アクセルとブレーキを見分けろ―PD-1とCTLA-4、がん免疫療法を変えた「抑制シグナル」
第114回医師国家試験 F問題 第27問
国試問題にチャレンジ
リンパ球の抑制シグナルに関与し,現在,治療標的となっている分子はどれか。2つ選べ。
- a.CD8
- b.CD28
- c.TLR〈Toll-like receptor〉-4
- d.PD〈programmed cell death〉-1
- e.CTLA〈cytotoxic T lymphocyte-associated molecule〉-4
対話形式の解説
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ドクターまとめ
T細胞の活性化には、T細胞受容体による抗原認識(第1シグナル)とCD28–CD80/CD86による補助刺激(第2シグナル)が必要であり、一方で過剰な活性化を抑える抑制性受容体として免疫チェックポイント分子が存在します。代表はCTLA-4とPD-1で、CTLA-4はCD28と同じリガンドを強い親和性で奪い合ってプライミングを抑制し、PD-1は腫瘍などが発現するPD-L1と結合してエフェクターT細胞を抑えます。これらを遮断する抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)、抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)、抗PD-L1抗体は多くの癌で用いられています。CD28とCD8は活性化を支える側、TLR-4はLPSを認識する自然免疫の受容体であり、抑制シグナルとは異なります。免疫のアクセルとブレーキの区別は、がん免疫療法の作用機序や、間質性肺炎・内分泌障害などの免疫関連有害事象を理解する土台になります。
解答・解説
正解はd, eです
本問のテーマは「免疫チェックポイント分子」である。 T細胞が十分に活性化するには、2種類のシグナルが必要になる。第1シグナルは、T細胞受容体〈TCR〉が抗原提示細胞のMHC分子上の抗原ペプチドを認識することで生じる。第2シグナルは補助刺激(副刺激)と呼ばれ、代表例はT細胞上のCD28と抗原提示細胞上のCD80/CD86〈B7-1/B7-2〉の結合である。第1シグナルだけで第2シグナルが入らないと、T細胞は活性化できずに不応答状態(アネルギー)に陥る。 一方、活性化したT細胞が際限なく働き続けると、自己組織まで傷つけてしまう。そこでT細胞には、活性化にブレーキをかける抑制性の受容体が備わっている。これを免疫チェックポイント分子と呼び、代表がCTLA-4とPD-1である。がん細胞はこの仕組みを利用し、例えば腫瘍細胞にPD-L1を発現させてT細胞の攻撃を逃れる(免疫逃避)。 このブレーキを抗体で外し、腫瘍に対するT細胞の攻撃力を回復させるのが免疫チェックポイント阻害薬である。したがって、「抑制シグナルに関与し、現在治療標的となっている分子」を選ぶ本問では、CTLA-4とPD-1が該当する。CD28は同じB7ファミリーのリガンドに結合するが、促進性の補助刺激分子であり、抑制系ではない点を区別することが重要である。
選択肢考察
- ×a. CD8
CD8は細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)の表面にある補助受容体で、MHCクラスI分子に結合してTCRによる抗原認識を助ける。働きはT細胞の活性化を支える方向であり、抑制シグナルを伝える分子ではない。CD8そのものを標的とした治療薬も実用化されていない。
- ×b. CD28
CD28はT細胞上の代表的な補助刺激分子で、抗原提示細胞のCD80/CD86と結合してT細胞の増殖やIL-2産生を促す「アクセル」側の分子である。抑制シグナルとは逆の働きをするため誤り。なお、CD28を直接刺激する抗体(スーパーアゴニスト)の臨床試験では重篤なサイトカイン放出が起こり、治療としては確立していない。
- ×c. TLR〈Toll-like receptor〉-4
TLR-4(Toll様受容体4)は、マクロファージや樹状細胞などに発現する自然免疫のパターン認識受容体で、Gram陰性菌外膜のリポ多糖〈LPS〉を認識して炎症性サイトカインの産生を誘導する。免疫を活性化する側の分子であり、リンパ球の抑制シグナルとは関係しない。敗血症に対してTLR-4拮抗薬の開発が試みられたが、有効性は示されず治療薬として確立していない。なお、Gram陽性菌のリポテイコ酸などを主に認識するのはTLR-2である。
- ○d. PD〈programmed cell death〉-1
PD-1は活性化したT細胞などに発現する抑制性受容体である。リガンドのPD-L1/PD-L2と結合すると、TCRからのシグナルが弱められ、T細胞の増殖・サイトカイン産生・細胞傷害活性が抑えられる。慢性的な抗原刺激下ではT細胞の「疲弊」に関わる。腫瘍の微小環境では、腫瘍細胞や周囲の細胞がPD-L1を発現してこの経路を使い、T細胞の攻撃を逃れている。抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)や抗PD-L1抗体(アテゾリズマブ、デュルバルマブなど)はこの結合を遮断してT細胞の機能を回復させ、悪性黒色腫、非小細胞肺癌、腎細胞癌など多くの癌に使われている。抑制シグナルに関与し、かつ治療標的であるため正しい。
- ○e. CTLA〈cytotoxic T lymphocyte-associated molecule〉-4
CTLA-4は活性化T細胞や制御性T細胞〈Treg〉に発現する抑制性受容体である。CD28と同じリガンド(CD80/CD86)に、CD28よりはるかに強い親和性で結合する。これによりCD28からの補助刺激を奪い、T細胞の活性化を抑える。主にリンパ節での免疫応答の初期段階(プライミング)にブレーキをかける分子である。抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)はこのブレーキを外してT細胞を活性化し、Tregによる抑制も弱める。悪性黒色腫などに用いられ、抗PD-1抗体と併用されることもある。抑制シグナルに関与し、かつ治療標的であるため正しい。
T細胞活性化の2シグナルモデル
第1シグナル: TCRがMHC-抗原ペプチド複合体を認識する(CD4はMHCクラスIIに、CD8はMHCクラスIに結合して補助する)。 第2シグナル: CD28とCD80/CD86の結合などの補助刺激。 第1シグナルだけではT細胞はアネルギーに陥る。
主な免疫チェックポイント分子の比較
CTLA-4: リガンドはCD80/CD86で、CD28と競合する。主にリンパ節でのT細胞プライミング段階を抑制する。薬剤はイピリムマブ、トレメリムマブ。 PD-1: リガンドはPD-L1/PD-L2。主に末梢組織や腫瘍局所でエフェクターT細胞を抑制する。薬剤は抗PD-1抗体のニボルマブ、ペムブロリズマブ。PD-L1側を阻害する抗PD-L1抗体としてアテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブがある。 このほか、LAG-3なども抑制性分子として研究・開発が進んでいる。
免疫関連有害事象〈irAE〉
免疫チェックポイント阻害薬は自己に対する寛容も弱めるため、自己免疫に似た副作用を起こす。代表例は、間質性肺炎、大腸炎、肝障害、皮膚障害、甲状腺機能異常、下垂体炎、副腎不全、1型糖尿病(劇症型を含む)、重症筋無力症、心筋炎などである。一般に、抗CTLA-4抗体のほうがirAEの頻度が高く、両者を併用するとさらに頻度が上がる。重症例では副腎皮質ステロイドで治療する。
Toll様受容体の主なリガンド
TLR-2: リポタンパク、リポテイコ酸。TLR-3: 二本鎖RNA。TLR-4: LPS。TLR-5: フラジェリン。TLR-7/8: 一本鎖RNA。TLR-9: 非メチル化CpG DNA。
POINT
・免疫チェックポイント分子(抑制性受容体)の代表はPD-1とCTLA-4である。 ・抗PD-1抗体はニボルマブとペムブロリズマブ、抗CTLA-4抗体はイピリムマブ。 ・CD28は促進性の補助刺激分子で、CTLA-4はCD28と同じCD80/CD86を奪い合って抑制する。 ・TLR-4は自然免疫でLPSを認識する受容体である。 ・免疫チェックポイント阻害薬では、内分泌障害、間質性肺炎、大腸炎などのirAEに注意する。
