首でも胸でもなく「腕」から―PICCは上腕の尺側皮静脈を狙え
第114回医師国家試験 E問題 第7問
国試問題にチャレンジ
成人の頸部・前胸部(A),上腕部・前腕部(B)を別に示す。 成人における末梢挿入中心静脈カテーテル〈PICC〉の適切な刺入部位はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
PICC(末梢挿入中心静脈カテーテル)は、上肢の末梢静脈から挿入して先端を上大静脈に留置する中心静脈カテーテルで、成人では超音波ガイド下に肘より中枢側の上腕内側を走る尺側皮静脈を穿刺するのが第一選択です。尺側皮静脈は径が太く、腋窩静脈・鎖骨下静脈を経て上大静脈へ比較的直線的につながるためカテーテルを進めやすく、上腕での穿刺は肘の屈伸による折れや静脈炎を起こしにくいという利点があります。前腕からの挿入は肘関節をまたぐためトラブルが多く、内頸静脈や鎖骨下静脈など頸部・胸部の穿刺部位はCVCのものでPICCには該当しません。PICCは気胸や動脈誤穿刺などの重篤な合併症をほぼ回避できる一方、静脈炎や上肢の深部静脈血栓症、先端位置異常に注意が必要で、急速大量輸液には向きません。各種中心静脈アクセスの特徴を理解することは、患者ごとに安全な輸液ルートを選ぶ臨床判断の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
中心静脈カテーテルのうち、上肢の末梢静脈から挿入するPICC(peripherally inserted central catheter:末梢挿入中心静脈カテーテル)の刺入部位を、体表写真上で同定させる問題である。
写真の位置の読み取り
・A(頸部・前胸部):①は胸鎖乳突筋付近の頸部で内頸静脈の穿刺部位、②は鎖骨の上(鎖骨上窩寄り)で鎖骨上アプローチによる鎖骨下静脈穿刺の部位、③は鎖骨の下で鎖骨下アプローチによる鎖骨下静脈穿刺の部位にあたる。いずれも頸部・胸部から直接中心静脈を穿刺する通常の中心静脈カテーテル(CVC:central venous catheter)の刺入部位である。 ・B(上肢):④は肘より中枢側の上腕内側で、尺側皮静脈(上腕静脈も近接する)が走行する部位、⑤は前腕の橈側(母指側)で、前腕の橈側皮静脈付近にあたる。
考え方
PICCは「末梢から挿入する」カテーテルなので、まず頸部・胸部の①〜③は除外される。残る上肢の④と⑤のうち、現在のPICC挿入は超音波ガイド下に上腕の静脈を穿刺する方法が標準であり、肘関節の屈伸の影響を受けない上腕部、とくに内側の尺側皮静脈が第一選択となる。尺側皮静脈は血管径が太く、腋窩静脈→鎖骨下静脈→上大静脈へと比較的まっすぐ合流するため、カテーテルを進めやすい。一方、前腕からの挿入は肘をまたぐため、屈曲によるカテーテルの折れ・閉塞、静脈炎などのトラブルが多く、通常は行わない。以上から④が正解となる。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。①は頸部の胸鎖乳突筋付近で、内頸静脈の穿刺部位にあたる。内頸静脈は頸部から直接中心静脈にアプローチする通常のCVCの代表的な刺入部位であり、超音波ガイド下穿刺が推奨されている。合併症として頸動脈の誤穿刺・血腫、気胸などがある。末梢から挿入するPICCの刺入部位ではない。
- ×b. ②
誤り。②は鎖骨の上方で、鎖骨上アプローチによる鎖骨下静脈穿刺の部位にあたる。これもCVCの刺入部位であってPICCの部位ではない。鎖骨上アプローチは胸膜頂に近く気胸や動脈損傷の危険があるため、現在の臨床ではあまり用いられない。
- ×c. ③
誤り。③は鎖骨の下方で、鎖骨下アプローチによる鎖骨下静脈穿刺の部位にあたる。CVCの刺入部位の一つで、固定がしやすく感染リスクが比較的低いという利点がある一方、気胸や鎖骨下動脈の誤穿刺、圧迫止血が困難といった欠点がある。末梢挿入であるPICCの刺入部位ではない。
- ○d. ④
正しい。④は肘より中枢側の上腕内側であり、尺側皮静脈が走行する部位である。尺側皮静脈は血管径が比較的太く、上腕静脈と合流して腋窩静脈となり、鎖骨下静脈を経て上大静脈へ比較的直線的につながるため、カテーテルを先端の目標位置(上大静脈下部〜上大静脈と右心房の接合部付近)まで進めやすい。上腕部での穿刺は肘関節の屈伸の影響を受けにくく、カテーテルの屈曲・閉塞や静脈炎を起こしにくい。このため成人のPICCでは、超音波ガイド下に上腕の尺側皮静脈を穿刺するのが第一選択とされる。
- ×e. ⑤
誤り。⑤は前腕の橈側で、橈側皮静脈付近にあたる。前腕の皮静脈は通常の末梢静脈路確保によく用いられる部位であるが、PICCをここから挿入すると肘関節をまたいで留置することになり、肘の屈曲によるカテーテルの折れ・閉塞、機械的静脈炎、位置のずれを生じやすい。さらに橈側皮静脈は肩付近で鋭角に腋窩静脈へ合流するため、カテーテルが進みにくいという問題もある。したがって前腕はPICCの刺入部位として適切ではない。
中心静脈カテーテルの種類
・CVC(頸部・胸部から挿入):内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈などを穿刺して直接中心静脈にカテーテルを入れる。 ・PICC(上肢から挿入):上肢の末梢静脈から挿入し、先端を上大静脈に留置する。 ・皮下埋め込み型ポート:長期の化学療法などに用いる。
PICCの刺入血管
上肢の尺側皮静脈、上腕静脈、橈側皮静脈、肘正中皮静脈などが候補となる。かつては肘窩の皮静脈から盲目的に挿入する方法が多かったが、現在は超音波ガイド下に上腕部の静脈(第一選択は尺側皮静脈)を穿刺する方法が主流である。
PICCの利点
・頸部・胸部穿刺に伴う気胸、血胸、動脈誤穿刺といった重篤な合併症をほぼ回避できる。 ・高カロリー輸液、抗癌剤、末梢から投与しにくい刺激性の薬剤など、CVCと同様の輸液・薬剤投与が可能である。 ・比較的長期の留置が可能で、製品によっては採血にも使用できる。 ・カテーテル関連血流感染の頻度がCVCより低い傾向にあるとされる。
PICCの欠点・合併症
静脈炎、上肢の深部静脈血栓症、カテーテル閉塞、先端位置異常(内頸静脈への迷入など)がある。カテーテルが細く長いため、急速大量輸液には不向きである。
CVC各部位の特徴
・内頸静脈:超音波で観察しやすく穿刺が比較的安全。頸動脈誤穿刺に注意。 ・鎖骨下静脈:固定しやすく感染リスクが比較的低いが、気胸の危険があり圧迫止血が難しい。 ・大腿静脈:緊急時に穿刺しやすいが、感染や血栓のリスクが高い。
POINT
・PICCは上肢の末梢静脈から挿入し、先端を上大静脈に置く中心静脈カテーテルである。 ・成人のPICCは、超音波ガイド下に上腕内側の尺側皮静脈を穿刺するのが第一選択。 ・肘関節をまたぐ前腕からの挿入は、屈曲による閉塞や静脈炎を起こしやすく避ける。 ・内頸静脈・鎖骨下静脈はCVCの刺入部位であり、PICCではない。 ・PICCの最大の利点は、気胸や動脈誤穿刺などCVC穿刺時の重篤な合併症を回避できること。
