匿名・無料・保険診療―HIV検査の「受けやすさ」を支える仕組み
第114回医師国家試験 C問題 第32問
国試問題にチャレンジ
HIV感染症の検査について正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.医師がHIV感染症を疑う症状,所見があれば保険診療となる。
- b.スクリーニング検査の結果が判明するのは実施の2週後である。
- c.スクリーニング検査は保健所において匿名で受けることができる。
- d.スクリーニング検査は保健所において無料で受けることができる。
- e.スクリーニング結果が陽性だった場合の確認検査は,エイズ治療拠点病院でのみ行うことができる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
HIV検査は、医師が臨床的に感染を疑う症状や所見がある場合には保険診療で行え、無症状の人が希望して受ける検査は自費となります。一方、保健所ではスクリーニング検査を匿名・無料で受けられ、偏見やプライバシーへの不安から検査をためらう人の受検を後押ししています。スクリーニング検査は感度重視で偽陽性があるため、陽性時は抗体確認検査とHIV-1 RNA定量による確認検査を行い、これはエイズ治療拠点病院に限らず実施できます。結果判明までの時間は検査法や施設体制によって異なり、迅速検査なら当日にわかること、またウインドウ期とは別の概念であることにも注意が必要です。早期発見と早期治療が本人の予後改善と感染拡大の防止の双方につながるため、検査の仕組みを理解して適切に案内できることは臨床医にとって重要です。
解答・解説
正解はa, c, dです
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の検査が、日本でどのような仕組みで行われているかを問う問題である。押さえるべき点は、次の3つである。 1. 費用:医療機関で行う検査は、医師が臨床的にHIV感染を疑う場合には保険診療になる。保健所の検査は無料である。 2. 検査の流れ:まずスクリーニング検査を行い、陽性なら確認検査を行うという2段階で診断する。スクリーニング検査は感度を重視しているため、偽陽性が一定の割合で出る。そのため、スクリーニング陽性だけでHIV感染と告げてはならない。 3. 受けやすさ:早く見つけて早く治療につなげるため、保健所では匿名・無料で検査を受けられる体制が整えられている。 スクリーニング検査の結果がわかるまでの時間は、検査法と施設の体制によって違う。院内で検査できる施設や迅速検査では当日に結果が出るので、「2週後」と決まっているわけではない。また、確認検査は特定の病院に限られた検査ではない。
選択肢考察
- ○a. 医師がHIV感染症を疑う症状,所見があれば保険診療となる。
保険診療は、病気の診断や治療のために行う医療が対象である。そのため、医師が診療のうえでHIV感染症を疑ったときには、保険診療で検査ができる。例えば、口腔カンジダ症や食道カンジダ症、帯状疱疹、ニューモシスチス肺炎などの免疫不全を思わせる感染症がある場合である。発熱・咽頭痛・リンパ節腫脹・皮疹など、伝染性単核球症に似た急性HIV感染症を疑う症状がある場合も同様である。梅毒などほかの性感染症が見つかった場合も、感染経路が共通するので検査をすすめる。一方、症状がない人が「心配だから」と希望して受ける検査は保険の対象にならず、自費になる。
- ×b. スクリーニング検査の結果が判明するのは実施の2週後である。
スクリーニング検査には、HIV-1/2抗体とp24抗原を同時に測る第4世代の抗原抗体検査や、イムノクロマト法による迅速検査などがある。検査そのものは数十分から数時間で終わる。院内で検査できる医療機関や、即日検査を行っている保健所では、その日のうちに結果がわかる。外部の検査機関に出す場合や、通常検査の保健所では、結果を伝えるまでに数日から1~2週間かかることもある。しかしこれは体制によるもので、「実施の2週後に判明する」と決まっているわけではない。なお、検査を受ける時期についての「感染の機会から一定期間あける」という話は、ウインドウ期(感染していても検査で陽性にならない期間)のことであり、結果が出るまでの時間とは別の話である。
- ○c. スクリーニング検査は保健所において匿名で受けることができる。
保健所のHIV検査は匿名で受けることができる。名前や住所を伝える必要はなく、番号札などで本人かどうかを確認して結果を伝える。HIV感染症には今でも偏見があり、プライバシーが気になって検査をためらう人が多い。匿名にすることで、検査を受けるハードルを下げ、早く見つけることにつなげている。
- ○d. スクリーニング検査は保健所において無料で受けることができる。
保健所のHIV検査は無料である。費用がかからないことも、検査を受けやすくする工夫の一つである。保健所では、スクリーニング検査で陽性になった人には確認検査まで行い、結果を説明する。陽性と確定した場合は、エイズ治療拠点病院などの専門医療機関を紹介する。多くの保健所では、梅毒などほかの性感染症の検査もあわせて受けられる。
- ×e. スクリーニング結果が陽性だった場合の確認検査は,エイズ治療拠点病院でのみ行うことができる。
確認検査は、一般の医療機関でも、検査会社に委託するなどして行うことができる。エイズ治療拠点病院でしか行えないわけではない。確認検査には、HIV-1/2抗体の確認検査とHIV-1 RNA定量(核酸増幅検査:NAT、PCR法など)を用い、多くの場合は2つを同時に行う。抗体の確認検査には、かつてはウエスタンブロット法が使われていた。現在は、HIV-1とHIV-2を見分けられるイムノクロマト法による抗体確認検査が主に使われている。エイズ治療拠点病院は、HIV感染症と診断された後の専門的な治療と経過観察を中心となって担う施設である。
HIV感染症の診断の流れ
1. スクリーニング検査:第4世代抗原抗体検査(HIV-1/2抗体とp24抗原を同時に測る)、イムノクロマト法による迅速検査など。感度を重視しているため、まれに偽陽性が出る(全体の0.1~0.3%程度)。有病率の低い集団では、スクリーニング陽性者の中に偽陽性がかなりの割合で含まれる。 2. 確認検査:抗体確認検査(現在はイムノクロマト法による抗体確認検査が主に使われ、かつてはウエスタンブロット法が使われた)とHIV-1 RNA定量(NAT)。感染してまだ抗体ができていない急性期には、抗体確認検査が陰性または判定保留になっても、HIV-1 RNAが陽性なら急性感染と診断できる。
ウインドウ期
感染してから、検査で陽性になるまでには一定の期間がある。この期間をウインドウ期という。第4世代の抗原抗体検査では、およそ感染の機会から1か月程度たてば多くの例で検出できるようになる。より確実に判定するため、保健所などでは感染の機会から一定期間あけて検査を受けるよう案内している。
検査を考えるべき状況
・口腔・食道カンジダ症、帯状疱疹(特に若い人や繰り返す場合)、ニューモシスチス肺炎、結核、原因不明の体重減少・下痢・リンパ節腫脹など ・伝染性単核球症に似た症状(急性HIV感染症) ・梅毒、B型肝炎、淋菌感染症などの性感染症が見つかったとき
制度上の扱い
後天性免疫不全症候群(AIDS)は感染症法の5類感染症(全数把握)である。診断した医師は、7日以内に保健所に届け出る(無症候性キャリアも届出の対象)。診断後は、エイズ治療拠点病院などで抗HIV療法(ART)を行う。ARTによってウイルス量を検出限界未満に保てば、性行為による感染は起こらない(U=U:Undetectable = Untransmittable)とされる。
POINT
・医師が臨床的にHIV感染症を疑えば、HIV検査は保険診療で行える(症状のない人が希望して受ける検査は自費) ・保健所のHIV検査は匿名・無料で受けられる ・スクリーニング陽性だけでは診断せず、必ず確認検査(抗体確認検査とHIV-1 RNA定量)を行う ・確認検査はエイズ治療拠点病院に限らず行える ・スクリーニング検査の結果は、迅速検査や院内検査なら当日にわかる
