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「新鮮で、身内の血」ほど危ない―放射線照射が守る輸血後GVHDの真実

第114回医師国家試験 E問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第114回 E問題 第8問

輸血後GVHDで正しいのはどれか。

  1. a.輸血後6時間以内に発症する。
  2. b.新鮮血と比較して保存血で起こりやすい。
  3. c.輸血製剤の放射線照射が予防に有効である。
  4. d.初回と比較して複数回の輸血後に起こりやすい。
  5. e.血縁者と比較して非血縁者からの供血で起こりやすい。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は輸血後GVHDの問題だ。輸血の副作用の中でも、起こってしまえば救命がきわめて難しい合併症として知られている。着眼点は「誰の、どんな細胞が、何を攻撃するのか」という病態の一点。そこが分かれば、危険因子も予防法も発症時期も自然と導けるよ。
医学生医学生
GVHDというと、血液内科の講義で造血幹細胞移植の合併症として習いました。輸血でも起こるんですね。
ドクタードクター
そう。輸血用の血液製剤には、赤血球や血小板だけでなく供血者のTリンパ球がわずかに混じっている。普通は患者さんの免疫がそれを異物として排除するんだけど、排除されずに生着・増殖すると、今度はそのリンパ球が患者さんの組織をHLAの違いから異物とみなして攻撃する。これが輸血後GVHDだ。
医学生医学生
患者さんの免疫が弱っているときに起こりやすい、ということでしょうか。
ドクタードクター
それが一つ目の条件。先天性免疫不全や強力な化学療法後、胎児・新生児などだね。ただ、免疫が正常な人でも起こりうるのがこの病気の怖いところで、そのカギが「HLA一方向適合」なんだ。たとえば供血者がHLAのある型をホモ接合でもち、患者さんがその型を含むヘテロ接合だったとする。患者側から見ると供血者の抗原は全部自分ももっているから拒絶しない。でも供血者のリンパ球から見ると、患者さんのもう一方の抗原は異物だから攻撃できる。
医学生医学生
拒絶はされないのに、攻撃だけはできる組み合わせ……。だとすると、HLAが似ている人ほど危ないということですか。
ドクタードクター
その通り。HLAハプロタイプを共有しやすいのは血縁者だから、血縁者からの輸血のほうが一方向適合が成立しやすい。だから「非血縁者からのほうが起こりやすい」という記述は逆で、近親者からの輸血は原則として避けるべきとされているんだ。
医学生医学生
家族の血なら安心、という感覚とは真逆なんですね。では新鮮血と保存血ではどうでしょう。
ドクタードクター
病態から考えてみよう。攻撃の主役は「生きていて増殖できる」リンパ球だよね。
医学生医学生
採血したばかりの血液のほうがリンパ球が元気なので、新鮮血のほうが危ない、ということですね。
ドクタードクター
正解。特に採血後72時間以内の血液はリスクが高いとされる。保存期間が長くなるとリンパ球の生存率や増殖能が下がるから相対的にリスクは下がるけれど、だからといって保存血なら安全というわけではない。では、初回の輸血と複数回の輸血ではどちらが起こりやすいと思う?
医学生医学生
回数が多いほど危なそうな気がしますが……。
ドクタードクター
そこはよく間違えるところだ。輸血後GVHDは、むしろ輸血歴のない患者さんへの初回輸血、とくに心臓血管外科手術などで新鮮な血液を一度に大量に入れる場面で起こりやすいとされる。複数回の輸血で起こりやすくなるのは、同種抗体ができて起こる遅発性溶血反応や、HLA抗体による血小板輸血不応状態、発熱性非溶血性輸血反応などで、こちらとは区別しておこう。
医学生医学生
発症時期についてはどうですか。輸血後6時間以内というのは早すぎる気がします。
ドクタードクター
いい感覚だね。供血者のリンパ球が体内で増えて組織を傷害するまでには時間がかかるから、発症は輸血後およそ1〜2週間。発熱と紅斑で始まり、肝障害や下痢が続き、最後は骨髄が攻撃されて汎血球減少に至る。輸血後6時間以内に起こるのはTRALIやTACO、アナフィラキシー、ABO不適合による急性溶血反応といった即時型の副作用だ。
医学生医学生
造血幹細胞移植後のGVHDでは汎血球減少はあまり問題にならなかった気がするんですが、違いは何でしょう。
ドクタードクター
鋭い質問だ。移植では患者さんの造血系そのものがドナー由来に置き換わるから、骨髄は攻撃対象にならない。でも輸血後GVHDでは患者さん自身の骨髄が異物として攻撃されてしまう。だから汎血球減少をきたし、致死率は90%以上ときわめて高い。有効な治療法がない以上、予防がすべてなんだ。
医学生医学生
それで正解が放射線照射なんですね。リンパ球のDNAを傷つけて増殖できなくする、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。血液製剤に15〜50Gyの放射線を照射すると、リンパ球は分裂・増殖能を失う。一方、赤血球や血小板は核をもたないか分裂しないので、この線量では機能が大きく損なわれない。日本では照射血が普及して以降、日本赤十字社の血液製剤による輸血後GVHDの確定例は報告されていないとされている。
医学生医学生
臨床実習で手術室に入ったとき、輸血バッグに「照射」と書かれたラベルが貼ってあったのを思い出しました。白血球除去フィルターでも代わりになりますか。
ドクタードクター
白血球除去だけではリンパ球を完全には除けないから、予防としては不十分だ。対象は赤血球製剤、血小板製剤、全血製剤など細胞成分を含む製剤で、新鮮凍結血漿は凍結・融解でリンパ球が失活するため照射は不要とされる。臨床での注意点として、照射後の赤血球製剤は赤血球からカリウムが漏れ出して上清のカリウム濃度が上がる。新生児や腎不全の患者さん、急速大量輸血のときは高カリウム血症に気をつけよう。
医学生医学生
病態から逆算すると、新鮮・初回大量・血縁者・免疫不全が危険因子で、予防は照射、発症は1〜2週後。全部つながりました。
ドクタードクター
完璧だね。輸血副作用は「発症時期」で整理しておくと強い。輸血中〜直後はアナフィラキシーや急性溶血反応、6時間以内はTRALIとTACO、数日〜2週間で遅発性溶血反応と輸血後GVHD、数か月以降は輸血感染症や鉄過剰症。この時間軸を頭に入れておけば、輸血後の患者さんの急変にも落ち着いて対応できるよ。

まとめ

輸血後GVHDは、血液製剤中の供血者Tリンパ球が患者体内で排除されずに増殖し、患者の組織をHLAの違いから攻撃する病態で、輸血後1〜2週間に発熱・紅斑で始まり、肝障害・下痢を経て骨髄障害による汎血球減少に至り、致死率は90%以上に達します。危険因子は、増殖能を保ったリンパ球を多く含む新鮮血(特に採血後72時間以内)、初回の大量輸血、HLA一方向適合が成立しやすい血縁者からの輸血、そして免疫不全状態です。予防には血液製剤への15〜50Gyの放射線照射が確実で、白血球除去だけでは不十分であり、新鮮凍結血漿は照射不要です。照射赤血球製剤では上清カリウムが上昇するため、新生児や腎不全患者では高カリウム血症に注意します。「誰のどの細胞が何を攻撃するか」という病態から危険因子と予防法を導く考え方は、輸血療法を安全に行うための基本となります。

解答・解説

正解はcです

輸血後GVHD(graft-versus-host disease:移植片対宿主病)の発症機序、危険因子、臨床像、予防法を問う一般問題である。

病態の要点

輸血後GVHDは、輸血用血液製剤に含まれる供血者(ドナー)のTリンパ球が受血者(患者)の体内で排除されずに生着・増殖し、患者の組織をHLA(ヒト白血球抗原)の違いにより「異物」と認識して攻撃する病態である。通常は患者の免疫系がドナーのリンパ球を異物として排除するため起こらない。発症するのは、①患者の免疫能が低下している場合、または②HLA一方向適合が成立する場合である。

HLA一方向適合

ドナーがHLAのある型をホモ接合で持ち(例:A/A)、患者がその型をヘテロ接合で持つ(例:A/B)状況を考える。患者側から見るとドナーの抗原はすべて自分も持っているので、ドナーのリンパ球を拒絶しない。一方、ドナー側から見ると患者のB抗原は異物であるため、ドナーのリンパ球が患者組織を攻撃する。このように「拒絶はされないが攻撃はできる」組み合わせがHLA一方向適合であり、免疫能が正常な患者でも輸血後GVHDが起こりうる。HLAハプロタイプを共有しやすい血縁者からの輸血で特に起こりやすい。

設問への考え方

危険因子は「生きたリンパ球が多く含まれる製剤」と「HLA一方向適合が起こりやすい組み合わせ」に集約される。前者からは新鮮血・初回の大量輸血で危険が高いこと、後者からは血縁者間輸血で危険が高いことが導かれる。そして、ドナーリンパ球の増殖能を失わせる放射線照射が唯一確実な予防法である。

選択肢考察

  1. ×a.  輸血後6時間以内に発症する。

    誤り。輸血後GVHDは、ドナーリンパ球が患者体内で増殖して組織障害を起こすまでに時間を要するため、輸血後およそ1〜2週間で発症する。初発症状は発熱と紅斑(皮疹)であり、続いて肝障害、下痢などの消化管症状が出現し、最終的には骨髄がドナーリンパ球に攻撃されて汎血球減少をきたす。輸血後6時間以内に発症するのは、TRALI(輸血関連急性肺障害)やTACO(輸血関連循環過負荷)、アナフィラキシー、ABO不適合による急性溶血反応などの即時型の副作用である。

  2. ×b.  新鮮血と比較して保存血で起こりやすい。

    誤り。輸血後GVHDは、増殖能を保ったドナーリンパ球が輸注されることで起こるため、採血後間もない新鮮な血液ほど起こりやすい。特に採血後72時間(3日)以内の血液は危険性が高いとされる。保存期間が長くなるとリンパ球の生存率や増殖能が低下するため、相対的にリスクは下がる。ただし保存血であれば安全というわけではなく、予防には放射線照射が必要である。

  3. ○c.  輸血製剤の放射線照射が予防に有効である。

    正しい。輸血用血液製剤に15〜50Gyの放射線を照射すると、ドナーリンパ球のDNAが損傷して分裂・増殖能が失われるため、輸血後GVHDを確実に予防できる。赤血球や血小板は核をもたない(あるいは分裂しない)ため、この線量では機能が大きく損なわれない。対象となるのは赤血球製剤、血小板製剤、全血製剤などの細胞成分を含む製剤であり、新鮮凍結血漿は凍結・融解の過程でリンパ球が失活するため照射は不要とされる。わが国では照射血の普及以降、日本赤十字社の血液製剤による輸血後GVHDの確定例は報告されていない。なお白血球除去フィルターだけではリンパ球を完全には除去できず、予防法として不十分である。

  4. ×d.  初回と比較して複数回の輸血後に起こりやすい。

    誤り。輸血後GVHDは、輸血歴のない患者への初回輸血、特に心臓血管外科手術などで新鮮な血液を一度に大量に輸血する場合に起こりやすいとされる。複数回の輸血で発症しやすくなるわけではない。複数回の輸血で起こりやすくなるのは、同種抗体の産生に伴う遅発性溶血反応や、HLA抗体による血小板輸血不応状態、発熱性非溶血性輸血反応などである。

  5. ×e.  血縁者と比較して非血縁者からの供血で起こりやすい。

    誤り。血縁者は互いにHLAハプロタイプを共有している可能性が高いため、ドナーがHLAホモ接合で患者がそのハプロタイプをもつヘテロ接合という「HLA一方向適合」が成立しやすい。その結果、患者はドナーリンパ球を拒絶できず、ドナーリンパ球は患者を攻撃できる状態となる。したがって輸血後GVHDは非血縁者よりも血縁者からの供血で起こりやすく、近親者からの輸血は原則として避けるべきとされる。

輸血後GVHDの臨床像

・発症時期:輸血後1〜2週間。 ・症状:発熱、紅斑で始まり、肝障害、下痢、さらに骨髄無形成による汎血球減少へ進行する。 ・予後:有効な治療法がなく、致死率は90%以上と極めて高い。したがって予防が最も重要である。

危険因子

・新鮮血(特に採血後72時間以内)の輸血 ・血縁者からの輸血(HLA一方向適合) ・免疫不全状態(先天性免疫不全、造血幹細胞移植後、強力な化学療法後、胎児・新生児など) ・心臓血管外科手術、癌の手術など大量輸血を要する場面

予防

・血液製剤への放射線照射(15〜50Gy)が確実な予防法である。 ・照射後の赤血球製剤では、赤血球からカリウムが漏出して上清中のカリウム濃度が上昇するため、新生児や腎不全患者、急速大量輸血時には高カリウム血症に注意する。 ・新鮮凍結血漿は照射不要。 ・白血球除去だけでは予防として不十分である。

造血幹細胞移植後のGVHDとの違い

造血幹細胞移植では患者の造血系もドナー由来に置き換わるため骨髄は攻撃対象とならないが、輸血後GVHDでは患者自身の骨髄がドナーリンパ球に攻撃されるため汎血球減少をきたし、予後が極めて不良となる。

主な輸血副作用の発症時期の整理

・輸血中〜直後:アナフィラキシー、ABO不適合による急性溶血反応、細菌汚染による敗血症 ・輸血後6時間以内:TRALI、TACO ・輸血後数日〜2週間:遅発性溶血反応、輸血後GVHD ・数か月以降:輸血感染症(肝炎ウイルスなど)、鉄過剰症

POINT

・輸血後GVHDはドナーのTリンパ球が患者組織を攻撃する病態で、致死率は90%以上。 ・輸血後1〜2週で発熱・紅斑→肝障害・下痢→汎血球減少。 ・危険因子:新鮮血、初回の大量輸血、血縁者間輸血(HLA一方向適合)、免疫不全。 ・予防は血液製剤への放射線照射(15〜50Gy)。新鮮凍結血漿は照射不要、白血球除去では不十分。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。