胸部写真何百枚分?―「範囲×回数」で読み解く画像検査の被ばく量ランキング
第114回医師国家試験 C問題 第18問
国試問題にチャレンジ
被験者の検査1回当たりの放射線被ばくが最も多いのはどれか。
- a.FDG-PET
- b.頭部単純CT
- c.上部消化管造影検査
- d.腹部ダイナミックCT
- e.胸部単純エックス線写真
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
画像検査の被ばくは実効線量(mSv)で比較し、おおよそ胸部単純写真(0.1mSv未満)<頭部CT(1〜数mSv)≲上部消化管造影・FDG-PET(数mSv)<腹部CT1相(5〜10mSv)<腹部ダイナミックCT(10〜数十mSv)の順になります。CTは一般撮影や透視より線量が多く、撮影範囲が広く体厚の大きい体幹部は頭部より多くなり、さらにダイナミックCTは同じ範囲を複数相撮影するため線量が積み重なります。FDG-PETは内部被ばくを伴いますが、通常の投与量では数mSv程度で、半減期も短い検査です。数値は装置や条件で大きく変わるため桁と順序で理解し、医療被ばくには線量限度がない代わりに正当化と最適化(診断参考レベルの活用)で管理する、という原則を押さえておくことが、適切な検査オーダーと患者説明の基盤になります。
解答・解説
正解はdです
本問は、代表的な画像検査で患者(被検者)が受ける放射線量のおおよその大小関係を問う問題である。 被ばくの比較には、臓器ごとの放射線感受性を考慮して全身への影響を一つの数値にまとめた「実効線量」(単位:mSv、ミリシーベルト)を用いる。実効線量は撮影装置、撮影条件、体格、投与放射能量などによって大きく変わるため、数値は「目安の桁」として覚えればよい。おおよその目安は次のとおりである。 ・胸部単純エックス線写真(正面1枚):0.02〜0.1mSv程度 ・頭部単純CT:1〜数mSv程度 ・上部消化管造影検査:数mSv程度(透視時間により変動) ・FDG-PET:PET単独で数mSv程度(PET/CTでは同時に撮るCTの線量が加わる) ・腹部単純CT(1相):5〜10mSv程度 ・腹部ダイナミックCT:1相分の線量×撮影相数となり、10〜数十mSv程度 考え方のポイントは二つある。第一に、CTは一般撮影や透視に比べて線量が大きく、なかでも体幹部(腹部・骨盤)は撮影範囲が広く体厚も大きいため、頭部より線量が多い。第二に、ダイナミックCTは造影剤注入前(単純相)から動脈相、門脈相、平衡相などと同じ範囲を複数回撮影するため、線量が撮影回数分だけ積み重なる。したがって、選択肢中で最も被ばくが多いのは腹部ダイナミックCTである。
選択肢考察
- ×a. FDG-PET
FDG-PETは、ブドウ糖の類似物質に陽電子放出核種のフッ素18(18F)を標識したFDG(フルオロデオキシグルコース)を静脈注射し、糖代謝の亢進した病変(多くの悪性腫瘍、炎症など)を画像化する検査である。体内に投与した放射性薬剤から被ばくするため(内部被ばく)、線量は投与量に比例し、通常の投与量では実効線量は数mSv(おおむね3〜7mSv程度)である。18Fの物理的半減期は約110分と短く、尿中にも排泄されるため被ばくは比較的短時間で減っていく。現在主流のPET/CTでは、位置合わせや吸収補正のためのCT(多くは低線量)の分が加わるが、それでも複数相を撮影する腹部ダイナミックCTより少ないのが一般的である。
- ×b. 頭部単純CT
頭部単純CTの実効線量はおおむね1〜数mSv程度である。頭部は撮影範囲が狭く、体幹部に比べて放射線感受性の高い臓器(骨髄の大部分、消化管、生殖腺など)を照射範囲に含まないため、局所の線量(CTDIvol)は体幹部CTより高く設定されていても、実効線量としては腹部CTより小さくなる。ただし眼の水晶体は照射野に入るため、白内障のリスクを踏まえて不要な撮影を避けることが求められる。造影剤を使わない1回撮影であり、腹部ダイナミックCTより明らかに少ない。
- ×c. 上部消化管造影検査
上部消化管造影検査(バリウムを飲んで食道・胃・十二指腸を観察する検査)は、エックス線透視を続けながら何枚もの撮影を行うため、一般撮影1枚よりはるかに線量が多い。実効線量は数mSv程度(数値は施設・術者・透視時間によって幅があり、検診の胃透視で数mSv、精密検査で長時間透視をすればそれ以上)である。それでも、腹部を複数相撮影するダイナミックCTには通常及ばない。
- ○d. 腹部ダイナミックCT
ダイナミックCTは、造影剤を急速静注しながら、同じ範囲を時間をずらして複数回撮影する検査である。腹部では単純相に加え、動脈相(多血性腫瘍の濃染をとらえる)、門脈相、平衡相(遅延相)などを撮影し、肝細胞癌の診断(早期濃染と後期のwashout)や膵腫瘍の評価などに用いられる。腹部CTは1相でも5〜10mSv程度の線量があり、撮影相数が3〜4相になれば実効線量は合計で10〜数十mSvに達する。撮影範囲が広く体厚の大きい体幹部を、しかも繰り返し撮影するため、選択肢の中で最も被ばくが多い。
- ×e. 胸部単純エックス線写真
胸部単純エックス線写真(正面1枚)の実効線量は0.02〜0.1mSv程度で、選択肢の中で最も少ない。胸部は空気を含む肺が大部分を占めエックス線が透過しやすいこと、撮影が一瞬で終わることなどから線量は非常に小さい。日本で1年間に受ける自然放射線(世界平均で約2.4mSv/年、日本で約2.1mSv/年)と比べても数十分の一以下であり、CT1回は胸部写真の数十〜数百枚分に相当する。
被ばくの単位
・吸収線量(Gy、グレイ):物質1kgあたりに吸収された放射線のエネルギー。 ・等価線量(Sv):吸収線量に放射線の種類による影響の違い(放射線加重係数。エックス線・γ線は1)をかけたもの。 ・実効線量(Sv):各臓器の等価線量に臓器ごとの感受性(組織加重係数)をかけて合計したもの。確率的影響(発癌など)のリスクを全身で比較するための指標で、検査間の被ばく比較に用いる。
医療被ばくの考え方
医療被ばくには、検査を受ける患者個人に明確な利益があるため、患者個人に対する線量限度は設けられていない。その代わり、検査の必要性を判断する「正当化」と、診断に必要な画質を保ちながら線量をできるだけ低くする「最適化」が求められる。最適化の目安として、検査ごとの典型的な線量の基準である診断参考レベル(DRL)が国内でも公表されている。100mSvを下回る低線量域では、発癌リスクの上昇は他の要因に隠れて明確には確認されていないが、放射線防護の観点からは線量に比例してリスクがあると仮定して(LNTモデル)不要な被ばくを避ける。
線量を左右する因子
CTでは撮影範囲、撮影回数(相数)、管電流・管電圧、体格が、透視では透視時間が、核医学検査では投与放射能量が主に線量を決める。小児は放射線感受性が高く余命も長いため、特に線量の低減に配慮する。
POINT
・おおよその実効線量:胸部単純写真(0.1mSv未満)<頭部CT(1〜数mSv)≲上部消化管造影・FDG-PET(数mSv)<腹部CT1相(5〜10mSv)<腹部ダイナミックCT(10〜数十mSv)。 ・CTは一般撮影より線量が多く、体幹部>頭部。ダイナミックCTは撮影相数の分だけ線量が積み重なる。 ・数値は装置・条件で大きく変わるため、桁と順序で覚える。 ・医療被ばくには線量限度がなく、正当化と最適化(診断参考レベルの活用)で管理する。
