からだは月経周期を映す鏡―ホルモンで説明できない「黄色い泡」の正体
第114回医師国家試験 E問題 第9問
国試問題にチャレンジ
月経周期におけるホルモン変動と関連がないのはどれか。
- a.体重
- b.中間期出血
- c.乳房緊満感
- d.透明な頸管粘液
- e.黄色泡沫状腟分泌
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
月経周期では、卵胞期にエストロゲン、黄体期にプロゲステロンとエストロゲンが優位となり、そのリズムが全身や生殖器にさまざまな変化をもたらします。排卵前のエストロゲン高値は透明で牽糸性の高い頸管粘液を、排卵前後のエストロゲンの一過性低下は中間期出血を生じ、黄体期のホルモン作用は乳房緊満感や水分貯留による体重増加を引き起こし、これらは月経前症候群の症状とも重なります。一方、黄色泡沫状で悪臭を伴う帯下は腟トリコモナス症に特徴的な感染症の所見で、ホルモン変動とは関係がなく、メトロニダゾールによるパートナーとの同時治療が必要です。帯下の性状による鑑別(カンジダの酒粕状、細菌性腟症の魚臭など)とあわせて、「生理的な周期性変化」と「病的な所見」を見分ける視点は、婦人科診療の基本となります。
解答・解説
正解はeです
月経周期に伴う卵巣ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の変動が、全身や生殖器にどのような変化をもたらすかを問う一般問題である。「関連がないもの」を選ぶ点に注意する。
月経周期のホルモン変動の流れ
視床下部から分泌されるGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)が下垂体前葉を刺激し、FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)が分泌される。 ・卵胞期:FSHにより卵胞が発育し、顆粒膜細胞からエストロゲンが分泌されて子宮内膜が増殖する(増殖期)。 ・排卵期:エストロゲンが閾値を超えて一定期間持続すると、正のフィードバックによりLHサージが起こり、その後およそ1日半で排卵する。 ・黄体期:排卵後の卵胞は黄体となり、プロゲステロンとエストロゲンを分泌する。子宮内膜は分泌期となり着床に備える。プロゲステロンは体温中枢に作用して基礎体温を上昇させる(高温相)。 ・月経:妊娠が成立しなければ黄体は約14日で退縮し、両ホルモンが急減して子宮内膜が剥脱する。
設問への考え方
各選択肢が、どの時期のどのホルモンの作用で生じるかを当てはめていく。体重増加・乳房緊満感は黄体期のホルモン作用、中間期出血は排卵期のエストロゲン変動、透明な頸管粘液は排卵前のエストロゲン高値によるものである。これに対し、黄色泡沫状の腟分泌物は腟トリコモナス症に特徴的な感染症の所見であり、月経周期のホルモン変動とは関係しない。
選択肢考察
- ×a. 体重
関連がある。黄体期には、エストロゲンとプロゲステロンの影響(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の亢進など)によりナトリウムと水分が体内に貯留しやすくなり、むくみや一時的な体重増加をきたすことがある。月経が始まり両ホルモンが低下すると、貯留した水分が排泄されて体重は元に戻る。このような黄体期の体重増加や浮腫は月経前症候群(PMS)の身体症状の一つとしても知られている。
- ×b. 中間期出血
関連がある。中間期出血(排卵期出血)は、月経と月経のほぼ中間、すなわち排卵期にみられる少量の性器出血である。排卵前に高値となったエストロゲンが、LHサージ後から排卵前後にかけて一過性に低下するため、子宮内膜の一部が剥がれて出血すると考えられている。数日以内に自然に止まる生理的な現象であり、ホルモン変動に直接関連したものである。
- ×c. 乳房緊満感
関連がある。黄体期にはエストロゲン(乳管の発育を促す)とプロゲステロン(乳腺小葉・腺房の発育を促す)の作用で乳腺組織が刺激され、さらに間質の水分貯留も加わって、乳房の張り(緊満感)や乳房痛を生じやすい。月経が始まりホルモンが低下すると軽快する。これも月経前症候群の代表的な身体症状である。
- ×d. 透明な頸管粘液
関連がある。排卵直前にはエストロゲンが高値となり、子宮頸管腺からの粘液分泌が増える。このときの頸管粘液は量が多く、水様で無色透明、粘稠度が低く、牽糸性(糸を引くように伸びる性質)が高い。乾燥させるとシダ状結晶がみられる。これにより精子が子宮内へ進入しやすくなる。排卵後はプロゲステロンの作用で粘液は少量・粘稠・混濁となり、牽糸性やシダ状結晶は消失する。頸管粘液の性状は排卵時期の推定にも用いられる。
- ○e. 黄色泡沫状腟分泌
関連がない(正解)。黄色〜黄緑色で泡沫状の悪臭を伴う腟分泌物は、原虫である腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)の感染による腟トリコモナス症に特徴的な所見である。外陰部の瘙痒感や灼熱感を伴い、腟壁や子宮腟部に点状出血(いちご状子宮頸部)がみられることもある。これは性感染症による炎症の所見であり、月経周期に伴うホルモン変動によって生じるものではない。なお治療はメトロニダゾールなどのニトロイミダゾール系薬で、性交渉のパートナーも同時に治療する。
エストロゲンとプロゲステロンの主な作用の対比
・子宮内膜:エストロゲンは増殖させる(増殖期)、プロゲステロンは分泌期に変化させ着床に備える。 ・頸管粘液:エストロゲンは量を増やし透明・低粘稠・高牽糸性・シダ状結晶陽性にする。プロゲステロンは少量・粘稠・混濁にし、精子を通りにくくする。 ・基礎体温:プロゲステロンが体温中枢に作用して0.3〜0.5℃程度上昇させ、高温相を形成する。 ・乳房:エストロゲンは乳管を、プロゲステロンは乳腺小葉・腺房を発育させる。 ・腟上皮:エストロゲンは腟上皮を厚くし、グリコーゲンを増やして乳酸桿菌(デーデルライン桿菌)による酸性環境を保つ。
月経前症候群(PMS)
月経前の3〜10日間ほど続く精神的・身体的症状で、月経開始とともに軽快・消失する。身体症状として乳房緊満感・乳房痛、腹部膨満感、むくみ、体重増加、頭痛など、精神症状としてイライラ、抑うつ、不安などがある。精神症状が特に重いものは月経前不快気分障害(PMDD)とよばれる。
帯下(腟分泌物)の性状と原因の整理
・黄色〜黄緑色、泡沫状、悪臭:腟トリコモナス症 ・白色、酒粕状・カッテージチーズ状、強い瘙痒:腟カンジダ症 ・灰白色、均一で魚臭(アミン臭):細菌性腟症 ・膿性:淋菌やクラミジアによる子宮頸管炎 ・生理的帯下:排卵期に透明で量が増え、黄体期には白色で粘稠となる
POINT
・体重増加(水分貯留)・乳房緊満感は黄体期のホルモン作用で生じ、月経前症候群の症状でもある。 ・中間期出血は排卵期のエストロゲンの一過性低下による。 ・排卵前のエストロゲン高値で頸管粘液は透明・大量・高牽糸性・シダ状結晶陽性となる。 ・黄色泡沫状の帯下は腟トリコモナス症の所見であり、ホルモン変動とは無関係。
