PTが伸びたら「第Ⅶ因子」を思い出せ―ビタミンK欠乏症と止血スクリーニングの読み方
第114回医師国家試験 C問題 第21問
国試問題にチャレンジ
プロトロンビン時間が延長するのはどれか。
- a.血友病
- b.血小板無力症
- c.ビタミンK欠乏症
- d.von Willebrand病
- e.IgA血管炎〈Schönlein-Henoch紫斑病〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
PTは外因系(第Ⅶ因子)と共通系、APTTは内因系と共通系を反映するため、PTのみが延長する場合はまず第Ⅶ因子の低下を考えます。ビタミンKは第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子の活性化に必要で、なかでも半減期が最も短い第Ⅶ因子が先に低下するため、ビタミンK欠乏症ではPT延長が先行し、進行するとAPTTも延長します。血友病やvon Willebrand病はAPTTのみが延長し、血小板無力症やIgA血管炎ではPT・APTTとも正常です。ビタミンK欠乏は新生児、閉塞性黄疸、長期抗菌薬投与、ワルファリン内服などで生じ、新生児へのビタミンK2シロップ予防投与やPT-INRによるワルファリン管理につながります。検査値のパターンから障害された止血段階を推定する考え方は、出血傾向の鑑別の基本です。
解答・解説
正解はcです
出血傾向のスクリーニングでは、血小板数、出血時間、プロトロンビン時間〈PT〉、活性化部分トロンボプラスチン時間〈APTT〉の4項目の組み合わせから、障害されている止血段階を推定する。
PTとAPTTが反映するもの
PTは組織因子を加えて凝固を始めさせる検査で、外因系(第Ⅶ因子)と共通系(第Ⅹ・Ⅴ・Ⅱ因子、フィブリノゲン)の働きを反映する。APTTは内因系(第Ⅻ・Ⅺ・Ⅸ・Ⅷ因子など)と共通系を反映する。したがって、PTだけが延長すれば第Ⅶ因子、APTTだけが延長すれば内因系因子、両方が延長すれば共通系因子または複数因子の異常を考える。
一次止血の異常はPT・APTTに現れない
血小板の数や機能の異常、血管壁の異常は凝固因子とは無関係であるため、PT・APTTは正常で、出血時間(血小板機能異常の場合)や血小板数に異常が出る。
本問の考え方
5つの選択肢のうち、外因系の第Ⅶ因子を低下させる病態はビタミンK欠乏症だけである。ビタミンK依存性凝固因子のうち第Ⅶ因子は半減期が最も短いため、欠乏時には真っ先に低下し、PT延長が最初に現れる。他の選択肢は内因系の異常(APTTのみ延長)か一次止血・血管の異常(PT・APTTとも正常)であり、PTは延長しない。
選択肢考察
- ×a. 血友病
血友病Aは第Ⅷ因子、血友病Bは第Ⅸ因子の先天的欠乏症で、いずれも内因系の因子である。そのためAPTTのみが延長し、PTは正常である。血小板機能は保たれるので出血時間・血小板数も正常である。関節内出血や筋肉内出血など深部出血が特徴で、X連鎖劣性遺伝のため患者のほとんどは男性である。
- ×b. 血小板無力症
血小板無力症(Glanzmann病)は、血小板膜糖蛋白GPⅡb/Ⅲa(インテグリンαⅡbβ3)の先天的な欠損・機能異常により、フィブリノゲンを介した血小板同士の結合(凝集)ができない常染色体劣性遺伝の疾患である。ADP、コラーゲン、エピネフリンなどほとんどの惹起物質で凝集が起こらないが、リストセチン凝集は保たれる。血小板数は正常で、出血時間が延長する。凝固因子には異常がないため、PT・APTTはともに正常である。
- ○c. ビタミンK欠乏症
ビタミンKは、第Ⅱ(プロトロンビン)・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子のグルタミン酸残基をγ-カルボキシ化する酵素の補酵素である。この修飾を受けないとCa2+やリン脂質膜に結合できず、凝固因子として働かない(この不完全な分子をPIVKA〈protein induced by vitamin K absence or antagonist〉と呼ぶ)。4因子の半減期は第Ⅶ因子が最も短く(数時間程度)、次いでⅨ、Ⅹ、Ⅱの順に長くなる。このため欠乏時はまず外因系の第Ⅶ因子が低下してPTが延長し、欠乏が進むとⅨ・Ⅹ・Ⅱ因子も低下してAPTTも延長する。原因として新生児(腸内細菌叢未発達、母乳中のビタミンK含量が少ない)、閉塞性黄疸や吸収不良(脂溶性ビタミンの吸収障害)、長期の抗菌薬投与、ワルファリン内服などがある。
- ×d. von Willebrand病
von Willebrand因子〈VWF〉の量的・質的異常による先天性出血性疾患で、最も頻度が高い遺伝性出血性素因である。VWFは二つの役割をもつ。一つは損傷血管の内皮下組織に血小板を粘着させる橋渡し(血小板GPⅠbと結合)で、これが障害されるため出血時間が延長する。もう一つは第Ⅷ因子と結合してその分解を防ぐキャリアとしての役割で、VWFが減ると第Ⅷ因子活性も低下しAPTTが延長する。外因系・共通系には影響しないためPTは正常である。リストセチン凝集の低下が診断の手がかりとなる。
- ×e. IgA血管炎〈Schönlein-Henoch紫斑病〉
IgAを含む免疫複合体が小血管壁に沈着して起こる血管炎で、小児に多い。触知可能な紫斑(下肢伸側に好発)、関節痛、腹痛、腎炎(IgA沈着を伴う糸球体腎炎)が主な症状である。出血の原因は血管壁の炎症であり、血小板数、出血時間、PT、APTTはいずれも正常である。なお、第ⅩⅢ因子(フィブリン安定化因子)活性が低下することがあるが、第ⅩⅢ因子はPT・APTTの測定には反映されない。
止血スクリーニング検査のパターン
・PTのみ延長:第Ⅶ因子欠乏、ビタミンK欠乏症の初期、ワルファリン内服初期 ・APTTのみ延長:血友病A・B、von Willebrand病、第Ⅺ・Ⅻ因子欠乏、ループスアンチコアグラント、ヘパリン投与 ・PT・APTTともに延長:ビタミンK欠乏症の進行例、肝不全(凝固因子の産生低下)、播種性血管内凝固〈DIC〉、第Ⅹ・Ⅴ・Ⅱ因子やフィブリノゲンの欠乏 ・PT・APTTとも正常で出血時間延長:血小板無力症、Bernard-Soulier症候群、抗血小板薬内服など(von Willebrand病はAPTTも延長しうる) ・すべて正常:IgA血管炎、単純性紫斑、老人性紫斑、第ⅩⅢ因子欠乏症など
ビタミンK依存性因子
凝固因子Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹに加え、抗凝固因子であるプロテインC・プロテインSもビタミンK依存性である。ワルファリンはビタミンKエポキシド還元酵素を阻害してビタミンKの再利用を妨げることで作用し、その効果はPT-INR(国際標準比)で管理する。ビタミンK欠乏の診断にはPIVKA-Ⅱ(不完全なプロトロンビン)の上昇が有用である。
新生児・乳児のビタミンK欠乏性出血症
新生児期の消化管出血(新生児メレナ)や、乳児期の頭蓋内出血の原因となるため、出生後にビタミンK2シロップの予防投与が行われる。
POINT
・PTは外因系(第Ⅶ因子)と共通系、APTTは内因系と共通系を反映する。 ・ビタミンK依存性凝固因子はⅡ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹで、半減期が最も短い第Ⅶ因子がまず低下するため、ビタミンK欠乏ではPT延長が先行する。 ・血友病とvon Willebrand病はAPTTのみ延長(PT正常)。 ・血小板無力症・IgA血管炎ではPT・APTTとも正常。
