StudyMed医師国家試験

HIVはなぜ「免疫の司令塔」を狙うのか―CD4が決める標的細胞

第120回医師国家試験 C問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第1問

ヒト免疫不全ウイルス〈HIV〉が主に感染する細胞はどれか。

  1. a.好酸球
  2. b.好中球
  3. c.好塩基球
  4. d.リンパ球
  5. e.Kupffer細胞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、HIVが体内のどの細胞に感染するのかを問う基本問題だ。ポイントは「ウイルスは鍵穴をもつ細胞にしか入れない」という考え方。HIVにとっての鍵穴が何かを思い出せれば、答えは自然に出てくるよ。
医学生医学生
AIDSでは免疫が落ちるので、白血球のどれかに感染するのはわかります。でも好中球も白血球なので、少し迷いました。
ドクタードクター
白血球というくくりで考えると迷うよね。そこで鍵穴の話だ。HIVの外膜には糖蛋白gp120があって、これが細胞表面のCD4分子に結合する。さらにケモカイン受容体のCCR5かCXCR4を補助受容体として使い、gp41の働きで細胞膜と融合して侵入するんだ。
医学生医学生
基礎の免疫学の講義で、CD4はヘルパーT細胞のマーカーだと習いました。ということは、答えはリンパ球ですね。
ドクタードクター
その通り。CD4を最も多く発現しているのがリンパ球の一種であるCD4陽性T細胞、つまりヘルパーT細胞で、これがHIVの主要な標的になる。単球・マクロファージや樹状細胞もCD4をもっていて感染しうるけれど、量的にも病態的にも中心はCD4陽性T細胞だ。
医学生医学生
感染した後はどうやって増えるんでしたっけ。微生物学でレトロウイルスと習った記憶はあるんですが。
ドクタードクター
HIVはレトロウイルス科レンチウイルス属のRNAウイルスで、細胞内で逆転写酵素によってRNAをDNAに書き換え、インテグラーゼで宿主のゲノムに組み込んで増殖する。感染したCD4陽性T細胞は次々に失われ、数が減ると細胞性免疫が低下して、日和見感染症や日和見腫瘍を起こすAIDSに至るわけだ。
医学生医学生
では顆粒球の3つは、CD4をほとんど持たないから標的にならない、という整理でいいですか。
ドクタードクター
基本はそれでいい。好中球は細菌や真菌を貪食する自然免疫の主役で、CD4の発現はほとんどない。進行期のHIV感染者で好中球減少がみられることはあるけれど、骨髄抑制や薬剤の影響によるもので、ウイルスが直接感染するからではないんだ。
医学生医学生
好酸球は寄生虫やアレルギー、好塩基球はIgE受容体をもってヒスタミンを出す細胞でしたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。好酸球増多がHIV感染者でみられることはあるけれど二次的な変化だ。好塩基球がHIVを表面にとらえてT細胞に受け渡す可能性を示した研究もあるが、主に感染して増殖する細胞ではない。
医学生医学生
Kupffer細胞はマクロファージの仲間なので、さっきの話だと感染しうるのでは?少し引っかかります。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。肝類洞にいる組織マクロファージだから、HIVが感染しうるという報告はある。ただ「主に感染する細胞」とはいえない。選択肢の中で主要な標的を選ぶなら、やはりリンパ球になるね。
医学生医学生
鍵穴であるCD4をどれだけ持っているかで考えれば、迷わずに済みますね。
ドクタードクター
そう。ここから発展的な話をしよう。補助受容体にCCR5を使うR5株は感染初期に優位で、マクロファージやメモリーT細胞に入りやすい。CCR5遺伝子の32塩基欠失をホモ接合でもつ人はR5株に感染しにくいことが知られていて、CCR5阻害薬のマラビロクはこの仕組みを応用した薬だ。病期が進むとCXCR4を使うX4株が出てきやすくなる。
医学生医学生
薬が効いてウイルス量が検出限界未満になっても、治療をやめられないのはなぜですか。
ドクタードクター
休止期のメモリーCD4陽性T細胞やマクロファージに、HIVのDNAが潜伏状態で残るからだ。これをウイルスリザーバーと呼ぶ。抗HIV療法を中止すると再増殖するので、治療は生涯続ける必要がある。マクロファージは中枢神経への感染にも関わり、HIV関連神経認知障害の原因にもなるんだ。
医学生医学生
臨床実習の感染症内科で、外来のたびにCD4数を確認していたのを思い出しました。
ドクタードクター
CD4数は病期の評価、予防投与開始の判断、治療効果の指標として欠かせない。基準値はおおむね500〜1,000/mm3程度で、200未満でニューモシスチス肺炎、100未満でトキソプラズマ脳症やクリプトコックス髄膜炎、50未満でサイトメガロウイルス感染症や播種性非結核性抗酸菌症のリスクが高まる。この目安は日和見感染症の予防を始める判断にも使われるから、セットで覚えておこう。

まとめ

HIVはgp120が細胞表面のCD4分子に結合し、CCR5またはCXCR4を補助受容体として侵入するため、CD4を多く発現するリンパ球、とくにCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)が主な標的となります。単球・マクロファージや樹状細胞にも感染しえますが、好中球・好酸球・好塩基球といった顆粒球は主要な標的ではありません。感染細胞内では逆転写とゲノムへの組み込みを経て増殖し、CD4陽性T細胞の減少が細胞性免疫不全、ひいては日和見感染症や日和見腫瘍を招きます。CD4数は病期評価や予防投与開始の目安となり、潜伏感染したリザーバー細胞の存在が生涯にわたる抗HIV療法の根拠となります。「受容体が感染する細胞を決める」という視点は、HIVに限らずウイルス感染症全般を理解する土台になります。

解答・解説

正解はdです

HIVの標的細胞を決める仕組み

ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)はレトロウイルス科レンチウイルス属のRNAウイルスである。ウイルス外膜の糖蛋白gp120が細胞表面のCD4分子に結合し、続いてケモカイン受容体(CCR5またはCXCR4)を補助受容体として利用し、gp41の働きで細胞膜と融合して侵入する。したがって、HIVが感染できるのはCD4とこれらの補助受容体を表面にもつ細胞に限られる。

主な標的はCD4陽性Tリンパ球

CD4を最も多く発現し、HIVの主要な標的となるのはリンパ球の一種であるCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)である。このほか単球・マクロファージや樹状細胞などもCD4を発現しており感染しうるが、量的にも病態的にも中心となるのはCD4陽性T細胞である。 HIVはCD4陽性T細胞内で逆転写酵素によりRNAをDNAに変換し、インテグラーゼで宿主ゲノムに組み込んで増殖する。感染細胞が次々に破壊されてCD4陽性T細胞数が減少すると、細胞性免疫が低下して日和見感染症や日和見腫瘍を起こし、AIDS(後天性免疫不全症候群)に至る。 以上から、選択肢のうちHIVが主に感染する細胞はリンパ球である。好酸球・好中球・好塩基球はいずれも顆粒球で、HIVの主要な標的ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  好酸球

    好酸球は顆粒球の一つで、寄生虫感染に対する防御やアレルギー反応(気管支喘息など)に関わる。HIVの主要な感染標的ではない。HIV感染者で好酸球増多がみられることはあるが、これは病態や併存疾患に伴う二次的な変化であり、好酸球への感染が病態の中心ではない。

  2. ×b.  好中球

    好中球は細菌や真菌を貪食・殺菌する自然免疫の主役である。CD4の発現はほとんどなく、HIVの感染標的とはならない。HIV感染症の進行期には骨髄抑制や薬剤の影響で好中球減少をきたすことがあるが、ウイルスが直接感染するためではない。

  3. ×c.  好塩基球

    好塩基球は表面に高親和性IgE受容体をもち、ヒスタミンなどを放出してⅠ型アレルギー反応に関与する。好塩基球がHIVを細胞表面にとらえてCD4陽性T細胞へ受け渡す可能性を示した研究はあるが、HIVが主に感染して増殖する細胞ではない。

  4. ○d.  リンパ球

    HIVのgp120はCD4分子を受容体とするため、CD4を多く発現するリンパ球、とくにCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)が主要な標的となる。感染によりCD4陽性T細胞が減少していくことがHIV感染症の免疫不全の本質であり、CD4陽性T細胞数は病期の評価、日和見感染症予防の開始判断、治療効果の指標として用いられる。

  5. ×e.  Kupffer細胞

    Kupffer細胞は肝類洞に存在する組織マクロファージで、門脈血中の細菌や異物、老化赤血球を処理する。マクロファージ系の細胞であるためHIVが感染しうるとする報告はあり、HIV感染者の肝障害への関与も研究されているが、HIVが主に感染する細胞とはいえない。

HIVの侵入と補助受容体

HIVの侵入にはCD4に加えて補助受容体が必要である。CCR5を使う株(R5指向性)はマクロファージやメモリーT細胞に感染しやすく、感染初期に優位である。CXCR4を使う株(X4指向性)は病期が進むと出現しやすい。CCR5遺伝子の32塩基欠失(CCR5Δ32)をホモ接合でもつ人はR5株に感染しにくいことが知られ、CCR5阻害薬(マラビロク)はこの仕組みを利用した薬剤である。

ウイルスリザーバー

単球・マクロファージや休止期のメモリーCD4陽性T細胞にはHIVのDNAが潜伏状態で残り、抗HIV療法(ART)でウイルス量を検出限界未満に抑えても体内から完全には排除できない。これがART中止でウイルスが再増殖する理由であり、治療を生涯続ける必要がある根拠である。マクロファージは中枢神経系への感染にも関わり、HIV関連神経認知障害の原因となる。

CD4陽性T細胞数の目安と日和見感染症

基準値はおおむね500~1,000/mm3程度である。200/mm3未満でニューモシスチス肺炎、100/mm3未満でトキソプラズマ脳症やクリプトコックス髄膜炎、50/mm3未満でサイトメガロウイルス感染症や播種性非結核性抗酸菌症のリスクが高まる。これらの閾値は予防投与を始める目安にも用いられる。

POINT

・HIVはgp120がCD4分子に結合して感染し、補助受容体としてCCR5またはCXCR4を使う ・主な標的はCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)で、単球・マクロファージ、樹状細胞にも感染する ・CD4陽性T細胞の減少が細胞性免疫不全の本態であり、CD4数は病期・予防投与・治療効果の指標となる ・顆粒球(好中球・好酸球・好塩基球)はHIVの主な感染標的ではない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。