見つけても「何もしない」が正解―胃底腺ポリープと経過観察の判断力
第114回医師国家試験 D問題 第49問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。胃がん検診の上部消化管造影検査で胃に異常が認められたため来院した。自覚症状はなく,内服薬の服用はない。来院後に施行した上部消化管内視鏡像を別に示す。 適切な対応はどれか。

- a.1年後の再検査
- b.プロトンポンプ阻害薬投与
- c.Helicobacter pylori除菌
- d.内視鏡的ポリープ切除術
- e.胃切除術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
萎縮のない胃体部・穹窿部に、周囲と同色調で表面平滑な数mm大の無茎性ポリープが多発していれば、H. pylori未感染胃に生じる胃底腺ポリープを考えます。胃底腺ポリープは孤発例では癌化がきわめてまれな良性病変で治療は不要であり、定期的な内視鏡検査による経過観察が適切です。PPIの長期服用や除菌後に生じやすく、除菌やPPIは治療になりません。一方、発赤調でH. pylori陽性の萎縮性胃炎を背景とする過形成性ポリープは除菌で縮小することがあり、大きいものや出血源は切除を考慮します。多数の胃底腺ポリープをみたら家族性大腸腺腫症も念頭に置き、「治療すべき病変を見極める」視点を身につけることが、過剰な介入を避ける臨床判断につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・48歳の女性で、自覚症状はない。 ・胃がん検診の上部消化管造影(バリウム)検査で異常を指摘され、精査目的に受診した。 ・内服薬はない。したがって、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)による胃粘膜傷害や、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期服用に関連した胃病変は考えにくい。 ・上部消化管内視鏡像では、胃体部〜穹窿部の粘膜に、数mm大の小さく半球状の隆起が多数散在している。隆起の表面は周囲の粘膜とほぼ同じ色調・性状で平滑であり、発赤やびらん、陥凹、不整な表面構造はみられない。背景の胃粘膜にも萎縮性変化は目立たない。
診断へのプロセス
検診の造影検査で異常を指摘されたので、胃に生じる隆起性病変(ポリープ、腺腫、胃癌、粘膜下腫瘍など)と陥凹性病変(潰瘍、びらん、癌など)を念頭に内視鏡で精査する。症状がないことから、潰瘍や急性胃粘膜病変(AGML)、進行した胃癌の可能性は低い。 内視鏡では、萎縮のない胃底腺領域(胃体部・穹窿部)に、周囲と同色調で表面平滑な小型の無茎性ポリープが多発している。これは胃底腺ポリープに典型的な像である。胃過形成性ポリープであれば、萎縮性胃炎を背景に、発赤調でイチゴ状の表面をもち、ときに有茎性となることが多い。胃腺腫は褪色調の扁平隆起として単発で見つかることが多く、胃癌であれば表面の不整や陥凹、色調の変化を伴うことが多い。これらの特徴はいずれも本例には当てはまらない。 以上より、Helicobacter pylori(H. pylori)未感染の胃に生じた多発性の胃底腺ポリープと診断する。
設問の考え方
胃底腺ポリープは癌化することがほとんどない良性病変で、治療は不要である。切除や薬物療法の対象にはならず、通常の検診・内視鏡で経過をみればよい。したがって、選択肢の中では1年後の再検査が最も適切である。
選択肢考察
- ○a. 1年後の再検査
胃底腺ポリープは悪性化の危険がきわめて低い良性病変で、治療の必要はない。ただし、多発例ではまれに家族性大腸腺腫症(FAP)の胃病変であることがあり、その場合は異形成を伴うことも報告されている。また、内視鏡所見だけで診断することが多いため、ほかの病変を見逃していないか確認する意味もある。こうした理由から、侵襲的な処置は行わず、1年後に再検査して経過を観察する対応が妥当である。
- ×b. プロトンポンプ阻害薬投与
PPIは胃潰瘍や逆流性食道炎などの酸関連疾患に用いる薬剤である。胃底腺ポリープは酸の関与する病変ではないため、PPIで治療されることはない。むしろPPIを長く服用すると、壁細胞の過形成や胃底腺の嚢胞状拡張が起こり、胃底腺ポリープが新たに生じたり大きくなったりすることが知られている。投与は不適切である。
- ×c. Helicobacter pylori除菌
胃底腺ポリープは、H. pyloriに感染しておらず萎縮もない胃粘膜に発生するのが特徴である。H. pylori陽性の萎縮性胃炎を背景とする過形成性ポリープでは、除菌によってポリープが縮小・消失することがあるので、除菌が選択肢になる。しかし、胃底腺ポリープではそもそも除菌の対象となる感染がない。むしろ除菌後に胃底腺ポリープが新たに出現する例も知られている。
- ×d. 内視鏡的ポリープ切除術
内視鏡的切除が考慮されるのは、胃腺腫、早期胃癌、出血源となっている病変や大きな過形成性ポリープ(おおむね2cmを超えるものは癌化や出血の危険が増す)などである。胃底腺ポリープは数mm大の良性病変で、癌化の危険はきわめて低い。しかも本例のように多発していることが多く、すべてを切除する意義はない。
- ×e. 胃切除術
胃切除術は、進行胃癌や内視鏡治療の適応外の早期胃癌などに対して行う、侵襲の大きな手術である。良性で治療不要の胃底腺ポリープに対して行う理由はまったくない。
胃ポリープの主な種類
胃ポリープの大半は胃底腺ポリープと過形成性ポリープである。どちらも症状がほとんどなく、検診で偶然に見つかることが多い。
胃底腺ポリープ
・好発: 中年女性に多い。 ・部位: 胃底腺領域(胃体部・穹窿部)に限られる。 ・形態: 5mm以下程度の小さな無茎性ポリープで、周囲と同じ色調で表面は平滑である。多発しやすい。 ・組織: 胃底腺が過形成を示し、腺管が嚢胞状に拡張している。 ・背景粘膜: H. pylori未感染で、萎縮のない胃粘膜である。 ・関連: PPIを長期服用すると発生・増大しやすい。H. pylori除菌後に新たに出現することもある。FAPでは胃底腺ポリープが多数発生する(胃底腺ポリポーシス)ことがあり、その場合は異形成を伴うことがある。 ・予後: 孤発例では癌化はきわめてまれで、治療は不要である。
過形成性ポリープ
・部位: 胃のどこにでも生じるが、前庭部(幽門腺領域)に多い。 ・形態: 発赤調でイチゴ状の表面をもつ。無茎性から有茎性まであり、単発から数個程度で、2cm程度まで大きくなることもある。 ・組織: 腺窩上皮が過形成を起こし、間質には炎症細胞浸潤と浮腫がみられる。 ・背景粘膜: H. pylori陽性の萎縮性胃炎である。 ・対応: 除菌によって縮小・消失することがある。癌化は数%程度で、大きいもの(おおむね2cm超)や出血の原因となっているものは内視鏡的切除を考慮する。
胃腺腫
褪色調の扁平な隆起として見つかることが多く、萎縮性胃炎を背景とする。前癌病変として扱い、大きいものや陥凹・発赤を伴うものは内視鏡的切除を考慮する。
POINT
・萎縮のない胃体部・穹窿部に、周囲と同色調で平滑な小さいポリープが多発していれば、胃底腺ポリープを考える。 ・胃底腺ポリープはH. pylori未感染の胃に生じ、癌化はきわめてまれである。治療は不要で、経過観察とする。 ・PPIの長期服用やH. pylori除菌後に、胃底腺ポリープが生じやすくなる。 ・過形成性ポリープはH. pylori陽性の萎縮性胃炎を背景とし、発赤調である。除菌で縮小することがあり、大きいものは切除を考慮する。 ・多数の胃底腺ポリープをみたら、FAPの可能性も頭に置く。
