「つくれない」貧血を見抜く―腎性貧血を検査値で読み解く
第115回医師国家試験 A問題 第3問
国試問題にチャレンジ
腎性貧血について正しいのはどれか。
- a.網赤血球数は増加する。
- b.血中間接ビリルビン値は上昇する。
- c.平均赤血球ヘモグロビン濃度は正常範囲である。
- d.血中ヘモグロビン値は慢性腎臓病のG2期から低下する。
- e.血中エリスロポエチン濃度は発症初期から測定感度以下になる。
対話形式の解説
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医学生まとめ
腎性貧血は、腎の尿細管周囲間質細胞で産生されるエリスロポエチン(EPO)の相対的欠乏による産生低下型の貧血です。赤血球の数は減っても個々の赤血球の合成過程に異常はないため、MCV・MCH・MCHCが基準範囲内の正球性正色素性貧血となり、網赤血球は増えず、間接ビリルビン上昇などの溶血所見もみられません。貧血が目立つのはCKD G3期以降で、血中EPOは測定感度以下になるのではなく、貧血の程度に比べて不適切に低い値にとどまります。治療はESAやHIF-PH阻害薬が中心で、鉄の充足を確認しつつ、Hbを正常値まで上げすぎないことが重要です。網赤血球と溶血所見、赤血球指数で貧血を「つくれない」「壊れる」に分けて考える姿勢は、あらゆる貧血の鑑別の基本になります。
解答・解説
正解はcです
腎性貧血とは、腎機能の低下によってエリスロポエチン(EPO:赤血球の産生を促すホルモン)の産生が不足し、骨髄での赤血球産生が落ちることで起こる貧血である。EPOは主に腎皮質の尿細管周囲の間質細胞(線維芽細胞様細胞)でつくられ、組織の低酸素を感知して分泌が増える。血流に乗って骨髄に届き、赤芽球系前駆細胞(CFU-E など)の増殖・分化を促し、アポトーシス(細胞死)を抑える。 本問を解くには、腎性貧血を「産生低下型の貧血」として捉えることが要点である。 ・骨髄の赤血球産生が落ちる → 造血の勢いを反映する網赤血球は増えない。 ・赤血球が壊されているわけではない → 溶血の指標(間接ビリルビン、LD、ハプトグロビン低下など)は動かない。 ・ヘモグロビン合成そのもの(鉄・グロビン)や DNA 合成(ビタミン B12・葉酸)の障害が本態ではない → 赤血球の大きさや色素量は保たれ、正球性正色素性貧血となる。 ・EPO 産生は腎機能の低下に応じて徐々に不足していく → 貧血が目立つのは CKD(慢性腎臓病)がある程度進行してからであり、EPO 濃度も「ゼロになる」のではなく「貧血の程度に見合わず低い(相対的欠乏)」状態となる。 この枠組みに沿って各選択肢を判定すると、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)が正常範囲であるという記述が正しい。
選択肢考察
- ×a. 網赤血球数は増加する。
誤り。網赤血球は、赤芽球が脱核した直後の若い赤血球で、末梢血に出てからおよそ1日で成熟赤血球になる。そのため網赤血球数は骨髄の赤血球産生能をそのまま映す指標となる。腎性貧血ではEPOによる刺激が不足して骨髄の赤血球産生が低下しているため、網赤血球数は正常〜減少し、貧血の程度に見合った増加はみられない。網赤血球が増加するのは、骨髄が正常に反応できる溶血性貧血や急性出血後、あるいは鉄欠乏性貧血の鉄剤治療開始後などである。
- ×b. 血中間接ビリルビン値は上昇する。
誤り。間接(非抱合型)ビリルビンは、赤血球が壊れて放出されたヘモグロビンのヘムが代謝されてできる。したがって間接ビリルビンの上昇は、赤血球の破壊が亢進する溶血性貧血(あるいは巨赤芽球性貧血などの無効造血)を示唆する所見である。腎性貧血は赤血球をつくる段階の不足が本態であり、溶血を主体とする病態ではないため、間接ビリルビンは上昇しない。なお、尿毒症では赤血球寿命がやや短縮することが知られるが、間接ビリルビンを上昇させるほどの溶血は通常起こらない。
- ○c. 平均赤血球ヘモグロビン濃度は正常範囲である。
正しい。腎性貧血ではEPO不足により赤血球の「数」が減るが、個々の赤血球の造られ方(ヘモグロビン合成やDNA合成)には本質的な異常がない。そのため赤血球の大きさを示す平均赤血球容積(MCV)、1個あたりのヘモグロビン量を示す平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、赤血球容積あたりのヘモグロビン濃度を示す平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC、基準値はおよそ31〜36 g/dL)はいずれも基準範囲内となり、正球性正色素性貧血を呈する。ただし、透析患者などで鉄欠乏を合併するとMCV・MCHCが低下して小球性低色素性に傾くことがあり、そのような場合は鉄欠乏の合併を疑う。
- ×d. 血中ヘモグロビン値は慢性腎臓病のG2期から低下する。
誤り。CKDのGFR区分は、G1(GFR 90以上)、G2(60〜89)、G3a(45〜59)、G3b(30〜44)、G4(15〜29)、G5(15未満、単位は mL/分/1.73m²)である。G2期では腎機能はまだ比較的保たれており、EPO産生が不足して貧血が明らかになることは少ない。腎性貧血の頻度が上がり始めるのは GFR 60 mL/分/1.73m² 未満のG3期からで、G4・G5期と進行するにつれて有病率・重症度ともに増す。
- ×e. 血中エリスロポエチン濃度は発症初期から測定感度以下になる。
誤り。腎性貧血におけるEPOの異常は「絶対的にゼロ」ではなく「相対的な欠乏」である。腎機能が正常な人では、貧血になると腎臓の低酸素感知を介してEPOが基準値の何倍、何十倍にも増加する。ところが腎機能障害があるとこの反応が鈍り、貧血があるにもかかわらずEPO濃度が基準範囲内〜軽度低値にとどまる。つまり血中EPO濃度は、貧血の程度に比べて不適切に低いという形で異常を示すのであり、発症初期から測定感度以下になるわけではない。EPO産生の不足が目立ってくるのも、CKDがG3期以降に進行してからである。
腎性貧血の病態
・主因はEPOの相対的欠乏である。EPOは腎の尿細管周囲間質細胞で産生され、その転写は低酸素誘導因子(HIF)によって調節される。腎障害によりこれらの細胞が線維化・脱分化すると、低酸素に応じたEPO産生が十分に起こらなくなる。 ・副次的な要因として、尿毒症物質による造血抑制、赤血球寿命の軽度短縮、鉄欠乏(消化管出血、透析回路への残血、採血など)、炎症に伴うヘプシジン増加による鉄利用障害、二次性副甲状腺機能亢進症による骨髄線維化などが加わる。
検査所見のまとめ
・正球性正色素性貧血(MCV・MCH・MCHCはおおむね基準範囲) ・網赤血球数:正常〜減少(産生低下型) ・間接ビリルビン、LD:上昇しない(溶血型ではない) ・血中EPO濃度:貧血の程度に比して不適切に低い(基準範囲内にとどまることも多い) ・CKD G3期以降で頻度が増加し、病期の進行とともに重症化する
貧血の大まかな分類(網赤血球による整理)
・網赤血球が増加:溶血性貧血、急性出血後(回復期) ・網赤血球が減少:再生不良性貧血、赤芽球癆、腎性貧血、白血病などによる骨髄占拠
治療
・赤血球造血刺激因子製剤(ESA:遺伝子組換えEPO製剤や持続型製剤のダルベポエチン アルファ、エポエチン ベータ ペゴルなど)の投与が基本である。 ・近年はHIF-PH阻害薬(HIFを分解する酵素を阻害し、内因性EPO産生を高める経口薬)も用いられる。 ・ESAの効果を十分に得るには鉄の充足が必要であり、血清フェリチンやトランスフェリン飽和度(TSAT)を確認して鉄補充を行う。 ・ヘモグロビン値を高くしすぎると心血管イベントや脳卒中のリスクが増すことが示されており、正常値まで上げることは目標としない(目標は概ね Hb 10〜13 g/dL 程度の範囲で個別に設定する)。
POINT
・腎性貧血はEPOの相対的欠乏による産生低下型の貧血である。 ・正球性正色素性貧血で、MCV・MCH・MCHCは基準範囲内となる。 ・網赤血球は増えず(正常〜減少)、溶血所見(間接ビリルビン上昇など)はみられない。 ・貧血が目立つのはCKD G3期(GFR 60未満)以降である。 ・血中EPOは「感度以下」ではなく、貧血の程度に比べて不適切に低い(基準範囲内のことも多い)。 ・小球性に傾いたら鉄欠乏の合併を疑う。
