15年治らない「湿疹」の正体―紅斑から腫瘤へ進む菌状息肉症
第120回医師国家試験 A問題 第39問
国試問題にチャレンジ
63歳の女性。全身の皮疹を主訴に来院した。約15年前から体幹を中心に瘙痒を伴う紅斑が出現し,近くの診療所で湿疹として副腎皮質ステロイド外用薬による治療を受けていたが,改善と増悪を繰り返していた。約5年前から紅斑の一部が盛り上がり,局面を形成するようになった。6か月前から局面の一部が急速に増大し,腫瘤が複数出現した。腫瘤からの出血や悪臭も伴うようになった。顔面,体幹および四肢に径1~8cmの半球状~茸状に隆起する暗紅色の結節と腫瘤を複数認める。周囲には浸潤を触れる紅斑や局面が散在する。鼠径リンパ節に軽度の腫大を認める。血液所見:末梢血白血球数8,000/μL,異型リンパ球は認めない。LD 350U/L(基準124~222)。胸腹部造影CTでは両側鼠径リンパ節の軽度腫大以外に,内臓病変は指摘されなかった。腫瘤部からの皮膚生検の病理検査では,真皮に大型で核形不整な異型リンパ球が密に浸潤していた。表皮への浸潤は一部で認められた。皮疹の写真を下に示す。 診断はどれか。

- a.菌状息肉症
- b.結節性痒疹
- c.Sézary症候群
- d.サルコイドーシス
- e.スポロトリコーシス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
湿疹として治療しても治りきらない瘙痒性紅斑が、年単位で紅斑・局面・腫瘤と段階的に進行する場合は、皮膚T細胞リンパ腫で最も多い菌状息肉症を考えます。病理では異型リンパ球の表皮向性やPautrier微小膿瘍が特徴ですが、腫瘤期には真皮内浸潤が主体となり表皮向性が目立たなくなることがあります。紅皮症・リンパ節腫大・末梢血Sézary細胞を3主徴とするSézary症候群とは皮疹の性状と末梢血所見で鑑別し、結節性痒疹やサルコイドーシス、スポロトリコーシスは異型リンパ球を欠く点で否定されます。病期はTNMB分類で評価し、早期は外用薬や紫外線療法、進行期は放射線や分子標的薬などを組み合わせます。「治らない湿疹は生検する」という姿勢が、早期診断と予後改善につながることを学べる問題です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・63歳女性。15年前から体幹を中心に、かゆみを伴う紅斑が出ている。湿疹としてステロイド外用薬で治療されてきたが、良くなったり悪くなったりを繰り返している。 ・5年前から紅斑の一部が盛り上がり、局面(扁平に隆起し、触ると厚みを感じる皮疹)になった。 ・6か月前から局面の一部が急に大きくなり、腫瘤が多発した。出血や悪臭も伴う。 ・現症では、顔面・体幹・四肢に径1〜8cmの半球状〜茸状の暗紅色の結節と腫瘤が多発し、その周囲に浸潤を触れる紅斑や局面が散らばっている。紅斑・局面・腫瘤という異なる段階の皮疹が同時にみられる。 ・鼠径リンパ節が軽く腫れている。末梢血では白血球数は正常範囲で、異型リンパ球はみられない。LD(乳酸脱水素酵素)が上昇している。造影CTでは内臓病変がない。 ・腫瘤の皮膚生検では、真皮に大型で核の形が不整な異型リンパ球が密に浸潤し、表皮への浸潤(表皮向性)も一部にみられる。
診断に至る考え方
「湿疹として治療されたが治りきらない紅斑」が、長い年月をかけて「紅斑 → 局面 → 腫瘤」と段階的に進行している。これは菌状息肉症(mycosis fungoides:MF)に典型的な経過である。MFは皮膚に生じるT細胞リンパ腫で、初期は湿疹や乾癬に似ているため、診断が数年〜十数年遅れることが珍しくない。 病理で異型リンパ球が浸潤していることから、炎症性疾患や肉芽腫性疾患ではなく、リンパ腫と考えられる。LDの上昇とリンパ節腫大も、腫瘍性疾患を支持する。表皮内に異型リンパ球が入り込む表皮向性はMFの特徴的な所見である。ただし腫瘤期では、腫瘍細胞が真皮で大きく増えるため、表皮向性は目立たなくなることがある。本例で表皮浸潤が「一部」にとどまるのは、この進行期の像と合う。 同じ皮膚T細胞リンパ腫の類縁疾患にSézary症候群がある。これは紅皮症(全身の皮膚の大部分が紅くなる状態)、リンパ節腫大、末梢血中の異型T細胞(Sézary細胞)の増加を特徴とする。本例は紅皮症ではなく、末梢血に異型リンパ球もないため、これには当たらない。 以上から、腫瘤期の菌状息肉症と診断する。腫瘤があり(T3)、内臓病変がないことから、病期はおおむねIIB期以上と考えられる。
選択肢考察
- ○a. 菌状息肉症
菌状息肉症は皮膚T細胞リンパ腫のなかで最も多い病型である。湿疹や乾癬に似た紅斑で始まり(紅斑期)、浸潤を触れる局面(局面期)を経て、腫瘤が出る(腫瘤期)という経過を、年〜十数年単位でたどる。本例は、ステロイド外用薬に反応しきらない長期の瘙痒性紅斑、局面化、急速な腫瘤形成という典型的な経過を示している。さらに、病理での異型リンパ球の密な浸潤と一部の表皮向性、LD上昇、リンパ節腫大がそろい、末梢血に異型細胞がないことから、菌状息肉症に合致する。
- ×b. 結節性痒疹
結節性痒疹は、虫刺されに似た丘疹が主に四肢の伸側に出て、強いかゆみによる掻破を繰り返すうちに、暗褐色で硬い結節になる慢性の皮膚疾患である。結節は孤立して散在し、ふつう融合して局面をつくることはない。径数cmの茸状腫瘤になることも、紅斑から局面・腫瘤へと段階的に進むこともない。病理は表皮の肥厚と真皮の炎症細胞浸潤であり、異型リンパ球の浸潤はみられない。
- ×c. Sézary症候群
Sézary症候群は、紅皮症、全身の表在リンパ節腫大、末梢血中の異型T細胞(Sézary細胞:脳回状の切れ込みがある核を持つ)の増加を3主徴とする、白血化した皮膚T細胞リンパ腫である。皮膚の病理像は菌状息肉症と似ている。本例は紅皮症ではなく、局面・腫瘤が主体である。また、末梢血に異型リンパ球がみられないため、Sézary症候群とは診断できない。
- ×d. サルコイドーシス
サルコイドーシスの皮膚病変は、結節型・局面型・びまん浸潤型、瘢痕浸潤など多彩であり、皮疹の形だけなら局面や結節として鑑別に挙がる。しかし病理では、乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が特徴であり、異型リンパ球の浸潤はみられない。また、肺門リンパ節腫脹や眼病変(ぶどう膜炎)などの全身所見を伴うことが多く、出血・悪臭を伴う茸状腫瘤へ急に進むことは考えにくい。
- ×e. スポロトリコーシス
スポロトリコーシスは、土壌や植物に存在する真菌(Sporothrix属)が外傷部から入ることで起こる深在性皮膚真菌症である。侵入部位(手や顔に多い)に紅色の丘疹や膿疱ができ、皮下結節から自潰して潰瘍になる。リンパ管に沿って結節が列をなして並ぶリンパ管型が特徴的である。病理では化膿性肉芽腫がみられ、異型リンパ球の浸潤はない。15年にわたる全身性の紅斑から始まる経過とも合わない。
皮膚T細胞リンパ腫(cutaneous T-cell lymphoma:CTCL)
・皮膚に原発する悪性リンパ腫の大部分はT細胞性で、そのなかでは菌状息肉症が最も多い。 ・腫瘍細胞は主にCD4陽性のヘルパーT細胞の形質を示す。
菌状息肉症の臨床病期(皮疹の形による分類)
・紅斑期:わずかに鱗屑(皮膚表面のかさぶた状の角質)を伴う紅斑。湿疹・乾癬・皮膚萎縮などとの区別が難しい。殿部や体幹など日光が当たりにくい部位に好発する。 ・局面期:浸潤を触れる隆起した局面になる。 ・腫瘤期:結節や腫瘤が出て、潰瘍化、出血、二次感染(悪臭)を伴うことがある。 ・紅斑・局面・腫瘤が同時に混在することが多い。 ・病期分類はTNMB分類(T:皮膚病変、N:リンパ節、M:内臓、B:末梢血)で行う。紅斑・局面のみならI期、腫瘤があればIIB期以上、紅皮症ならIII期、リンパ節や内臓に浸潤があればIV期となる。
病理所見
・表皮向性:異型リンパ球が、表皮内に海綿状態(表皮細胞の間のむくみ)をほとんど伴わずに入り込む。 ・Pautrier微小膿瘍:表皮内に異型リンパ球が小さな集団をつくる所見で、特徴的である。 ・腫瘤期には真皮内の浸潤が主体となり、表皮向性が目立たなくなることがある。また、大細胞が増える(大細胞転化)と予後が悪化する。 ・T細胞受容体遺伝子の再構成(クローン性)の検出が、診断の補助になる。
治療の概要
・早期(紅斑期・局面期):ステロイド外用、紫外線療法(ナローバンドUVB、PUVA)など、皮膚に向けた治療が中心となる。 ・進行期:放射線療法(電子線)、レチノイド(ベキサロテン)、インターフェロン、モガムリズマブ(抗CCR4抗体)などの分子標的薬、化学療法などを組み合わせる。 ・早期例の予後は比較的良いが、腫瘤期以降は予後が悪化する。
鑑別疾患の病理の要点
・結節性痒疹:表皮の肥厚と、真皮の炎症細胞浸潤 ・サルコイドーシス:非乾酪性類上皮細胞肉芽腫 ・スポロトリコーシス:化膿性肉芽腫。菌要素や星状体を認めることがある。培養で診断を確定する ・Sézary症候群:皮膚の病理は菌状息肉症に類似する。末梢血の異型細胞の評価が診断の鍵になる
POINT
・湿疹として治療しても治りきらない紅斑が、年単位で紅斑 → 局面 → 腫瘤と進行したら、菌状息肉症を考える ・菌状息肉症は皮膚T細胞リンパ腫のなかで最も多い。病理は異型リンパ球の表皮向性とPautrier微小膿瘍が特徴である ・腫瘤期では表皮向性が目立たなくなり、真皮内の浸潤が主体になることがある ・Sézary症候群の3主徴は、紅皮症・リンパ節腫大・末梢血Sézary細胞である。末梢血に異型細胞がなければ否定的である ・LD上昇は腫瘍量の増加や病勢の進行を示唆する
