り術が中心で、軟部組織の処置(外側の拘縮した組織の解離、内側関節包の縫縮)を組み合わせる。変形性関節症を伴う高度例などでは母趾MTP関節固定術が選択されることもある。
関連する足の変形との鑑別
・強剛母趾:母趾MTP関節の変形性関節症で、母趾の背屈制限と背側の骨棘・疼痛が主体。外反変形は目立たない。 ・痛風:母趾MTP関節に急性の発赤・腫脹・激痛を起こす関節炎発作。外傷のない急性発症で、外反母趾のような慢性の変形とは経過が異なる。 ・関節リウマチ:多発関節炎の一部として前足部の変形(外反母趾、槌趾など)を来すことがある。
POINT
・慢性に進行する母趾MTP関節の外反変形と痛み、女性→外反母趾。 ・診断と重症度評価は荷重位エックス線の外反母趾角(HV角)で行う。20°以上で外反母趾(20〜30°未満軽度、30〜40°未満中等度、40°以上重度)。 ・治療は保存療法(靴指導、筋力訓練、装具療法)が基本で、無効例や高度変形例に手術(第1中足骨骨切り術が中心)。 ・外反母趾は慢性の骨配列・軟部組織バランスの異常であり、徒手整復は無効で行わない。
