StudyMed医師国家試験

増やした薬が体を踊らせる―進行期Parkinson病の運動合併症を読み解く

第118回医師国家試験 D問題 第45問

国試問題にチャレンジ

第118回 D問題 第45問

69歳の女性。不随意運動を主訴に来院した。15年前に右手の振戦が出現し,動作が遅くなったため受診したところ,Parkinson病と診断された。抗Parkinson病薬を内服し,症状は改善した。5年前から歩行困難が出現した。1年前から抗Parkinson病薬の効果が持続しなくなり,時間により歩行不能が出現するようになった。抗Parkinson病薬を増量したところ,体幹や上下肢を不規則に繰り返し動かす不随意運動が出現し,座位も保てなくなった。  下線部の不随意運動はどれか。

  1. a.チック
  2. b.ジストニア
  3. c.静止時振戦
  4. d.ジスキネジア
  5. e.ミオクローヌス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長くParkinson病を治療してきた患者に新しく出てきた不随意運動を見極める問題だ。カギは2つ。その動きがどんな性質か、そしてどんな状況で出たか。まずは15年の経過がどういう流れになっているか、考えてみよう。
医学生医学生
片側の振戦と動作緩慢で発症して、最初は薬がよく効いていたんですよね。
ドクタードクター
そう、発症早期は薬がよく効くハネムーン期と呼ばれる時期だ。その後、病気が進むと歩行障害が出てきて、さらに薬の効果が次の服薬まで持たなくなる。時間帯によって歩けなくなるのは何という現象かな。
医学生医学生
ウェアリング・オフ現象ですね。神経内科の実習で、患者さんが服薬時間の前になると動けなくなると話していました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。なぜそうなるかを説明しよう。進行期には黒質のドパミン神経細胞がさらに減り、レボドパから作られたドパミンを神経終末にためて少しずつ放出する緩衝能が失われる。すると脳内のドパミン濃度が薬の血中濃度にそのまま左右されるようになるんだ。
医学生医学生
血中濃度が下がるとオフになって症状が戻る、ということですね。じゃあ逆に濃度が上がりすぎると……。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。濃度が高すぎるとドパミン過剰刺激で不随意運動が出る。つまり、ちょうどよく効く治療域が狭くなっている。この患者は、オフに対して薬を増量した後に、体幹や四肢を不規則に繰り返し動かす運動が出て、座っていられなくなった。これはジスキネジアで、正解だ。
医学生医学生
増量直後のタイミングと、不規則に動き続ける性質の両方が合うわけですね。
ドクタードクター
その通り。レボドパ誘発性ジスキネジアで最も多いのは、血中濃度が最も高い時間に出るピーク時ジスキネジアで、舞踏運動のようにくねくねと流れる動きになることが多い。ウェアリング・オフとジスキネジアをまとめて運動合併症と呼ぶよ。では、ジストニアとの違いはどうだろう。
医学生医学生
ジストニアもParkinson病で出ると習ったので、正直迷いました。
ドクタードクター
迷うのはもっともだ。ジストニアは拮抗筋が同時に持続的に収縮して、ねじれた姿勢で固まるのが本質だ。Parkinson病では、早朝や薬が切れたオフ時に足趾が曲がったり足が内側にねじれたりして痛む、オフ期ジストニアが典型的なんだ。今回は増量後に、特定の姿勢で固まるのではなく動き続けているから、ジスキネジアと捉えるのが適切だね。
医学生医学生
静止時振戦は、この患者さんの最初の症状でしたね。
ドクタードクター
そう。安静時に出て動作で軽くなる4〜6Hz程度の規則的な振戦で、丸薬を丸めるような動きが典型だ。Parkinson病そのものの症状だから、薬を増やせばむしろ改善する方向だし、規則的なリズムがある点で今回の不規則な動きとは違う。
医学生医学生
ミオクローヌスは、肝性脳症の患者さんで見たピクッとする動きのことですよね。
ドクタードクター
そうだね。突然の短い筋収縮による電撃的で一瞬の動きで、代謝性脳症や低酸素脳症後、Creutzfeldt-Jakob病などでみられる。一瞬で終わるから、持続的に動き続ける今回の動きとは合わない。チックは小児期に多い、まばたきや首振りのような常同的で素早い動きや発声で、一時的に我慢できるのが特徴だ。Parkinson病の治療経過とは関係がない。
医学生医学生
動きの速さ、規則性、持続時間、それに出たタイミングで見分ければいいんですね。
ドクタードクター
その整理が大事だ。最後に臨床的な対応を押さえておこう。ジスキネジアには、レボドパの1回量を減らして服薬回数を増やす方法や、NMDA受容体拮抗作用をもつアマンタジンの追加がある。ウェアリング・オフには、COMT阻害薬やMAO-B阻害薬、ドパミンアゴニストなどを加えて効果時間を延ばす。
医学生医学生
薬だけで調整しきれない場合はどうするんですか。
ドクタードクター
視床下核や淡蒼球内節への脳深部刺激療法、レボドパ・カルビドパ持続経腸療法、皮下持続注入療法などが選択肢になる。どれも血中濃度の波を小さくしたり、回路の異常を調整したりする考え方だ。若年発症、長期・高用量のレボドパ使用、罹病期間の長さはジスキネジアの危険因子とされるから、外来では患者さんに症状日誌をつけてもらい、いつオフになり、いつ不随意運動が出るのかを時間軸で把握することが調整の第一歩になるよ。
医学生医学生
不随意運動を見たら、まず服薬時刻との関係を聞くようにします。

まとめ

進行期Parkinson病ではドパミン神経の緩衝能が失われ、脳内ドパミン濃度がレボドパの血中濃度に直接左右されるため、効果が切れるウェアリング・オフと、過剰刺激によるジスキネジアという運動合併症が生じます。ジスキネジアは体幹・四肢を不規則にくねらせる不随意運動で、血中濃度が高い時間帯に出るピーク時ジスキネジアが最も多く、増量後に出現したという経過が診断の手がかりとなります。オフ時に足がねじれて痛むオフ期ジストニア、規則的な静止時振戦、電撃的なミオクローヌス、一時的に抑制できるチックとは、動きの性質と出現状況で区別できます。対応にはレボドパの1回量減量と分割、アマンタジン追加、脳深部刺激療法などがあり、服薬時刻と症状の関係を把握することが調整の出発点です。不随意運動を性質と文脈で見分ける力は、神経疾患全般の診察で役立つ基本となります。

解答・解説

正解はdです

経過の整理

・15年前、右手の振戦と動作緩慢(無動)で発症し、Parkinson病と診断された。片側から始まる静止時振戦と動作緩慢は、Parkinson病の典型的な初発症状である。 ・抗Parkinson病薬で症状は改善した:発症早期は薬がよく効く時期(いわゆるハネムーン期)である。 ・5年前(発症から約10年)から歩行困難:病気が進行し、すくみ足や姿勢反射障害など、薬が効きにくい症状も現れてくる時期である。 ・1年前から薬の効果が持続せず、時間帯によって歩けなくなる:次の服薬までに効果が切れて症状が悪化するウェアリング・オフ(wearing-off)現象である。 ・薬を増量したところ、体幹や上下肢を不規則に繰り返し動かす不随意運動が出現し、座位も保てなくなった:これが設問の下線部である。

考え方

進行期のParkinson病では、黒質のドパミン神経細胞がさらに減少し、レボドパから作られたドパミンを神経終末にためておいて少しずつ放出する能力(緩衝能)が失われる。その結果、脳内のドパミン濃度は内服した薬の血中濃度にそのまま左右されるようになる。濃度が下がれば症状が戻り(ウェアリング・オフ)、濃度が上がりすぎると過剰なドパミン刺激による不随意運動が出る。このように、薬がちょうどよく効く濃度の幅(治療域)が狭くなるのが進行期の特徴である。 本症例は、ウェアリング・オフに対して薬を増量した後に、体幹・四肢を不規則にくねらせるような持続的な不随意運動が出現しており、ドパミン過剰によって生じたレボドパ誘発性ジスキネジア(主にピーク時ジスキネジア)と判断できる。ウェアリング・オフとジスキネジアを合わせて「運動合併症」と呼び、長期レボドパ治療を受けた進行期Parkinson病でよくみられる。 設問では、各不随意運動の動きの性質(速さ、規則性、持続、出現部位)と、出現した状況(薬の増量後)から該当するものを選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  チック

    チックは、突発的・急速に繰り返される、目的のない常同的な運動(まばたき、顔をしかめる、首を振る、肩をすくめるなど)や発声である。ある程度は意識的に一時抑えられるが、その後むずむずした衝動とともに出てしまうのが特徴である。小児期に発症することが多く、運動チックと音声チックが1年以上続くものをTourette症候群という。Parkinson病の経過や抗Parkinson病薬の増量とは関係がなく、体幹・四肢を持続的にくねらせて座位も保てなくなる本症例の動きとは合わない。

  2. ×b.  ジストニア

    ジストニアは、拮抗する筋が同時に持続的に収縮することで、ねじれるような異常な姿勢や反復運動が生じる状態である(痙性斜頸、書痙など)。Parkinson病でも起こるが、典型的には早朝や薬の効果が切れたオフ時に、足趾が曲がったり足が内側にねじれたりして痛みを伴う形(オフ期ジストニア)で現れる。本症例は薬の増量後に、特定の姿勢で固まるのではなく体幹・四肢を不規則に動かし続けているので、ジストニアよりもジスキネジアとして捉えるのが適切である。

  3. ×c.  静止時振戦

    静止時振戦は、力を抜いて安静にしているときに出現し、動作を始めると軽減する、4〜6Hz程度の規則的な振戦である。手指で丸薬を丸めるような動き(pill-rolling tremor)が典型で、Parkinson病の主要な運動症状の一つである。本症例の発症時の右手の振戦がこれに当たる。抗Parkinson病薬で改善する方向の症状であり、薬の増量で悪化するものではない。また、規則的なリズムを持つ振戦は、本症例の「不規則」な不随意運動とは性質が異なる。

  4. ○d.  ジスキネジア

    ジスキネジアは、四肢・体幹・顔面・口などを不規則にくねらせたり揺らしたりする不随意運動の総称で、Parkinson病の進行期では、レボドパを中心とするドパミン補充療法によるドパミン過剰刺激で生じるものが代表的である。最も多いのは血中濃度が最も高い時間帯に出るピーク時ジスキネジアで、舞踏運動(コレア)様の動きを示すことが多い。本症例では、ウェアリング・オフに対する増量後に体幹・上下肢の不規則な反復運動が出現し、座位も保てないほど高度になっており、典型的なレボドパ誘発性ジスキネジアである。対応としては、レボドパの1回量を減らして服薬回数を増やす、アマンタジンの追加、脳深部刺激療法(DBS)の検討などがある。

  5. ×e.  ミオクローヌス

    ミオクローヌスは、筋肉の突然の短い収縮(または収縮の中断)による、電撃的な「ピクッ」とした瞬間的な不随意運動である。意識は保たれる。代謝性脳症(肝性脳症・尿毒症)、低酸素脳症後(Lance-Adams症候群)、Creutzfeldt-Jakob病、てんかんなどでみられる。動きが一瞬で終わる点で、体幹・四肢を持続的に動かし続ける本症例の不随意運動とは異なり、進行期Parkinson病の運動合併症として典型的なものでもない。

Parkinson病の概要

・中脳黒質のドパミン神経細胞が変性・脱落し、線条体のドパミンが不足する神経変性疾患である。神経細胞内にαシヌクレインを主成分とするLewy小体が出現する。 ・四大運動症状:静止時振戦、筋強剛(歯車様・鉛管様)、無動・寡動、姿勢反射障害。症状は片側から始まり、左右差がみられることが多い。 ・非運動症状:便秘、起立性低血圧、嗅覚低下、レム睡眠行動障害、うつ、認知機能障害など。

進行期の運動合併症

・ウェアリング・オフ現象:薬効時間が短くなり、次の服薬前に症状が悪化する。対策として、レボドパの分割投与・服薬回数の増加、COMT阻害薬(エンタカポンなど)、MAO-B阻害薬(セレギリン、ラサギリン、サフィナミド)、ドパミンアゴニスト、イストラデフィリン(アデノシンA2A受容体拮抗薬)の追加などがある。 ・オン・オフ現象:服薬時間と関係なく、スイッチを切り替えるように急に症状がよくなったり悪くなったりする。 ・ジスキネジア:  ピーク時ジスキネジア(血中濃度が高いとき、最も多い)  二相性ジスキネジア(効き始めと切れかけの時期に出る)  オフ期ジストニア(効果が切れたとき、早朝に多く、痛みを伴う)  ジスキネジアの対策は、レボドパ1回量の減量と分割、アマンタジン(NMDA受容体拮抗作用)の追加など。薬物療法でコントロールが難しい場合は、視床下核や淡蒼球内節への脳深部刺激療法、レボドパ・カルビドパ持続経腸療法、皮下持続注入療法などが選択肢になる。 ・ジスキネジアは若年発症、長期・高用量のレボドパ使用、罹病期間の長さが危険因子とされる。

不随意運動の見分け方

・振戦:規則的・律動的な往復運動(静止時振戦はParkinson病、姿勢時・動作時振戦は本態性振戦など)。 ・舞踏運動(コレア):不規則で速く、踊るような流れる動き(Huntington病、小舞踏病など)。 ・アテトーゼ:遠位部をゆっくりくねらせる動き。 ・バリズム:近位部から四肢を投げ出すような激しい動き(対側の視床下核病変)。 ・ジストニア:持続的な筋収縮によるねじれた姿勢。 ・ミオクローヌス:電撃的で瞬間的な収縮。 ・チック:常同的で一時的に抑制可能な素早い運動・発声。 ・遅発性ジスキネジア:抗精神病薬の長期使用で生じる口周囲の反復運動(口をもぐもぐさせる、舌を出し入れする)が代表的である。

POINT

・長期治療中の進行期Parkinson病では、ウェアリング・オフとジスキネジアという運動合併症が起こる。 ・ジスキネジアはドパミン過剰による不規則でくねるような不随意運動で、薬の血中濃度が高い時間帯に出やすい(ピーク時ジスキネジア)。 ・オフ期ジストニアは薬が切れた早朝に足がねじれて痛む形で出る。 ・静止時振戦は規則的でParkinson病そのものの症状であり、薬で改善する。 ・ジスキネジアにはレボドパ1回量の減量・分割、アマンタジン追加、脳深部刺激療法などで対応する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。