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移植片が牙をむくとき―GVHDの犯人はどの白血球か

第120回医師国家試験 F問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第1問

GVHDの原因となる白血球はどれか。

  1. a.単球
  2. b.好酸球
  3. c.好中球
  4. d.好塩基球
  5. e.リンパ球

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はGVHD、移植片対宿主病の原因となる白血球を問う問題だ。名前の意味を丁寧にほどけば答えにたどり着ける。まずは「誰が誰を攻撃するのか」に注目しよう。
医学生医学生
移植片が宿主を攻撃する、という意味ですよね。普通の拒絶反応とは向きが逆だと免疫学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。拒絶反応は患者の免疫が移植片を攻撃するけれど、GVHDは移植片に含まれるドナー由来の免疫細胞が、患者の組織を「非自己」とみなして攻撃する。では、相手を非自己と特異的に見分けて攻撃できる白血球はどれだろう。
医学生医学生
抗原を特異的に認識できるのは獲得免疫を担う細胞なので、リンパ球だと思います。
ドクタードクター
正解。主役はドナー由来のTリンパ球だ。患者のHLAの違い、さらにHLAが一致していても存在するマイナー組織適合抗原の違いを認識して活性化・増殖し、細胞傷害性T細胞として標的臓器を傷害する。
医学生医学生
単球も抗原提示をするので関わっていそうですが、原因とは言えないんでしょうか。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。単球やそこから分化するマクロファージ、樹状細胞は抗原提示細胞としてドナーT細胞の活性化を助けるから、病態には間接的に関与する。でも宿主組織を非自己として特異的に認識して攻撃するのはあくまでリンパ球。原因細胞を問われたらリンパ球を選ぶ。
医学生医学生
好中球はどうですか。血液内科の実習で、移植後に好中球が戻ってきた頃にGVHDの皮疹が出た患者さんを見たので、つい結びつけてしまいます。
ドクタードクター
よく観察していたね。確かに急性GVHDは好中球が回復する生着の時期に出やすい。ただそれは時期が重なるだけで、好中球は細菌や真菌を貪食して殺菌する自然免疫の最前線の細胞であり、抗原を特異的に認識する力はもたない。
医学生医学生
好酸球と好塩基球はアレルギーや寄生虫のイメージなので、違いそうですね。
ドクタードクター
そう。好酸球はGVHDの皮膚病変などで増えることがあるけれど、それは随伴所見にすぎない。好塩基球はIgE受容体をもちヒスタミンを放出してアレルギー反応の開始に関わる細胞で、宿主組織を抗原特異的に攻撃する働きはない。
医学生医学生
つまり「特異的に非自己を見分けて攻撃できるか」で考えれば、リンパ球しか残らないということですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。ここから発展知識。GVHDが起こる代表的な場面は同種造血幹細胞移植で、自家移植では原則起こらない。もう一つ重要なのが輸血後GVHDだ。
医学生医学生
輸血でも起こるんですか。CBTの勉強で輸血用血液製剤に放射線を当てると覚えましたが、それと関係ありますか。
ドクタードクター
まさにそれだ。輸血製剤に含まれるドナーのリンパ球が、患者の免疫で排除されずに生着して起こる。発症すると致死率がきわめて高いので、製剤に放射線を照射してリンパ球の増殖能を失わせて予防する。近親者からの輸血はHLAの一方向適合が起こりやすく、リスクが高いことも覚えておこう。
医学生医学生
急性と慢性でも症状が違いますよね。
ドクタードクター
急性GVHDの主な標的は皮膚、消化管、肝臓で、皮疹、下痢、黄疸が出る。慢性GVHDは強皮症様の皮膚硬化やSjögren症候群様の口腔・眼の乾燥、閉塞性細気管支炎など自己免疫疾患に似た像を示し、T細胞に加えてB細胞も関与する。昔は移植後100日で分けていたけれど、現在は発症時期ではなく臨床像で区別するのが基本だ。
医学生医学生
予防や治療はどうするんですか。
ドクタードクター
予防はシクロスポリンやタクロリムスといったカルシニューリン阻害薬にメトトレキサートを併用するのが標準的で、発症したら副腎皮質ステロイドが第一選択。ただしドナーT細胞は残った白血病細胞も攻撃してくれる。これをGVL効果と呼び、GVHDを抑えすぎると再発が増えるというジレンマがある。移植医療はこのバランスとの闘いなんだ。

まとめ

GVHD(移植片対宿主病)は、移植片に含まれるドナー由来のリンパ球、主にT細胞が、患者のHLAやマイナー組織適合抗原の違いを非自己と認識して患者の組織を攻撃する病態です。単球・マクロファージは抗原提示を通じて間接的に関与し、好中球の回復時期に急性GVHDが出やすいものの、抗原特異的に攻撃する原因細胞はリンパ球です。急性GVHDは皮膚・消化管・肝臓、慢性GVHDは強皮症様病変や乾燥症状など自己免疫疾患に似た症状を呈し、現在は発症時期ではなく臨床像で区別します。輸血後GVHDは致死率が高く、血液製剤への放射線照射で予防することが重要です。GVHDとGVL効果の表裏一体の関係を理解することは、造血幹細胞移植や輸血医療を学ぶうえでの基礎となります。

解答・解説

正解はeです

GVHD(graft-versus-host disease:移植片対宿主病)とは、移植片(graft)に含まれるドナー由来の免疫担当細胞が、移植を受けた患者(宿主、host)の組織を「非自己」とみなして攻撃する病態である。通常の拒絶反応が「宿主が移植片を攻撃する」のに対し、GVHDはその向きが逆である点が名前の由来となっている。 攻撃の主役はドナー由来のTリンパ球である。ドナーT細胞は、患者のHLA(ヒト白血球抗原)や、HLAが一致していても存在するマイナー組織適合抗原の違いを認識して活性化・増殖し、細胞傷害性T細胞として標的臓器の細胞を傷害する。したがって、選択肢の白血球のうちGVHDの原因となるのはリンパ球である。 単球・マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞は、ドナーT細胞の活性化を助ける形でGVHDの病態に関与するが、「非自己を特異的に認識して攻撃する」のはあくまでリンパ球であり、原因細胞として問われればリンパ球を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  単球

    単球は末梢血白血球のおよそ3〜8%を占める。細菌などの異物を貪食して分解し、その断片を細胞表面に提示する抗原提示の働きをもつ。血管外の組織に移行するとマクロファージ(大食細胞)に分化する。抗原提示細胞としてT細胞の活性化を補助するため、GVHDの発症過程に間接的に関わることはあるが、宿主組織を非自己として特異的に認識し攻撃する細胞ではなく、GVHDの原因となる白血球とはいえない。

  2. ×b.  好酸球

    好酸球は白血球のおよそ1〜3%を占める顆粒球で、寄生虫の排除、アレルギー反応への関与・調節、組織修復などに働く。活性化すると自らのDNAや顆粒蛋白を網状に放出するETosis(細胞外トラップ形成を伴う細胞死)を起こすことも知られている。GVHDでは皮膚病変などで好酸球増多を伴うことがあるが、これは随伴所見であり、GVHDを引き起こす細胞ではない。

  3. ×c.  好中球

    好中球は白血球の中で最も多く、およそ40〜70%を占める。炎症性サイトカインなどの刺激で血管内から組織へ遊走し、細菌や真菌を貪食して顆粒中の酵素や活性酸素で殺菌する、自然免疫の最前線の細胞である。抗原を特異的に認識する能力はもたないため、宿主組織を非自己と識別して攻撃するGVHDの原因細胞ではない。なお、同種造血幹細胞移植後の好中球回復(生着)の時期に急性GVHDが出現しやすいが、これは時期が重なるだけで好中球が原因ではない。

  4. ×d.  好塩基球

    好塩基球は白血球の1%未満と最も少ない顆粒球である。細胞表面にIgE受容体をもち、ヒスタミンなどを放出してアレルギー反応の開始に関わるほか、寄生虫の排除や炎症の誘導にも役割を果たす。抗原特異的に宿主組織を攻撃する働きはなく、GVHDの原因細胞ではない。

  5. ○e.  リンパ球

    GVHDは、移植片に含まれるドナー由来のリンパ球、とくにTリンパ球が、患者のHLAやマイナー組織適合抗原を非自己と認識して活性化・増殖し、患者の組織を攻撃することで起こる。急性GVHDでは皮膚、消化管、肝臓が主な標的臓器となる。慢性GVHDではT細胞に加えてB細胞(自己抗体産生)も病態に関与する。輸血後GVHDも、輸血製剤中に含まれるドナーのリンパ球が原因であり、その予防として輸血用血液製剤への放射線照射によってリンパ球の増殖能を失わせる。

白血球の分類

白血球は顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)、単球、リンパ球に大別される。顆粒球は白血球の半数以上を占め、顆粒の染色性によって名称が付けられている。中性色素でよく染まるのが好中球、酸性色素(エオジン)で赤橙色に染まるのが好酸球、塩基性色素で青紫色に染まるのが好塩基球である。リンパ球は白血球のおよそ20〜40%を占め、T細胞、B細胞、NK細胞からなり、抗原特異的な獲得免疫を担う。

GVHDが起こる状況

・同種造血幹細胞移植:最も代表的。ドナーとレシピエントのHLA不一致が大きいほど起こりやすいが、HLA完全一致の同胞間移植でもマイナー組織適合抗原の違いにより起こりうる。自家移植では原則として起こらない。 ・輸血後GVHD:輸血製剤中のドナーリンパ球が、患者の免疫で排除されずに生着して起こる。発症すると致死率がきわめて高い。予防には血液製剤への放射線照射(15〜50 Gy)が行われる。近親者からの輸血はHLAの一方向適合が生じやすく、リスクが高い。 ・臓器移植:リンパ組織を多く含む小腸や肝臓の移植でまれに起こる。

急性GVHDと慢性GVHD

・急性GVHD:主な標的は皮膚(斑状丘疹状の皮疹)、消化管(下痢)、肝臓(胆汁うっ滞による黄疸)である。好中球の生着前後から出現することが多い。 ・慢性GVHD:皮膚の硬化(強皮症様)や扁平苔癬様変化、口腔・眼の乾燥(Sjögren症候群様)、閉塞性細気管支炎、関節拘縮など、自己免疫疾患に似た多彩な症状を呈する。 ・かつては移植後100日を境に急性と慢性を区別していたが、現在(NIHコンセンサス基準)は発症時期ではなく臨床症状の特徴によって区別する。そのため100日以降に発症する急性GVHD(遅発性急性GVHD)や、急性と慢性の特徴が併存するoverlap症候群も定義されている。

予防と治療

カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)にメトトレキサートを併用する方法が標準的な予防法であり、発症時の第一選択治療は副腎皮質ステロイドである。なお、ドナーT細胞は残存腫瘍細胞も攻撃するため(GVL効果:graft-versus-leukemia効果)、GVHDを完全に抑え込むと再発が増えるという関係がある。

POINT

・GVHDは、ドナー由来のリンパ球(主にT細胞)が宿主組織を非自己と認識して攻撃する病態である。 ・急性GVHDの三大標的臓器は皮膚・消化管・肝臓である。 ・慢性GVHDは強皮症様皮膚病変やSjögren症候群様の乾燥症状など、自己免疫疾患に似た症状を呈する。急性と慢性は発症時期ではなく臨床像で区別する。 ・輸血後GVHDの予防は、血液製剤への放射線照射でドナーリンパ球の増殖能を失わせることである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。