ペンを握ると震える手―書痙と眼瞼けいれんをつなぐ「局所ジストニア」
第114回医師国家試験 D問題 第4問
国試問題にチャレンジ
字を書き始めると手が震えて書きにくくなると訴える患者の書字時の写真を別に示す。患者の書いた文字は揺れて読みにくいが,書字以外の動作には支障がないという。 この患者と同じ病態が原因となるのはどれか。

- a.片頭痛
- b.眼瞼けいれん
- c.単純部分発作
- d.周期性四肢麻痺
- e.Tourette症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
書字のときだけ手に異常な筋緊張と震えが出て、ほかの動作は正常な場合は、動作特異的な局所ジストニアである書痙を考えます。ジストニアは拮抗筋の共収縮などによる持続的な筋収縮で異常な姿勢や運動を生じる不随意運動で、大脳基底核を中心とした運動制御の異常が関与するとされます。眼瞼けいれんは眼輪筋などが両側性に過剰収縮する局所ジストニアで書痙と同じ病態に属し、どちらもボツリヌス毒素の局所注射が有効です。一方、Tourette症候群のチック、てんかん発作、周期性四肢麻痺、片頭痛、さらに血管圧迫による片側顔面けいれんは別の病態として区別します。「震え」の訴えに対して、出現する場面や肢位を観察して振戦とジストニアを見分ける視点は、不随意運動の診療全般で役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・字を書き始めると手が震え、書きにくくなる。 ・書いた文字は揺れて読みにくい。 ・書字以外の動作(箸を使う、ボタンを留めるなど)には支障がない。 ・書字時の写真では、ペンを持つ手の手関節が屈曲し、手指が過剰に屈曲して母指と示指がペンに強く押し付けられており、前腕〜手の筋緊張が異常に高まった不自然な肢位がみられる。
診断へのプロセス
「手の震え」から、本態性振戦、Parkinson病の振戦、小脳性の企図振戦などがまず思い浮かぶ。しかし本態性振戦は書字だけでなくコップを持つ・箸を使うなどの姿勢保持や動作全般で出現し、Parkinson病の振戦は安静時に目立ち、企図振戦は目標に近づく動作全般で増強する。本例のように「書字という特定の動作のときだけ」症状が出て、ほかの動作は正常であり、しかも筋緊張の亢進による異常肢位を伴う点は、動作特異的な局所ジストニアである書痙(writer's cramp)に特徴的である。ジストニアに伴う振戦(ジストニア性振戦)を合併することもあり、「震え」として訴えられることがある。
設問の考え方
ジストニアとは、拮抗筋同士が同時に不随意に収縮すること(共収縮)などにより、持続的・反復的な筋収縮が起こって異常な姿勢や運動を生じる不随意運動である。大脳基底核を中心とする運動制御回路の機能異常が関与すると考えられている。体の一部位に限局するものを局所ジストニアといい、書痙のほか、眼瞼けいれん、痙性斜頸、口・下顎ジストニア、音楽家のジストニアなどが含まれる。したがって、書痙と同じ病態(局所ジストニア)によるものを選択肢から探せばよい。
選択肢考察
- ×a. 片頭痛
片頭痛は拍動性の頭痛発作を反復する一次性頭痛で、悪心・嘔吐、光過敏・音過敏を伴い、閃輝暗点などの前兆を伴うこともある。病態には三叉神経血管系の活性化と、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やセロトニンなどの神経ペプチド・神経伝達物質、脳幹の痛覚制御系が関与するとされる。不随意運動であるジストニアとは病態が異なる。
- ○b. 眼瞼けいれん
眼瞼けいれん(本態性眼瞼けいれん)は、眼輪筋やその周囲の筋が両側性に不随意に過剰収縮し、瞬目過多や閉瞼が持続して開瞼しにくくなる局所ジストニアである。中高年の女性に多く、まぶしさや眼の乾燥感・不快感を訴えるため、ドライアイと誤認されることもある。書痙と同じく局所ジストニアに分類され、ボツリヌス毒素(A型)の局所注射が第一選択の治療となる点も共通している。なお、片側の顔面筋が不随意に収縮する片側顔面けいれんは、主に血管による顔面神経の圧迫が原因であり、ジストニアではないので区別する。
- ×c. 単純部分発作
単純部分発作(現在の国際分類では「焦点意識保持発作」)は、大脳皮質の一部に生じた異常な電気的興奮による、意識の保たれたてんかん発作である。興奮部位に応じて、一側の手のけいれんなどの運動症状や、しびれなどの感覚症状が発作的に出現する。特定の動作(書字や読書など)で誘発される反射てんかんもまれに存在するが、病態は皮質の過剰興奮であり、大脳基底核系の運動制御異常によるジストニアとは異なる。
- ×d. 周期性四肢麻痺
周期性四肢麻痺は、数時間〜数日続く四肢の弛緩性の脱力発作を繰り返す疾患である。骨格筋のイオンチャネル遺伝子の異常による遺伝性のものと、甲状腺機能亢進症に伴うもの(アジア人の若年男性に多い低カリウム性周期性四肢麻痺)などの二次性のものがある。血清カリウム値の変動を伴う筋膜の興奮性異常による筋力低下であり、筋緊張が亢進するジストニアとは病態が全く異なる。
- ×e. Tourette症候群
Tourette症候群は小児期に発症し、複数の運動チックと1つ以上の音声チックが1年以上持続する神経発達症(チック症)である。チックは突発的・急速・反復性の常同的な運動や発声で、一時的には意思で抑えられ、直前に「やらずにいられない」感覚(前駆衝動)を伴うことが多い。大脳基底核のドパミン神経系の異常が関与すると考えられている点では大脳基底核と関連するが、チックはジストニアとは別の不随意運動に分類され、書痙と同じ病態とはいえない。
ジストニアの分類(罹患部位による)
・局所ジストニア:一部位に限局。眼瞼けいれん、痙性斜頸(頸部ジストニア、最も頻度が高い)、書痙、口・下顎ジストニア、喉頭ジストニア(痙攣性発声障害)、音楽家のジストニア(ピアニストやギタリストなど)。 ・分節性ジストニア:隣接する2部位以上(例:眼瞼けいれん+口・下顎ジストニア=Meige症候群)。 ・全身性ジストニア:体幹と複数部位。小児期発症の遺伝性ジストニア(DYT1など)、瀬川病(ドパ反応性ジストニア)など。
ジストニアの特徴
・特定の動作で誘発・増悪する(動作特異性)。書痙は書字時のみに出現するのが典型である。 ・感覚トリック:特定の部位に軽く触れるなどの感覚刺激で症状が軽減する(痙性斜頸で顎に手を添えると首がまっすぐになる、など)。 ・同じ運動を長期間・反復して行う職業や習慣と関連することがあり、職業性ジストニアと呼ばれる。
書痙
・書字の際に前腕・手指の筋緊張が異常に亢進し、手関節や手指の屈曲などの異常肢位、振戦、疼痛を伴って書字が困難になる。 ・単純型では書字以外の動作は障害されないが、進行すると他の手作業にも及ぶことがある(ジストニア型)。 ・治療:ボツリヌス毒素の局所注射、抗コリン薬などの内服、リハビリテーション、難治例では定位脳手術(視床腹吻側核の凝固術など)が行われる。
振戦との鑑別
・本態性振戦:姿勢時・動作時振戦で、書字に限らず多くの動作で出現。家族歴が多く、少量の飲酒で軽減。 ・Parkinson病:安静時振戦(4〜6Hz)、筋強剛、無動、姿勢保持障害。字が小さくなる小字症を呈する。 ・小脳性振戦:目標に近づくほど増強する企図振戦。
POINT
・特定の動作(書字)のときだけ手に異常肢位や震えが出て、他の動作は正常=書痙(動作特異的な局所ジストニア)。 ・局所ジストニア:眼瞼けいれん、痙性斜頸、書痙、口・下顎ジストニア、音楽家のジストニアなど。 ・眼瞼けいれんと書痙はいずれもボツリヌス毒素の局所注射が有効である。 ・チック(Tourette症候群)や片側顔面けいれんはジストニアとは別の病態として区別する。
