給食と体育が「薬」になる―小学校の保健指導で防げる病気はどれか
第114回医師国家試験 C問題 第19問
国試問題にチャレンジ
小学校における保健指導により一次予防が期待される疾患はどれか。
- a.肥満症
- b.低身長症
- c.1型糖尿病
- d.甲状腺機能亢進症
- e.神経性食思〈欲〉不振症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
一次予防は発症そのものを防ぐことで、生活習慣の改善や健康教育、予防接種が該当し、二次予防の早期発見・早期治療、三次予防の重症化防止・リハビリテーションと区別されます。小学校の保健指導で一次予防が期待できるのは、エネルギー摂取過多と運動不足という生活習慣が主因となる単純性肥満(肥満症)です。低身長症(体質・内分泌・染色体異常など)、1型糖尿病とBasedow病(自己免疫)、神経性やせ症(心理社会的要因の複合)は保健指導で発症を防げず、学校では成長曲線を用いた早期発見や患児の生活支援が中心となります。学校では肥満度20%以上を肥満傾向と判定し、成長期であることを踏まえて体重増加を抑える指導を行います。疾患の原因と予防の段階を結びつけて考えることは、公衆衛生の問題を解くだけでなく、学校や地域での健康づくりを考える基礎になります。
解答・解説
正解はaです
本問は、予防の段階(一次・二次・三次予防)の考え方と、学校保健で扱う疾患の特徴を組み合わせた問題である。 一次予防とは、病気になる前の段階で原因やリスク因子を取り除き、発症そのものを防ぐことをいう。生活習慣の改善、健康教育、予防接種などが該当する。これに対し、二次予防は早期発見・早期治療(健康診断・検診など)、三次予防は発症後の重症化・再発の防止やリハビリテーションを指す。 「保健指導によって一次予防が期待できる」ためには、その疾患の発症に、本人や家庭が変えられる行動や生活習慣(食事、運動、睡眠など)が大きく関わっている必要がある。小学校での保健指導は、給食や保健の授業、学級活動などを通じて、児童に望ましい食習慣や運動習慣を身につけさせることを主な内容とする。 選択肢を見ると、肥満症はエネルギーの摂取過多と消費不足という生活習慣が主な原因であり、食育や運動の習慣づけで発症を防ぐことができる。一方、低身長症は内分泌疾患・染色体異常・体質など、1型糖尿病と甲状腺機能亢進症(バセドウ病)は自己免疫、神経性やせ症は心理的・社会的要因と個人の素因の複合が主な原因であり、生活指導によって発症そのものを防ぐことは期待しにくい。したがって正解は肥満症である。
選択肢考察
- ○a. 肥満症
小児の肥満の大部分は、明らかな基礎疾患のない単純性(原発性)肥満であり、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回る状態が続くことで生じる。間食や甘い飲料の多さ、朝食の欠食、夜更かし、運動不足、テレビ・ゲーム・スマートフォンなどの長時間利用といった生活習慣が深く関わるため、学校での食育(規則正しい食事、栄養バランス)や運動習慣の指導により発症を予防することができる。小児肥満は成人肥満に移行しやすく、将来の2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝などにつながるため、小児期からの一次予防の意義は大きい。なお「肥満症」は、単に体重が多い「肥満」のうち、肥満に起因する健康障害を伴うか、その発生が予測されるため医学的に減量が必要な状態を指す。
- ×b. 低身長症
低身長は、一般に身長が同性・同年齢の平均値より2標準偏差(SD)以上低い場合をいう。原因として最も多いのは家族性低身長や体質性思春期遅発症など病気ではない体質的なものであり、病的なものとしては成長ホルモン分泌不全性低身長症、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、ターナー症候群などの染色体異常、骨系統疾患、在胎週数に比べて小さく生まれたこと(SGA性低身長症)、慢性疾患などがある。いずれも生活習慣の指導で発症を防げるものではないため、一次予防の対象にはならない。学校では定期健康診断で身長を測定し、成長曲線から外れていく児童を見つけて医療機関に紹介するという、早期発見(二次予防)の役割が中心となる。
- ×c. 1型糖尿病
1型糖尿病は、主に自己免疫機序によって膵臓のランゲルハンス島β細胞が破壊され、インスリンが絶対的に不足することで発症する。小児期・思春期に発症することが多く、遺伝的素因にウイルス感染などの環境因子が加わって発症すると考えられているが、食事や運動などの生活習慣は発症原因ではないため、保健指導による一次予防は期待できない。生活習慣が発症に深く関わる2型糖尿病(小児でも肥満に伴って増えている)とは区別する必要がある。学校では、インスリン注射や血糖測定、低血糖時の対応など、患児が安全に学校生活を送れるよう支援することが重要になる。
- ×d. 甲状腺機能亢進症
小児の甲状腺機能亢進症の大部分はバセドウ病(グレーブス病)であり、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に対する自己抗体(TSH受容体抗体)が甲状腺を刺激し続けることで甲状腺ホルモンが過剰に作られる自己免疫疾患である。思春期の女子に多く、遺伝的素因が関与する。生活習慣の改善によって発症を防ぐことはできないため、保健指導による一次予防の対象とはならない。学校生活では、落ち着きのなさ、成績の低下、体重減少、動悸、手の震えなどが受診のきっかけになることがある。
- ×e. 神経性食思〈欲〉不振症
神経性食思不振症(現在は神経性やせ症と呼ばれる)は、やせ願望や肥満への強い恐怖、自分の体型についての認識のゆがみ(ボディイメージの障害)を背景に、極端な摂食制限などにより著しい低体重をきたす摂食障害である。思春期の女子に多く、発症には完璧主義などの性格傾向、家族関係、学校や対人関係のストレス、やせを理想とする社会文化的な風潮など、多くの要因が複合的に関わっており、食事や運動についての保健指導で発症を防ぐことは期待しにくい。かえって不適切なダイエット指導が発症の契機となる場合もある。学校では、定期健康診断で成長曲線から体重が下に外れていく児童生徒を早期に見つけ、医療につなぐ二次予防が重要であり、治療には栄養療法に加えて心理療法(認知行動療法、家族療法など)が必要となる。
予防の3段階
・一次予防:発症の予防。健康増進(生活習慣の改善、健康教育)と特異的予防(予防接種、事故防止など)。 ・二次予防:早期発見・早期治療。健康診断、がん検診、新生児マススクリーニングなど。 ・三次予防:発症後の重症化・合併症の防止、機能回復、社会復帰。リハビリテーションなど。
学校保健の仕組み
学校保健は学校保健安全法に基づき、健康診断(就学時健康診断・定期健康診断)、保健指導、環境衛生の維持などを行う。定期健康診断は毎学年6月30日までに実施し、身長・体重の測定結果は成長曲線や肥満度曲線にあてはめて評価することが推奨されている。保健指導は養護教諭を中心に、学級担任、学校医などが連携して行う。
小児の肥満の判定
学校保健では、性別・年齢別・身長別の標準体重を用いて「肥満度(%)=(実測体重−標準体重)÷標準体重×100」を求め、肥満度20%以上を肥満傾向(20〜30%未満を軽度、30〜50%未満を中等度、50%以上を高度)、−20%以下を痩身傾向と判定する。学校保健統計調査では、肥満傾向児の割合は1970年代後半から増加し2000年代前半をピークにいったん減少傾向となった。例えば2018年度には11歳で男子約10%、女子約9%が肥満傾向児であった。その後、新型コロナウイルス感染症流行期の活動制限などを機に再び増加がみられている。
小児肥満の問題点
小児肥満は成人肥満に移行しやすく、思春期以降の肥満ほどその傾向が強い。小児期でも、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、非アルコール性脂肪性肝疾患、睡眠時無呼吸、整形外科的障害(膝・股関節への負担)、いじめや自己肯定感の低下などの心理社会的問題を伴いうる。治療・予防の基本は食事・運動・生活リズムの改善であり、成長期であることを考慮し、極端な食事制限ではなく、身長の伸びに対して体重の増加を抑えることを目標とする。
POINT
・一次予防=発症予防(生活習慣改善・健康教育・予防接種)、二次予防=早期発見・早期治療、三次予防=重症化予防・リハビリテーション。 ・保健指導で一次予防できるのは、生活習慣が原因となる疾患(小児では単純性肥満)。 ・1型糖尿病・バセドウ病は自己免疫、低身長症は内分泌・染色体異常・体質、神経性やせ症は心理社会的要因が主で、保健指導による一次予防の対象にならない。 ・学校での肥満の評価は肥満度(20%以上で肥満傾向)。小児肥満は成人肥満や生活習慣病につながる。
