StudyMed医師国家試験

精神保健の「地域の司令塔」はどこ?―入院形態から福祉制度まで一気に整理

第114回医師国家試験 F問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第26問

精神障害者の保健,医療,福祉について正しいのはどれか。

  1. a.治療を行う際のインフォームド・コンセントは必要ない。
  2. b.緊急措置入院は複数の精神保健指定医の診察を必要とする。
  3. c.知的障害者の福祉対策は成人後も児童福祉法に基づいて行われる。
  4. d.精神保健福祉センターは精神保健福祉の知識について普及・啓発を行う。
  5. e.精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉の目的は犯罪予防である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は精神障害者の保健・医療・福祉の制度を幅広く問う問題だ。精神保健福祉法の目的と入院形態、インフォームド・コンセント、知的障害者の福祉を担う法律、そして地域の行政機関の役割分担。この4本柱を整理できていれば迷わず解けるよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で入院形態の表を覚えましたが、指定医が何人必要かがいつもごちゃごちゃになります。
ドクタードクター
そこは後でまとめて整理しよう。まずはインフォームド・コンセントから。精神障害のある人の治療では、説明と同意は不要だと思うかな。
医学生医学生
病識がない人もいるので、同意を取れない場面は多そうです。でも不要とまでは言えない気がします。
ドクタードクター
その感覚が正しい。精神障害があるからといって、同意する能力が一律に失われるわけではない。病状や治療内容、利益と危険性、代替手段を説明し、本人の同意を得るのが原則だ。判断能力が不十分なときも、家族等に説明したり、本人にもできる範囲で説明したりする配慮が求められる。同意によらない入院は、法律で定められた要件と手続きの下でだけ認められる例外なんだ。
医学生医学生
では入院形態です。措置入院は指定医2人ですよね。緊急措置入院はもっと重いので、やはり複数必要でしょうか。
ドクタードクター
そこがよくある勘違いだね。緊急措置入院は、自傷他害のおそれが著しく、正規の手続きをとる時間がないときの制度だ。だから指定医1名の診察で入院させられる代わりに、期間は72時間以内に限られる。その間に2名の指定医が診察して、措置入院に切り替えるかを判断するんだ。
医学生医学生
急ぐから人数を減らして、その分時間を制限する、という理屈なんですね。
ドクタードクター
そう、トレードオフで覚えると忘れにくい。ついでに整理すると、任意入院は指定医の診察が不要で、指定医が必要と認めれば72時間に限り退院を制限できる。医療保護入院は指定医1名と家族等の同意、応急入院は家族等の同意も得られない急ぎの場合に指定医1名で72時間以内だ。医療保護入院の同意者は、2014年施行の改正で保護者制度が廃止されて「家族等」になったことも押さえておこう。
医学生医学生
臨床実習で精神科を回ったとき、医療保護入院の書類を指導医の先生が書いているのを見ました。家族の同意が要るのはそういうことだったんですね。
ドクタードクター
実際の現場を見ているとイメージしやすいね。次は知的障害者の福祉だ。成人してからも児童福祉法で対応すると思う?
医学生医学生
児童福祉法は18歳未満が対象だったはずなので、成人後は別の法律だと思います。
ドクタードクター
正解。かつては知的障害児施設に成人後も入所し続ける人が増え、成人のための枠組みが必要になった。そこで1960年に精神薄弱者福祉法が作られ、1998年に知的障害者福祉法へ名称が改められた。成人後は知的障害者福祉法と障害者総合支援法が担っている。
医学生医学生
精神保健福祉法の目的については、措置入院があるので犯罪予防も含まれると思っていました。
ドクタードクター
そう誤解されやすいけれど、法律の目的は精神障害者の医療と保護、社会復帰と自立・社会参加の促進、そして国民の精神的健康の保持増進だ。措置入院も自傷他害のおそれに対応するとはいえ、あくまで本人の医療と保護として位置づけられている。精神障害者を危険な存在とみなす発想は偏見を強めることにもつながるから、医師として特に気をつけたい点だね。
医学生医学生
そうすると、残る精神保健福祉センターが知識の普及・啓発を行う、というのが正しい記述ですね。
ドクタードクター
その通り。精神保健福祉センターは都道府県と政令指定都市に置かれる専門機関で、知識の普及・啓発、調査研究、依存症やひきこもり、自殺対策などの複雑・困難な相談、保健所や市町村への技術支援を担う。精神医療審査会の事務や、精神障害者保健福祉手帳・自立支援医療の判定も行っているよ。
医学生医学生
保健所や市町村とはどう違うんですか。
ドクタードクター
保健所は地域の第一線の行政機関として相談や訪問指導、措置入院関係の事務を担い、市町村は身近な相談窓口として障害福祉サービスを提供する。センターはその後ろで専門的・技術的に支える中核機関、という位置づけだ。もうひとつ注意したいのが経済的支援で、通院医療費の自己負担が原則1割になるのは障害者総合支援法の自立支援医療で、精神障害者保健福祉手帳とは別の制度なんだ。手帳は1〜3級で2年ごとの更新だね。
医学生医学生
手帳を持っていれば医療費が安くなると思い込んでいました。外来で患者さんに説明するときに混同しないようにします。

まとめ

精神障害者の医療でもインフォームド・コンセントは原則として必要であり、本人の同意によらない入院は精神保健福祉法の要件と手続きに基づく例外に限られます。措置入院は指定医2名以上の診察を要する一方、緊急措置入院は指定医1名で可能な代わりに72時間以内に限られ、医療保護入院・応急入院も指定医1名です。成人の知的障害者の福祉は児童福祉法ではなく知的障害者福祉法と障害者総合支援法が担い、精神保健福祉法の目的は犯罪予防ではなく医療・保護、社会復帰の促進、国民の精神保健の向上です。精神保健福祉センターは都道府県・政令指定都市に置かれ、普及啓発や困難事例の相談、保健所・市町村への技術支援を行う中核機関です。制度の役割分担を理解しておくことは、患者さんを適切な支援につなぐ臨床の場面で直接役立ちます。

解答・解説

正解はdです

本問は、精神障害者に関する保健・医療・福祉の制度を幅広く問う一般問題である。押さえるべき柱は次の4つである。 (1) 精神障害者の医療と保護を定める「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」の目的と入院形態 (2) 精神障害者の医療にもインフォームド・コンセントが原則として必要であること (3) 知的障害者の福祉は、18歳未満は児童福祉法、18歳以上は知的障害者福祉法が担うこと (4) 地域の精神保健福祉を担う行政機関(精神保健福祉センター、保健所、市町村)の役割分担 精神保健福祉法の入院形態は、本人の同意による任意入院、家族等の同意による医療保護入院、都道府県知事の権限による措置入院・緊急措置入院、応急入院に分かれる。それぞれについて、必要な精神保健指定医の人数と入院期間の制限を整理しておくと、選択肢を判断しやすい。 精神保健福祉センターは都道府県(および政令指定都市)に置かれる精神保健福祉の専門機関である。精神保健福祉に関する知識の普及・啓発、調査研究、複雑・困難な事例の相談・指導、保健所や市町村への技術的な指導・援助などを行う。この点が正解を導く鍵となる。

選択肢考察

  1. ×a.  治療を行う際のインフォームド・コンセントは必要ない。

    精神障害があるからといって、治療に同意する能力が一律に失われるわけではない。精神科医療でも、病状・治療内容・利益と危険性・代替手段を説明し、本人の同意を得るのが原則である。本人の判断能力が不十分な場合でも、家族等に説明して同意を得る、本人にもできる範囲で説明するなどの配慮が求められる。精神保健福祉法の措置入院や医療保護入院のように、本人の同意によらない入院は、法律で定められた要件と手続きの下に限って認められる例外である。したがって「必要ない」とする記述は誤りである。

  2. ×b.  緊急措置入院は複数の精神保健指定医の診察を必要とする。

    通常の措置入院は、2名以上の精神保健指定医が診察し、いずれも「入院させなければ自傷他害のおそれがある」と判定した場合に、都道府県知事(または政令指定都市の市長)が入院を命じるものである。これに対して緊急措置入院は、自傷他害のおそれが著しく、急速を要するため正規の手続きをとれない場合に行われる。精神保健指定医1名の診察で入院させることができる代わりに、入院期間は72時間以内に限られる。その間に2名の指定医による診察を行い、措置入院に切り替えるかどうかを判断する。したがって「複数の指定医が必要」とする記述は誤りである。

  3. ×c.  知的障害者の福祉対策は成人後も児童福祉法に基づいて行われる。

    児童福祉法の対象は原則として18歳未満の児童である。かつては知的障害児施設に成人後も入所し続ける年齢超過者が増え、成人の知的障害者のための法的な枠組みが必要となった。そこで1960年(昭和35年)に精神薄弱者福祉法が制定され、1998年(平成10年)の用語見直しで知的障害者福祉法に名称が改められた。成人後の福祉対策は、知的障害者福祉法と障害者総合支援法に基づいて行われる。したがって誤りである。

  4. ○d.  精神保健福祉センターは精神保健福祉の知識について普及・啓発を行う。

    精神保健福祉センターは、精神保健福祉法に基づいて都道府県と政令指定都市に設置される機関である。主な業務は次のとおりである。 ・精神保健福祉に関する知識の普及・啓発 ・調査研究 ・複雑または困難な相談・指導(アルコール・薬物などの依存症、思春期精神保健、ひきこもり、自殺対策など) ・保健所や市町村への技術指導・技術援助、関係職員の教育研修 ・精神医療審査会の事務 ・精神障害者保健福祉手帳の交付や自立支援医療(精神通院医療)の支給認定に関する判定 精神科医、精神保健福祉士、公認心理師などの専門職が配置されている。したがって正しい。

  5. ×e.  精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉の目的は犯罪予防である。

    精神保健福祉法の目的は次のように定められている。精神障害者の医療と保護を行い、障害者総合支援法とあいまってその社会復帰の促進と自立・社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行う。あわせて、精神障害の発生の予防その他国民の精神的健康の保持・増進に努める。これらにより、精神障害者の福祉の増進と国民の精神保健の向上を図る。措置入院は自傷他害のおそれに対応する制度であるが、その位置づけは本人の医療と保護であり、犯罪予防を目的とした法律ではない。精神障害者を危険な存在とみなす誤解は偏見の助長にもつながる。したがって誤りである。

精神保健福祉法による主な入院形態

・任意入院:本人の同意による入院。精神保健指定医の診察は不要。本人から退院の申し出があれば原則として退院させるが、指定医が入院継続の必要を認めれば72時間に限り退院を制限できる。 ・医療保護入院:指定医1名が医療と保護のため入院が必要と判断し、本人の同意が得られない場合に、家族等の同意で行う入院。2013年の法改正(2014年施行)で保護者制度が廃止され、同意者は「家族等」となった。さらに2022年の法改正(2024年施行)で入院期間の上限が定められ、一定期間ごとに更新の手続きが必要となった。 ・措置入院:指定医2名以上の診察で、いずれも自傷他害のおそれありと判定した場合に、都道府県知事(政令指定都市の市長)が命じる入院。 ・緊急措置入院:急速を要する場合に、指定医1名の診察で都道府県知事が命じる入院。72時間以内に限られる。 ・応急入院:急速を要し、家族等の同意も得られない場合に、指定医1名の診察で応急入院指定病院に行う入院。72時間以内に限られる。

精神保健福祉に関わる行政機関

・精神保健福祉センター(都道府県・政令指定都市):専門的・技術的な中核機関として、普及啓発、調査研究、困難事例の相談、保健所・市町村への技術支援を行う。 ・保健所:地域の精神保健福祉の第一線の行政機関として、相談、訪問指導、措置入院関係の事務などを行う。 ・市町村:身近な相談窓口として、障害福祉サービスの提供などを行う。

経済的支援など

・精神障害者保健福祉手帳:都道府県知事(政令指定都市の市長)が交付する。等級は1〜3級で、2年ごとに更新する。税の控除や公共料金の割引などの支援が受けられる。 ・自立支援医療(精神通院医療):障害者総合支援法に基づく制度で、精神疾患の通院医療費の自己負担が原則1割に軽減される。手帳とは別の制度である。

知的障害者に関わる法律

18歳未満は児童福祉法の対象である。18歳以上は知的障害者福祉法の対象で、療育手帳の交付などが行われる。障害福祉サービスは年齢を問わず障害者総合支援法に基づいて提供される。

POINT

・精神障害者にもインフォームド・コンセントは原則として必要である。同意によらない入院は法定の例外に限られる。 ・措置入院は指定医2名以上、緊急措置入院は指定医1名で72時間以内。医療保護入院と応急入院は指定医1名。 ・成人の知的障害者の福祉は知的障害者福祉法(1960年に精神薄弱者福祉法として制定)が担う。 ・精神保健福祉センターは都道府県・政令指定都市に置かれ、普及啓発・調査研究・困難事例の相談・技術支援を行う。 ・精神保健福祉法の目的は、精神障害者の医療・保護、社会復帰と自立の促進、国民の精神保健の向上である。犯罪予防ではない。 ・精神通院医療費の軽減(原則1割負担)は自立支援医療の制度であり、精神障害者保健福祉手帳による給付ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。